見出し画像

タイムトラベル新京極(1)



~あなたの知らない "京のど真ん中" の物語~

多くの観光客や修学旅行生で賑わう、京都のアーケード街「新京極通」。ファッション、グルメ、お土産物屋がひしめき合うこの通りを、あなたも一度は歩いたことがあるかもしれません。

しかしその賑やかな風景のすぐ足元に、150年を超える歴史が眠っていることをご存知でしょうか。

今回10回シリーズに分けて、ただ通り過ぎるだけではもったいない、新京極通に隠された「昔」と「今」を重ねる時空散歩へとご案内します。この物語を読めば、あなたの目に映る新京極の景色は、きっと昨日までとは違って見えるはずです。

(1)では新京極の概説を試みます。
(2)~(4)で新京極の歴史をもう少し詳しく時代を追って考察します。
(5)では「新京極七不思議」を辿り、(6)ではその他の新京極の寺々を(7)(8)では裏寺の寺々を辿り、(9)でその他の路地や図子を辿る歴史散歩を試みます。
そして最終の(10)では写真資料や文献資料のほか、幕末~明治維新の和暦・西暦対照年表、そして本シリーズで参考とした文献などを【資料編】として掲載します。

明治初期の誓願寺門前

はじまりは「復興」への願い~なぜここに通りが?~

そもそも、この新京極通が誕生したのは明治5年(1872年)のこと。 東京へ都が移り、火の消えたようだった京都を活気づけようと、当時の京都府参事・槇村正直が断行した一大プロジェクトでした。

その方法は実に大胆。隣接する寺町通には、豊臣秀吉の都市計画で多くのお寺が集められていました。 そのお寺の境内地を整理し、新たな通りを一本通してしまったのです。 これが「新しい京極(京の端)」、新京極通の名の由来です。

今あなたが歩いているその場所は、かつて静かなお寺の境内だったのかもしれません。通りのあちこちに、今なお21のお寺と1つの神社がひっそりと佇んでいるのは、その歴史の証人なのです。

新京極開通直前の寺町境内図
現在の新京極界隈の寺々

日本のブロードウェイ?~エンタメの聖地だった頃~

さて、こうして明治初期に誕生した新しい通り。ここに何が集まってきたのか? 最初は芝居小屋、寄席、見世物小屋といったエンターテインメントでした。 明治も30年代に入る頃には、東京の浅草、大阪の千日前と並び称される日本三大盛り場の一つにまで成長します。

例えば、現在のシネマコンプレックス「MOVIX京都」がある場所。ここは、かつて松竹が初めて劇場経営に乗り出した「京都座」や「京都松竹座」があった場所で、まさに松竹発祥の地とも言えるのです。

また、1970年代頃までは、新京極には数多くの映画館が軒を連ねていました。「パレス劇場」「美松大劇場」「京極東宝」「菊映」「弥生座」…。 今は古着屋やファッションビルに姿を変えたその場所で、かつては多くの人々がスクリーンを見つめ、涙し、笑っていたのです。あなたが今、手に取っているその洋服のすぐ隣で、往年の名優たちが喝采を浴びていた…。そう想像すると、不思議な気持ちになりませんか?

昭和初期の新京極(黒川翠山、昭和11年7月)

喧騒の中のオアシス~今も息づく寺社の物語~

賑やかな商店街を歩いていると、ふいに現れるお寺の門に驚いたことはありませんか?これらもまた、新京極の歴史を今に伝えるタイムカプセルです。

・誓願寺
ここは、上方落語の祖・安楽庵策伝が住職を務めたことで知られる由緒あるお寺。また、平安時代の才女・和泉式部ゆかりの塔頭・誠心院もすぐ南にあります。彼女たちがはるか昔に京都の地で何を思い、どんな日々を送っていたのか。ファッションビルの隣で、千年の時を超えた物語に思いを馳せることができます。

・蛸薬師堂(永福寺)
「蛸薬師」というユニークな名前。これは、病気の母を思う僧侶が、禁じられていた蛸を買ったところ、神仏への祈りによって蛸がありがたいお経に姿を変え、母の病が治ったという伝説に由来します。今も、がん封じや病気平癒を願う人々が絶えず訪れるこのお寺は、新京極の喧騒の中にありながら、心静かな祈りの空間を守り続けています。

・錦天満宮
新京極において外国人観光客に最も人気のある場所といえば「錦天満宮」でしょう。元は歓喜光寺というお寺の中の神社(鎮守社)でしたが、神仏分離令により明治5年に独立した神社です。本来のお寺のほうは山科区に移転してしまい、新京極に残った神社のほうは参拝客(観光客?)で溢れかえる場所になったのです。

このほかにも新京極界隈に今も残る寺々について、既にここから移転してしまったお寺を含めて、ひとつひとつ(6)~(9)で詳しくご紹介していきましょう。


裏寺の午後は歩行者専用(宇宙人による誘拐注意標識ではなく)

終わりに ~景色が変わる街歩きへ~

いかがでしたでしょうか。
芝居や歌舞伎そして映画などの歓楽街、修学旅行生向けの土産物屋、最新のファッション、そして外国人観光客。
時代のニーズに合わせて柔軟に姿を変え続けてきた新京極界隈。

しかしその根底には、明治の京都を憂う人々の情熱があり、娯楽に熱狂した人々の息づかいがあり、そして今も変わらぬ祈りの風景があります。

次にあなたが新京極を訪れるとき。
ふと足を止め、目の前の風景の時空を超えた「向こう側」に広がる物語を想像してみてください。

「このカフェの場所には、伝説の映画館があったのかもしれない」
「このお寺は、通りの誕生よりずっと昔からここにあったんだな」

そう思えたなら、あなたの京都散歩は、もっと深く、もっと豊かなものになるはずです。見慣れた景色が、あなただけの歴史物語の舞台に変わる瞬間を、ぜひ味わってみてください。

裏寺に続く寺院の塀

  → タイムトラベル新京極(2)
  → タイムトラベル新京極(3)
  → タイムトラベル新京極(4)
  → タイムトラベル新京極(5)
  → タイムトラベル新京極(6)
  → タイムトラベル新京極(7)
  → タイムトラベル新京極(8)
  → タイムトラベル新京極(9)
  → タイムトラベル新京極(10)最終回


いいなと思ったら応援しよう!

kuga 応援いただけると励みになります。いただいたチップは取材費や機材費の一部として使わせていただきます。