文豪ジャパン|毎週ショートショートnote|作家ワールドカップ【選考会議】
作家ワールドカップ初開催。
日本代表は文豪オールスターだ。
司令塔は夏目漱石。
トリッキーな江戸川乱歩。
ファンタジスタ、宮沢賢治。
決勝の相手はAIチーム。
完璧な予測に基づく試合運びに、
日本は苦戦を強いられた。
太宰治が膝をつく。
右サイドの三島由紀夫は舌打ちした。
「その弱さまで、AIに学習されているぞ」
太宰は弱かった。
だが、その弱さだけは誰よりも強かった。
太宰は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のAIチームを倒さねばならぬと決意した。
「走れ、俺」
芥川龍之介のキレのあるクロスに合わせて、渾身のシュート!
ボールは弱々しく転がり——
一瞬動きを止めたAIキーパーの手をすり抜けた。
ゴーーール!
だが、VARが入った。
解析の結果、太宰のシュートは、
過去の学習データからAIが生成した
「最も太宰が蹴りそうなコース」
と完全に一致していた。
AIキーパーが、逆に戸惑うほど
AI的に最適化された太宰。
主審は告げた。
「得点は認める。但し、太宰、人間失格」
(410字)
『文豪ジャパン(ショートショートver.)』
<了>

【お知らせ】
前半戦終了。
この後、ハーフタイムを挟んで、後半戦――
『文豪ジャパン(なんのはなしですかver.)』
「作家ワールドカップ日本代表選考会議」
を掲載します。
田原にかさんの「毎週ショートショートnote」、
20回目の投稿です。
20回記念です✨️
今週のお題は、
「作家ワールドカップ」でした。
わかりやすいですね!
でも、実は私、
先週もワールドカップネタだったんですよね……
上の作品も、超おすすめです!✨️
未読の方は、ぜひお読みくださいね。
さて、「作家ワールドカップ」と聞いて、
他の方とのネタ被りを恐れず、
(いえ、なるべく見ないようにしながら💦)
真っ向から、文豪ネタに挑戦しました。
――だって、大好きなんですから!😆✨
これが、私の選んだ「文豪ジャパン」です。

左から順に――
・夏目漱石
・太宰治
・宮沢賢治
・芥川龍之介
・三島由紀夫
・江戸川乱歩
・川端康成
・志賀直哉
・森鴎外
・幸田露伴
・正岡子規
選手の紹介、ポジション等は、
この後の「なんのはなしですかver.」をお読みくださいね。
対する、AIチーム。
正式名称は「AIシンギュラリティーズ」です。

これは、ヤバいですね。
なんか、『少林サッカー』を思い出しました。
あと、『ロッキー4/炎の友情』。
――なんとなく、ですが。
「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは、
AIが自己改善を繰り返し、
人間の知能を超える転換点のことです。
あえて複数形にして、
チーム名っぽくしてみました(笑)
メンバーそれぞれが、
別々の人格・予測モデルを持ったAIで、
一人一人が小さな特異点……
くらいのイメージです。
あまり、深く考えないでくださいね。
――と、このあたりで、ハーフタイム終了。
ここから、いよいよ後半戦。
前半戦よりはるかに長い、
「なんのはなしですかver.」をお楽しみください ♪
『文豪ジャパン』
なんのはなしですかver.
