三題噺ショートショートvol.52_乾
落語家もすなる三題噺といふものを、コジも、してみむとてするなり。
企画もの、大の苦手なのである。
どんな親しい人の企画ものでも、なかなか素直には乗れない。
私は、「ルール」とか「決まり事」とか「期限」とか「締め切り」とかという制限事項が世の中で一番嫌いなのだ。
いくつになろうが、聞かん坊の悪ガキ。それが、私、kojuroだからである。
え?落語?三題噺?ヤスシさん?

心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
コジ、別名、天の邪鬼志朗だろ。「もし書けなかったとしても、それはそれでOK。でも、やってみなきゃ、もったいない!」なんてこと言われたら、逆に書きたくなるんじゃないの?
なんのはなしですか。

わかったよ、書くよ。書く書く。書けば良いんでしょ、リトル。それで、いいんだろ?
ブラックホールよりも重い重い重い腰を上げて、半ば自暴自棄に筆を執る。
さて。では、三題噺ショートショート「乾」まいりましょうか。

中学時代、乾という友人がいて。顔つきが似ているし、名前も「いぬい」だしという話で、スヌーピーというあだ名をつけられて、女子に人気があった。
俺たちはモテない硬派だったし、ヤツとは一線を画していた。
ヤツは顔つきも良く足も長かったが、どうにも野球はカラッキシだった。
いつも面白くなさそうに練習に参加していたが、大抵は人間フェンスと呼ばれる、ボール拾いだった。
俺は何とか正捕手でくらいついていたが、ある日、集合時間を間違えて遅刻し。罰としてボール拾いに送り出された。
たまたま打球が伸びて長打が出て、ふたりで追いかけて河原まで降りて探した。その時、ヤツが枯れた声で言い放った。
「ボール拾いなんてクソ食らえ。いつか、野球以外のプロになる!」
ある日曜日の昼下がり。
かみさんがつけていた通販番組をボンヤリ眺めていた。
「新作発表です!」
どこかで聞いたことのある、乾いた声。
乾だった。
「プロに…なってるじゃねぇか」
俺は、ニヤリとして呟いた。

そんなこんなを家内に語ろうとして後ろを振り向くと、空のソファーが、静かに笑っていた。
先日から家内は、あるプロジェクトで、都心のホテルに泊まり込んでいた。実は月曜日の夜に帰宅したはずなのだが、あいにく月曜日の夜から今日まで、逆に私が大阪出張で、会えずにいる。
そうだ。今日、私は、帰宅した。
だが、家内は、M(注1)と一緒に、御殿場のアウトレットに買い物に行っているという。
「先に寝ててね」
机の上の、ぞんざいなメモ帳が、私の存在の軽さと薄さを、いかにも象徴している。
シーンとした部屋の空気に、なんだか、心が追いつかない。
当然のごとく、今宵もマッサー(注2)は、無い。
昼間のやりとりからすると、家内は、元気なようである。
家内が元気だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。

(注1)Mとは、長女のことである。私にはかなりキツいが。根は、優しい子である。
(注2)マッサーとは、マッサージのことである。家内のさっちゃんがそうやって、略して言うのである。さっちゃんへのマッサーは私の最重要の日課である。
今日の投稿を入れて、51作。俺にしちゃあ、三題噺もけっこう書くには書いたが。これ、どこまで続くの?
いつまで書くの?
お題を発してくれるヤスシさんとの根競べだ。
ヤスさん、一年やったよ。もう。
自分でもびっくり。
でもさぁ、ヤスさんがやるなら、とことんやるよ。
どこま〜でも、行こう〜♪

