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採用も勝負は「応募前」に決まっている。「キャリア文脈CEP・CEPsと第一想起」で読み解く採用ブランディングの新常識

採用は、求人票を出してから始まる仕事ではありません。候補者が就職や転職を考えた瞬間、その頭の中ではすでに応募先ショートリストが立ち上がっています。そのため、採用を「条件勝負」や「母集団形成」の問題だけで捉えると、本質を見落としてしまいます。「なぜあの会社にはスカウト返信が来るのか?」「なぜ同じような条件でも、内定承諾率に差がつくのか?」。答えは、募集開始後ではなく、その前にあります。

本稿では、採用ブランディングと採用マーケティングの観点から、第一想起、キャリア文脈CEPs、想起集合、周辺承認(助成想起)、採用のPOP / POD / RTBまでを一本線で整理し、採用担当者、人事、HR、採用広報が何をどのように設計すべきかをまとめます。

※本稿は『【1時間でわかる】CEP・CEPsと第一想起の教科書』(第一想起の地図)の採用篇です。基本的な枠組みはすべて「第一想起の地図」に準拠していますので、時間があるときに読んでもらえると理解が深まると思います

改めて、なぜ採用でも第一想起が重要なのでしょうか。

それは、候補者が限られた認知容量の中で、無意識に応募先ショートリストをつくっているからです。

この構造を前提にすると、採用ブランディングは単なる印象づくりではなくなり、採用マーケティングも露出量を増やすだけの作業ではなくなります。

どのタイミングで、どの文脈で、どのような会社として思い出されるのか。その想起を、後半の比較検討や周囲の承認に耐えられるものにできるか。そこまで含めて初めて、応募率、スカウト返信率、内定承諾率は変わり始めます。

本稿に登場する言葉の定義を先に並べると、次のようになります。

・キャリア文脈CEPs(CEP・CEPs:カテゴリーエントリーポイント)
 候補者が就職・転職・進路変更を考え始める入口

・想起集合
 応募先として頭に浮かぶ数社の候補群

・周辺承認(助成想起)
 親、配偶者、先輩、エージェントなど周囲の理解や推薦

・採用のPOP / POD / RTB
 候補に残る最低条件、選ばれる違い、その違いを信じさせる根拠

この4つを押さえると、採用の景色がかなり変わって見えてくるはずです。

なぜ採用は「応募前」に決まるのか──母集団形成の限界と応募先ショートリスト

採用の現場を思い浮かべてみてください。

学生が就職活動を始める。社会人が転職を考え始める。インターン先を探す。エージェントから求人を紹介される。カジュアル面談を受ける。このとき候補者は、世の中に存在する数百万社すべての企業をゼロから調べようとはしません。そんな時間も認知容量もないからです。

そこで起きるのは、直感の候補化です。企業名を知っている。友人や先輩が働いている。親が知っていて安心できる。転職エージェントが勧めてくる。SNSや記事で見かけたことがある。その業界で有名である。何となく自分に合いそうである。こうした記憶や評判の断片によって、候補は最初からかなり絞り込まれます。

この段階で立ち上がっている候補群が、採用における想起集合であり、実務上の応募先ショートリストです。求人票はその後に読まれます。説明会やカジュアル面談はその後に行われます。面接もその後です。つまり、応募が始まった時点で候補はすでにかなり絞り込まれています。

採用担当者であれば心当たりがあるはずです。ある企業には自然に応募が集まる。ある企業はスカウト返信率が高い。ある企業は説明会前から志望度が高い。逆に、ある企業は条件が極端に悪いわけではないのに、そもそも候補に入らない。母集団形成に悩む企業の多くは、露出量だけでなく、この「応募前の候補化」を十分に設計できていないのです。

だから採用において第一想起が重要になります。第一想起とは、採用では「最初に候補に入る状態」であり、「応募先ショートリストに入る確率」そのものだからです。

転職・就職のトリガーを引く「キャリア文脈CEPs」とは何か

では、その想起は何によって起きるのでしょうか。ここで重要になるのが、キャリア文脈CEPsです。

CEP・CEPs(カテゴリーエントリーポイント)とは、カテゴリーが立ち上がる入口のことです。採用においては、就職するのか、進学するのか、転職するのか、今の会社に残るのかを考え始める契機がこれに当たります。本稿ではそれを、採用固有の入口として「キャリア文脈CEPs」と呼びます。

