テニス上達メモ549.コピーは偽物!?──「イメージを形にできる能力」の誤読と、空間認知の「ありがた力」
イチローが語った「イメージを形にできる能力」とは、形をなぞらえれば上手くなる話なのでしょうか? フェデラーやナダルの打ち方を形にしたからといって、ナイスショットは増えません。鍵は「カラダ空間認知」。身体をイメージどおりに位置づけ、ノールックで球を打ち、緊張と弛緩をバランスさせる。テニスも人生も、「地図」を読めると迷わない。
▶コピーは偽物かも──そっくり再現してもナイスショットは増えません
イチローいわく、
「上手くなるためには、イメージを形にできる能力(が必要)」
とはいえ、「そうか、イメージしたフォームを形にできれば上手くなるんだな!」などと受け取るのは、早計でしょう。
むしろ「それをやるから下手になる」と、テニスゼロはお伝えしています。
ロジャー・フェデラーのフォームをイメージして形にしたからといって、フェデラーのような安定したボールが打てるわけではありません。
ラファエル・ナダルのフォームを完コピしたからといって、ナダルのような強烈スピンが打てるわけではありません。
イチローの振り子打法をそっくりに再現したからといって、ヒットが増えるわけでもないのです。
むしろ意識すると、ボールはスッスと消えるのです(関連記事「『目隠し』しながら打つのは、難しいから……」)。
イチローは、「カラダ空間認知」のことをいっているのだと思います。
▶空間認知──テニスもキーボードも見ずに制す
一般に空間認知というと、「物が空間のどこにあるか」を、目で見なくてもイメージできる力を言います。
これも、大事。
ノールックショットなどが該当。
狙うほうを見ずに、狙うほうへ正確にコントロールできるのは、空間認知能力による賜物です(関連記事「ノールック打法は効果絶大でした 」)。
とはいえ、何も特別な能力ではありません。
卑近な例では、ブラインドタッチ。
キーの配列が認知されているから、手元を見なくても、私たちは正確にタイピングできます(関連記事「『ブライドタッチ』も空間認知」)。
▶テニスはすべての打球が「ノールック」
ノールックショットというと「特別な打ち方」だと思われるかもしれませんけれども、そうではありません。
テニスでは全部、1球残らず、「ノールック」ですよ。
なぜなら打つときは、コースを見ずにボールを見て打たないと、打球タイミングが合わないからです(関連記事「大発見! テニスでミスする原因は、『たったひとつ』しかなかった!」)。
ノールックを、「当たり前化」するのが、テニス上達のポイントです。
つい、結果が気になって、ボールではなく打つ先へ「目飛ばし」してしまいがちですからね(関連記事「ボールの『目飛ばし問題』」)。
▶「カラダ空間認知」──見えない自分を感じる力
さて本題。
一方の「カラダ空間認知」とは私の造語で、自分の身体を目で見ずに、正確にコントロールできる能力。
「自分の身体なんだから、正確に操れるのは当たり前だろ!」と思うのは早計です。
「身体が硬いから思うように操れない」などという単純な話ではないですよ(笑)。
こちらでご紹介した、両腕を水平に上げられるか否かの話です。
目をつぶって両腕を水平に上げてみる。
だけど実際にやってみると、案外高すぎたり低すぎたりする。
タモリさんもズレていました。
テニスでいえば、たとえばハイボレーやスマッシュを、垂直に振り上げた腕(ラケット面)で打っているつもり(イメージ)なのに、実際には前傾や後傾しているせいで、ネットミスしたり、バックアウトしたりしているのです(関連記事「空間認知はシャドーで整える」)。
▶イチローの「イメージ力」とは、カラダの地図のこと
イチローの言う「イメージしたことを形にできる能力」とは、この「カラダ空間認知」のことではないでしょうか。
こちらで取り上げたアレクサンダーテクニークに通じるかもしれません。
フォームをそっくりに真似ればスポーツが上手くなるという意味ではないはずです。
イチローの言う「イメージしたことを形にできる能力」とは、イメージしたフォームができるようになることではない。
だから、「言葉は難しい」!(関連記事「『言葉』って、ほんとうに伝わるの?」)
▶フィーリングは自分で育てるもの──ニッチローは面白いけど(笑)
空間認知――特別な能力ではないけれど、鍛えないと思うように強まりません。
暗算みたいなもの。
目で見て指折り数えれば間違いないけれど、見なくても頭の中でできるようになるイメージ。
