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闇 627(串市場ん最終日編)

闇 627(串市場ん最終日編)

2026/08/03 mon
※俺は13年間のブランクのリハビリをしているだけなんじゃないかなとまで感じるようになった。そしてこのまま朽ち果てるのは悔しいから自身の人生を書き残している。
前回の章


二千二十三年十二月一日、金曜日仏滅。

休みなので久しぶりの大村庵へ向かう。
大久保駅北口にある大村庵と名前が一緒なので、位置的にこっちが支店なのだろう。

隣りに見える喫茶店の『ラ・ムー』。
ここも全然足を運ばなくなってしまったな。

ざる蕎麦を注文しお茶ハイを飲むも、やはり俺は洋食屋系のところで酒を飲むのが好きなのだと自覚する。

2023/12/01 大久保通り 大村庵

カレーライスを食べてから、蕎麦屋をあとにした。

2023/12/01 大久保通り 大村庵

夜になって串市場んへ行く。
柏原がいたので隣りに座り、格闘技の話をした。

彼はキャバクラやガールズバー、エステを複数店舗経営したらしいが、初期コロナ渦の緊急事態宣言により、大幅なダメージを受けて商売をかなり縮小したようだ。

異性を使う店は、過去痛い目に遭った風俗の『ガールズコレクション』くらいの経験しかない俺は、彼の被害がいまいち分からない。
あの一件で当時付き合っていた百合子との間にできた子供の中絶。
さらに彼女を人質に取られた言動により、俺は組織を抜ける事ができなかった嫌なトラウマ。

それでも柏原の話に寄りそう気持ちはあったので、余計な口は挟まず静かに相槌を打ちながら聞く。
もう女主体の働く店で、自分が勤める事は金輪際ないだろうなと思いながら。


二千二十三年十二月二日、土曜日大安。

いつものようにインカジ『レディ』を終えて大久保駅に着くと、河本マンションへ帰る前に一杯飲んで行こうかなと串市場に向かう。

ドアを開けると、マスターが申し訳なさそうな表情をしながら両手でバッテンをされる。
今日はもう営業がおしまいという合図。
中番の仕事終了は夜の十一時。
そこからの帰りだから、店の閉店になるのはしょうがない。

大人しく帰ろうとドアに手を掛けた時だった。
柏原から声が掛かる。

「マスター、岩上さんならええんとちゃいますか」
「そうですね」

「岩上さん、ここはもう終わりなんですけど、これからマスターと飲みに行くんで、良かったら一緒に行きませんか?」
「え、自分もいいんですか?」

「ええ、岩上さんなら問題ないですし、ここから近くにある休み店なんで、良かったら行きましょうよ」
「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお邪魔させて頂きますね」

ひょんな事から柏原の誘いで、そのまま俺は彼と小滝橋通りへ向かって進む。
マスターは店の後片付けをしてから遅れてくるようだ。

徒歩五分もしない内に居酒屋『しょうちゃん』へ到着する。

テーブル席が三つにカウンターとこじんまりした店内であるが、ひと席しか空いていない繁盛ぶり。

店主へ俺を紹介すると、柏原は席へ腰掛ける。
彼の焼酎のボトルが入っている為、割る為の緑茶を注文し、適当なつまみを頼んだ。

考えてみれば、河本マンションへ引っ越してから他の居酒屋へ行くのは久しぶりのような気がする。
俺は柏原と話しながら時計を見ると、もう少しで十二時になるところだった。


二千二十三年十二月三日、日曜日赤口。

十二時を過ぎた頃、マスターが居酒屋しょうちゃんへ姿を現す。

「マスター、遅いですやん」
「毎度すみませんでした」

新宿区大久保という場所に住んで、どのくらいになるのだろう?
きっかけは初期コロナ渦のアパホテル暮らしから。

あれから俺は、川越から電車で新宿まで毎日通勤するのを嫌うようになったのだ。
やがてホテル代も徐々に値上がりし、大久保のラッキーホステルに二ヶ月ほど住んで、ゲーム屋ラッキーハウスの退職。

金も尽き掛けの時、佐藤充の儲け話に乗り、それが地方の高知競馬で当てるという無茶ぶりな事を知った時は、時すでに遅し。
ウサギ小屋と称するネットルームのアスクルームへ住むようになった。

