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【短編小説】マグノリアの花たち

市の子宮がん検診で思わぬ結果が出たのはひと月半前だった。夫を交通事故で亡くしてから、靖子はまだ幼い二人の子供を一人で育ててきた。
下の子はまだ手のかかる年頃だ。
それなのに今度は自分ががんになった。
もし私が死んだら、この子たちは両親を失ってしまう。それだけは、なんとしても避けたかった。
夫の生命保険金で生活費はなんとかなるとしても、子供たちはどうなるのだろう。実家の母に預けて育ててもらうしかないかもしれない。
不安が押し寄せ、顔がこわばっていたのだろうか。ふと下の子に「ママ、どうしたの?」と声をかけられ、ハッとした。子供たちには、いつも明るく笑顔でいなければ。そう思い、鏡の前で作り笑いの練習をした。

その後、手術はあっという間に決まった。
医師からは、当初ステージ0だったがんが、すでにステージ1まで進行していると告げられた。
これ以上の進行を避けるため、そしてもし今後子供を望まないのであれば、子宮の全摘出を勧められた。靖子は迷わなかった。
再婚の予定もない。二人の子どもを育てること。それが何より優先すべきことだった。
実家の両親に一刻も早く手術を受けたいと伝えた。

入院中も気がかりなのは子供たちのことばかり。医療保険に入っていたから入院日数が長ければ保険金は多くもらえる。だが、そんなことよりも、一日でも早く退院して子供たちのもとへ帰りたかった。亡き夫の忘れ形見である二人こそ、自分にとってかけがえのない宝物なのだから。
なんとしても生きて、あの子たちに会わなければ。
靖子は、ふと昔の記憶をたどった。夫は無類の映画好きだった。二人がテレビで観た映画『マグノリアの花たち』はジュリア・ロバーツ演じるシェルビーが持病を抱えながら命がけで出産する物語だ。
生きるって、理不尽で、どうしようもないことばかり。映画と重ね、自分の人生を思った。
それでも、生きるってそういうことなのかもしれない。不意にそう思った。


(了)

796字

花澤薫さま

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