テニス上達メモ512.平幕・安青錦が横綱を破り、史上最速の金星──体は“勝手に”動いていた。大谷翔平、イチロー、フェデラーにも通じる「ゾーン」の正体とは?
▶ノーシードが第1シードを破るようなもん?
7月15日名古屋場所。
横綱の豊昇龍を相手に、平幕の安青錦が渡し込みで土を付けました。
https://www.youtube.com/shorts/KNGGd-aKd9w
トーナメント形式と、勝ち越しを競う違いはあるのせよ、テニスでいえばノーシード選手が、第1シードを負かしてしまうようなたとえで、合っているでしょうか???
初土俵から12場所での金星は「最速記録」だと言います。
https://www.sanspo.com/article/20250715-IPUCJN5LGZBALE3YSXCWRX4GFY/
▶「体が勝手に動いただけなので」
勝った安青錦いわく「体が勝手に動いただけなので」。
体を「動かした」のではありません。
「勝手に動いたのです」
大谷翔平の自己最速は、「上げた」のではなく「上がった」。
イチローのフォームは、「変えた」のではなく「変わった」。
「変えるのと変わるのでは全然違うと思います」と、イチローは言い切るのです(『月刊スラッガー』2001年4月号 日本スポーツ企画出版社刊)。
▶安青錦もフェデラーも、勝った瞬間を覚えていない!?
体が(無意識で)「動く」のと、(意識的に)「動かす」のとでは、全然違うのです。
安青錦は、勝った瞬間を覚えていなかったと言います。
それはもちろん「無意識」だったから。
IGアリーナに響く大歓声も聞こえない。舞う座布団も目に入らなかった。
こちらのお茶目なロジャー・フェデラーと、ぴったり符合する話です。
「ゾーン」に入っていたのです。
それは、体を動かそうとしていては(テニスで言えば「フォームを意識」していては)、決してたどり着けない境地です(関連記事「無我へのエントリーを妨げるテニス指導」)。
▶初心者だってゾーンに入る!(だけどイップスにはならない)
「でも、初心者の私にはゾーンなんて関係ないから……」などと、ご自分の能力をあなどることなかれ。
だからといって、ゾーンとは真逆の「手動」にプレーを切り替えたら、上手くいくものも上手くいかなくなります。
初心者であろうと上級者であろうと、プレーを「自動」に委ねる原理原則は同じです(関連記事「『ビギナー』がうっかりフローする」)。
今は上級者のようなプレーが、すぐにはできないとしても、初心者としての高度なテニスはできるようになります。
今と未来はつながっていますから、その自動に委ねた延長が、「ほんのひと握り」と言われるテニス上級者へと続く道。
ちなみに初心者は、ゾーンには入ってもイップスにはなりません。
イップスになるのは経験豊富な上級者なので、「単に下手なだけ」だから、まだ「マシ」なのです(関連記事「経験の長い優等生タイプが発症する」)。
▶一気に上達する瞬間
心理学者のミハイ・チクセントミハイは、日常的にフト入る小さな集中を「マイクロフロー」と名付けました。
テニスに限らず、読書でも絵画でも掃除でも、頭を没すると書く「没頭」をした経験はないですか?
頭を没する、すなわち「意識しない」。
テニス初心者であっても「没頭」は、フトした瞬間に訪れます。
すると、一気に上達するのです。
ちなみにチクセントミハイは「人はお金や地位よりも、フロー状態を味わうことに幸せを感じる」と言ったそうです。
▶上達スピードが人により違う理由
同じ経験を積んでも、人が上達するスピードが違うのは、なぜでしょう?
