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なぜBtoBマーケティングは「認知」だけでは勝てないのか? 「CEP・CEPsと第一想起」で読み解くRFP前に決まる勝負

BtoBマーケティングの現場では、「認知はあるはずなのに商談につながらない」「名前は知られているのに検討リストに入らない」という悩みが繰り返し起きています。

その理由は単純で、BtoBでも勝負は比較の場から始まるのではなく、案件が立ち上がった瞬間、どの会社を思い出すかで、ショートリスト(最終候補者名簿)が決まっているからです。

本稿では、BtoBにおける第一想起を、業務文脈CEPs、意思決定プロセス、RTBの観点から整理します。顧客が思い出すタイミングとは。なぜ「認知」だけでは足りないのか。なぜRFPの前に勝負がつくのか。BtoBマーケティングの実務に引きつけて考えます。

『【1時間でわかる】CEP・CEPsと第一想起の教科書』(第一想起の地図)では、売上に至る因果を「戦略→入口→想起→変換→売上」として一枚に統合し、想起を思想から運用へ変える配線図を提示しました。つまり、入口(CEPs)を決め、そこで勝てるベネフィットとRTBを揃え、想起順位を上げ、最後に買いやすさの摩擦を取ることが有効である、ということです。

では、この配線図はBtoBマーケティングでも通用するのでしょうか。 

答えは、「基本的な枠組みはBtoBにおいてもそのまま通用する」です(いや、むしろBtoBの方がハマる可能性すらあります)。

ただし、BtoBでは使われる言葉と摩擦の現れ方が違います。

  • 入口(CEP・CEPs:カテゴリーエントリーポイント)は生活文脈ではなく業務文脈で起動する

  • 買いやすさは店頭やECではなく、比較、調達、法務、稟議、導入の摩擦として現れる

  • 指名は指名検索だけでなく、指名問い合わせ、RFP(Request For Proposal)の送付先、コンペへの指名参加依頼として可視化される

にもかかわらず、多くのBtoB企業、とりわけBtoBマーケティングの実務に携わる担当者は、「BtoBは合理的だから、ブランディングより機能と価格だ」と誤解しがちです。

確かにBtoBは購買額が大きく、意思決定プロセスも長く、失敗コストも高いため、比較検討がBtoCと比べると重い特徴があります。しかし、ここに最大の錯覚があります。BtoBが合理的なのは、あくまで購買(契約)プロセスの後半に位置する「検討段階」です。

その前に、もっと大きなふるいが働いています。そもそも候補に入らなければ、比較検討競争に参加することはできません。BtoCでもBtoBでも、検討は想起の後にしか起きません。そして、その想起集合の争いは、RFPが出る前に終わっているのです。

本稿では、BtoBにおける第一想起を、BtoCの単なる焼き直しではなく、BtoBの現実に即して整理します。結論は、「BtoBマーケティングでも勝負はショートリストで決まり、ショートリストは想起で決まり、想起は入口、すなわち業務文脈CEPsで決まる」です。

8-1. RFPの前に勝敗は決まっている

BtoBの現場を思い浮かべてみてください。

  • 新商品のプロモーションを依頼する

  • 獲得広告の運用先を見直す

  • CRMシステムを刷新する

  • Webサイトを改修する

  • SNS運用を外部委託する

こうした案件が立ち上がると、担当者は情報収集を始めます。しかし、その瞬間に「世の中の全ベンダーを調べよう」とはなりません(そんな時間も認知容量もありません)。そこで起きるのは、直感的な候補化です。

以前取引したことがある会社。どこかで名前を聞いた会社。同業が使っている会社。上司や役員が知っている会社。誰かに推薦された会社。その領域の権威に見える会社。こうした記憶と評判の断片によって、候補は最初からかなり絞り込まれます。

この段階で立ち上がっている候補群が、BtoBにおける想起集合であり、実務上のショートリストです。RFPはその後に作られます。つまり、RFPが出た時点で候補はすでに偏っているのです。