重要なのは、候補者がいきなり企業名を思い浮かべるわけではないという点です。

まず起きるのはカテゴリー想起です。新卒であれば、「就職するか、進学するか」「大企業か、ベンチャーか」「メーカーか、ITか、金融か、コンサルか」といった進路や企業カテゴリーのトーナメントが起きます(詳しくは以下の「カテゴリー間トーナメント」を参照してください)。

中途であれば、「残るか、転職するか」「同業か異業種か」「専門性深化かマネジメントか」「安定を取るか、裁量を取るか」といったキャリア上のトーナメントが起きます。その後で初めて、「この条件なら、あの会社」というブランド想起が起きるのです。

■ 新卒採用のキャリア文脈CEPs

新卒の特徴は、応募者がまだ職業経験を持たず、将来の見通しも粗いまま意思決定している点にあります。したがって、入口として立ち上がるものも、中途より抽象度が高くなります。

卒業が近い。インターンの時期が来た。周囲が動き始めた。専攻や研究テーマと進路を接続したい。初めての就職で失敗したくない。こうした出来事が、新卒における主要なキャリア文脈CEPsです。ここで立ち上がる不安や期待は、「どんな仕事がしたいか」より先に、「成長できそうか」「ちゃんとしていそうか」「親や周囲に説明しやすいか」といった形を取りやすくなります。

そのため新卒では、知名度、世の中での評判、先輩の進路、親の理解可能性といったシステム1的な近道が強く効きます。採用広報が果たす役割は、この入口において「何となく安心できる会社」「ちゃんとしていそうな会社」として先に頭に入ることなのです。

■ 中途採用のキャリア文脈CEPs

これに対して中途採用の特徴は、入口が新卒より具体的で、しかも切迫していることにあります。成長実感が薄れた。評価に納得できない。上司や組織が変わった。会社の将来に不安がある。働き方を変えたい。子育てや介護と両立しづらくなった。年収を上げたい。こうした現実の不満や制約が、中途の主要なキャリア文脈CEPsです。

新卒との違いは、入口が「将来への漠然とした期待」ではなく、「現在の不満や制約」から起動しやすいことです。だから中途では、「どんな仕事を任されるか」「どのくらい裁量があるか」「年収や働き方はどう変わるか」「何を失い、何を得るのか」といった交換条件がかなり明確になります。単なる知名度だけでは、継続的に想起され続けることは難しいのです。「この課題なら、この会社」という解決手段ベースで記憶されていることが重要になります。

■ 入口と条件は分けて考える

ここで区別しておくべきことがあります。キャリア文脈CEPsは、あくまで就職や転職を考え始める入口です。これに対して、実際に応募、面談、選考、内定承諾へ進んだ局面では、別の条件が効き始めます。仕事内容が具体的に見えるか。年収水準は納得できるか。勤務地や働き方は合うか。上司やチームは信頼できるか。入社後に後悔しにくそうか。こうした条件は、入口そのものではなく、比較や承諾を左右する条件です。

前者が進路や候補を立ち上げる入口であり、後者が応募や承諾を左右する条件です。この二つを分けて考えないと、採用ブランディングも採用マーケティングも粗くなります。単に顕在層に露出するだけでは足りません。どのキャリア文脈CEPsで自社が立ち上がるのかを定め、その入口で最初に思い出される状態をつくり、その後の比較検討で落ちない条件まで揃える必要があります。

第一想起と第一志望は同じなのか

ここで、第一想起と第一志望の関係を整理しておきます。両者は近い概念ですが、同じではありません。大切なのでもう一度言います。第一想起と第一志望は違うものです。

第一想起とは、キャリア文脈CEPsが立ち上がった瞬間に、最初に思い出される会社のことです。言い換えれば、応募先ショートリストの先頭に入る状態です。これに対して第一志望とは、比較検討や選考が進む中で、「現時点では最も行きたい」と感じている候補です。つまり、第一想起は候補化の前半にある概念であり、第一志望は比較の後半で形成される概念です。

もちろん、第一想起の会社は第一志望になりやすい傾向はあるでしょう。最初に思い出される会社は、その後の情報も好意的に読まれやすく、面談や選考でも有利に働きやすいからです。これは、本稿でここまで述べてきた「前半の想起順位が後半の比較解釈にも尾を引く」という構造と整合しています。

