【創作】夜の貌(かお)|「原稿用紙二枚分の文芸賞」応募作品
夜はたくらみに満ちている。
窓の外はすべてが押し黙り、星がまたたく音すら聞こえない。
わたしはベッドからそっと抜け出してランプを灯す。大きめの鏡を机にかけたて、スケッチブックを取り出してから寝巻きを脱いで上半身裸になった。
そばかすだらけの顔と貧相な胸を他人事のように眺める。頭蓋と首、肩のバランス。デッサン用の鉛筆を取り出した。
どのくらいたっただろう。
無心に鉛筆を走らせながらふと見ると、鏡の右端に白いものが現れてギョッとした。
振り返るとドアのところに少年が立っていた。兄が連れて来た友人だった。
心臓が口から飛び出るかと思った。慌ててパジャマを羽織る。
少年がポツリと言った。「なにしてるの」
わたしは驚きのあまりすぐに口がきけない。
少年が「デッサン?」と聞いてきたので「そうだ」と答えると、少年は画家のアトリエでモデルをやったことがあると言う。
兄の年下の友人である彼はわたしよりも一歳年下で、少女と見まごうような線の細い美しい少年だった。
「じゃあぼくを描いてよ」
言うなり少年は、寝巻きのボタンを途中まで外し、さらにズボンを脱いで下着をずり下げた。
ランプの灯りのなかで白百合が香ったような気がした。控えめに直立した下腹部が深い影を落とす。
わたしは華奢な骨格や滑らかそうな肌の陰影をとらえ、彼のほうに向き直り鉛筆を走らせた。
肩幅、鎖骨、へそ周り……彼と自分の手元を交互に見やりながら、自分に注がれる熱い視線に気づく。
彼と目が合った。と思うや彼はついと視線をそらす。
気が変わった。スケッチブックをめくり新しいページを開く。
紅潮した頬や冷静を装う眉。彼の瞳が何度も揺れる。
やがて彼は首をめぐらしスケッチブックを覗き込んだ。
「顔だけ?」
「いまのあなたは顔だけで十分エロティックよ。初対面の乙女にそれを見せつけて何がしたいの?残念だけど見てあげない」
「……きみって意地悪だな」
夜の底が、見えない指を絡めた。
(794字)
花澤薫さん主催の「原稿用紙二枚分の文芸賞」に応募します。
よろしくお願いします。
花澤薫さんの書籍紹介ページ
【あとがき】
ちょっと背伸びして匂わせ風味に書きました。(伝わりますように)
締切は9月28日23時59分までです。
皆さんもちょっくらいかがですか✒️
それではごきげんよう。
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お気持ちだけで結構です。ありがとうございます。