しかもこのショートリストは、担当者一人の頭の中だけで閉じて決まるわけではありません。上司、関係部門、決裁者に「通りそうかどうか」を織り込みながら、組織内で共有可能な候補として絞られていきます。

RFPは「公平な競争のスタート地点」ではなく、「すでに濃淡がついたレースの形式的手続き」であることは少なくありません。実務者なら心当たりがあるはずです。

「結局、最初から有力候補が決まっていた」「今回のコンペは、社内稟議や承認ワークフローを満たすために、比較検討の体裁を整えただけだった」ーー。

本当に勝ち筋のある会社には、正式なRFPの前に先に声がかかることだってあります。

BtoBマーケティングの現場では、「認知はあるはずなのに、なぜか商談につながらない」「名前は知られているのに、検討リストに入らない」という悩みが頻繁に起きます。その理由は、認知されていても、案件が立ち上がった瞬間に思い出されず、ショートリストに入れていないからです。

この現実を直視しない限り、BtoBマーケティングは永遠に「資料や記事を作って待つ仕事」から抜け出せません。BtoBで第一想起が重要なのは、ここに理由があります。BtoBにおける第一想起とは、BtoCのように「真っ先に買われる」ことを意味するだけではなく、業務文脈CEPsが起動した際、「最初に相談される」「最初に声がかかる」「最初に比較対象として置かれる」状態を意味します。第一想起とは、ショートリストに入る確率そのものなのです。

8-2. BtoBのCEPs

「第一想起の教科書」(第一想起の地図)で、CEPsとはカテゴリーが立ち上がる入口であると定義しました。これはBtoBでも同じです。しかしBtoBではその入口は生活者の気分ではなく、業務上の出来事や責任の発火によって起動します。

本稿では、こうしたBtoB特有の入口を「業務文脈CEPs」と呼びます。業務文脈CEPsとは、企業や組織の中で何かを見直す、導入する、比較する、稟議にかける必要が生じたときに、カテゴリーや相談先が立ち上がる業務上の入口です。言い換えれば、BtoBマーケティングにおけるCEPsとは、顧客が相談先やベンダーを思い出すタイミング、あるいはカテゴリーが立ち上がる利用シーンといえます。

典型的な業務文脈CEPsとしては、法改正やガイドライン変更、監査やセキュリティ対応、障害やインシデント、システム更改、組織変更、新規事業立ち上げ、KPI未達、採用難や人手不足などが挙げられます。重要なのは、BtoBの入口は「なんとなく欲しい」ではなく、「この問題に対処しなければならない」という責務の形で立ち上がる点です。

そのため、BtoBの第一想起戦略は、入口を勝手につくることではなく、すでに存在している業務上の入口を発見し、その入口で最初に思い出される状態をつくることです。言い換えれば、「BtoBマーケティングで勝つ」とは、商品説明を上手にすること以上に、「どんな状況で、どんな相談先として思い出されるか」を握ることといえます。

BtoBマーケティングに従事する方にとっては、CEPsという専門用語よりも、「どんな利用シーンで相談先を探し始めるのか」「どんな状況で顧客がその会社を思い出すのか」と捉えた方が実務に落とし込みやすいかもしれません。

たとえば「新商品のプロモーション支援」というカテゴリーを考えてみましょう。入口は単に「新商品を売りたい」では粗すぎます。現実の業務文脈では、もっと具体的です。

  • 発売日が迫っているのに、ローンチ計画が固まっていない

  • 競合の大型投入と時期が重なり、話題を持っていかれそうである

  • 広告、PR、販促、SNS、店頭、ECが分断され、統合設計が回っていない

  • 受け皿であるLP、導線、在庫、店頭露出が整っていない

  • 買い替えや買い足しにつながる入口が特定できていない

  • 想起への投資と獲得の費用をどう組むかで社内合意が取れない

  • 上層部への説明に必要なKGI、KPI、予算、効果測定の筋道がない

  • 過去案件の振り返りが浅く、次に何を改善すべきか分からない

こうした状況文が、実務上の業務文脈CEPsであり、この入口が立ち上がった瞬間に「どこへ相談するか」が決まります。この時点で想起集合に入っている会社は、比較検討の舞台に上がるチケットを手にする可能性が高い、ということです。

