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ケケケのトシロー 第一部(29) 

ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。一方、命を助けたことでトシローを慕っていたカズが所属する反社組織権藤会に呼び出され音信不通になり、トシローは彼を追って権藤会本部へ走る。しかしそこに待っていたのはサトーという人間の姿を借りた途轍もない怨霊だった。キダローと共に戦いあと一歩のところでサトーを取り逃がした。戦いの中でキダローとサトーの因縁を知ったトシローは、自身にまつわる秘密もキダローから明かされる。

前回までのあらすじ

 キダローとトシローと 2


(本文2796文字)

「いや~それはなんぼなんでも無理くりやわ~。そんな筋書きで小説書いたら、そりゃあんた読者から『あ、こいつ、辻褄あわんようになって無理くりそっちへ持っていこうとしてる~』ってコメントくるで~」
 俺は小豆あずき先生にねっ、ねっ、と同意を求めるように視線を投げるが、先生はどこか彼方に視線を漂わせお茶をすすっている。

「そりゃそう思うのもわからんではない。わしも犬山やのうて、大山やったんやから。前までというか、まあ、今もやねんけどな」キダローは財布の中からマイナンバーカードを取り出し「ほれ」と俺に見せる。へぇー、マイナンバー持ってるんやと妙に感心する。ねぇ、なんか正体不明のおっさんがマイナンバー持ってるって誰も浮かばんよなあ。偽装ちゃうんかいな。

 俺はそのカードを見てみる。なるほど『大山紀太朗』(オオヤマキダロウ)と書いてある。ふーん。これ、キダローでもキタローでもどっちでもええやん。やっぱ嘘くさいなあと思いつつ、カードと「あのな、それやったらあんた、なんで自分が大山やのうて犬山やとわかったん?」という素朴な疑問も一緒にキダローに返した。

「わしの祖先、犬山の一族はなあ、この世に悪。つまり悪霊たちが地獄から蘇ってくるのを代々抑え込むのが役目やったんや。そしてわしの一族がその役を仰せつかったのは里見の殿からや。それから現在まで、わしらは犬山の姓を大山に代えてそのお役を担ってた。実はな、お前の先祖もその時犬塚から「オオツカ」に変えたんや。そして八犬士全員が『犬』の文字を『大』に変えていままで子孫を残してきた。そやけど、ほれ、先の戦争があったやろ。あの時わしらの先祖も沢山死んだ。だからその血を引き継ぐ者達が塵尻ばらばらになってしもた。それでも幸い、わしは代々「ケケケ伝」を守る役を仰せつかってた。だからわしの今の役目は、この混乱の時制に八犬士に復活してもらう。それを大将として引っ張ってもらうのは、実はあんたやねん」

 ここまでの長いセリフを噛まずにすらすらとキダローは喋った。小豆先生はフンフンと頷いてはる。

「あの~、質問いいですか」
「はいどうぞ」
「今、大将はあんたと言われましたか?」
「はい、言いました」
「あの、それ、俺のことですか」
「まあ、そうなりますわな」
「わし?」
「そう」
「わし、根性無しですよ」
「はい」
「わし、すぐ泣きますよ」
「知ってます」
「痛いのきらいやし」
「それもわかる」
「すぐちびるし」
「まあ、知ってます」
「嫁さんこわいし」
「それは関係ないかな」
「娘しかおらんし」
「そこは女系でもかまへんです。天皇家じゃないんで。むしろそのほうが……」
「いや、やっぱり嘘でしょ」
「残念ながら…… ホンマや」
 キダローはそこだけ肩をおとして本当に残念そうに言いやがった。小豆先生は俯いて肩を震わしてる。ワロてる、絶対ワロてる。笑い事ちゃうで!

「あかんて、俺、無理やから。そんなん、あんた、俺、老後は小説書いて、ゆる~~と生きたいねんから。そんなさっきみたいなバイオレンスタッチはもうええで。わしこう見えても恋愛体質やし。恋愛小説、本当は書きたい派やねんから」
「なに、ハゲのチビリがぐじゃぐじゃ言うとんねん!!」キダローが口角泡を飛ばし膝を立てた。
 うわ~何? 大将にという私へ、そのお口の利き方は何?

