闇 626(逆スルメ編)
闇 626(逆スルメ編)

2026/08/01 sat
※俺は13年間のブランクのリハビリをしているだけなんじゃないかなとまで感じるようになった。そしてこのまま朽ち果てるのは悔しいから自身の人生を書き残している。
前回の章

二千二十三年十一月一日、水曜日仏滅。
十一月に入る。
今年もあと二ヶ月でおしまい。
時間が経つのは本当に早いものだ。
河本マンションの薄暗く小汚いベランダへ出てセブンスターに火をつける。
若菜龍平からのLINEを読み返した。
『岩上さん! お疲れ様です! 昨日も、そして貴重な作品ありがとうございました! 昨日の小さい?方の家賃ですが、確認したとこ八万六千円、管理費六千円でした、勘違いしてすみません。よろしければご検討下さいませ。 若菜龍平』
持っていたタバコを地面に叩きつける。
「ふざけんじゃねえよ、クソ俳優が……」
本当にあいつ何なんだよ?
そもそも六万八千円を、八万六千に間違えるか?
あいつは信用できない。
先走って駅前の不動産屋に、物件探すの断るんじゃなかったよ。
家賃の金額が違うから断ると言うのは、どうも自身の格を落とすような気がした。
ここは丁重に断りつつ、数日間を空けた詫びはしないといけない。
『若菜さんすみません、メッセージ送ったと思って、送れていませんでした。今、若菜さんに言う前に不動産へ相談してて、色々物件探してもらっていたところなんですよ。それでまだ内見やら色々落ち着かない状況なんで、落ち着いたら連絡しますね 岩上智一郎』
『岩上さん! 了解しました。良いとこ見つかるといいですね。 若菜龍平』
おまえが余計な事をしなけりゃ、もっとスムーズに行っていたんだよ、ボケナスが。
それにしても絵文字とか使ってんじゃねえよ、気持ち悪い奴だな。
『ありがとうございます。 岩上智一郎』

若菜相手に礼まで言うのは、少し違うか。
コイツが余計な事をしなければ、俺はもっと早めに引越しをできたかもしれないのだ。
出勤前の時間を利用し、再び駅前の不動産へ行く。
俺の顔を見た途端、女性事務員の表情が曇る。
当たり前だ。
先日物件探しをお願いしながらのキャンセル。
それをまたこうして再度探してほしいと舌の根の乾かぬ内、来店したのだから。
ただ今は一時の恥よりも、河本マンションからの脱出が先。
体裁など気にせずなりふり構わず。
ひたすら頭を下げて、再度物件を探してもらうようお願いした。
二千二十三年十一月二日、木曜日大安。
ワクチンを打った翌日、そしてその一週間後に起きた心筋梗塞になってから二年以上が過ぎた。
その前は十数年病院の世話にはなっていない。
それでもワクチンのせいで心筋梗塞になったという因果関係を認めないこの日本は凄いなあと思う。
二千二十三年十一月三日、金曜日赤口、文化の日。
インカジ『レディ』で業務中、名義社長の倉敷が、突然みんなにうな鐵の鰻の差し入れをしてきた。
理由を聞くと、昨夜インカジへ行って結構勝てたらしい。

そんな勝った負けたで従業員たちへ鰻なんて奢っていたら、キリがないと言いつつも、有難く頂戴する。
二千二十三年十一月四日、土曜日先勝。
不動産から連絡があり、高田馬場駅から徒歩十分くらいの位置にある物件を見に行く。
新しい引っ越し先の物件周辺も把握しておきたい。
普段降りる北側の早稲田口でなく、ちょっと辺鄙な南側にある戸山田改札方面近くで、いい感じの店を発見。
その名も『はんばーぐますお』。
店頭にあるメニューの看板を見ただけで一発で惹かれた。

店内はアメリカンスタイルでシックな感じ。

ビーフシチューが乗ったますおハンバーグが一番人気らしいので注文。

二人からだと二千円で飲み放題もあるようだ。
物件の契約が決まったら、この辺が俺の主戦場になるのかもね。
時間になるとインカジ『レディ』へ出勤し、いつものように働いた。
二千二十三年十一月五日、日曜日友引。
歌舞伎町の中華叙楽苑の下にある豚小屋の中川から、九周年開催イベントの通知が来る。
彼とはインカジ『新宿クレシェンド』崩壊後に知り合ったから、二千十四年からの付き合い。
あの時から九年も時間が経ったのかと感じる。
仕事明け、そのまま豚小屋九周年で顔を出し、いつものように酒を振る舞う。