「そんなの人によって能力の差があるから当然だ!」などと、決めつけることなかれ。
同じ体験をするにあたって、集中していたか、否かの違いです。
そして後述しますが、打ち方やフォームを意識する伝統的なスポーツ指導こそ、非集中だったというわけなのです。
▶チーターは腕振りを意識していない(と思う)
正しいフォームを身につければ、いつか上達するはずだと信じて腐心する。
その意識(努力)は、「下手になる」逆効果だったのです。
意識していたら、「没頭」は起きないのです。
相撲も野球もテニスも同じ運動です。
体を動かす本質は同じ。
意識したら、ぎこちなくなるのです。
まさかチーターは、いくら走るのが速いからといって、太ももの上げ方や腕の振り方を意識しているわけではありません。
なのに「腕を振って足を上げて!」などと、私たち人間は物心ついたころから「意識」するよう教わります(関連記事「『スポーツオノマトペはかなり有効な研究対象』」)。
▶分かりやすいレッスンに感激してる場合じゃない
常識的なテニス指導では、まだ何も知らないレッスンの初日から「ラケットと握手して」「横を向いて」「ヒザを曲げて」と、意識するように促されるのです。
それを「分かりやすい!」などと思ったらアウト(関連記事「おまけ2・出版社の出すテニス本は、『体育会系』ではなく『文系』出身者が作っている」)。
分かろうとすると、できなくなるのです。
「クロールは広背筋と体幹をねじる」といくら頭で分かっても、ハラミちゃんがより速く泳げるようになるわけではありません。
▶「のに」と「から」を履き違えない
「コーチの言っているとおりにやっているのに、できない」
これでは自己肯定感も損ねるでしょう。
いえ、「コーチの言っているとおりにやっているから、できない」のです。
そういう方は、メンタルが弱いわけではありませんよね。
だけど「のに思考」だと、精神的にボロボロになるのも人として当然です。
▶始めた当初は上達もしたけれど……
もちろんフォームを意識しながらも、テニスを始めたばかりのころに比べれば上手くなったとは言うかもしれないけれど、それは“慣れ”の影響が大きいのです。
左手(非利き手)では、最初はたどたどしくとも、やれば急速に打てるようになるのは“慣れ”るからです(関連記事「『桑田ロード』に学ぶこと」)。
ところが、やれ「ヒザを曲げて」「腰をひねって」「最後まで振り抜いて」etc.
やることが「毎回違う」と、慣れるものも慣れないから、早熟の未完どまり(関連記事「なかなか上達できない(副題:『早熟の大器』になる方法)」)。
こういうと、「テニスは『毎回違う』と言ったばかりじゃないか!」と、いぶかる向きもあるかもしれませんね。
▶集中も「慣れる」
いえ、集中することは「いつも同じ」なのです。
むしろ毎回違う打ち方を意識していると、「現実に対する誤ったイメージ」に慣れてしまいかねないから、10年やってもテニスが上手くならない10年選手になってしまうのです(関連記事「『10年選手』が生まれる理由」)。
冗談ではなく、後期高齢者になっても、フォームをダメ出しされるのです。
もう、キリがありません……(関連記事「フォーム矯正はネバーエンディングストーリー」)。
毎回集中していれば、集中するのにも「慣れ」てくるというのに。
「慣れる」というのは、(肉体的にも精神的も)私たちが有する素晴らしい能力です。
▶費やした手間、暇、お金……。回収するメドは?
フォームを意識したら上達すると思い込んでいたのに、それどころか現状維持すらままならず、逆に「下手になる」というから驚きです。
下手なままだから(体力増進や社交目的は別として)、スクールに通い続けるマッチポンプです(関連記事「テニススクールや病院へ『いつまでも通わせる構造』」)。
何のために労力と時間を費やし、お金を支払ってきたというのでしょう?
ですから特にテニスの場合は、テキトーにやってるカジュアル・サークルが、生真面目に打ち方を練習するシリアス・サークルを負かす枚挙の暇がありません(関連記事「真面目にやるほど下手になる!? カジュアル・テニスのススメ」)。
あるいはスクールで上手くなったとすれば、レッスンの説明は大して聞かず、自分の感覚でチャッチャとやってしまう人だったに違いないのです(関連記事「涼しい顔してチャッチャと上達する人たち」)。
▶「自然上達」は、あなたにも起こる!
改めまして安青錦の「体が勝手に動いただけなので」。
それが、こちらで言う「セルフ2」に任せるということですね。
大きな網の目のついたラケットで、遠くも狭くもない手近な広い相手コートへ、ただ打ち返すだけの競技です(関連記事「『そこへ』打つのに『どこへ』行く?」)。
なのになぜ、こんなに差がつくのか?(関連記事「適当にやればうまくなるっていうんじゃ結局は最初っからうまくなる人とならない人っていう感じで才能が決め手になるんじゃない?」)
同じ「人」のはずです。
「自然上達」は、あなたにも起きます。
具体的には、どうすればいい?
集中すれば、体は勝手に動きます。
それはチクセントミハイの言葉を借りれば、「お金や地位よりも、幸せを感じる」ことなのです。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero