三題噺ショートショート_丼
落語家もすなる三題噺といふものを、コジも、してみむとてするなり。
企画もの、大の苦手なのである。
どんな親しい人の企画ものでも、なかなか素直には乗れない。
私は、「ルール」とか「決まり事」とか「期限」とか「締め切り」とかという制限事項が世の中で一番嫌いなのだ。
いくつになろうが、聞かん坊の悪ガキ。それが、私、kojuroだからである。
え?落語?三題噺?ヤスさん?

心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
コジ、別名、天の邪鬼志朗だろ。「もし書けなかったとしても、それはそれでOK。でも、やってみなきゃ、もったいない!」なんてこと言われたら、逆に書きたくなるんじゃないの?
なんのはなしですか。

わかったよ、書くよ。書く書く。書けば良いんでしょ、リトル。それで、いいんだろ?
ブラックホールよりも重い重い重い腰を上げて、半ば自暴自棄に筆を執る。
さて。では、三題噺ショートショート「丼」まいりましょうか。

彼と偶然会ったのは、引退の日の朝だった。
街の定食屋さんで。彼は、いつものトレーニング後の朝食を。かたや俺は、徹夜仕事明けの朝ご飯だった。
随分と久し振りだったが、お互いに一瞥で誰かわかった。同じテーブルに座り直し、少しだけ話した。
「俺、今日の試合で引退する」
「そうか、頑張ったな」
「ああ」
「で、引退後はどうする?」
「オヤジの仕事を継ぐよ」
彼の実家は、中小だが堅実な建築会社だった。ドラフト候補だったが指名されず、トライアウトで地元の独立リーグのチームに入ったのだった。
あれから10年。
俺は少しふざけて、彼の丼におかわりをてんこ盛りにし、生卵をぶっ掛けて醤油を垂らし。かき混ぜて彼に渡した。
すると彼は、録画してくれと俺に言い。卵かけご飯を掻き込んで平らげた。
彼はこまめに日常や練習の様子をSNSに上げていたのだが、その毎日投稿も、そこで終わりを告げたのだ。
彼のあの時の、食べ終わったあとの満足そうな笑顔が、今も忘れられない。

ヤスさんの三題噺企画の、そんなこんなを家内と語らおうとして後ろを振り向くと、家内が笑って言った。
まだ、あの三題噺続けてるの?じゃ、それにちなんで、マッサー(注1)三倍返しで、ね。ペペン、ぺンッ!
……。
マッサージをすると家内は、上機嫌になる。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。

(注1)マッサーとは、マッサージのことである。家内のさっちゃんがそうやって、略して言うのである。さっちゃんへのマッサーは私の最重要の日課である。
俺にしちゃあ、三題噺も、けっこう書いたは書いたが。笑