そのためには、勉強(練習)が必要なのです。
日常生活でも鍛えられる例として「あのへんにある」と想像して手に取る「ノールックリモコン」などは以前にもご紹介しましたね(関連記事「日常で空間認知をたしなむ楽しい『ノールック生活』」)。
ですから、スポーツは「勘(フィーリング)」なのです(関連記事「スポーツの上達は『花のカンピューター作戦』でいこう! 」)。
決して、フォームの形を再現できることが、大事なのではない。
ニッチローは似ているけれど、レーザービームを投げられるわけではないのです(笑)。
https://www.kisara.jp/talent-2/nicchiro/
▶テニスは「時給制」ではない──ゆっくりやっても減給なし
もうひとつの話題。
「時間の制限が相当あるので、体を短い時間で作る能力もほしい」
これはイチローの言葉どおり、「時間制限」のあるスポーツでは大事でしょうね。
バスケ、ラグビー、サッカーなどなど。
テニスには、「完全には当てはまらない」かもしれません(※注1)。
テニスは決着がつかなければ、日没サスペンデッドとしてもなお、いつまでも続けていいスポーツです(関連記事「時間で区切らないのはテニスルールの礎」)。
もちろんイチローがいうように、「目が覚めるころに終わってしまって」いたら遅すぎますが、テニスは、スロースターターであっても大丈夫。
「ギアを上げる」という言い方がされるけれど、言い換えればそれまでは下げていたのです(関連記事「ブレーキを踏める人が、トップギアへ行ける」)。
※注1
野球も時間制限はないものの、コールドゲームやピッチクロックの縛りは、あると言えばある。
▶セットは取っても取られても「リセット」──人生も同じ
大量リードされたら「もうだめだ」などと思うのは、単なる決めつけです。
最後のマッチポイントを取られない限り、大逆転勝利はあり得るのです(関連記事「『高さ』と『長さ』、テニスで最後に勝つのはどっち?」)。
下記にエナンが言うとおり、1セット目を取ったからといって、2セット目も取れる「保証」はない。
仮に第1セットを6-2で取ったとしても、それは次のセットでの何かを保証するものではない。新しいセットになれば、全てを再びゼロからやり直さなくてはいけない。
セットを取っても取られても、次のゲームで「リセット」。
やり直し・挽回は、いくらでもできる。
ましてや、ラブフォーティは「負け」じゃない。
これが、人生に通じるテニスの面白みだと思います。
そこからが、ワクワクするのです!(関連記事「『0-30? ちょうどいいじゃない』──損して得を取る技術」)。
▶「緊張」は敵じゃない──ゾーンは、弛緩との間にある
イチローの言う、「体を短い時間で作る能力」を高めるのは、こちらで述べた「緊張感」ではないでしょうか(関連記事「緊張は、『準備OK』のサイン」)。
まどろんでいては、速く強く動けるハリのある身体は準備されません。
パッと動ける身体になる。
消防士が、寝ているところから、すぐさま出動できるようなものでしょうか。
「緊張するよ~」「緊張したくなーい」とはいうけれど、それこそ実は好ましい兆候。
大事なのは、弛緩とのバランスです。
仏道で言う中道。
その緊張と弛緩が織りなすシーソーゲームのハイバランスに、「ゾーン」があるのです(関連記事「緊張と弛緩の『シーソーゲーム』」)。
ここまで、イチローの言葉を「テニス目線」で読み解いてきました。
ただ、ここで大事なのは「イチローが正しいかどうか」ではなく――どう読むか、です。
▶おまけ・好き嫌いは味覚じゃない──「読解力」で見極める
一般に、好きな人だから、間違っていても応援する。
あるいは嫌いな人だから、正しくても賛成しないぞ。
そんなふうになりがちです。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い!」とばかりに……。
でも本当はそんなことなくて、嫌いな人でも「美点」があれば認めていいし、好きな人でも「そうかな?」と疑問符をつけていい。
それも「読解力」のうち。
嫌いな人が作った料理は食べないという人もいますが、美味しければ私はパクパクいただきます(にっこり)。
その人が嫌いなだけで、料理に罪はない(関連記事「罪は罪でも人は憎まず--自己肯定感を理解するための『いちばんのポイント』」)。
自分の好きな人でも、「違い」は指摘していいのです。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero