認知科学から見た「CEP・CEPsと第一想起」攻略法
ひとつ前のnoteで「CEP・CEPs(カテゴリーエントリーポイント)と第一想起」についてまとめました。
長くなっちゃうので前記事では割愛しましたが、CEPsと第一想起戦略を設計する際、とても大事なのは「人は(とにかく、びっくりするほど何も考えず)直感で生きている」という大前提に立脚することだと思います。
ここを理解すると、多くのマーケティングがいかに無理なことにチャレンジしていることがわかるはずです。
「広告で◯◯を訴求すれば気になってくれる(興味を持ってくれる)はずだ」「自社商品の良さをわかってくれるはずだ」「サイトに来ていろいろ調べてくれるはずだ」「買うときにしっかり比較検討してくれるはずだ」。
「はずだ」「はずだ」「はずだ」…。
マーケターは消費者に過大な期待をしてしまいがちです。でも残念ながら、消費者はそんなことはしてくれません。なぜなら、人間は毎日のほとんどの時間をシステム1で生きているからです。
速い思考が選択肢を用意し、遅い思考が正当化する
人は合理的に見える選択をしますが、その合理性はしばしば後付けです。意思決定研究では、人間の思考は「速い思考」と「遅い思考」の2つに分けて捉えられています。
行動経済学・プロスペクト理論・ヒューリスティクス研究により2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、著書『ファスト&スロー』において、人間の意思決定や判断には2つの思考システム、つまり直感的・自動的・無意識的な思考の特徴を持つシステム1(ファスト思考)と、論理的・意識的・努力的な思考の特徴を持つシステム2(スロー思考)が存在し、人間の行動の大半がシステム1によって自動的に行われるため、合理的な判断よりも直感や感情に強く影響されると指摘しています。

※ちなみに『ファスト&スロー』はめちゃくちゃ良著なので、全マーケターはいますぐ正座して読むべきです
具体例で考えてみましょう。例えば、あなたが1週間ぶりにスーパーで買い物をするとき、どのくらいの時間をかけて何個の商品を購入していますか?
私の場合、野菜を3〜4種、豆腐、納豆、漬物などの日配品を5〜6個、魚介や肉類4〜5種、即席麺や即席スープなどの加工食品を4〜5個、しょうゆなどの調味料を2〜3個、お惣菜を2〜3個といった具合に商品をカゴへ放り込んでいきます。
それなりに広い店内を移動しながら(しかも7歳の息子の暴走を食い止めながら!)、およそ20〜30個の商品を20〜30分程度で購入します。お目当ての商品の棚の前にいる時間は、きっと3〜10秒くらいでしょう。その数秒もどの商品を買おうか考える時間ではなく、棚からいつもの商品を探す時間です。これが、システム1(速い思考)が主導する、努力最小化の買い物です。
一方、およそ7年ぶりに調子が悪くなったドライヤーを買い替えようと、家電量販店に行った場合はどうでしょう。ドライヤー売り場に着き、3秒や1分で購入する商品を決定できる人はほとんどいないと思います。
多くの人は、複数の商品を手に取り、手に馴染むかどうか、パワーはどうか、その他特徴的な機能を比較し、価格などを見て、検討する商品の選択肢を絞り込みます。
次に、今度は売り場から少し離れたところでスマホを取り出し、Amazonなどでレビューを吟味し、最後にまた売り場に戻って、比較している商品を交互に眺めながら、腕を組み、数十秒から数分間、様々な思考を巡らせる。これがシステム2(遅い思考)での買い物です。
ちなみに、システム2で購入される商品も、システム1の影響を大きく受けています。正確に言えば、システム1→システム2のリレーによって購入されています。
買い物の失敗によるリスクが大きい買回り品や専門品を購入する場合でも、5個や10個の選択肢すべての情報を集め、比較・検討する人はほとんどいないでしょう。
私たち生活者は毎日本当に忙しい。これから数年間使用する、数万円のドライヤーを買うのだとしても、そこに割ける思考量には限度があります。そのため、ほとんどの人は、2〜3個の選択肢の中から購入する商品を決定していることがほとんどです。
そしてその選択肢は、多くの場合、システム1が選んだ想起集合、つまり、ニーズが顕在化した瞬間、頭の中で純粋想起される好意的な選択肢の集合体の中から、システム2が最後に購入する商品を決定しています。
つまり、ドライヤーを買おうと家電量販店に足を踏み入れた時点で、すでにどのメーカーのドライヤーを見ようか、候補は決まっているのです。これが【予選】を上位3位でゴールすべき理由です。予選を3位で通過していないと、店頭に並んでいても手にとってもらえる可能性は低くなる。【本戦】のスタートラインは、家電量販店に入店した瞬間であり、ドライヤーの本戦は、システム2が戦いの主戦場となります。