それから間もなくして今のインカジ『レディ』で働くようになる。
そのレディで半強制的に打たされたコロナワクチンで二度の心筋梗塞。

それから長年の部下である山下哲也のタカり行為で縁を切ったと思ったら、今度は中学時代の同級生神田の散財によって、どんどん金を削られ続け、この馬鹿も縁を切った。
だがウサギ小屋から脱出を図った先が今の河本マンションで、不当光熱費請求によって苦しめられる日々。

そこも脱出しようと思ったら、自称俳優若菜龍平の梯子外し。
しかも先日は大久保通りの中華苑でいい話があるからと時間を作れば、自分の家族所有マンションの家賃交渉の内容。

あの時の龍平の最低な人間性を見てしまった俺であるが、中国人リオとの出会いにより、綺麗な普通のマンションに住みたいという慾が出てきてしまう。

柏原と串市場んマスターに、龍平の愚痴を言いたかったがグッと我慢した。

起きて昼食を取りに出ようとすると、ドアに封筒がセロハンテープで貼られている。

2023/12/03 河本マンション 適当な手書き計算の光熱費内訳説明

内容は俺が使った電力とガス代の使用量を手書きのもの。
いきなりこんな言い訳じみた事をやられても、何の意味も証明にもならない。
手書きの請求書に、手書きの使用量なんて、馬鹿じゃないのか?

俺は文句を言ったのは、何故不動産が間に入ったら、毎月三万円以上不当請求していたのが、いきなり半額になったのかの説明をしろと言ったまで。
本当にこんな話にならないキチガイマンションを、一刻も早く出ていかないと……。


二千二十三年十二月五日、火曜日友引。

今日でジミードーナツが無くなって、八年も経つ

これも亡くなってしまった税理士の大野和道さん情報で横浜にいる時知った。
大切にしていた店や人だけは、時間の経過と共にどんどん無くなっていく現実。

嫌な出会いばかり続いたが、先日共に飲んだ柏原とマスター。
この二人はまともで、信用できそうだ。

そういえば龍平の奴、人に何度も酒を奢らせといて、あれから連絡がないな。
本当にあいつはふざけた野郎だ。

仕事帰り、大久保駅北口のラブリーハートへ寄り、リオの顔を見に行く。
そのまま彼女を抱き、大量の精子を掛けた。

ずっと淋しく一人で生きてきたのだ。
この女でいい。
だから一緒に同棲しながら楽しい毎日を過ごしたかった。


二千二十三年十二月六日、水曜日先負。

インカジ『レディ』で業務中、自称俳優からLINEが届く。

『岩上さん! 遅くなりましたが部屋の件ですが、管理費込みで七万五千円でヨイとの事です。ご検討下さいませ。 若菜龍平』

自称俳優マンションの家賃交渉の末、七万五千円提示。
元々八万二千円に管理費六千円の物件が、この料金。
これですぐにでも河本マンションを脱出できる。

まず明日、大久保駅北口向かいにある不動産には、二度目になってしまうが、マンションの物件探しをまた断りにいかないといけない。

次に裏稼業で働く俺にとって、就業証明書は難しい。
その為店内で従業員へ聞いてみると、名義社長の倉敷は金は掛かるがダミー会社で証明してもらったようだ。

俺はそのダミー会社を紹介してもらい、早速金を払い、就業証明証を作る。
龍平だけは俺が裏稼業で働いているのを知っている。
その為、ダミー会社の就業証明書情報をまず彼に送った。

2023/12/06 LINE 若菜龍平

こんな条件で、他の人間が先に入られたら洒落にならない。
今は仕事中で無理があるが、明日にでも契約したいと意思を伝える。

『日時希望ありますか? 若菜龍平』

『今月中に荷物運ぶとかできますか? 今のところ十二月分までは家賃払ってしまってるんです。 岩上智一郎』

『契約すれば、いつでも大丈夫だと思います。 若菜龍平』

『了解しました。ありがとうございます。 岩上智一郎』

返事を送ると俺は飛び跳ねて喜んだ。

2023/12/06 LINE 若菜龍平

「岩上さん、どうしたんですか? そんな喜んで」

佐藤ボンズが意地悪そうな笑みを浮かべながら声を掛けてくる。
俺は携帯画面を見せながら、ようやく河本マンションを脱出できる事を伝えた。

「やっと俳優の若菜さんが役に立ってくれたよ……」
「あれ、自称俳優じゃないんですか、イヒヒ」

「一応骨を折って交渉してくれたんだ。九万二千円の家賃が七万五千円だぞ? 一万七千円も安くしてくれるんだから、そう悪くは言えないだろ」
「でも、それはあなたの都合ですよねーって、店のおばさんに言ったんですよね?」

