高く跳べたら #原稿用紙二枚分の文学賞
右手を振り上げ、右の肩ごしにバーを見ながら踏み切る――
バーの上で弓のように美しくしなる、スマホの液晶の中の姿。これで僕にもきっとできる。
僕の中学で、陸上競技会の選手を選ぶことになった。
僕は高跳びの選手候補だけど「背面跳び」ができない。何度も動画をみて勉強しているのに、背中からバーに向かおうとすると身がすくんでしまう。
マットとバーの前で僕は、昨日みた動画を何度も思い出す。
深呼吸して助走をはじめた。
しかしバーを目の前に身がすくむ。つい足を振り上げ、さえないいつもの跳び方をしてしまった。
「先輩! 背面跳びのやり方知りませんか」
声をかけてきたのは、同じく選手候補の後輩洸だ。
右手を振り上げ右の肩ごしにバーを見ながら――マットの前で動画で見た通りの動作をし、僕は洸に背面跳びを教える。洸は「ふんふん」とうなずいた。
洸は足取り軽くスタートラインに立ち助走をはじめる。そして迷いなく右手を振り上げ、右の肩ごしにバーを見ながら踏み切り、跳んだ。
その体は、バーの上で弓のように美しくしなった。動画でみたあの姿と同じ。
どさりとマットの上に落ち、洸はさけんだ。
「やったあー!」
いつの間にか後ろで見ていた体育の先生と、何人かの女子がざわつく。同じクラスの花音の姿もあった。
気分よく洸はもう一度、助走のスタートラインに立つ。
二度目は自信に満ちた動作で跳び、さらに美しく体をしならせバーを越えた。
花音たちは、大きく歓声をあげた。
「教え方めっちゃうまいから、できちゃいましたよ!」
ひきつった顔の僕に洸は、そんなことを言う。
体育の先生がしきりにうなずく。僕の選手の座も危なそうだ。
でも、花音の歓声の方が僕はショックだった。とてももう一度バーに向かい、かっこ悪い姿をさらす気にはなれない。
一体何をしたら、こういうやつに勝てるんだろう。
誰にも聞こえない僕のため息が、体育館の片隅にもれた。
〈了〉
※本文800文字
こちらの企画(文学賞)に応募しました。
9/28(日)締め切りです。皆さんも書いてみませんか🎵