このように、システム1が直感的に選択肢を提示し、システム2が論理的に検討・選択する。システム2は、システム1では答えを出せないような問題が発生したときに発動されます。
結局のところ、購買は多くの場合、次のリレーで起きています。
システム1(速い思考)が、想起集合(候補)を提示する
システム2(遅い思考)が、その中から選び、理由をつける
この順序を逆に捉えると、施策設計は必ず迷子になります。説得すれば売れる、ではありません。候補に入らなければ説得の機会すら与えられないのです。
「考えない」ことは怠惰ではなく、生存戦略である
人間の知的エネルギーは有限なので、何かに使えば、何かには使えなくなります。人間の注意力や思考量は電力に似ています。朝起きてから夜寝るまで、仕事、家事、育児、人間関係、移動とやることはたくさんあり、その都度大小さまざまな意思決定をするために電力を消費します。
重要な判断に電力を残すため、日常の多くは節電モードで処理されます。電力の消費量は、あなたが何をするか、つまり今日の服はどれにするか、満員電車のどの位置に身体を滑り込ませるか、ランチは何を食べるか、ホットコーヒーにするかアイスコーヒーにするかなどによって左右されます。
このくらいの電力消費量(システム2の利用量)なら良いのですが、問題は電力需要が大きくなりすぎるとブレーカーが落ち、その回路に接続されている電気製品が一斉に使えなくなってしまうことです。
システム2は、最も大事な活動を停電から保護し、大事な活動に必要な電力(注意力)を確保します。その上で、残った予備電力をその時々の別のタスクに振り分けるような仕組みが取られます。この精巧な仕組みは、人間が長い進化の過程の中でエネルギーを温存し、生存確率を高めるために必要だったのでしょう。
そしてこの電力供給の最適化スキームは、現代を生きる生活者の買い物にも大きく影響を与えています。それが努力最小化の法則です。努力最小化の法則とは、ある目標を達成するために複数の選択肢がある場合、人間は最も少ない努力で済む方法を選択するという原理です。
いつもの(それなりに満足している)生活のために、不足している商品を補充しに行くスーパーマーケットでの(システム1による)買い物は、まさに努力最小化の法則が見事に現れています。
買い物は、節電モードが最も強く働く領域の一つです。棚の前で3秒、レストランのメニューを見て数秒。ここで絶対的な最適解を提示している人は多くありません。だから、マーケティングの勝ち筋は「もっと考えさせること」ではなく、「考えなくても選ばれること」にあります。第一想起とは、そのためのポジションなのです。
では、なぜ人は、これほど入口と思い出しやすさに支配されるのか。なぜ、比較検討が発生する前に、勝負が決まってしまうのか。そのヒントは、私たちの脳の設計思想(認知科学の領域)にあります。
システム1はスイッチをオフにできない
私たち人間が、毎日を最小の電力(知的エネルギーの消費量)で不都合なく生活できるのは、システム1のおかげです。繰り返しの多い日常生活において、システム1が作り上げたモデルは概ね正確で、目先の予測や意思決定はだいたい正しいことがほとんどです。少し難しい事象や問題が降りかかってきても、最初の反応は機敏で、たいていは適切です。
ただしシステム1には欠陥もあります。第一に、バイアスがあることです。第二に、システム1はスイッチをオフにできません。つまり、私たちは合理的に考えようと思っていても、最初の候補提示や初期評価は、ほぼ自動的にシステム1が行ってしまう、ということです。想起集合や第一想起とは、まさにこの自動処理が生む現象です。

ヒューリスティクスとバイアスとは何か
ヒューリスティクス(発見的推論)とは、経験や直感に基づいて、正解に近い解を効率的に見つけ出す発見的手法(思考のショートカット)です。常に正解とは限りませんが、日常生活の意思決定においてはだいたい合っていることがほとんどです。
バイアスとは、人間が犯す思考や意思決定のエラーの中でも、特定の状況で繰り返し起こる「系統的エラー」を指します。系統的に起こるため、どんなときに、どんなエラーが起こるのか、ある程度予測が可能です。ヒューリスティクスが認識上の誤りを生み、それがバイアスにつながる、という流れです。

CEPsと第一想起戦略を設計する際は、CEPsの文脈に沿って、自社商品がブランド想起されるよう、自社商品のブランド連想+RTBと一本線でつながっている必要があります。
でもここで注意が必要です!