「まあ、そうだけどさ…。おまえもいちいち蒸し返すなよ。確かに人間としては最低ランクだよ。でも、とりあえず俺には親切に動いてくれたんだから」

えーと少し龍平との経緯を整理しよう。
まず十一月二十三日の時点で、いい話があると呼び出され、串市場んが臨時休業の為、中華苑で合流。
閉店時間になり、店主のおばさんの切迫を無視して喋り続け、会計もせず、俺が強制的に場を終わらせる。
この日は具体条件の提示なし。

次が十一月二十七日の月曜日。
これは龍平自体がこの日にはハッキリ金額を出すと言った日だ。
結果「もう少し待ってほしい」と保留連絡のみ。
実体のない交渉中アピールだなと、心が折れ掛ける。

そして今日になって今、初めて数値が確定。
管理費込み 七万五千円の金額提示。
俺は「河本マンションを脱出できる」と判断し、即了承。

ここまで時間は掛かったが、救命浮き輪に見えた。
何よりこれでリオに物件の写真も見せた上で、部屋を借りられる。

仕事帰り浮かれて、串市場んへ行く。
柏原がいたので一緒に飲む。
帰り際もう少しでこの店も閉業なので、十五年来の常連である若菜龍平も呼んできますとマスターへ声を掛けた。

その瞬間、柏原から猛烈に反対される。

「岩上さん、龍ちゃん連れてきたら、あかんですよ」

マスターも苦笑い。
借りにも通ってくれた客なのに、何て酷い事を……。

確かに俳優としての芽は出ていないかもしれないが、俺の為にわざわざ骨を折ってくれたのだ。
でも二人揃って常連客の龍平を煙たがる理由…、いやいや、そんな飲みに行った先の店の事まで考えていて、どうすんだよ?

リオとあそこで、一緒に住みたいんじゃないのか?
何となくモヤモヤしながらラブリーハートへ寄り、リオを抱いてから帰った。
まだ正式に部屋を借りる手続きはしていないので、彼女に一緒に住もうとは言い出せなかった。


二千二十三年十二月七日、木曜日仏滅、大雪。

昼前に目を覚まし、駅前の不動産へ向かう。
再び部屋が決まったと二度目の断りを入れると、露骨に嫌な顔をされる。

予想はしていても、その対応にショックを受けた。
当たり前の話である。
短い期間で二回も同じ事をしてしまっているのだ。
不増産からすれば、何だこの迷惑な客となるだろう。

それでも龍平マンションの位置といい、金額は俺にとってそれだけ魅力的だった。
昨日のリオの若い小気味いい肌の感触を思い出し、全部にいい顔などできないだろと自分へ言い聞かせる。

そういえば串市場んがもうじき終了してしまうので、最終日一緒に行くか龍平に声を掛けてみよう。
柏原とマスターの顔がチラつく。

「……」

いやいや、俺は長年の常連をあの店へ連れていくだけの話だ。

『串市場ん、今週土曜日で終わりじゃないですか。俺休みなんですけど、行きますか? 岩上智一郎』

インカジ『レディ』へ出勤して業務中、すぐに彼から返事が来る。

『岩上さん! お疲れ様です! 今日ですか? 若菜龍平』

自分の誘い方が悪かったのか、すぐに食いついてくる龍平。

『いえ、土曜日です。 岩上智一郎』

『了解です、行きましょう。 若菜龍平』

2023/12/07 LINE 若菜龍平

串市場んにも寄りたかったが、もし龍平がいたらと思うとやめておく。

自分の心境がいまいち把握できない。
人間性で見ると、若菜龍平は付き合ってはいけない相手。
しかし河本マンションを脱出できるよう家賃交渉してくれた経緯もある。

単に身勝手な性格なのか、それとも実は面倒見いい人間なのか。

この日も仕事を終えると、リオの店へ行き、彼女を抱いた。


二千二十三年十二月八日、金曜日大安。

九州のでったんからメッセージが届く。

このURLは何だろう?

