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【上司説得用/保存版】 売上に効くのは認知か、想起か。エビデンスで整理する「想起が売上に近い理由」

「想起が重要なのはわかったけど、売上との相関はあるの?」「認知じゃ駄目なの?」

または、現場は「想起の重要性」について理解しており、想起順位の向上に取り組みたいが「上長が納得してくれない」という声も少なくありません。

実際、私が顧客企業から聞かれる(「最も多い」と言っても良いかもしれない)質問に、「売上と想起の相関はあるのか?」があります。

ということで、記録としてここにまとめておきます。また、ストック性のある社内回覧用記事としても使い勝手が良いように、関連するお勧め本や記事も該当箇所に張っておきます。いつかやってくる「上司への説明や承認を取る場面」に向け、ぜひブックマークをしておいてください。

さて、本題の「売上と想起に関連はあるのか」への回答ですが、結論から言えば、売上は想起だけで決まるわけではありません。しかし、既存研究を総合すると、認知関連指標のなかでも、助成想起より純粋想起、さらに第一想起やブランド・セイリエンスに近い指標のほうが、検討集合、シェア、継続利用、離反確率などの売上近接変数と強く結びつく傾向があります。そのため、認知だけをKPIにしていると、売上に近い変化を見落としやすくなる可能性があります。

バイロン・シャープ(Byron Sharp)とジェニー・ロマニウク(Jenni Romaniuk)を中心とする南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所が繰り返し示してきた通り、ブランド成長の基本は、メンタルアベイラビリティ(思い出されやすさ)とフィジカルアベイラビリティ(買いやすさ)です。

ブランドは、買う場面で頭に上がり、かつ買える状態にあって初めて成長します。想起を論じる意味は、ここにあります。なお、ロマニウクは、CEP(Category Entry Point)とメンタルアベイラビリティ測定の中心的研究者の一人です。

CEP・CEPs(カテゴリー・エントリー・ポイント)とは、消費者がブランドを思い出すきっかけのことです。マーケティングの現場では「CEP」と略されることが多いですが、戦略的には複数の入口を設計する「CEPs」という考え方が不可欠です。

※以下はぜひ手にとって読み込んでもらいたい2冊です。

なぜ今、認知より想起なのか

なぜ今「認知より想起」が大切になっているのか。その背景には、市場の成熟化と、購買前の情報探索の前倒しがあります。『売上の地図』で整理した通り、成熟市場では商品間の機能差が縮小し、コモディティ化と価格競争が進みます。

さらにGoogleのZMOT(Zero Moment of Truth)研究では、1回の購買で使われる情報源は平均5.2から10.4へ増え、84%の買い手が購買前にZMOTソース(WebサイトやレビューやSNS)を使っていました(Google / Shopper Sciences の業界調査)。つまり、店頭に行ってから考えるのではなく、「買う前に候補がほぼ決まる」時代になったのです。だからこそ、知っているだけでは足りず、必要な瞬間に思い出されることが重要となります。

ここで重要なのは、認知と想起を同じものとして扱わないことです。本稿で、実務上よく使われる「認知」は主として助成想起(aided awareness)を、「想起」は主として純粋想起(unaided awareness)を指しています。

助成想起とは、ブランド名やロゴを見せれば「知っている」と答えられる状態です。これに対して純粋想起とは、何も見ずに「ビールと言えば?」「歯磨き粉と言えば?」と聞いたとき、自力でブランド名が出てくる状態を指します。

また、想起集合と検討集合も分けておく必要があります。研究系譜によって両者の重なり方には多少の揺れがありますが、本稿では頭に上がった少数の候補群を「想起集合」、そのうち現実に比較・検討の対象として残った候補群を「検討集合」とします。第一想起は、その候補群の中で最初に頭に上がるブランドを指します。

Brisoux and Laroche のブランドカテゴライゼーション研究が示したのは、知られているブランド全体がそのまま買われるわけではなく、選択関連の小さな集合へと絞り込まれるということです。「知られている」だけでは足りず、選ばれる土俵に残らなければ意味がないのです。

Brisoux, J. E., & Laroche, M. (1980). A proposed consumer strategy of simplification for categorizing brands. In J. D. Summey & R. D. Taylor (Eds.), Evolving Marketing Thought for 1980 (pp. 112–114). Southern Marketing Association.

