ウォリック・ソーントン『Wolfram』アボリジニ少年団の逃避行西部劇
2026年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ウォリック・ソーントン長編五作目。1930年代、オーストラリア中央部で展開する西部劇ということで、2017年の『スウィート・カントリー』の精神的続編と紹介されている。主な登場人物は以下の四組。ビリーのタングステン鉱山で搾取的な労働を強要される小さな兄弟マックスとキッド、辺境の地に怯えて暮らすミックとその息子でアボリジニとのミックスであるフィロマック、彼らを訪ねてくる人種差別主義者の放浪者ケイシーとフランク、新天地を目指す中国人移民のツァイとアボリジニのパンジー夫婦だ。パンジーはビリーの鉱山から逃げ出したものの、二人の子供を救えなかったことを後悔しており、新天地へ行くのを躊躇っている。彼らの物語は放浪者がミックを訪ねる過程でビリーの鉱山に立ち寄ったことで混ざり合い動き出す。映画の中心にあるのは白人たちによるアボリジニへの苛烈な差別意識だ。鉱山労働は大人でさえ過酷なのに、子供にダイナマイトを手渡すなどの危険な作業を平気でやらせている。ケイシーの差別意識はもっと苛烈で、若いフランクはほぼ喋らないがケイシーの背中を夢中で追っているように見える。そして子供たちは、彼らから逃げ出し安全を求めて、死の大地を放浪する。オーストラリアの荒野らしく恐ろしい量のハエが人間の周りを飛び回っているので、全員が死にかけているように見えるのだ。ただ、フレアを効果的に使用しようとした結果、シンプルに逆光で何が映ってるか分からない瞬間がそこそこあったのは残念だった。また、基本的に女性と子供が主人公になったせいか、それぞれの挿話であまり過激な主張は展開されず、マイルドな家族ドラマに終始してしまった感じはある。白人救世主を置かなかったこと、多くの場合無視される中国人探索者に焦点を当てたことなど興味深い点も散見されたが、それらが悪魔合体して中国人救世主が誕生するのはどうなんだろうか?余計に散漫な映画になってしまった気がする。
・作品データ
原題:Wolfram
上映時間:102分
監督:Warwick Thornton
製作:2026年(オーストラリア)
・評価:60点
・ベルリン映画祭2026 その他の作品
1 . コーネル・ムンドルッツォ『At the Sea』踊れない私の漂うアイデンティティ
2 . アラン・ゴミ『Dao』ギニアビサウ、結婚式と葬式を駆け巡る"永続的循環運動"
3 . Anke Blondé『Dust』ベルギー版"ブラックベリー"の末路
7 . レイラ・ブジド『In a Whisper』チュニジア、クィアと伝統と家族について
12 . ハンナ・ベルイホルム『Nightborn』この子は森の子、獣の子
13 . Geneviève Dulude-De Celles『Nina Roza』ブルガリアで自分の過去と対峙する男
14 . ランス・ハマー『Queen at Sea』認知症と性的同意能力について
15 . マルクス・シュラインツァー『Rose』"ズボンを履いた方が自由になれるから"
16 . カリン・アイヌーズ『Rosebush Pruning』ある醜悪なブルジョワ一家の肖像
17 . エミン・アルペル『Salvation』トルコ、土地を巡る争いの果てに
18 . マハマト=サレ・ハルーン『Soumsoum, the Night of the Stars』チャド、女性の自由や権利の話がしたいのか…?
19 . アンソニー・チェン『We Are All Strangers』シンガポール、ある一家の愛と絆
20 . ウォリック・ソーントン『Wolfram』アボリジニ少年団の逃避行西部劇
21 . イルケル・チャタク『Yellow Letters』トルコ、政権批判をしたある芸術家夫婦の肖像
22 . アンナ・フィッチ&バンカー・ホワイト『Yo (Love Is a Rebellious Bird)』私の親友ヨランダ・シェイの人生
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!