さらに重要なのは、BtoBのCEPsは案件ごとに一つではないという点です。BtoCでは、ひとつの入口がひとり、あるいはごく少人数の頭の中で立ち上がれば、そのまま購買に近づくことがほとんどです。しかしBtoBでは、同じ案件であっても、関与する立場によって入口の見え方が異なります。

たとえば、現場担当者にとっての入口は「運用が回らない」「手が足りない」「今のやり方では成果が出ない」といった日々の実務上の困りごととして立ち上がりやすい。これに対して部門長にとっての入口は「KPI未達をどう立て直すか」「来期計画をどう組むか」「失敗確率をどう下げるか」といった管理責任の文脈で立ち上がる。さらに情報システムや法務、調達にとっては、「既存環境と統合できるか」「セキュリティや個人情報の要件を満たせるか」「契約や取引条件に問題はないか」といった別の入口が作動する。経営層にとっては、「信用を傷つけないか」「大きく外さないか」「組織として説明可能か」という経営責任の入口がより強くなる。

つまりBtoBのCEPsとは、組織内のそれぞれの立場において、「何が問題として立ち上がるのか」「何に対して責任を感じるのか」という責務の発火点なのです。そのためBtoBのCEPsおよび第一想起戦略では、「どの案件で思い出されるか」だけでなく、「誰の、どの責務が発火したときに思い出されるか」まで設計しなければなりません。

加えて、ここで区別しておくべきことがあります。業務文脈CEPsは、あくまで案件や検討が立ち上がる入口です。これに対して、実際に比較、稟議、調達へ進んだ局面では、別の条件が効き始めます。たとえば、「同業実績がある」「セキュリティ資料が揃っている」「短期間で立ち上がる」「役員説明しやすい」といった条件です。前者は「案件を生む入口」であり、後者は「候補として通るための条件」です。この二つを分けて考えないと、BtoBの想起設計は粗くなってしまうため、注意が必要です。

ということで、BtoBマーケティングではCEPsを発見するだけでは足りず、誰の入口なのかを分け、その入口で思い出される理由と、組織内で通してよい理由を別々に揃える必要があります。ここまでできて初めて、想起は単なる知名ではなく、「組織の中で前に進む想起」になるのです。

8-3. 「誰の頭」で勝つのか

BtoBの難しさは、CEPsがひとつの案件に対してひとつだけ立ち上がるのではなく、複数の関係者の頭の中で、異なる責務として別々に立ち上がることにあります。

つまりBtoBマーケティングでは、意思決定プロセスを、単なる稟議フローではなく、「誰の頭の中で、どの順番でブランド想起が起きるか」という記憶の連鎖として捉える必要があります。

購買はしばしばBuying Committee、つまり複数の関係者による意思決定で行われます。現場担当、部門長、情報システム、法務、調達、経営層。それぞれが異なる責任を負い、異なるリスクを恐れ、異なる入口でカテゴリーを起動します。

BtoBの想起にはもう一つ重要な特徴があります。BtoCでは、最終的に一人、あるいはごく少人数の頭の中で想起されれば購買に近づくことが多いですが、BtoBでは、想起は一人の頭の中で完結しないことがほとんどです。担当者が思い出し、上司に候補として出し、関係部門がそれを認識し、決裁者が「その会社なら知っている」「聞いたことがある」と受け止めて初めて、候補として前に進みやすくなります。