「認知」と売上の関係

認知と売上の相関はあるか、無いか。もちろんあります。ただし、さほど強くはありません。

ロン・ホアン(Rong Huang)とエミネ・サリギョルリュ(Emine Sarigöllü)は、ブランド認知が売上やシェアなどの市場成果と正の関連を持つことを示しました。つまり(当然ですが)認知は無意味ではなく、ブランド成長の前提条件といえます。

さらに、オヴィディウ・モイセスク(Ovidiu Moisescu)は、未知ブランドを買うことへの知覚リスクが高いことを示し、助成想起が意思決定の入口として機能していることを確認しています。認知はブランドを「知らない状態」から「最低限の候補になりうる状態」に上げる土台の指標、と整理できそうです。

ここで、認知がなぜ選択に効くのかを示した古典研究もあります。エマ・マクドナルド(Emma Macdonald)とバイロン・シャープは、認知差のあるブランド群を提示した実験で、高認知ブランドは品質差や価格差があっても圧倒的に選ばれやすく、しかも意思決定が速く、比較するブランド数も少なかったと報告しています。

つまり、「知っていること」は単なる知名度ではなく、実際の選択をショートカットする力を持つ、ということです。これは、「認知も効く」ことを示す重要な補強材料だと思います。

Huang, R., & Sarigöllü, E. (2012). How brand awareness relates to market outcome, brand equity, and the marketing mix. Journal of Business Research, 65(1), 92–99. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0148296311000361

Moisescu, O. I. (2009). The Importance of Brand Awareness in Consumers’ Buying Decision and Perceived Risk Assessment. Management & Marketing, 7(1), 103–110. https://www.researchgate.net/publication/38112299_The_Importance_of_Brand_Awareness_in_Consumers'_Buying_Decision_and_Perceived_Risk_Assessment

Macdonald, E. K., & Sharp, B. M. (2000). Brand Awareness Effects on Consumer Decision Making for a Common, Repeat Purchase Product: A Replication. Journal of Business Research, 48(1), 5–15. doi:10.1016/S0148-2963(98)00070-8. https://www.researchgate.net/publication/222298735_Brand_Awareness_Effects_on_Consumer_Decision_Making_for_a_Common_Repeat_Purchase_Product_A_Replication

「想起」と売上の関係

認知されることは、売上に効きます。しかし、売上により近いのは「想起」です。以下に重要な示唆を2つ紹介します。

▶▶▶重要な示唆1:助成想起集合サイズより純粋想起集合サイズの方が、検討集合サイズとの結びつきが強い

ここで重要なのが、Tsai and Honka の米国自動車保険市場研究です。この研究では、純粋想起集合サイズ(unaided awareness set size)と検討集合サイズ(consideration set size)の相関は0.73だったのに対し、助成想起集合サイズ(aided awareness set size)と検討集合サイズの相関は0.19でした。

この数値が示しているのは、「売上との相関」ではありません。正確には、「純粋想起集合サイズ/助成想起集合サイズ」と「検討集合サイズ」の相関の違いです。

ただし、この研究から読み取れることは明確です。少なくとも米国自動車保険カテゴリーでは、「名前を聞けば知っている」レベルの助成想起よりも、自力で思い出せる純粋想起の方が、実際の検討集合に近い構造を持っていました。言い換えれば、助成想起は候補の裾野を広くつくる一方、純粋想起はその候補を現実の比較・検討につなぎやすい、ということです。

売上は検討集合を経て生まれる以上、売上に近い中間指標としては、助成想起より純粋想起の方が有力だと解釈できます。

上段:Unaided Awareness(純粋想起 / r = 0.73)

  • 相関(バブル): バブル(サンプルの集中度)が対角線上に沿って綺麗に並んでおり、非常に強い正の相関を示しています。つまり、自発的に思い出すブランド数が多ければ多いほど、検討集合(Consideration Set)の数もほぼ同じように増える、ということです

  • 分布(ヒストグラム): 縦軸の想起数(左側)と、横軸の検討数(下側)のヒストグラムが似た形をしており、値が同期していることがわかります

下段:Aided Awareness(助成想起 / r = 0.19)

  • 相関(バブル): 相関係数は r = 0.19 と低いですが、このグラフを見るとその「質」がわかります。バブルは縦方向(思い出す数)には広く分布していますが、横方向(検討数)には低い位置(左側)に固まっています。これは、「ブランドリストを見れば知っているブランドはいっぱいあるが、実際に検討するのはそのうちの一部に過ぎない」ということを示しています

  • 分布(ヒストグラム): 縦軸の想起数(左側)は高い数値に山がありますが、横軸の検討数(下側)は低い数値に山があり、分布が乖離しています。

▶▶▶重要な示唆2:平均集合サイズでみると、純粋想起のほうが検討集合に近い

Figure 2と Figure 4をあわせて見ると、平均集合サイズでみた場合、純粋想起集合サイズに対する検討集合サイズの比は約63%、助成想起集合サイズに対する検討集合サイズの比は約25%でした。