ベーコンステーキやサラダ。

トンテキを食べながら、全従業員へ一杯ずつご馳走する為、どうしてもその分の負担は会計にのし掛かってしまう。
居酒屋で一人一万円を楽に超える金額。

ある程度貯金はできているものの、俺は九年間もこんな飲み方をしているのかと、河本マンションへ帰ると色々考えるようになった。
二千二十三年十一月六日、月曜日先負。
起きてから肉が食べたくなったので、いきなりステーキまで歩く。
大久保通りをひたすら明治通り方面へ向かえばいいだけ。

ペッパーランチとこの店の位置が逆だったら、もっと楽に行けるのにと思いながら。

レアで出された肉を切り刻み、口へ運ぶと細かい事はどうでもよくなるほどの幸福感に包まれる。
さて、今日も張り切って仕事へ行かないとね。
二千二十三年十一月七日、火曜日仏滅、立冬。
九州のでったんから、二千二十二年の統計で日本人の謎の大量死についてのリンクが送られてくる。
日本人の謎の大量死 https://t.co/JD9zLNmTcd pic.twitter.com/OuoLZj3Ty0
— 藤江成光@著書「おかしくないですか!?日本人・謎の大量死」 (@JINKOUZOUKA_jp) November 6, 2023
『これ本当かも…。 出口貴行』
記事を見ると、コメント欄に気になったものがあった。
数日前、友人が急死(突然死)。
心筋梗塞。
同じ日に職場の女性が入院。
脳梗塞。
二人とも前日まで全く元気だった。
何かおかしい。
最近、不幸が続きすぎだ。
心筋梗塞に関しては、俺もワクチンを打った翌日に一度なり、一週間後に二度目で死に掛けた過去がある。
『知らないだけで結構亡くなっているんだね。 岩上智一郎』
国も医者も因果関係を認めないけど、実際こうした結果は不都合なデータなので、見て見ぬふりをするだけなのだろう。
自分の命にそこまでの価値を感じなくなった今、何故あの時生き延びてしまったのだろうという感覚だけが残る。
何の為に俺はこうして生き、何の為に今後があるのか。
それに対する答えは、今後生きていく過程の中で自分が見つけない限り永久にそのままだと感じた。
二千二十三年十一月九日、木曜日赤口。
忘れもしない本日の命日。
斉藤弘一が亡くなってから、今日で六年も経つ。
正確には違う。
あの火葬式で彼が灰になってから丸六年。
時が流れるのは本当に早い。
でも俺はいつだって忘れずに、こうして思い返そう。
生きている人間が、死んでしまった者の意味合いを考えるしか、他に方法は何もないのだから。
とりあえず俺はまだ何とか生きているからね、斉藤さん。
二千二十三年十一月十一日、土曜日友引。
同じ職場の伊達から連絡が入る。
彼はいつも俺のシフトをチェックしているのか、休みの度に一緒に飲もうと誘ってきた。
インカジ『レディ』に入ってから一年以上経つのに、未だスタッフたちとはそう隔たりを感じているようだ。
別段予定も無かったので高田馬場で落ち合い、はんばーぐますおへ連れていく。

伊達とは俺が二度目の歌舞伎町へ復帰してからの付き合い。
つまり二千十一年からなので、もう十年以上になる。

ただ、俺の初期横浜時代やインカジ『新宿クレシェンド』の時露呈した伊達の本性は未だ覚えているし、俺も今の新宿の生活において特別つるむ人間がいないから、こうして場を設けているだけの話。
嫌な言い方をすれば、単なる暇潰しの相手に過ぎない。
一軒目で帰りたかったが、伊達は次の店も行こうと喜んでいる。
早稲田口方面へ行くと、道端にガールズバーの営業女が立って客引きをしていた。
この手の女を相手にしたところで、金を無駄に減らすだけ。
それでも伊達が行きたがっていたので、彼に店を選ばせガールズバーへ入った。
二軒目の店では一時間三千円といえど、必ず着いた女の「一杯頂いていいですか?」が始まる。
これはキャバクラでもスナックでもそう変わらないシステム。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