作家ワールドカップ日本代表選考会議
~文豪たちをサッカー日本代表に選んでみた
この話はフィクションです。
実在の作家、作品、なんなら「サッカー」さえ、
何の関係もありません。
ここは、とある文芸雑誌の会議室。
きのころと、一人の男が向かい合って座っていた。
男の名前は、球蹴 下駄郎。
名前からして、もう嫌な予感しかしない。
「きのころさん、はじめまして。
たまけりげたろうです。
『たまげた』って呼んでください」
「なんなんですか、いきなり?」
「突然ですが、きのころさん。
作家ワールドカップってご存知ですか?」
「初めて聞きました」
「世界中の作家たちが、
文学力をサッカーに変換して戦う大会です」
「文学力をサッカーに変換?」
「はい。
語り口はドリブルに。
構成力はゲームメイクに。
狂気はプレスに」
「あまり深入りしたくない世界ですね」
「すでに、世界各国から、
続々とエントリーされています」
「たとえば?」
「ドストエフスキーとトルストイをツートップとするロシア」
「なにそれオソロシア」
「ゲーテ、カフカ、グリム兄弟など、スターきらめくドイツ」
「どんなチームなのか想像もできません」
「シェイクスピアを司令塔に、多彩な選手を揃えるイギリス」
「サッカーならイングランドでは?」
「これは作家ワールドカップです。
図書館方式で分けます」
「図書館方式?」
「シェイクスピアもディケンズもドイルも、
イギリス文学として一棚に並べたい」
「いや、こんなん、勝てる気がしないですよ」
「きのころさん。
我々で、勝てる日本代表を選びましょう!」
「なぜ、我々で!?」
「作家ワールドカップは、架空の大会です」
「はあ」
「だから、架空の選考委員会が選ぶんです!」
「ちょっと何言ってるかわかりません💦」
「さっそく始めましょう」
「さっさと帰りたいです」
司令塔:夏目漱石
「まず、司令塔は夏目漱石です」
「いきなり、大物ですね」
「漱石は、中盤から試合を組み立てます。
『吾輩は猫である』で、
少し引いた視点から人間社会を見つめ、
『こころ』では人間の内面を深く読み解く。
つまり、ピッチ全体と選手の心理を
同時に見られる選手です」
「文学の話なのか、サッカーの話なのか、
よくわかりませんが、説得力はあります」
「相手からすると、
ボールではなく心を読まれている感じですよ」
「英国仕込みの洗練されたパスワークも武器ですね」
「『月が綺麗ですね』と言いながら、
相手ディフェンスの裏をかく、
ロマンチックなスルーパスも得意です」
「ポジションはどこにします?」
「今回は4-3-3でいきたいので、中盤の中心です。
漱石が中央で攻撃の文脈を作り、
左右のサイドストーリーを動かす。
試合全体を一つの物語にする役割です」
「うまいこと言った感、漂わせないでください」
ワントップ:太宰治
「扱いが難しい太宰治を先に決めておきましょう」
「たしかに、扱いは難しそうです。
……これ、サッカーの話ですよね?」
「太宰は弱いです」
「身も蓋もありませんね」
「倒れる。悩む。苦しむ。
でも、その弱さを言葉に変える力がある。
これは日本代表に必要です」
「どう使いますか?」
「あえての、ワントップです。
安定感はない。守備もしないかもしれない。
でも、なぜか、最後にボールが転がってくる」
「持っているタイプですね」
「決定機で外しそうに見えて、
観客全員の感情を巻き込むゴールを決める。
走って倒れ込みながら、決勝点を奪うタイプです」
「走れるんですか?」
「走ります。特に、人質がいたら敵なしです。
最後はお互いに殴り合ってわかり合います」
「なんのはなしですか!?」
「ということで、このチームでは、
太宰をセンターフォワードにしましょう」
「大丈夫でしょうか」
「太宰の武器は、
弱さを見せられる強さです」
「なるほど。
日本代表に一人は欲しいですね」
「一人で十分です」
左ウィング:宮沢賢治
「左ウィングには、宮沢賢治を置きます。
賢治の想像力・創造性・ひらめきは、
まさに、ファンタジスタの特性です」
「日本を代表する幻想文学者ですから、
良いファンタジスタになれそうです」
「ファンタジーは幻想。
ファンタジスタはその幻想をプレーに変える選手」
「世界の見え方そのものを変える選手ですね。
ピッチに銀河を描けそうです」
「そう。サイドチェンジも、
銀河鉄道でボールを逆サイドまで運びます」
「銀河鉄道は反則でしょう!?」
「詩的な表現です」
「たしかに、詩人でもありますよね」
「雨にも負けず、風にも負けず、
相手のプレスにも負けず、静かに走り続ける。
いつも静かに笑っている」
「ファンタジスタなのに、献身性もあります」
「そこが強いんです。派手なだけではない。
美しさと祈りと運動量が同居している」
「ピッチのあらゆる場所に顔を出して、