つまりBtoBでは、「誰か一人に強く想起されること」だけでは不十分である、ということです。起案者の頭の中で「純粋想起」されていることはもちろん重要ですが、それに加えて、上司や関係部門、決裁者の頭の中でも「助成想起」が成立している必要があります。しかも、その助成想起は単なる名称認知では弱く、「あの会社はこの領域に強い」「同業実績が多い」「安心して通せる」「失敗しにくい」といった「ブランド連想やRTB」と結びついているほど、組織内での同意は得られやすくなります。

このように、BtoBの第一想起とは「会社全体での一枚岩の第一想起」のようなイメージではない、という点です。より正確には、起案者の頭の中で最初に思い出され、かつ阻止権を持つ他部門に拒否されず、最後に決裁者に「それで行こう」と言わせられる状態です。つまり、BtoBの勝ち方は「誰の頭で、どの順番で、どのように通るか」の設計なのです。

現場担当は「使いやすいか」「運用しやすいか」を起点に候補を思い出す。部門長は「成果が出るか」「KPIを説明できるか」「失敗リスクが低いか」を見る。情報システムは「セキュリティ」「既存環境との統合」「運用負荷」に反応する。法務や調達は「契約条件」「個人情報」「コンプライアンス」「取引リスク」を重視する。経営層は「信用」「ブランド毀損の危険」「大きく外さないか」を見る。

そのため、BtoBの想起設計は、単一メッセージを全員にぶつける仕事ではなく、入口を部門別に分解し、それぞれにとっての「思い出される理由」と「通してよい理由」を揃える仕事といえます。ここをやらずに、一枚の提案書で全員を同時に説得しようとすると、結局は誰にも深く刺さらない、というオチになるため、注意が必要です。

BtoBは、説得の前に候補化の設計が必要です。そしてその候補化は、入口別・人別に起きるだけではなく、組織内で順番に承認される想起として起こります。そのためBtoBの第一想起戦略とは、担当者一人の頭を取ることではなく、起案者の純粋想起を起点に、上司や関係者の助成想起まで含めて「通る候補」を設計することなのです。

8-4. 高関与の極地で何が効くか

「第一想起の教科書」で示した「第一想起の地図」は、BtoBでさらに強く成立します。言い換えれば、BtoBマーケティングにおいても、メンタルアベイラビリティ、すなわち必要な瞬間に思い出される状態が極めて重要になる、ということです。なぜなら、BtoBは高関与の極致であり、思い出されるだけでは足りず、「残るに値する理由」が厳しく問われるからです。

BtoBで想起集合に入るには、まずPOP(Point of Parity)が必要です。POPとは比較の土俵に残るための共通要件であり、たとえば一定水準のセキュリティ、法務対応、導入体制、運用サポート、信用力などがこれに当たります。ここを満たさなければ、そもそも比較の場に残れません。

そのうえでPOD(Point of Difference)が必要です。PODとは「なぜその会社から先に声をかけるのか」「なぜ比較の起点になるのか」という違いです。そしてPODは、自社が勝てるブランド連想と、それを補強できるRTBがある場所にしか置くことはできません。RTBのないところにPODは作れませんし、そのような主張は短期的に耳目を集めても、BtoBの実務では候補から落ちやすいからです。

ここでいう競争は、単なる認知の競争ではありません。BtoBマーケティングで重要なのは、知っているかどうかではなく、案件が立ち上がった瞬間にブランド想起が起きるかどうかです(例:このテーマならあの会社だ)。

ここで、BtoBにおけるRTBを整理しておきましょう。RTB(Reason to Believe)とは、そのブランド連想やPODを「信じてよい」と思わせる根拠です。BtoCでもRTBは重要ですが、BtoBではその重みがさらに増します。なぜならBtoBでは、担当者が「個人的に良い」と思うだけでは案件は前に進まず、上司、関係部門、決裁者に対して「なぜその会社でよいのか」を説明し、正当化しなければならないからです。ゆえにBtoBにおけるRTBとは、単に魅力を補強する材料ではなく、組織内で候補を通すための根拠でもあるのです。

