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ライン随想録 人事を尽くして天命を待つ

1997/12/27 ライン随想録 スイス・バーゼルレポートより

随想録

わたしは「自分のなすべきことをしっかりと果たしたら、もうその結果は気にせず、神様の御心のままに任せる」というこの言葉が気に入っている。
家内に言わ せるとそれは建前論で、人間はだれでも結果が気になるものよ、ということだった。
たしかにそういう一面もあるが、わたしはつとめて、結果そのものよりも努 力の過程そのもの大切に考えたいといつも考えている。

受験、昇進、スポーツ、病気、結婚、われわれ一人一人の人生にとり、いつも過酷な試練が待ちうけていて、運命に翻弄されるような気がするのは誰でも同じであろう。
横綱・貴乃花はいつも、「優勝あらそいに絡んでいくような相撲を取りたい」と いっている。
わたしの好きな言葉である。
優勝したいとは決して言わない。
好調な力士は「優勝の可能性が大きくなってきましたね」といわれるといつも「一 番一番大事に相撲を取っていきたい」と申し合わせたように言う。

努力の積み重ねが良い成績に、良い結果につながることが多いとはいえ、しかし、これが思ったような結果をもたらしてくれるほど、世の中は甘くないことを誰でもが苦い経験から良く知っているのであろう。

ゴルフでも、「ここまで2打できたのですから、パー4は堅いですね」などとおだてられて、その気になって次にチョロをし、ダブルボギーの6になったりすることはきわめて多い。

学校の入学試験や、会社の入社面接試験であがったり、どぎまぎするのは、やはり結果を気にするからだと思う。
その学校に入学しなくとも、またその会社に 入らなくとも、またその配偶者と結婚しなくとも、健康で明るく生きていれば そこそこの人生をおくることができることを、若いひとはその時には良く分かっていないのだと思う。
だから結果が良くないと、人生を悲観したり、落ち込んだ りしてしまうのであろう。

50歳台、60歳台になると、それまでほとんど気にしなかったひとでも、だれでも 健康のことが気になるもののようだ。
周囲の同年輩のひとが、がんで倒れたり、 悲惨な入退院生活を繰り返したりしているのを見ると、健康なひとでも明日は我が身と思うもののようである。
これも自分なりの健康法を実践し、自分なりの ベストを尽くしたならば、後は神様の御心に委ねる以外に方法はないのかもしれ ない。
かりに、常備薬や、人間ドック、名医のアドバイスで万全を期しても、飛行機が落ちたり、旅先のエジプト・ルクソールでテロリストの銃撃に遭って一命を落としたりすることもありうる。
人生は極めてはかないので、先の結果を思い煩うよりも、今のささやかな幸せを噛み締めるのが先のような気がしてならないが、いかがなものだろうか。
近藤誠先生は、「60歳台、70歳台のがんは老衰である」と書いておられたが、こころ安らぐ言葉である。

最近、日本の金融機関や商社、製造業などで、破綻するところが出て来ており、 企業で働いている人には、自分のところは大丈夫だろうかと、不安に駆られる人も多いに違いない。
これまで、企業の業績が悪いのに従業員にそれほどしわ寄せをしなかった過去の日本の企業が特異であったのであり、これでアメリカ とか欧州で働いている人と同じ様になったと思えば、腹も立たない。
それにしても、大型の経営破綻は従業員に対し、マーケットの荒波が一挙に押し寄せるものであることを思い知らされる。
35歳以下の技術を持った人は、引く手あまたなのに、役つきの中高年は再就職が困難という。
自分の会社が破綻することが気になる人は、自分の生活設計が高望みをしていないか、もう一度チェック することが大切であろう。
家族を含め簡素な生活をし、部下に頼らない仕事ぶりをしている人は外に放り出されても、ショックを受けることはないだろう。
「人事を尽くして天命を待つ」、と口に出して言うことは、たやすいが、真にこれを実践できるのは、過酷な人生の荒波を勇気をもって乗り切ってきた人にのみ 許されるこころの境地であるように思えてならないのですが、みなさんはどうお考えでしょうか。

老齢プログラマの所感

文中の近藤誠氏は著書「患者よ、がんと闘うな(1996)」などでがんの放置を主張してきた医師ですね(2022/8/13に虚血性心不全で亡くなりました)。
高齢者における発がん原因は主に老化によるものであり、若い人の遺伝子異常や環境要因とは異なるという主張です。
抗がん剤はがん細胞だけでなく、健康な細胞にもダメージを与えるため、副作用が大きく、効果が限定的だとも主張されています。
この意見は、新しい視点を提供してはいるが、まだ広く受け入れられた理論とは言えないようです。
近藤誠氏の考え方は有害だと言う意見もあります。
しかし、井浦さんのように、多くの人に安らぎを与えたようです。

井浦さんは「人事を尽くして天命を待つ」がお好きな言葉のようです。
国際金融屋や政治のように外的要因が多く関わり、個人の力ではどうしようもない結果が待ち受けている分野だからかもしれません。
この場合、自分の努力を最大限に尽くし、結果については受け入れる心構えが必要であり、「人事を尽くして天命を待つ」という悟りかと思います。

一方、研究開発の分野では、発見や完成という具体的な結果に直結します。
たとえ全力を尽くしても結果が出なければ努力が無に帰します。
このような環境では、「不断の努力」や「創造力」が重視されます。
そして、結果を出すための不断の工夫や試行錯誤が求められます。
最善を尽くした結果としての失敗を受け入れる心構えや、次の挑戦に向けての学びを得る姿勢は重要ですが、「失敗からの学び」とか「失敗を糧にする」という言葉で表現します。
分野が違うと「悟り」の言葉が大きく異なるように思います。

補足

上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。

ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。


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