多くの企業は「なるほど!ブランド想起されるためにはCEPsとブランド連想を直結させる必要があるんだな(そこをRTBで補強してと、、フムフム、、、)」「うちのPODを整理して、全てを網羅的に伝えよう」などと情報量を多くしてしまいがちです。あれもこれもと、どんどん足し算をしてしまうのです。
しかしここまで考察した通り、人は(特にニーズ潜在期にいる「そのうち客」はなおさら)あらゆることに無関心で、毎日、ハードな認知限界の中で生活しています。
世の中に数千、数万の商品がある中で、「あなたの商品」にだけ興味を持ち、じっくり向き合ってくれる時間なんて0.1秒も無いと思った方が無難です。
あなたがマーケティングをする相手は、毎日の大部分をシステム1で生きています。そして、そこにヒューリスティクスとバイアスが重なった、思考のショートカットまみれの中で生きている。
CEPsを探索し、特定する。カテゴリー想起、購入CEPs、オケージョン条件、ニーズ条件を加味しながら、CEPs文脈ごとに商品がブランド想起され(想起集合/第一想起)、購入に至る。この思考プロセスで商品は買われます。
しかし、これは(商品カテゴリーによりますが)各工程がほんの数秒、長くても数分で起こっていることなのです。
だから、最も大事なのは(特に資源に限りがある市場2位以下のチャレンジャーやフォロワーポジションの企業は)勝てるCEPsを特定すること、そして、徹底的に自社のPODを結晶化させ、伝えるべき相手とメッセージを絞り、一貫性と継続性を担保すること、そしてそれを生活者の認知限界を踏まえ、できる限り簡潔に伝達・記憶してもらう「引き算」の設計なのだと思います。
システム1とシステム2の起源
人間には、なぜシステム1やシステム2と言われる思考回路があるのでしょうか。それは進化の過程のいつ頃から形成されたものなのか。人類だけのものなのか(最近、このあたりが気になって、いろいろと掘ってみました)。
これらを理解すると、現代消費者における認知プロセスとそれらへの対応法の本質が見えてきます。そのためには、人類の進化史をざっくりと振り返る必要があるので、最後にもう少しお付き合いください。
まず押さえておきたいのは、システム1に相当する「速く、自動的に働く判断回路」は、人類固有のものではないという点です。危険な影の動きを見て瞬時に逃げる、群れから離れないようについて行く、といった行動は多くの動物に見られます。限られた時間とエネルギーの中で生き残るために、細かく考える前に、おおよそ正しい反応を素早く返すという仕組みは、数千万年というスケールで進化してきた古いシステムだと言えるでしょう。
一方で、人類を人類たらしめているのは、言語や抽象思考、長期的な計画や社会規範を扱う能力です。祖先のホモ・サピエンスがアフリカに現れたのはおよそ20万年前とされますが、洞窟壁画や装飾品、儀礼の痕跡など現代的な行動が一気に増えるのは、おおむね7万から4万年前の期間だと考えられています。
しばしば認知革命と呼ばれるこの時期に、人類は今ここにあるものだけでなく、まだ起きていない未来や実際には存在しない物語についても集団で共有し、それに基づいて協力する能力を獲得しました。国家や宗教、貨幣、ブランドといったフィクション(社会的構築物)を信じ合うことで、大規模な協働が可能になったのです。この抽象・言語・物語の処理装置こそが、カーネマンの言うシステム2に相当します。
ここで重要なのは、システム1とシステム2が、まったく別々に存在するのではなく、古い動物としての脳の上に、比較的新しい人間らしい機能が重ね張りされているという構造であることです。
生存に直結する瞬間的な判断は、いまでもシステム1が主導しています。道で何かが飛び出してきたとき、私たちはまず身体をよけ、それからさっきのは何だったのかを言語化します。
マーケティング文脈でも同様に、店頭で棚の前に立った瞬間に働いているのはシステム1であり、その後に商品説明を読んだり、口コミを検索したりする段階でシステム2が動員されます。
