エミン・アルペル『Salvation』トルコ、土地を巡る争いの果てに
2026年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。エミン・アルペル長編五作目。トルコの山奥には二つの村があった。かつては仲の良かったものの、下の村が商業で栄えたことで上の村の人間は彼らに傅く形になった。上の村の先代宗教指導者はその構造に反旗を翻し、下の村の人々から土地を奪い返すことに成功した。井戸を掘り、荒れ地を農耕地に変えた。そして今、下の村の家族が一組帰還し、土地の返還を要求し始めた(多分こんな感じだったかと思うが詳細の記憶はちと曖昧)。主人公メスートは上の村の先代指導者の長男だが、指導者の役割は弟フェリトが担っていた。フェリトはやんわりと融和を説くが、自分たちが耕した土地を奪われそうになっている上の村の住民たちは言う事を聞こうとしない。やがて対立は激化していき、フェリトが不在のタイミングで緊張は最高潮に達する。そんな中で、上の村のメンバーが殺されてしまい…云々。本作品で最も印象的なのは夢についてだろう。信じられないようなことが起こる→実は夢でした!という夢オチばかり登場するのだ。あまりにも過剰なので若干ウンザリしてしまったが、"夢"は本作品の重要な構成要素でもある。第一に、メスートが"祖父が夢で言ってた"として権力を掌握していくことが挙げられる。実際に言っていた夢など登場せず、寧ろ逆のことを夢に見ているのに、嘘くさい妄言を吐いて群衆を熱狂させていくのだ。そして、熱狂する彼らも似たような夢を見ながら、それらを無視した願望を自らの"夢"として、メスートにベットしていく。第二に、信じられないことが起こっているのに夢オチではないシーンもあることだ。だからこそ余計にウンザリするのだが、どうせまた夢オチだろと思っても夢オチじゃないシーンの重みが加わっていた。ただ、過激派メンバーの息子が神のお告げみたいなのをするなど、超常現象が実際に起こっているシーンなどもあり、後者はちょっと弱めかもしれない。
子供は神の創造物、悪魔が嫉妬してそこに入り込むことで双子が生まれる…下の村の連中は悪魔サイドだから双子が多い…みたいなアホ言説を信じたせいで、メスートはかつて下の村の長の家でメイドをしていた妻が双子を妊娠したことに怒り、遂には彼女を殺してしまう。この挿話は味方ですら殺してしまう恐ろしさを描いているのだが、どうにも村人の熱狂とは別軸で動いているように見えて不自然だった。まぁ夢の話と一緒で、自分の目的に対して不都合なことは平気で目を瞑るということを示しているのかもしれない。
・作品データ
原題:Kurtuluş
上映時間:120分
監督:Emin Alper
製作:2026年(トルコ, フランス, オランダ, ギリシャ, スウェーデン, サウジアラビア)
・評価:70点
・ベルリン映画祭2026 その他の作品
1 . コーネル・ムンドルッツォ『At the Sea』踊れない私の漂うアイデンティティ
2 . アラン・ゴミ『Dao』ギニアビサウ、結婚式と葬式を駆け巡る"永続的循環運動"
3 . Anke Blondé『Dust』ベルギー版"ブラックベリー"の末路
7 . レイラ・ブジド『In a Whisper』チュニジア、クィアと伝統と家族について
12 . ハンナ・ベルイホルム『Nightborn』この子は森の子、獣の子
13 . Geneviève Dulude-De Celles『Nina Roza』ブルガリアで自分の過去と対峙する男
14 . ランス・ハマー『Queen at Sea』認知症と性的同意能力について
15 . マルクス・シュラインツァー『Rose』"ズボンを履いた方が自由になれるから"
16 . カリン・アイヌーズ『Rosebush Pruning』ある醜悪なブルジョワ一家の肖像
17 . エミン・アルペル『Salvation』トルコ、土地を巡る争いの果てに
18 . マハマト=サレ・ハルーン『Soumsoum, the Night of the Stars』チャド、女性の自由や権利の話がしたいのか…?
19 . アンソニー・チェン『We Are All Strangers』シンガポール、ある一家の愛と絆
20 . ウォリック・ソーントン『Wolfram』アボリジニ少年団の逃避行西部劇
21 . イルケル・チャタク『Yellow Letters』トルコ、政権批判をしたある芸術家夫婦の肖像
22 . アンナ・フィッチ&バンカー・ホワイト『Yo (Love Is a Rebellious Bird)』私の親友ヨランダ・シェイの人生
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!