「第一想起の教科書」(第一想起の地図)では、RTBを「性能RTB」と「信頼RTB」に分けて整理しています。性能RTBとは、「本当に成果が出るのか」「本当にその課題を解決できるのか」を支える根拠です。たとえば、導入実績、改善率、再現性のある手法、専門人材、技術、検証データ、具体的な成功事例などがこれに当たります。これに対して信頼RTBとは、「その会社に任せても大きく外さない」「組織として通してよい」と思わせる根拠です。たとえば、同業・同規模企業での導入実績、第三者評価、認証、監査対応、契約や運用の体制、上場企業との取引実績、サポート体制などがこれに当たります。

BtoBでは、この二つのRTBが別々に効きます。性能RTBは「効く理由」を支え、信頼RTBは「通せる理由」を支えます。どれほど魅力的なPODがあっても、性能RTBが弱ければ「本当に成果が出るのか」で止まり、信頼RTBが弱ければ「社内で通せない」「失敗時に説明できない」で落ちやすくなります。

とりわけ高関与のBtoBでは、後者の重みが大きくなります。ゆえにBtoBの第一想起戦略とは、単に思い出される特徴をつくることではなく、性能RTBと信頼RTBの両方によって、その想起を組織内で前に進められる状態をつくることでもあります(つまり、単に想起されるだけでなく、「通りやすい状態(ポジション)で想起される」ことが重要なのです)。

BtoBで想起集合に入る条件を整理すると、大きく三つに集約できます。

  1. フィジカルベネフィット:導入後に何が改善されるのか、何が実現できるのか

  2. RTB:なぜその主張を信じてよいのか、そしてなぜその会社を組織として通してよいのかを支える根拠。本書の整理で言えば、ここには性能RTBと信頼RTBの両方が含まれます

  3. 知覚品質:失敗しなさそうか、任せても危うくなさそうかという会社としての信頼感 

多くの企業が誤解するのは、「メッセージを美しく整えれば勝てる」という発想です。BtoBでは、言葉の美しさだけでは候補に入ることはできません。実績、体制、再現性、セキュリティ、法務対応、運用能力。これらが揃って初めて、想起集合に入る資格が生まれます。

メンタルベネフィットが不要なのではありません。しかし、その位置づけはBtoCとはだいぶ違います。BtoBのメンタルベネフィットは「気分が上がる」ではなく、「失敗しない」「説明できる」「通る」「責任が取れる」といった組織内の安心感です。

メンタルべネフィットは、候補が拮抗したときに効いてきます。どの会社も最低条件は満たしている。そのとき選ばれるのは、社内で説明しやすく、決裁者に通しやすく、担当者が自分の評価を傷つけずに済む会社です。BtoBのメンタルベネフィットとは、組織内での正当化容易性と言えるかもしれません。

8-5. レビューの代わりに何が効くか

前節で見たように、BtoBでは性能RTBと信頼RTBの両方が必要になります。では、そのRTBは、実務上どのような材料によって支えられるのでしょうか。BtoCでは、想起後の比較検討、すなわち後半ZMOTでレビューや比較サイトが大きな役割を果たします。これに対してBtoBで強く効くのは、「第三者証拠」と「同業参照」です。

Tribal Media House, Inc.