『今になって、少しずつ開示されてるのかなぁ? 出口貴行』

あれ、この人って、ヒップアップのリーダーだった人じゃないか?
小学生の頃、『俺たちひょうきん族』で見ていたからな。

時代の流れだけでなく、またコロナワクチンが関係している?
ちょっと見てみよう。


島崎俊郎さん急死 天皇陛下執刀医が語るインフル死の怖さ…コロナワクチン影響で免疫機能に狂いも。
[ 2023年12月8日 05:05 ]

 インフルエンザに感染し約1週間後に急性心不全で亡くなった島崎さん。

 天皇陛下(現上皇さま)の執刀医で知られる順天堂大医学部特任教授の天野篤医師は「人工透析をしていたり糖尿病などの持病があって、元々心臓の機能が落ちている状態でインフルエンザに感染すれば、持病の程度によっては治療が難しいこともある」と指摘。「医療機関、本人、家族の判断で延命措置をしないケースもある」という。

 島崎さんについては「元気な状態だったのならば、急性心筋梗塞で亡くなることはあっても、急性心不全はほとんどあり得ない。元々、心臓に何らかの病気があったのではないか」と推察した。

 新型コロナ下でインフルエンザがまん延しなかった中で流行が始まっていることについて「コロナのワクチンの影響で、免疫機能に狂いが生じている人がいる。昨年、インフルエンザのワクチンを打っていない人も多い。超高齢者や持病のある人は命に関わるので、インフルエンザだけでなく、ほかの感染症にも注意が必要だ」と警戒を呼びかけた。



六十八歳…、何とも言えない気分になった。
俺が今五十二歳だから、十六歳も離れている人が、七十手前にして心不全。
しかも子供の頃テレビで大笑い見ていた人の一人。

心筋梗塞と心不全の違いがいまいち分からないが、同じ心臓系だもんな。
ワクチンにより本当に命を失うきっかけになったのか。
それが立証されたら、俺の打った翌日の心筋梗塞も関連するのでは?

この日、仕事が忙しくなり返事をできないほど。
業務終了間際になり、若菜龍平から連絡があり、飲みに誘われる。
正直疲れていたが、家賃交渉で骨を折ってもらった為、断りづらい。

串市場んを除くと、閉業間近のせいか席数は満席。
仕方なく先日柏原やマスターと行った小滝橋通りの居酒屋しょうちゃんへ行く。

酒以外何も頼まない龍平。
しょうちゃんから出てくるお通しのかまぼこに対し、「いや、自分はいりません」と言い出した。

「いやいや、若菜さん、こういうのって当たり前の席料じゃないですか」
「でも、自分は俳優業ですし、体調管理もあるんですよ」

「……」

思わず声を失う。
大して売れてもないくせに、リテラシー意識だけは一丁前かよ。
いやいや、それならそもそも居酒屋なんかに飲みに行くなって話だ。
飲み屋でお通しが出るのは当たり前の事。

外国人の店員はオロオロ困っている。

「あ、すみません。気にしないで置いといて下さい」
「だからいらないって!」
「若菜さん! いいからやめましょうよ!」

つい口調が強くなってしまう。
店の迷惑を優先的に考えたかった。
それに龍平の主張は無茶があり、それを押し通すなら何故ここへ来たのとなってしまう。

七万五千円とか言っていたけど、あとで管理費を入れるの忘れていたとか言わないよな?
あの時込み込みでとLINEにも書いてあるのだ。
それでも不安になってくる。
とりあえず聞いてみるかと龍平の様子を見たら、かまぼこをパクパク食べていた。

え、この人、体調管理でつまみを食べないようにしていたんじゃないの?

「若菜さん、俺かまぼこってあまり好きじゃないんで、よかったら食べません?」
「え、いいんですか? ゴチになります!」

「……」

またひょっとして俺がここの会計全部払うの?
でも、家賃交渉で骨を折ってくれた恩があるしなあ……。

あ、だから串市場んでもお通し出ていなかったのか!
それで毎回つまみも頼まないから、会計が異様に安かったんだ。

龍平から言い出した家賃交渉。
本当に大丈夫なのか?

