個人文学賞「原稿用紙二枚分の文芸賞」の受賞者発表
個人文学賞「すべて失われる者たち文芸賞」「タイトルから書く文芸賞」「一枚の写真から文芸賞」に続き、「原稿用紙二枚分の文芸賞」の企画発表をしたのが二〇二五年九月九日。それから三週間たらずの間に約五十編の応募がありました。「歌われない作家」による試みとしては望外の挑戦に出合えたことをうれしく感じます。参加者の皆さまには深く感謝申し上げます。
今回のポイントは「八〇〇文字以内」という条件をどう捉えるかだったと思います。短編小説としてはかなり文字数の少ない類と言えますが、マガジン「八〇〇文字の短編小説」を書いている経験上、一つの物語(あるいは物語が始まるまでの物語)を紡ぐには十分な文字量だと考えています。一方、応募作のなかには八〇〇文字という制限があるのに、十分に削ぎ落とされていない作品が少なくなかったように感じました。
逆に言えば、八〇〇文字という足かせを言い訳にしていない作品は目を引きました。受賞作に選んだ九作はどれも制約を言い抜けることなく、それぞれの物語を丁寧に描き上げています。「八〇〇文字」とどう向き合うか、その姿勢が作品の質を分けた一つの要素だったと思います。
応募作品一覧
発表は、以下のとおり、寸評とともに期待賞、佳作、優秀賞の順で行います。各作品が短いので、あらすじなどにはふれず寸評も簡潔に行いました。
期待賞(五名)
おすぬさん
寸評
文頭から文章は巧みです。物語としての構成も素晴らしいと思いました。ただし、少女である「わたし」の語りとしては表現が成熟しすぎており、その乖離が気になりました。
noki さん
寸評
シャボン玉が象徴的に使われています。「船の発するブザーが会話の舵を切る」といった表現も豊かです。惜しむらくは終わらせ方。最後の一文はもう少しわかりやすいほうがよいと感じました。
長﨑 太一 さん
寸評
「すくう」という行為を象徴的に描いた作品で、それは「掬う」だけでなく「救う」をも感じさせました。文字数は六〇〇字程度。あと二〇〇字使えば、もっと物語に深みが出たと思います。
一吾(イチゴ) さん
寸評
モノローグ形式で、散文詩のような作品です。世界の終わりを思う、甘く切ない感情が描かれています。「君」を女性と解釈するか、男性と解釈するかで、物語の感じ方も異なるでしょう。
米田梨乃(よねた りの) さん
寸評
「八〇〇文字以内」という制限を感じさせないほど、しっかりと物語を描き切れていると感じました。「死」を軸にどこか仄暗さを感じさせる全体と、終わらせ方のコントラストは絶妙です。
佳作(三名)
小杉かほり さん
寸評
生きることについて、母親の強さを描いた物語。終わらせ方もうまいと感じました。心の描写が多いので、三人称ではなく一人称で書いたほうがより迫るものがあったかもしれません。
守谷佳純 / kasumi さん
寸評
「高跳びの選手候補だけど『背面跳び』ができない」僕は……。「バーの上で弓のように美しくしなった」「どさりとマットの上に落ち」など、五感を刺激する描写も自然に描かれていました。
絶望ナース田中 さん
寸評
私は「モウチョウ」という不思議な言葉を初めて知った小学生の頃を思い出す。モウチョウの手術をしたユウコがその傷を見せてくれたときに目をしたものは──。心のざわつきを感じるまでのポジとネガが印象的です。
最優秀賞(一名)
久保田弥代 さん
寸評
表現力が非常に豊かで、八〇〇文字以内とは思えないほど物語の展開も充実しています。物語の最後に私が「宿の売店で買った小さな林檎」で行う行為も、オリジナリティを際立たせています。
あらためて今回の個人文学賞「原稿用紙二枚分の文芸賞」に参加されました皆さまには深く感謝申し上げます。
これまでの受賞発表時と同じく、受賞者を含め、今回の応募者、ひいては小説を書いている多くの人に対して、最後に、二〇世紀に活躍し、一九六九年にノーベル文学賞を受賞したアイルランドのサミュエル・ベケットが残した言葉を送りたいと思います。
挑み続け、しくじり続けてきた。だからどうした。また挑め。またつまずけ。もっとうまくつまずけ。
Ever tried. Ever failed. No matter. Try again. Fail again. Fail better.
受賞者の皆さまへ
賞品の送付に関して、二〇二五年十月三十一日(金)までに、staff@nowhere1011.com宛にnoteのアカウント名とともにメールをお送りください。期待賞の五名さまにつきましては、書籍『すべて失われる者たち』またはAmazonギフトカード五〇〇円のどちらを受け取るか、明記いただけますと幸いです。なお、期日までにメールが届かない場合は、受賞を辞退したものとみなす可能性があります。あらかじめご了承ください。
短編小説集『すべて失われる者たち』を出版しています。参加者のみなさまにおかれましては、ぜひチェックしてみてください。