ですが、第一想起だった会社がそのまま第一志望になるとは限りません。仕事内容が期待と違う。条件が合わない。家族や周囲に説明しにくい。選考体験で不信感が生じる。こうした理由で、順位は入れ替わります。逆に、最初は第一想起ではなかった会社が、紹介や面談や選考体験を通じて第一志望になることもあります。ですがその場合は、最初から想起されていた会社より高いハードルを越える必要があります。

新卒では、第一志望は比較的揺れやすい概念です。親や先輩の影響、インターン経験、選考の進捗、周囲への説明可能性が効くからです。中途でも同じで、第一志望はオファー直前まで変わりえます。家族への説明可能性、働き方との整合、年収、役割の納得感が強く効くからです。つまり、第一志望は第一想起よりも後工程寄りの概念なのです。

したがって、採用担当者にとって第一志望は重要な結果指標ではありますが、第一想起の代わりにはなりません。まず設計すべきなのは、候補者の主要なCEPsで自社が想起集合に入り、できれば第一想起を取ることです。そのうえで、POP、POD、RTB、周辺承認、選考体験を整え、第一志望化と内定承諾へつなげていく。この順番で捉えた方が、採用の因果は見通しやすくなります。

採用で勝つのは「本人の頭」だけではない──周辺承認という壁

採用の難しさは、意思決定が応募者本人の頭の中だけで完結しないことにあります。BtoBにおいて購買が複数人の頭の中で進むように、採用もまた、本人を中心としながら、周囲の助成想起や承認を伴って進みます。

新卒であれば、親、友人、先輩、大学のキャリアセンター、OB・OGの存在が大きくなります。本人が「この会社が気になる」と思っても、親が企業名を知らず不安を示せば志望度は揺らぎやすくなります。友人や先輩がよい印象を持っていれば、逆に安心感は強まります。つまり新卒では、本人の純粋想起に加え、周囲の助成想起が成立しているかどうかが、応募や承諾に強く影響するのです。

中途でも同じです。本人だけで完結するように見えて、実際には、配偶者や家族、信頼する同僚や元上司、転職エージェントの評価が大きく効きます。転職は生活条件、居住地、家族設計、年収、将来の安定と密接につながるからです。本人が魅力を感じていても、「本当に大丈夫か」「その会社は信頼できるのか」「家計や生活は成り立つのか」という周囲の問いに答えられなければ、最後の一歩で止まりやすくなります。

本稿では、親、配偶者、先輩、エージェントなど周囲の人々が「その会社なら分かる」「そこならよさそうだ」「説明可能だ」と感じる状態を、周辺承認と呼びます。「第一想起の地図」の文脈に寄せれば、助成想起の採用版です。

採用における第一想起とは、本人の頭の中で最初に思い出されることだけではありません。より正確には、本人が最初に思い出し、しかも周囲に話したときに「その会社なら分かる」「よさそうだ」「それなら説明できる」と返ってくる状態です。つまり採用の第一想起とは、本人の純粋想起を起点に、家族、友人、先輩、エージェントなどの助成想起まで含めて、「通る候補」として成立している状態なのです。

だから採用の想起設計は、本人向けの単一メッセージを打てばよい仕事ではありません。本人にとっての「行きたい理由」と、周囲にとっての「勧めやすい理由」「反対しにくい理由」を分けて揃える必要があります。

本人は仕事内容、成長機会、裁量、報酬に反応するかもしれません。親は知名度、安定性、育成環境、世の中での信用に反応するかもしれません。配偶者は勤務地、働き方、収入、生活との両立可能性に反応するかもしれません。エージェントは市場価値、企業の将来性、採用の誠実さ、内定後の定着可能性に反応するかもしれません。

採用で勝つとは、応募者一人の頭を取ることではありません。応募者の純粋想起を起点に、周囲の助成想起まで含めて「その会社に進んでよい」と思わせることなのです。

採用ブランディングを支える3要素

では、どうすれば想起集合に残れるのでしょうか。ここで必要になるのが、採用のPOP / POD / RTBです。

まずPOP(Point of Parity)とは、比較の土俵に残るための共通要件です。採用で言えば、仕事内容が一定以上具体的であること、労働条件が極端に不透明でないこと、基本的な信頼性があること、選考が誠実に運営されていること、働き方が最低限整合していることなどがこれに当たります。ここを満たさなければ、そもそも比較の土俵に残れません。