では、システム2はいつ頃現在の人間レベルに達したのか。脳の大きさや構造に関しては、少なくとも数十万年前のホモ・サピエンスの段階で、ほぼ現代人と同程度になっていたと考えられています。つまり、私たちがいま使っている思考回路のハードウェアは、旧石器時代からほとんど変わっていないのです。
一方で、私たちを取り巻く環境はどうでしょう。狩猟採集社会の人々が接していたブランドの数はほぼゼロであり、情報源は目の前の自然と、ごく限られた他者からの直接経験だけでした。
それに対して現代の都市生活者は、一日数千とも言われる商業メッセージに晒され、スーパーの棚ひとつとっても数十から数千の選択肢に囲まれています。「石器時代仕様ハードウェア(脳)」で、大量の商品・サービスと広告とSNS投稿に満ちた(情報大洪水の)社会を生きているのが、現代の消費者なのです。
このギャップこそが、ヒューリスティクスとバイアスの問題をマーケティングにおいて無視できない理由です。本来、システム1は情報が少ない、環境が単純、フィードバックが早い世界に最適化されています。
ところが現代の市場は、情報が過剰、環境が複雑、結果が見えるまで時間がかかるという、進化が想定していなかった条件で満ちています。
そのため、代表性ヒューリスティックや利用可能性ヒューリスティックといった思考のショートカットは、かつては生存にとって合理的な戦略だったにもかかわらず、現代ではしばしば系統的な誤り(バイアス)を生むことになります。
代表性ヒューリスティック
人は対象がそのカテゴリーの典型像にどれだけ似ているかで、確率や妥当性を判断してしまう傾向
利用可能性ヒューリスティック
意思決定の際、直感的に思い浮かぶ情報や印象に残っている情報で判断してしまう傾向(CEPsの「深さ」そのもの)
ではマーケターはこの構造をどう活かすべきなのでしょうか。第一に、消費者が常にシステム2で合理的に比較検討しているという前提を手放し、「ほとんどの選択はシステム1が用意した想起集合の中で決まる」という現実から出発することです。
ブランドはまず、CEPsに結びついたイメージや連想を通じて、システム1にとって扱いやすい「らしさ」をつくり、プライミングと単純接触効果によって記憶の中に居場所を確保しなければなりません。
第二に、システム2が動員される局面(高関与な買回り品や専門品の検討)においても、その判断材料の多くがシステム1によって選別されていることを理解することです。レビューを読むときも、人はすでに好意を持っているブランドのポジティブ情報を優先的に拾い(感情ヒューリスティックと確証バイアス)、現在の自己像と矛盾しないように過去の選択を語り直す(整合性バイアス)。システム2はしばしば、システム1の結論を理屈で正当化する係にとどまるのです。
感情ヒューリスティック
人は好きか嫌いか、安心か不安かといった即時的な感情を、その対象のリスクや価値の総合評価として使ってしまう傾向
確証バイアス
一度このブランドは良いと感じると、好意的な情報ばかりを集め、反する情報を過小評価してしまう傾向
整合性バイアス
自分を一貫した存在だと感じたいがゆえに、過去の記憶や態度を後から都合よく書き換えてしまう傾向
このように見てくると、マーケターがすべきことは消費者にもっと考えさせることではなく、考えなくても自然にそのブランドを選んでしまう状況を設計することだと言えます。
具体的には、第一想起を獲得できるだけの接触頻度と一貫したブランド連想、文脈に合ったプライミング、自己関連性の高いメッセージングなどを通じて、システム1のレベルで有利な立ち位置を築くことが重要になります。
そのうえで、システム2が関与する場面には、わかりやすい比較軸や信頼できる証拠(RTB)、納得感のあるストーリーを用意し、すでに形成された好意や想起を後押しする役割を担わせるべきでしょう。
まとめるとこうなります。

売上を規定するCEPsの幅と深さは、心理学における「らしさ」(代表性)と思い出しやすさ(利用可能性)の同時作用なのです。
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