夜桜の樹の下には|毎週ショートショートnote|夜桜系男子
その夜、特に目を引いたのは桜ではなく、桜を見上げる青年の横顔だった。
青年は夜桜の前でカメラを手にしていたが、すぐには撮らなかった。
桜の枝の下に入っては立ち止まり、半歩ずれ、少し下がってまた見上げる。
ようやく数枚シャッターを切ると、また位置を変える。
その横顔に惹かれて、私は声をかけた。
「そんなに場所で変わるものなんですか」
「かなり」
短い返事のあと、彼はまた桜を見上げた。
夜景は光の入り方で印象が変わるし、桜は花の重なり具合で見え方が違う。
私はしばらく、彼の視線を追っていた。
無口で、繊細で、夜桜に真剣な人。
「夜桜系男子」——
ふいに、そんな言葉が頭に浮かんだ。
後日、偶然見つけた彼のSNSには、夜桜の写真は一枚もなかった。
並んでいたのは、桜を背景にした彼自身の自撮りばかりだった。
彼は夜桜を愛していたのではない。
愛していたのは、「夜桜の中にいる自分」だった。
これぞ、本物の「夜桜系男子」だ。
私はスマホの画面をそっと閉じた。
(410字)

田原にかさんの「毎週ショートショートnote」、
8回目の投稿です。
今回のお題は「夜桜系男子」でした。
タイトルの『夜桜の樹の下には』は、
梶井基次郎の小説『桜の樹の下には』のもじりです。
「桜の樹の下には屍体が埋まっている。」
という冒頭文が有名な、日本文学史に残る名作。
もちろん、今回の作品とは何の関係もありません。
元の小説に関する知識がほんの少しでもあると、
ちょっと不穏な感じが味わえる…かもしれません。
——ぜんぜん関係ないんですが!(笑)
【おまけ】
さて、今回も、おまけ画像を用意しました。
上の記事に掲載した「春ナンノ」(はいからさん)——

それの別バージョンです。

南野陽子さんが歌う、
『はいからさんが通る』の衣装と振付を再現しました。

——完全に一致!🤭
本日は以上です。
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