【図:B2Cにおける2段階のZMOT】
【図注:この図はB2Cの最寄り品と、買回品・専門品における4段階のMoment of Truthを整理したものです。最寄品はシステム1による直感的な購入がされますが、買回品や専門品はシステム1が想起集合を出し、その後、システム2に引き継がれて比較検討されます。B2Bは、買回品・専門品と同じルートをたどるため、ZMOTが2段階あります(思い出してもらうまでの前半ZMOTと、思い出してもらってからの後半ZMOT)

同業・同規模の導入事例、第三者評価、認証、アワード、専門機関での登壇や寄稿、既存顧客からの推薦、紹介、担当者同士の口コミ。これらがBtoBにおける後半ZMOTの主な材料になります。導入事例や改善実績は性能RTBを補強し、認証、推薦、第三者評価、同業参照は信頼RTBを補強します。

個人の感想よりも、「あの会社が入れている」「この条件で回っている」「監査を通っている」「同規模導入で問題が起きていない」といった組織単位の証拠が効くのです。

ここで重要なのは、BtoBの検索や資料請求の多くは、ゼロから候補を発見するためだけに行われるのではないという点です。実際には、すでに頭の中にある候補を正当化するために検索されることが少なくありません。だからこそ、BtoBでも前半ZMOTで名前が入っていなければ、後半ZMOTでの比較材料がいくら整っていても選ばれにくくなってしまいます。

BtoBマーケティングでは、指名検索を増やすこと自体が目的ではありません。重要なのは、案件が立ち上がった瞬間に思い出され、その結果として指名検索や直接指名問い合わせが起きる状態をつくることです。

この観点で見ると、PRや広報、オウンドメディア、ホワイトペーパー、セミナー、登壇、寄稿、書籍出版の役割も明確になります。役割は単なる露出量の確保ではありません。想起後に「この会社に頼んでよい」と言わせるための証拠資産を先回りして蓄積することです。

宣伝が前半ZMOTを強くし、こうした証拠資産の整備が後半ZMOTを強くする。とりわけBtoBでは、これらは信頼RTBの土台として機能します。そのためBtoBの情報発信は、認知のためだけでなく、「通してよい理由」を社会と組織の両方に蓄積する営みでもあります。

この両輪が揃ったとき、BtoBの想起は単なる知名ではなく、「先に相談される想起」に変わります。前半ZMOTで思い出され、後半ZMOTで正当化される。この構造を押さえずに後半だけを整えても、BtoBの候補化は起きにくいので注意しましょう。

8-6. 営業効率が劇的に変わる

BtoBで第一想起を獲得できると、営業の世界が変わります。第一想起が取れている案件では、そもそも比較先が少ない。価格交渉が減る。説明が短くて済む。稟議が通りやすい。リードタイムが短くなる。などの効果を強く、かつ大きく実感できるようになるはずです。

営業担当は「提案が刺さった」と感じるかもしれません。しかし実際には、提案以前にほぼほぼ勝負がついていることも少なくありません。相手はすでにその会社を知っており、ある程度よい会社だと感じており、社内説明に使える材料も見つけやすい。つまり、営業は不利な土俵で一から説得しているのではなく、すでに自社に有利な方角へ傾いた地形の上で商談しているのです。

この差は、営業KPIにも表れます。指名問い合わせが増える。RFPの指名率が上がる。コンペ参加時の一次通過率が上がる。値引き率が下がる。受注までの期間が短くなる。失注理由から「比較で負けた」よりも「要件が合わなかった」が増える。これは、営業担当個人の腕の問題ではありません。想起が前工程の摩擦を取り除いているのです。

そしてこの構造は、BtoBでは中長期の想起投資の重みが、BtoC以上に大きくなりやすいことも意味しています。理由は単純で、担当者一人の頭に入るだけでは足りず、上司、関係部門、決裁者と、複数人の頭の中で「知っている会社」「通してよい会社」として成立していなければ、前に進みにくいからです。BtoBでブランディング投資が効くのは、好感度を上げるためだけではありません。組織内で候補として通る確率を底上げするためです。

BtoBにおいて第一想起を取るとは、営業が戦う前の地形を変えることです。だからこそ、BtoBでも想起をKGIとして扱う意味があるのです。

8-7. BtoB第一想起の実装手順

ここまでの議論を実務の手順に落とします。BtoBの第一想起は、広告出稿量だけでは作れません。入口の設計、証拠の設計、通し方の設計が必要です。手順は次の6つに整理できます。ぜひ実務でのヒントにしてください。