ピンチの芽を摘み取りそうですね」
「みんなの本当の幸(勝利)のために、
泥だらけになって献身的な守備もしますよ」
「それは、若くしてイーハトーブに召されそうです…💧」
右ウィング:芥川龍之介
「次、芥川龍之介は右ウィングです」
「キレのある攻撃を仕掛けそうですね」
「はい。芥川は、長く持つ選手ではありません。
短編の名手らしく、少ないタッチで決定機を作る」
「短く、鋭く」
「そうです。
相手守備陣の隙間に『羅生門』的な暗がりを見つけ、
そこへ一気に入る」
「多彩なシュートを決めそうです」
「クロスもいけますよ。
芥川のクロスは、ただのセンタリングではありません。
一文で場面を変えるようなボールです。
鋭く、短く、的確です」
「切れ味バツグンですね」
「芥川ほど、前線向きの選手はいません。
一瞬で相手を切り裂き、鋭いクロスを入れる」
「その先には?」
「太宰です」
「受けられますか?」
「受けます。倒れながら。
芥川の電撃のようなクロスに、
太宰が自分の弱さごと飛び込む。
これは、文学的ゴールです」
「文学的ゴール!?」
「日本代表の必殺パターンにしましょう。
芥川から太宰です」
「日本文学史を見ているようです」
右サイドバック:三島由紀夫
「右サイドは三島由紀夫です」
「右サイド、という言い方に妙な説得力がありますね」
「三島は、とにかく身体性が強い。
文章も肉体も鍛え上げて、サイドを一直線に駆け上がります」
「美意識でオーバーラップするタイプですね」
「そうです。上がり方が異様に美しい。
クロスのフォームまで美しい。
ただし、味方が合わせられないと、
ものすごく不機嫌になります」
「困りますね」
「でも、試合終盤に必要なのは、こういう選手です。
理屈ではなく、覚悟で突破する選手」
「急に熱血サッカー漫画みたいになりましたね」
「三島が右サイドを駆け上がるだけで、
ピッチに緊張感が生まれます」
「たしかに、相手ディフェンスも
『これは止めないと何か大変なことになる』
と思って焦りそうです」
「しかも、前にいるのは芥川です」
「右サイド、強いです」
「三島が美しく駆け上がり、芥川が短く切り裂く。
この右サイドは、強いというより、恐怖です」
「恐怖というより狂気ですね」
左サイドバック:江戸川乱歩
「次に、江戸川乱歩」
「ポジションは?」
「トリックスターです」
「それはポジションなんですか?」
「乱歩は、普通のコースを選びません。
衆人環視のもと、予測不能なパスを出す。
抜け道がないと思ったら、床下から出てくる」
「サッカーの話ですよね?」
「もちろんです。観客は楽しい。
次に何をするかわからない。
ミステリー作家は、観客の視線を操るのがうまいんです」
「相手チームの視線を操ってほしいですが」
「審判もたまに見失います」
「VAR連発ですね」
「ただし、乱歩を前に置くと、
チーム全体が怪しくなりすぎるんです」
「動きが気になって仕方ないですよね」
「この人が守備にいると、相手が混乱します。
普通に守っていると思ったら消える。
抜いたと思ったら、実は罠だった」
「守備で伏線を張るタイプ」
「はい。相手の癖や動きを裏の裏の裏まで読み、
先回りしてボールを奪います。
マークする相手によって、スタイルを
カメレオン変化させることができます」
「怪人二十面相ばりの幻惑ディフェンス!」
「乱歩は左のサイドバックです。
賢治と乱歩で、左サイド全体が
『幻想と怪奇』ゾーンになります」
「それ何てハヤカワ!?」
静かなる守備:川端康成
「川端康成は、
静かに相手の前に立ちはだかるタイプです。
ディフェンスの要に置きたい」
「ノーベル文学賞で、相手を威圧できます」
「派手に当たりに行くのではなく、
いつの間にかそこにいる。
抜いたと思ったら、そこは川端だった」
「トンネルを抜けるとそこは雪国だった、
みたいに言わないでください」
「しかも、眼力があります」
「魔界まで見通す眼力!」
「川端に見つめられると、
相手はシュートを打つ前にひるみます」
「究極の、静かなディフェンスですね」
「守備なのに、美しい。
泥臭さはまったくありません」
「『美しい日本の私』」
「クリアも大きく蹴り出すというより、
静かに危険を消す、洗練された動きです」
「たしかに、守備の要のような気がしてきました」
「川端はセンターバックにしましょう。
日本代表の精神的支柱になる存在です」
無駄のない守備:志賀直哉
「もう一人のセンターバックは志賀直哉です」
「小説の神様ですね」
「文章に無駄がないので、
守備も判断が速く、余計なことをしません。
危険な場面でも、シンプルに跳ね返すタイプです」
「実に守備向きですね」
「パスも短く正確。
チーム全体のリズムを整える存在です」
「志賀の守備は、志賀の名文と同じで、
作為のない、簡潔なスタイルでしょうね」