「家賃、本当に管理費込みで七万五千円でいいんですよね?」

不安になり聞いてみる。

「ええ、そう言ったじゃないですか。うちの不動産をそう説得したんですよ。岩上さんにそれだけ入ってもらいたかったので」
「お手数お掛けして本当にすみませんでした。ありがとうございます」

昨日の時点で、不動産へ物件探しを断ってしまっているのだ。
もう龍平マンションを借りるしか道は残っていない。

そういえばエレベーターからすぐ出た三部屋の家賃…、あれは一万千九百円に管理一万と言っていたが、一応聞いてみるか。

「あ、あっちの三部屋は十一万九千円と一万ですよ。そっちのほうは交渉していないので、借りるならその金額になりますよ」

「…ですよね……」

またLINEに書いた金額と今で全然違うじゃんかよ……。

「また昨日もゴミ外人のゴミケバブ屋がうるさくて、行政権を動かしたんですよ」
「え、行政権? 何をしたんです?」

「警察ですよ。あいつらがちゃんと治安を見ないから、こういう風になったんです。だから通報して仕事をさせないと駄目ですからね」

「はあ……」

つまり、また百十番通報したのかよ……。

本当にこの人、人間性大丈夫なのか?
俺も似た位置に住んでいるけど、あそこのケバブ屋がうるさいなんて思った事一度もないぞ?

先日も中華苑のおばさんが泣きそうになりながら、帰りの電車が無くなると訴えているのに「それはあなたの都合でしょ?」と一蹴する性格。
河本マンションをすぐ出たいから、我慢して一緒にいるけど、ひょっとして俺は最大の愚行を選んでいるのではないか?

「岩上さんのマンションの河本。あいつら民泊を黙ってしているから、前に捕まっていますからね」
「え、あの台湾人大家ですか?」

「そうですよ! あいつら不当に民泊をして、捕まっているから犯罪者なんですよ」
「ひょっとして…、だからそういう民泊者を今も泊めて、それらの光熱費を俺に押し付けているんじゃないんですかね?」

「充分クソ台湾人のあのバ河本ならあり得る話ですね。ゴミ政治家がああいうのをちゃんとしないから、ゴミ外人やゴミケバブ屋のような連中がウジャウジャと増殖するんですよ」

また始まった。
ゴミを頭につけるオンパレード。
仕事明けで疲れているのになあ……。

時計を見ると十一時半を過ぎていたので、そろそろ帰ろうと促す。
会計の際、一万円札を出すと、即座に「ゴチになります」と頭を下げる龍平。

まあ家賃交渉の件があるからいいんだけどさと、すべての会計を払う。

帰り道もすっかり同じ方向だが、もう一軒誘われ明日も仕事があると丁重に断った。
そういえば俺の『新宿クレシェンド』を貸してそこそこ日数経つけど、まだ読み終わらないのかな?

「若菜さん、俺の本ってまだ読んでいるんですか?」
「あ、あれ面白いですよね! まだ読み途中でして」

「そうですか…、では今日はお疲れ様でした」
「あ、岩上さん」

「はい、何でしょう?」
「この間、うちのマンションのその隅に、ゴミ外人連中いやがったんですよ」

「いや、若菜さん…、俺、明日も仕事あるんでいいでしょうか」
「あ、長くなってしまってすみませんでした」

逃げるようにして自分の部屋へ帰ると、ちょうど十二時になろうとしていた。
考えてみたら、明日は串市場ん最終日なので休みにしていたっけ。
馬鹿な龍平は、俺がそれを誘ったのに気付いていないようだ。

まあ自称俳優だから何でもいいか……。


二千二十三年十二月九日、土曜日赤口。

そういえばでったんに返事をしていなかったよな。
慌てて返信を打つ。

『どうなんだろね。いずれにしても、今の日本はあまり国民のことは考えてない気がするよ。 岩上智一郎』

これは自分の心筋梗塞の対応を踏まえた正直な感想だった。
いくら医者が因果関係は無いと言っても、何故五十二年間生きてきて、ワクチン打った翌日に心筋梗塞を二度もなるんだと。
俺が病弱なら分かるけど健康そのものなのに、ピンポイントでそんな偶然が起きるものか?