  1. 業務文脈CEPsを抽出する。問い合わせ理由、営業日報、失注理由、検索語、商談メモ、顧客インタビュー、社内会話を集め、「どんなときに相談先を探し始めるのか」を言語化する

  2. 入口を「状況文」に整形する。「監査のとき」「障害のとき」「更改のとき」「新商品立ち上げのとき」「KPI未達のとき」のように、現場がそのまま口にする文に変える。入口は名詞ではなく、状況文にした方が強い

  3. Buying Committeeごとに入口を割り当てる。現場、部門長、情シス、法務、調達、経営で、何を入口として問題が立ち上がるのかを分ける。誰にとっての入口かが曖昧なままでは、想起設計がぼやける

  4. 入口別にPOP、POD、RTB、知覚品質を揃える。最低限満たすべき共通要件は何か。何を違いとして記憶させるのか。その違いを何で信じさせるのか。失敗しなさそうに見える証拠は何か。ここを入口ごとに詰める

  5. 入口別に前半ZMOTと後半ZMOTの資産を揃える。前半では思い出されるための言葉と接点をつくる。たとえば、BtoBマーケティングにおけるコンテンツ制作、広告クリエイティブ、展示会、セミナー、ホワイトペーパーは、すべて「後で思い出してもらう」ための資産として設計されるべき。後半では事例、第三者評価、比較表、稟議資料、FAQ、セキュリティ資料、導入プロセス資料など、正当化の材料を整える

  6. 測定して更新する。見るべきは、単なるリード数だけではない。指名検索、直接指名問い合わせ、RFI・RFPの指名率、一次通過率、商談化率、値引き率、稟議通過率、失注理由の質である。BtoBにおける第一想起は、受注率だけでなく「受注に至る前の摩擦が減っているか」で見るべき

 この6つが回り始めると、「何を売るか」ではなく、「どの入口で最初に思い出されるか」が共通言語になるため、マーケと営業の会話が揃っていくはずです。これが、BtoB第一想起の実装です。

8-8. まとめ

本稿の要点は3つでした。

第一に、BtoBでも勝負はRFPの前にかなり決まっているということ。案件が立ち上がったとき、企業は世の中のすべての候補をゼロから比較するわけではありません。実際には、すでに記憶の中にある会社からショートリストが立ち上がります。つまりBtoBマーケティングでも、検討は想起の後にしか起きない、ということです。

第二に、BtoBの入口は生活文脈ではなく、業務文脈CEPsであるということです。しかもBtoBでは、同じ案件でも現場担当者、部門長、情シス、法務、経営層で入口が異なります。ゆえにBtoBの第一想起戦略とは、「どの案件で思い出されるか」だけでなく、「誰の、どの責務が発火したときに思い出されるか」を設計する仕事でもあります。

第三に、BtoBでは「思い出される理由」だけでなく、「その候補を信じてよい理由」と「組織として通してよい理由」まで揃って初めて前に進むということです。POPは比較の土俵に残るための共通要件であり、PODは先に声をかける理由です。そしてそれを支えるのがRTBです。BtoBでは、性能RTBが「効く理由」を支え、信頼RTBが「通せる理由」を支えます。さらに後半では、導入事例、第三者評価、認証、推薦といった証拠が、その候補を正当化します。

要するに、BtoBが合理的なのは検討の後半です。その前に「候補化」という巨大なふるいがあり、そこに入れなければ合理性の舞台にすら立てません。しかもBtoBでは、その候補化は一人の頭の中で完結しません。起案者の純粋想起を起点に、上司や関係部門、決裁者の助成想起と同意形成まで含めて、「通る候補」として成立して初めて前に進みます。BtoBにおいて第一想起を取るとは、営業が戦う前の地形を変えることなのです。

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