「相手がフェイントを入れても惑わされず、
無駄のない動きで、すっとボールを取る」
「まさに、守備の神様」
「この人が守備にいれば、チーム全体が落ち着きます」
「川端との相性もよさそうですね」
「志賀が無駄を削り、川端が静かに消す。
最強のセンターバックです」
中盤の参謀:森鴎外
「中盤には森鴎外が必要です」
「この人は、監督の貫禄ですね」
「鴎外はインサイドハーフです。
医学、翻訳、文学をまたぐ知的総合力。
必要な場所に顔を出す機動力もある、
チームの規律を整える中盤の参謀です」
「司令塔のようでもあります。
漱石との役割分担は?」
「漱石は攻撃の文脈を作る。
鴎外はチームの守備の規律を作る」
「厳しそうですね」
「相手の攻撃を組織的にシャットアウトする。
そして、自らも、軍医のキャリアを活かした
冷静沈着なカバーリングが可能です」
「漱石と鴎外のいる中盤は、
文豪感がすごいですね」
「ところが、まだ、もう一人います」
中盤の底:幸田露伴
「もう一人、最強の重鎮が幸田露伴です」
「漱石・鴎外と並び称されるにふさわしい、
文学史における本物の巨匠の一人ですよね」
「まさにその通り。漱石・鴎外よりも前に、
文学界の頂点に君臨していたのは露伴です。
格で負けていません」
「ポジションは?」
「中盤の底です。
アンカーとして、チームの重心を支えます。
派手なプレーで目立つタイプではありませんが、
中盤にいるだけでチームが締まる」
「いぶし銀ですね」
「職人ですから。
露伴は、言葉の一つひとつに重みがある。
相手が寄せようとしても、近づきにくい」
「あまり動かないタイプですね。
……ハシビロコウ的な?」
「動かなくても、相手が勝手に遠慮します」
「そういえば、ジョジョ4部に出てくる岸辺露伴は、
幸田露伴から名前を取っていますよね」
「はい。どちらも、
自分のスタイルを貫く、信念を曲げない男。
自身の美学と理想を掲げる、折れない男です」
「まさに、守備の重心にふさわしい存在です」
「ということで、
中盤の三枚は、鴎外、漱石、そして底に露伴です。
華やかさより、格と重みで試合を支配します」
「中盤は、明治文学史そのものですね」
ゴールキーパー:正岡子規
「ゴールキーパーは正岡子規です」
「いや、子規はサッカーじゃなくて、
ガチの野球狂ですよ!?」
「スポーツマンシップは、各競技共通です」
「それにしても、ここで突然、
俳句と短歌がメインのような人ですか…?」
「広い展開よりも『一瞬を切り取る力』が抜群です。
ゴール前の一瞬の判断、
相手のシュートコースを読む能力に優れるタイプです」
「思いのほか、キーパー向きでした」
「プレースタイルは、
派手な横っ飛びよりも、位置取りで止める堅実派。
シュートが飛んでくる前に、もうそこにいる」
「観察眼の守護神」
「そうです。最後の砦です」
「失点したらどうするんですか?」
「一句詠んで試合を整えます」
「精神的な守護神でもあるんですね」
まとめ
「きのころさん、どうでしょう?」
「こうして見ると、意外と戦えそうですね」
「もちろんです。
文学は、ただ読むだけのものではありません」
「と言いますと?」
「文学とは、人間を見る力です。
人間を見る力は、試合を見る力になる。
試合を見る力は、人生を見る力になる」
「最後、急にまとめに入りましたね」
「締め切りがありますから」
「なんの締め切り?」
「『毎週ショートショートnote』ですよ。
今週のお題は『作家ワールドカップ』です。
このチームを使って、書いてくださいね!」
きのころの頭の中に、
芥川がクロスを上げ、
太宰がシュートを決めるシーンが浮かんだ。
やれやれ。
今週も、なんとか書けそうだ。
こうして、きのころの脳内で、
作家ワールドカップが開幕した。
#なんのはなしですか
<了>
<アディショナルタイム>
作家ワールドカップ日本代表は以下の通り。
フォーメーション:4-3-3
GK 正岡子規
DF 江戸川乱歩、川端康成、志賀直哉、三島由紀夫
MF 森鴎外、幸田露伴、夏目漱石
FW 宮沢賢治、太宰治、芥川龍之介
控え
谷崎潤一郎、泉鏡花、中島敦、坂口安吾
萩原朔太郎、中原中也、石川啄木 ほか
監督
坪内逍遥
坪内逍遥
近代文学の土台を作った人物。
『小説神髄』で近代小説の理論を示し、翻訳・演劇・評論にも関わる。
日本文学そのものの戦術ボードを作れる人として、監督に選出した。
本日は以上です。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
たくさんのnoteの中から、私の記事を見つけて読んでいただき、
ありがとうございました。
「なんかいいかも」と感じていただけたら、
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