ここで注意したいのは、これはブランド単位の「検討確率」を直接示した数値ではない、という点です。あくまで平均的な集合サイズの関係から見ると、助成想起より純粋想起のほうが検討集合に近いことを示しています。

上のグラフ(ヒストグラム)は、消費者が「いくつのブランドを知っているか」を表しています。

左側(Unaided Awareness / 純粋想起)

山が左側(4〜5ブランド付近)にあります。これは、ヒントなしで思い出せるブランド数が、誰でもその程度にとどまりやすいことを示しています。

右側(Aided Awareness / 助成想起)

山が右側(12〜14ブランド付近)へ大きく移動しています。ヒントがあれば、多くの人が10以上のブランドを「知っている」と答えることがわかります。

そして Figure 4を見ると、どちらの場合も実際に検討するブランド数は平均 3.12 程度で大きくは変わりません。

  • 純粋想起(左の山): 平均5前後の候補のうち、約3ブランドが検討集合に入る

  • 助成想起(右の山): 平均12以上の候補があっても、検討集合に入るのは約3ブランドにとどまる

つまり、助成想起は候補数を広げる一方で、純粋想起のほうが検討集合との距離が近い、ということです。

▶Figure2とFigure4のまとめ

  • 「名前を聞けば知っている」レベルの助成想起は、純粋想起に比べると検討集合との結びつきが弱い

  • 同じ「知っている」でも、助成想起より純粋想起のほうが検討集合に近い

Tsai, Y.-L., & Honka, E. (2019). Non-informational advertising informing consumers: How advertising affects consumers’ decision-making in the U.S. auto insurance industry (MSI Working Paper Series Report No. 19-128). Marketing Science Institute. https://thearf-org-unified-admin.s3.amazonaws.com/MSI/2020/06/MSI_Report_19-128-1.pdf

ちなみに、上記の考察は、コレクシア執行役員 芹澤連著『戦略ごっこ』『未顧客戦略』(日経BP)で詳しく解説されていますので、ぜひ手に取ってみてください。

想起関連指標は、シェアや離反とも結びつく

この論点をさらに補強するのが、オヴィディウ・モイセスクの別研究です。ルーマニア都市部サンプルの横断研究では、純粋想起とブランド選択シェアの間に強い指数関係が観察されました。さらに、再購入意向との正の関係も確認され、とくに耐久財では統計的に有意な関係が示されています。

もちろん、これは「売上は想起だけで決まる」という意味ではありません。価格、配荷、販促、競争状況など、売上には多くの変数が効いてきます。しかし、少なくとも純粋想起は「検討に近い」だけでなく、シェアや再購入意向のような成果変数とも結びつきやすいことが示唆されます。

さらに、ジェニー・ロマニウクとバイロン・シャープは、保険や銀行などのサブスクリプション型市場で、ブランド・セイリエンスと顧客離反確率の間に一般化可能な関係があると報告しています。ブランドが頭の前景に上がりやすいかどうかは、単に新規で選ばれる確率だけでなく、既存顧客が離れにくいかどうかにも関係しているのです。

ここまでをまとめると、既存研究はおおむね次のように読むことができます。つまり、認知は入口として重要だが、助成想起より純粋想起、さらに第一想起やブランド・セイリエンスに近い指標のほうが、検討、シェア、継続利用といった売上近接変数に、より強くつながりやすい。これが「認知より想起のほうが売上に近い」と言われる理由です。

Moisescu, O. I. (2009). The Relation Between Unaided Brand Awareness and Brand Commercial Performance: A Study Among Urban Romanian Consumers. Studia Universitatis Babeș-Bolyai Negotia, 54(1), 83–97. https://www.researchgate.net/publication/254391897_The_Relation_Between_Unaided_Brand_Awareness_and_Brand_Commercial_Performance_A_Study_Among_Urban_Romanian_Consumers

Romaniuk, J., & Sharp, B. (2003). Brand Salience and Customer Defection in Subscription Markets. Journal of Marketing Management, 19(1–2), 25–44. doi:10.1080/0267257X.2003.9728200. https://www.researchgate.net/publication/233646895_Brand_Salience_and_Customer_Defection_in_Subscription_Markets

アンケート調査から見えてきた事実

私たちトライバルメディアハウスが実施した「Evoked Set(想起集合)調査 2022」では、15カテゴリーすべてで、想起集合に入るブランド数は平均3未満でした。つまり、生活者は世の中に存在する多数のブランドを公平に比較しているのではなく、ごく少数の候補だけを頭に上げ、そのなかから選んでいるということです。

