アンソニー・チェン『We Are All Strangers』シンガポール、ある一家の愛と絆
2026年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アンソニー・チェン長編五作目。物語は現代シンガポールに生きる四人の男女を描いている。21歳のジュンヤンは実家で自由気ままに生活している。ある時、高校生の恋人リディアが妊娠したことで人生の転機が訪れる。一方、ジュンヤンの父親は中華料理店を経営している。彼は店で働く幸薄い同年代の店員ビーファに恋をしている…云々。この手の作品は多く作られているが、本作品ではステレオタイプを敢えて外すことで現代的な問題への庶民の向き合い方を描いているのが良い。例えば、"作中では愛すべき人物として描かれているものの観客としては全然愛せない人物"みたいな人は登場せず、ジュンヤンもなんだかんだ無責任な父親ではありながら家族のために色々と仕事にチャレンジしようと奔走している。個人的には、一番面倒くさそうなリディアの教育ママが初めてジュンヤン親子に会った際、開口一番に"もうまどろっこしいことは抜きに、式はいつにすんの(怒り)"とブチギレてたスピード感が良かった。他の挿話もディスコミュニケーションによる不必要な停滞がなくスルスルと語られていくのが魅力的で、問題児が起こすような過度にドラマティックな展開は控えめながら、四人家族の結束が強まっていくパワフルな語り口が良かった。シンガポールにおいて、シンガポール人(と言及されているがマレー系の住民を指しているのか?)は金持ちになり、政治も彼らの方を向いているので、中華系の主人公たちにとっては家賃も高いし、生活もしにくいと感じている。家族は常に借金に追われているし、頭は良いがやる気のないと評されるジュンヤンは"簡単に稼げる仕事"を探して様々な転職を繰り返す(また犯罪系か~という予想を良い方向へ裏切る)。最終的に彼が辿り着くのは、ライブストリーミングで薬の転売ヤーになるという現代的すぎる金の稼ぎ方だ。同じ映画祭には子供がまずChatGPTに相談するため大人が不在という子供映画があったが、本作品もまさに同時代の映画という感じがする。『永遠に続く嵐の年』の彼の真面目な挿話にも似ているが、本作品の方が人間の力で停滞を抜け出そうとするパワーがある。個人的にはバスで隣に座って何周もする渋すぎるデートを楽しむ無邪気な大人の二人が好き。でも、よく比較されてるエドワード・ヤンには到達していないと思う。
・作品データ
原題:我们不是陌生人
上映時間:157分
監督:Anthony Chen
製作:2026年(シンガポール, オーストラリア)
・評価:80点
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