「ええか、お前のその今の姿はな、世を忍ぶ仮の姿ちゅうやつ。悪霊どもに見つからんように長い年月をかけて根性無しに育てたご先祖様の守りの姿や」
 いや、それはあかんやろ。本末転倒も甚だしい。

「奴らは今、確実に人間世界のあらゆる力を持っている人物に取り憑こうとしてる。それでこの世界を無茶苦茶にして自分らの世界にしてまうつもりや。だから取り憑いてもしゃーないような、あほで、根性無しで、非力で弱い、すぐちびる、卑怯で逃げてまうような奴は眼中なしや。それが功を奏す。奴らの宿敵である我らのカモフラージュは完璧やったということや」
 またキダローは一気にまくしたてる。理屈はわからんではないが、俺、全否定されてるような気がするけど。

「そやけど、俺にそんな大役は務まらんで、それはあんたもよくわかってるんとちゃうの?」俺は半べそになりそうなのを堪え、キダローの次のラッシュを受け止めるべく両の手で股間をぐっと抑えた。小豆先生はそれを見てまた肩を震わせる。このおばはん、覚えとけよ! しかしキダローは俺の想像とは違い胡坐を正し、俺に正対して頭を少し下げた。

「トシローさん」
「え、トシローさんって…… なんですかキダローはん、いや、さん!」
 俺も慌てて座を正す。小豆先生も肩を震わせるのをやめ、俺に正対した。その顔はめちゃ真面目、瞳は凛々しい。

「わしは、あなたに『ケケケ伝』の全てを伝えるのが役目。それを終えればわしはこの腹の中に収めた魑魅魍魎の類を全て始末します。未来永劫それは復活することはありません。そしてこの先はあなたが『ケケケ伝』をまだ集まっていない同志と共に守り、この世の悪との最終戦争に勝利して頂く。あなたを捜し出すのに30年以上かかりました。そしてまもなく『あの怨霊』が復活してくる。もう一刻の猶予もないのです。ここで500年以上の時をへて、この戦いに終止符をうつ。永遠に終わることの無いと言われた、『善と悪の入れ替え』は我らの血を持って止める。それが我らの使命なのです」
 
 キダローは、私が千葉真一ですと言わんばかりの迫力で語り終える。それに答える俺は誰で言ったらいいのだろう。やっぱり真田広之だろうか。

「トシローさん。私も術は使えませんがその命を受けた一族のもの。この身をあなたに捧げます」
 小豆先生はそう言って首を垂れる。いや、身を捧げると言われても、俺、嫁さんおるし…… あ、そう言う意味ではないか。この場面でこういうことが頭に浮かぶ俺って案外、大物?

「あのですねぇ、色々言われてましたけど、なんか引っ掛かることばかりですけどね。私ね、やっぱり先頭にたって戦うということで間違いないですか」
「左様で」キダローは瞬きもせず、迷うことなく返答した。
「無理です」
「無理ではありません、さっき戦ったでしょう」
「あれは…… キダローはんが主に戦ったわけで……」
「いずれ私は倒れます。その時にあなたが他の者達と一緒に闘わなければこの世は」
「でもあなた、なんで俺が、その、犬塚の子孫やとわかったんですか」
「それはさっき言ったとおり、30年かけて探したんで」
「いや、だから俺がそうやと確証を得たというか、その理由ですわ」

「それは」小豆先生が口を挟む。

「あなたの奥様が里見氏の血を引き継ぐ方だったからですよ」

「真由美? が、ですか……?」

 呆然とする俺のポケットのスマホがブルルと震える。え、ここ、電波入るの? ネット環境凄いな。
「ちょっと失礼」と画面を見た。メールの着信、それはカズからだった。
 

 続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。



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