退屈な人生のつくり方|毎週ショートショートnote|思い出相続税
幸福な記憶に課税される「思い出相続税」の導入以来、人々は終活として思い出を整理するようになった。
ある事務所の一室。
冷徹な笑みを浮かべるFPは、私の脳内データをタブレットで仕分けていく。
「いいですか。思い出は、美しいうちに消すのが一番の節税ですよ」
彼は私の輝かしい記憶を指で弾いた。
「プロポーズは『なんとなく結婚した感じ』に丸めて、評価圧縮します。
地中海での豪華旅行は幸福度が高すぎる。破産を避けるため、『近所の公園で冷めた弁当を食べた記憶』に加工しましょう。
色を落とし、音も消せば、評価額は9割カットです」
人生の輝きをわざわざ削り、無難で安価なペラ記憶に差し替える。
それが家族に資産を残す唯一の道なのだ。
私は、精巧に作られた「退屈な人生」の目録に、力なくサインした。
私の脳内から、眩いばかりの光が、音もなく消えた。
葬儀の日、息子は涙を浮かべて親族に語った。
「父との一番の思い出は、近所の公園で冷めた弁当を食べたことです」
(410字)
節税プラン一覧(抜粋)
<青春の栄光プラン>
(輝かしい勝利のダウングレード)

元データ: 部活動での全国大会出場、表彰台の涙。
加工後 : 健康維持のための軽い散歩と水分補給。
FPの解説
「勝利の感動は固定資産税並みの重税対象です。
単なる『代謝活動』とすれば非課税所得になります」
<創業の情熱プラン>
(仕事の成功の減損処理)

元データ: 会社を立ち上げ、社員と共に勝ち取った大きな契約。
加工後 : 印鑑を指定された場所に押すルーティンワーク。
FPの解説
「達成感は贅沢品です。単なる『事務作業の積み重ね』に変換して、
人生の総評価額をミニマムに抑えましょう」
<充実の隠居プラン>
(趣味・道楽の資産除却)

元データ: 趣味のヴィンテージカーや庭で育てたバラ。
加工後 : 粗大ゴミの分別作業と道端の雑草除去作業。
FPの解説
「こだわりは持っているだけで維持費がかさみます。
『清掃活動』にして、社会貢献控除を受けましょう」
< 以 上 >
田原にかさんの「毎週ショートショートnote」、
9回目の投稿です。
今回のお題は「思い出相続税」でした。
え、相続税?
節税の話ですか!?
——私、実はFPなんです。
ちょっと、ガチ目に節税プランを考えてみました(笑)
タイトルの『退屈な人生のつくり方』は、
映画『最高の人生のつくり方』のもじりです。
『最高の人生のつくり方』、最高でした。
私も、最高の人生をつくりたいです。
本日は以上です。
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