さらに当社が実施した「第一想起調査2025」でも、カテゴリー差はあるものの、最初に思い出されるブランドほど利用率・購入率が高い傾向が確認されました。これは自社調査であり、カテゴリーや設問設計によって値は変わるため、そのまま一般法則化はできません。しかし、「最初に思い出されるブランドが最も選ばれやすい」という方向感は、既存研究と整合的です。

ここで重要なのが、一般的に、助成想起は純粋想起や第一想起より短期で動きやすいことが多いが、純粋想起、想起集合、第一想起は、それより粘着性が高く、接触の蓄積と入口設計がなければ動きにくいという点です。

ローラン(Laurent)、カプフェレール(Kapferer)、ルーセル(Roussel)は、助成想起、純粋想起、第一想起という3つの認知・想起指標の関係が、近いが強く非線形であることを示しました。つまり、助成想起が上がったからといって、純粋想起や第一想起が同じ比率で一直線に伸びるわけではない、ということです。

当社の『第一想起白書2025』でも、助成想起を積み上げても純粋想起は滑らかに比例して伸びるのではなく、一定水準から立ち上がるような非線形傾向が観察されました。したがって、認知率だけを見て「広告は効いた」「売上が動かないから失敗だ」と裁くと、因果を取り違えやすいため注意が必要です。

トライバルメディアハウス「第一想起白書2025」

トライバルメディアハウス「第一想起白書2025」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000206.000004355.html

Sharp, B. (2021). Brand advertising as creative publicity. Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science, University of South Australia. https://assets.marketingscience.info/BrandAdvertising.pdf

Laurent, G., Kapferer, J.-N., & Roussel, F. (1995). The Underlying Structure of Brand Awareness Scores. Marketing Science, 14(3_supplement), G170–G179. https://doi.org/10.1287/mksc.14.3.G170

この論点は、費用対効果(ROMC:Return on Marketing Cost)と投資対効果(ROMI:Return on Marketing Investment)をどう分けるかにもつながります(費用対効果と投資対効果の違いやマーケティング上の整理法は以下の記事にかなり細かくまとめています。深堀りしたい方は参照してください)。

ROMCとROMIを意識したKPIツリーの作り方はこちらを参照してください。

認知を助成想起まで押し上げるだけなら短期でも一定程度できますが、想起を純粋想起や第一想起まで押し上げるには、どうしても中長期の投資の継続が必須となります。つまり、刈り取り施策の最適化だけでなく、「そのうち客」の頭の中に入り込み続ける投資を増やさなければ、売上の土台は細っていくのです(それが昨今のCPA上昇の主たる要因だと考察しています)。

では、マーケターはこれから何をすべきでしょうか。私は、以下の4つだと考えています。

  1. 「認知の向上」を目的化しない:認知は入口であってゴールではない

  2. 「どのカテゴリーで」「どのCEPsで」「どのブランド連想で」思い出されたいのかを決める:想起は偶然起こるものではなく、入口設計の結果である

  3. 助成想起、純粋想起、想起集合、第一想起を分けて測る:同じ「認知」でも、売上との距離は異なる。指標を混ぜると、因果が見えなくなる

  4. 想起だけでなく、売り場、配荷、検索順位、レビュー、価格条件といった買いやすさも同時に整える:売り場、配荷、検索順位、レビュー、価格条件などが弱ければ、想起は売上に変換されない

「想起が売上に効くことはわかった」「じゃあどうやって戦略を立てればいいのさ?」への具体策は以下にまとめてあります。参考になさってください。

上司の説得法

最後に、最難関である上司の説得法について整理します。

先に述べた通り、想起率の向上には時間がかかります。そのため、今期に使った時間とお金は、今期売上としてすべて回収されず、一定割合(多く)の効果は来期以降に繰り越されます。つまり、想起率向上に向けた取り組みは、来期以降の売上のために、今期の時間とお金を使う活動なのです。

そのため、上司には「認知は入口、想起は売上近接指標」と整理して見せることが必須です。会議では、認知率や再生数だけを出すのではなく、売上の多くは、助成想起→純粋想起→想起集合→第一想起→指名検索→購入の流れで起こることを段階で示してください

さらに、今期の回収指標と来期以降の勝率指標を分けてください。前者は売上、獲得単価、ROASで、後者は純粋想起率、想起集合入り率、第一想起率です。

重要なのは、短期指標で中長期投資を裁かないことです。この分け方ができると、想起への投資は「説明できないコスト」ではなく、「将来の売上を生む設計変数」になります。  

上司に説明する際の説得力補強記事

以下に想起の重要性についてまとめられた企業事例記事を貼っておきます。意思決定権者は事例があると安心しますので、良きタイミングで紹介しましょう。

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