その上でPOD(Point of Difference)が必要になります。PODとは、「この入口なら、まずこの会社だ」と思わせる違いです。若手でも大きな裁量を持てる。専門性を深めながら事業にも近い。子育てと両立しながら責任ある仕事ができる。安定と挑戦が両立している。こうした連想はPODの候補になりえます。ですが、それが本当にPODになるのは、同じショートリストに入る競合に対して「相対的」に勝てる場合だけです。

そして、そのPODを支えるのがRTBです。RTBのないところにPODは作れませんし、そのようなブランド連想は長続きしません。採用におけるRTBは、大きく二つに分けた方が分かりやすいと思います。

一つは性能RTBです。ここでいう性能とは、入社後に約束している経験や成長や役割が、本当に実現されるのかを支える根拠です。たとえば、具体的なプロジェクト内容、若手抜擢の実績、異動や登用の事例、育成制度、マネジャーの質、職種別のキャリア事例、入社後の成長実績などがこれに当たります。「成長できる」「裁量がある」「専門性が身につく」といった主張は、こうした性能RTBによって初めて信じられます。

もう一つは信頼RTBです。これは、「その会社に入っても大きく外さない」「周囲に説明しても通しやすい」と思わせる根拠です。たとえば、会社としての信用、事業の継続性、評価制度の透明性、働き方運用の一貫性、制度の利用実績、社員の定着実態、選考の誠実さ、現場社員の説明の一貫性などがこれに当たります。どれほど魅力的なPODがあっても、信頼RTBが弱ければ、「話はよいが不安が残る」で止まりやすくなります。

採用で最後に効くのは、しばしば知覚品質です。これは、企業としてちゃんとしていそうか、入っても危うくなさそうか、選考から入社後まで一貫していそうかという印象です。BtoCのメンタルベネフィットが気分や自己表現に寄ることがあるのに対し、採用におけるメンタルベネフィットは、「失敗しにくい」「後悔しにくい」「周囲に説明できる」「自分の選択を肯定できる」といった安心感として現れやすくなります。

採用が高関与であるほど、前半のシステム1で作られた想起順位は、後半のシステム2の比較検討にも残り続けます。人は条件を合理的に見比べているつもりでも、第一想起の企業には好意的な証拠を拾いやすく、低想起の企業には不安材料を見つけやすいのです(感情ヒューリスティック)。だから内定承諾率の差は、最後の条件差だけでなく、その前から続く想起順位の差によって拡大していることがあります。

ここで多くの企業が誤解するのは、美しい採用コピーを作れば勝てると考えることです。ですが採用では、言葉の美しさだけで候補に残ることはできません。

仕事内容の実態、育成の再現性、上司の質、制度運用、社員の語り、選考体験の整合性。これらが揃って初めて、想起集合に残る資格が生まれます。採用ブランディングとは、企業の印象をよくする活動ではありません。主要なキャリア文脈CEPsで、候補に残るためのPOP、選ばれるためのPOD、その違いを信じさせるRTBを揃える仕事なのです。

採用マーケティングでレビューの代わりに効くもの

BtoCでは、比較検討の後半でレビューや比較サイトが強く効きます。では採用では何が効くのでしょうか。強いのは、「第三者証拠」と「当事者証拠」です。

第三者証拠とは、友人や先輩の話、OB・OGの声、転職エージェントの評価、大学のキャリアセンターの印象、口コミサイトでの評判などです。当事者証拠とは、社員インタビュー、説明会、カジュアル面談、インターン、選考で接した面接官の一貫した語り、入社後のリアルな働き方の提示などです。

ここで重要なのは、候補者の検索や口コミ閲覧の多くは、ゼロから企業を探すためだけに行われるのではないという点です。実際には、すでに頭の中にある候補を正当化するために検索されることが多いのです。だからこそ、前半で名前が入っていなければ、後半の証拠がどれほど整っていても選ばれにくくなります。

この観点で見ると、人事、HR、採用広報が設計すべき採用マーケティングの役割も明確になります。役割は単に露出量を確保することではありません。前半で思い出されるための記憶を作り、後半で「その会社に進んでよい」と言わせる証拠資産を蓄積することです。

