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ケケケのトシロー 第一部(20) 

不思議な力を持つ男、キダローにピンチを救われたトシローは近所の不帰橋から悪霊が大挙として現世へ流れ込んできている事実を知る。法力を持つケープを与えられ一時は正義の味方に憧れるトシローだが、生来のいい加減さと根性の無さから修行を放り出してしまう。そんな時、自分を慕うカズからSOSを受け恥は忘れてキダローに助けを求めるが彼はいない。単独で不帰橋にやってきたトシローを待ち受けていたのは悪霊に取り憑かれた町の人々だった。

前回までのあらすじ

不帰橋攻防戦 3


(本文2269文字)

 いったい何が起こってるんや。この人ら、ここに住んでる人らちゃうの。見たような顔の人もおるような気がする。そやけど顔色悪いし、みんな眼があっちやそっちの方むいてるし。

 低い動物的な唸り声を発しながらゾンビ化した町人は、一歩一歩と俺に近づいてくる。フキさんの時計店の中にはこれまた得体のしれない何かが待ち受けている。前にも後ろにも、これが俗に言う絶対絶命ちゅうやつやんか。恐怖からか漏らして冷たいせいか、どっちにしてもガクガク震える膝を両手で押さえる。とにかくここから逃げないと。俺はとりあえず一歩を踏み出そうとするが足が動かない。

「なんでやねん、さっきはピューっと走れたやんか。ぐるぐるーってタイヤみたいに回転してたで…… なんで足が動かんの! 頼むわ~」
 俺は膝がしらを強く叩く。痛くはないがそれよりもこの状況が情けなくて涙が出る。もうちびってしまったので後は涙と鼻水と涎くらいしかでない。

「あ~真由美~、助けてくれ~。次は必ずお前を救うから、もう買い物のお釣もごまかさへんから~」
 天を見上げて俺が精一杯の声でそう叫んだ時、一陣の風が俺の下半身を吹き抜けた。見ると、ラップのようにぐるぐるピタとなっていた亀甲柄の布地は無くなり、粗相でずぶぬれのズボンだけが残っている。あ、靴の中もぐちょぐちょだ。念のため。

 俺の下半身を離れた反物状の亀甲布地は、舞うように俺とゾンビ町人の間に回転を速めながら竜巻を作り始める。その勢いはどんどん速くなり俺もゾンビ町人も吹き飛ばされそうになる。
「くわ! なんかに掴まらんと俺まで飛ばされてまう」
 俺は咄嗟に時計店の玄関にある軒柱に掴まった。激しくなる風となにやら飛沫が顔にあたる。ん、なんだ、この匂いは。

 俺が目を細めてゾンビ町人たちを見ると、奴らは皆、グワーッという悲鳴か咆哮か分からない叫び声をあげ、それぞれうずくまり始めた。中には喉を押さえ息ができないような表情を見せ倒れていくものもいる。俺はかすかな勝機を捉えたような気がした。ここだ、このチャンスを逃すわけにはいかん。ただ、ケープもない俺がどうやって。

 俺は渦巻く亀甲布地の端を手を伸ばし掴んだ。そしてイチかバチかの勝負に出た。この布地にケープと同じ法力があるなら、同じ使い方ができるかもしれん。やるしかないんやトシロー!。

 俺は亀甲布地をしっかりと両手でつかみ直し、身体を風に任せる。すると俺の身体は竜巻により宙に舞い上げられ、ゾンビ町人たちの後ろ側へ飛び越え、降りることができた。おお!金メダルの着地!栄光への架け橋だ。

 よし、ターンは俺や。頼む。ケープと同じに働いてくれ亀甲よ。
 俺は鞭を振るうように布をゾンビ町人たちに振り下ろす。10mはある亀甲布地は町人数十名を次々と薙ぎ払っていく。払われた奴らは口から泡を吹き出し倒れていった。

 夢中で振り回しているうちに、立っている者は俺だけになった。勝ったで、勝ったどー! 俺は勝鬨をあげる。振り上げた手には、振り回すことで脱水乾燥した亀甲布地がはためいていた。

「ん~? お前も法力使いか~? なら、許さんで~」
さっきのドスのきいた低い声が店の中から聞こえる。調子にのってまだラスボスがいることを忘れとった。俺は若干、戦闘力を備えたつもりになって見えない声の主に身構える。あほやなあ、ここは逃げるべきやろ。後からそう思ったが、その前にフキ時計店の建物がメキメキと鈍い音をたて揺れ出した。正面の壊れていた玄関がバリンとすべて内側から破られる。そして赤く光る眼をしたサソリのようなバケモノの半身が外へ這い出してきた。鈍く黒光りするハサミのような触肢が、邪魔ながれきをつまみ放り投げた。
 
 正直、俺はまた恐怖のどん底へ突き落されたはずだった。が、なぜか落ち着いている。この非常時になぜか。それはもう漏らすものがないと確信しているからだった。え、まさか『大』は、なんぼなんでも漏らさんよな……

「ぐはは、おまえ、漏らしとるのか…… だからか、匂うのは……」
「うう、なんでそれを…… まだや、漏らしてない…… 『大』はな……」
「ぐはは、これは嬉しい。なら今、ここで漏らせ。恐怖で漏らせ。お前ら人間の恐怖はわしらの好物じゃ、そしてお前らを喰う。あ、クソはいらんがな」
くそ、悪霊は心の声を読めるらしい。

 バケモノがそう言うとフキ時計店の屋根が吹き飛び、大サソリの尾が大上段に振りかぶる。その尾が見えた時、先端の毒針にささる老女の姿を見た。

「ふき…… さん? あ、あ、フキさん…… そんな……」
 
 思わず立ち尽くしてしまった俺を見て大サソリは言う。

「この婆さん、お前が来る前に喰らわしてもらった。けど最後の力が残っていたのかのう。小便臭い布切れをお前に使わせたみたいじゃな。最後のあがきとはこのこと。そんなものでわしが退散させられると本気で思ってたのか?お前は」

 大サソリはわざとフキさんを、尾を左右に振り、力なく張り付けられた様子を俺に見せつけた。そして触肢のハサミでフキさんを切り裂くような仕草をした。

「やめ……」
「はあ? 聞こえんぞ? 何か言いたいかあ? ぐははあ」
「やめ……とけ」
「やめとけ? お前ごときがわしを止められると? ザコの人間を相手したくらいで調子に……」大サソリはハサミをカチカチと鳴らす。

「やめろ言うとんじゃ!! このボケェ!!」
 俺は吉本新喜劇の未知やすえ姐さんが怒り爆発した時よりもドスを効かせて叫んだ。精神状態が極限を越すと何をするか分からないのが人間だとその時、俺は知るのだった。


続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。


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ケケケのトシロー 2  ケケケのトシロー12
ケケケのトシロー 3  ケケケのトシロー13
ケケケのトシロー 4  ケケケのトシロー14
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ケケケのトシロー 9  ケケケのトシロー19
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