睡眠を取ってからフェイスブックをチェックする。
過去の思い出で、懐かしい写真が表示されていた。

ずっと可愛がって飼った十姉妹のマゲ、ベニ、マゲマロ、バック、プチ、ジャッカル、マロ、ムームー。
そして錦花鳥のベニにナミダ、モゲ。

もうあの時から七年前になるのか。

2016/12/09 横浜市南区 可愛がったペット

この頃って結構幸せだったかも。
毎日小鳥の鳴き声に囲まれながら、それぞれのつがいから十一匹まで増やせたあの頃。

2016/12/09 横浜市南区 可愛がったペット

卵なんて一センチあるかどうかの小ささで、北斗の拳の山のフドウが子犬を手に乗せた時を思い出したものだ。

北斗の拳 南斗五車星 山のフドウと幼き頃のユリア

二部屋あれば、また小鳥を飼いだしてもいい。
そしてリオも、可愛いと喜んでくれるのではないか。

昼飯でも食べに行ってくるか。
大久保の街並みを適当に歩き、餃子酒場へ行って一人で飲む。

今日が最終日になる串市場んの前を通り掛かる。
あれ、もう営業しているのか?
自称俳優も誘ったけど、あいつは勝手に一人で来るだろう。

近付くと、ドアに貼り紙が貼ってある。

『十八年間 ありがとうございました。閉店大宴会につき 貸切になっております。 申し訳ございません』

「……」

2023/12/09 大久保駅北口 串市場ん最終日

身内だけの最終営業。
そこへ声を掛けられなかった俺は、とうとう最後まで俺は常連客になれなかったんだな……。

せっかくこの日の為に休みまで取ったけど仕方ない。

孤独感を覚えながら、焼肉屋の『韓感』に寄る事にした。

2023/12/09 大久保駅北口 韓感

自称俳優から連絡が入る。
あ、そういえば串市場んへ一緒に行く約束していたっけ。
近くで焼肉を食べていると答える。

まだ部屋を借りた訳ではないので、龍平も誘ってみるか。
一人でこうしているのが嫌だった。

『若菜さんも来ますか? 岩上智一郎』

『これからすか? 大将とこは通常十七時からでしたが、今日はやってないんすかね? 若菜龍平』

『貼紙出てましたよ。俺はもう韓感で肉食べてます。 岩上智一郎』

『まだ居ます? 十分位あとだと行けます。 若菜龍平』

『いますよ。 岩上智一郎』

『向かいます。 若菜龍平』

呼んでから、またあのゴミトークを聞かなきゃいけないのかと、思い切り後悔したが、あとの祭り。

十五分ぐらいして彼からLINE電話が鳴り、今から行くと言われた。

2023/12/09 LINE 若菜龍平

肉も何も食べ物を頼まず、ひたすらハイボールを飲む龍平。
ひょっとしてここの会計も、俺にすべて払わせる気満々なのか?

「若菜さん、肉食べないんですか?」
「じゃあ、そこにあるのを頂きます」

「いやいや、それなら頼みましょうよ」
「すみません、ゴチになります」

「……」

コイツ、三つ上のくせに、また奢られる気満々じゃん……。

昼過ぎから夕方まで焼肉屋で酒を飲み、二万円の飲食代をすべて支払う。
拷問に近いゴミトーク。
これで何回目になるんだ、俺がご馳走したのって?
そもそも年下の俺にここまで奢られて、一度も借りを返そうとかまるで無いのかなこの人。

早く解放されたかったが、部屋をあの条件で借りるまでの我慢。
自称俳優の事より、まず俺は河本マンションをいち早く脱出するのが何よりも先決。

韓感を出て帰ろうとすると「大将のところ行かないんですか」と声を掛けられる。

「だから今日は常連だけの営業だから、俺は呼ばれていないんですって」
「関係ないですよ。岩上さんだって常連ですって」

何故それを店の人間でもないおまえが決めるのだ。
それでも龍平と一緒なら、ひょっとしたら入れるかもしれないという淡い期待。
今日を逃がせば、もうあの店は無くなってしまうのだ。

龍平と一緒に串市場んへ向かう。
そして貼り紙など気にせずドアを開け、勝手に入っていく若菜龍平。
俺もあとに続き、深々と頭を下げる。

カウンター席に柏原の姿が見える。
龍平がトイレへ入ると、近付き耳打ちしてきた。

「岩上さん、何で龍ちゃん連れてきてしまったんですか」

「十五年もここへ通っていると言うので、可哀想だと思って強引に連れてきてしまったんですよ」
「龍ちゃん連れてきたら、あかんとあれほど言ったやないですか」

実際は俺が連れてきたというより、若菜が大将のところと勝手に行きだしたのが正解。
だが、あの図々しさにより、常連ではない俺まで中に入れたのだ。
まあ串市場ん最後の日。
変に揉めるのも嫌だったので、俺は言い訳せず素直に謝った。

店内はほぼ満席で、向かい合わせの席一つしか空いていない。
それでもどんどん入ってくる常連客。

柏原が邪魔になるからと、それまでいた客を二階の座敷席へ誘導。
それを見て、俺たちも邪魔になるからと龍平へ「そろそろ出ませんか?」と声を掛ける。

「まだ来たばかりじゃないですか」

どうしてこの人は、ここまで空気をよめないのだろう?
放って帰りたかったが、家賃交渉の恩義はある。
それにまだ部屋の契約を済ませた訳ではないのだ。

彼を利用したまま切らない。
一応の区切りをつける。
自分の中で借りを残さない。
そのような変な不文律のようなものがあり、とりあえず堪える。

龍平は相変わらずゴミ外人、ゴミ政治家、ゴミケバブ屋と、同じ事しか言わない。
どんどん混んでくる店内。
マスターのところにいる太った従業員の利美が、白い目でこちらを見ているのが分かる。
さすがに俺は居づらくなり、マスターへ勘定を頼む。

「いやあ、今日は最後の奉仕営業のつもりやったんで……」
「いえいえ、マスター。タダで飲み食いして帰る訳にもいきませんって!」

勝手に押し掛けてそうもいかない。
必死に食い下がる。
それでも具体的な金額をマスターは言わない。

俺は若菜へ帰るよう声を掛けるが、他の客に話し掛け立とうともしない。
頼むからこれ以上俺をがっかりさせないでくれ、この逆スルメ野郎。

仕方なく一万円札を若菜へ握らせ、俺一人で串市場んを出た。

何故若菜龍平を串市場ん最終日に連れてきてはいけなかったのか?
みんなが止めた理由を、俺はこの時、まだ理解していなかった。

これから酒を飲みに行く時、どこへ行けばいいんだろう。
帰り道ラブリーハートへ寄り、リオを抱き寂しさを紛らわした。

「そうですね、歳はあなたより少し若くなるのかな? 十歳ぐらいの年齢差で、それでも外見というよりも、心を尊敬するような方ですね」

三十分二万五千円の西谷泰人の手相鑑定で言われた台詞。

二十代半ばのリオ。
来年で五十三歳になる俺と、二十以上離れている。
外見はまあ気に入っていた。
心を尊敬?
うーん、セックスを重ねているだけで、正直性格までは分からないんだよなあ……。


二千二十三年十二月十日、日曜日先勝。

またいつもの日常が始まる。
失敗したのが、昨日昼間から龍平と酒を飲む時間があったなら、マンションの契約を済ませれば良かったという後悔。

そういえば昨日リオにマンションを近くで借りる話をしながら口説いていたが、どのような部屋か興味を持っていたっけ。
手相占いで聞いた女性ではないかもしれない。
それでもあと一ヶ月の間に、他の異性と知り合うきっかけなどあるのか?

内心妙な焦りがあった。
リオと一緒に暮らせば、変に淋しい気持ちも無くなる。
そんな占い通りピッタリの出来事なんて起きないだろ。
それは過去、群馬の先生の言葉でも嫌というほど身に染みている。

総武線に乗って新宿駅へ向かう途中、彼女へマンションの画像を送った。
これは十月二十七日に若菜に物件を見せられた時に撮ったもの。

2023/10/27 大久保駅北口 自称俳優マンション302号室

トイレにキッチン。

2023/10/27 大久保駅北口 自称俳優マンション302号室

何故か若菜龍平まで写真に写っているが、部屋から通路への写真。

2023/10/27 大久保駅北口 自称俳優マンション302号室

そして繋がった二つのフローリングの部屋。

2023/10/27 大久保駅北口 自称俳優マンション302号室

インカジ『レディ』へ出勤してすぐLINEを打つ。

『大久保駅から徒歩一分 今度ここ借りるよ。 岩上智一郎』

『え? すごい。広い。 リオ』

彼女の感覚はそう悪くない。

『リオ来る? 岩上智一郎』

『笑笑。 リオ』

2023/12/10 LINE リオ

リオは笑いマークの返信があるだけだった。

真面目に言っているつもりなんだけどなあ。
まあ焦らずじっくり口説けばいいか。

店内も混んできたので、俺は気持ちを入れ替え業務に集中した。




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