前半では、どのキャリア文脈CEPsで思い出されたいのかを定め、それに対応する言葉と接点を設計する必要があります。たとえば、「初めての就職で失敗したくないとき」「今の会社では専門性が頭打ちになったと感じたとき」「子育てと両立しながらキャリアを落としたくないとき」といった入口に対して、自社が立ち上がる言葉と体験を置くのです。

後半では、その想起を正当化する材料を整える必要があります。具体的な仕事の中身、社員のキャリア事例、制度の利用実態、働き方のリアリティ、マネジャーの考え方、評価の仕組み、選考の誠実さ。これらが揃ったとき、採用の想起は単なる知名ではなく、「進んでよい想起」に変わります。

そして、その接点すべてが候補者体験、つまりCX(Customer Experience)になります。スカウト文と面談の内容がずれていないか。社員インタビューと現場の語りが一致しているか。制度の説明と運用実態が一致しているか。ここが崩れると、前半で作った想起順位は後半で簡単に落ちてしまいます。前半で思い出され、後半で正当化される。この両輪が揃って初めて、採用における第一想起は内定承諾まで持続しやすくなります。

内定承諾率とスカウト返信率をどう上げるか

内定承諾率を向上させたい。スカウト返信率を改善したい。しかし、母集団形成には限界がある。そう感じている採用担当者は多いはずです。ですが、ここでも見るべきは量だけではありません。

本当に追うべきなのは、「理想候補の主要CEPsにおいて、自社が想起集合に入り、できれば第一想起を獲り、最終的に承諾されるかどうか」です。採用担当者のKGIは、単なる総応募数ではありません。「高い内定承諾率が見込める理想候補の応募を増やすこと」と設定することをお勧めします。

その観点で見るべき指標は、たとえば次の通りです。

  • 想起集合入り率

  • 第一想起率

  • 指名検索の量

  • スカウト返信率

  • カジュアル面談化率

  • 応募率

  • 選考移行率

  • 内定承諾率

  • 辞退理由の質

採用を量の問題としてだけ見ると、総応募数に振り回されることになります。ですが採用を構造の問題として見ると、「どの入口で想起されていないのか」「どの段階でRTBが不足しているのか」「どの周辺承認で落ちているのか」が見えるようになります。これが見えるようになると、採用は感覚の議論ではなく、因果の議論で進められるようになります。

ここで、第一志望率をどう扱うかも補足しておきます。第一志望率は見てもよい指標ですが、第一想起率の代わりにはなりません。第一志望は後工程で揺れますし、選考体験や条件や周辺承認の影響を強く受けるからです。したがって、KPI体系としては、第一想起率を前工程の指標、第一志望率や内定承諾率を後工程の指標として位置づける方が、因果が見えやすくなるでしょう。

採用第一想起の実装手順

ここまでの議論を実務に落とします。採用の第一想起は、求人媒体に載せるだけでは作れません。入口の設計、証拠の設計、周囲承認の設計が必要です。手順は次の6つに整理できます。

1. キャリア文脈CEPsを抽出する

応募理由、辞退理由、転職理由、就活相談の内容、エージェントのヒアリング、現場社員の入社理由、検索語、SNS上の発話、説明会後アンケートなどを集め、「どんなときに候補者が動き出すのか」を言語化します。

2. 採用文脈CEPsを状況文に整形する

「成長したい」では粗いです。「初めての就職で失敗したくないとき」「今の会社では専門性が頭打ちだと感じたとき」「子育てと両立しながら責任を落としたくないとき」のように、候補者がそのまま口にする言葉にします。

3. 本人と周辺承認者を分けて設計する

本人、親、配偶者、友人、先輩、エージェントで、反応するポイントは違います。誰にとってのメッセージかを曖昧にしないようにしましょう。

4. POP / POD / RTBを入口別に揃える

その入口で候補に残る最低条件は何か。何を違いとして記憶させるのか。その違いを何で信じさせるのかを整理します。

5. 前半と後半の接点を揃える

前半ZMOTでは、社員発信、記事、イベント、大学接点、SNS、スカウトなどで記憶を作ります。後半ZMOTでは、面談、社員インタビュー、FAQ、制度説明、選考体験でその想起を裏づけます。

6. 運用しながら更新する

総応募数だけでなく、想起集合入り率、第一想起率、スカウト返信率、内定承諾率、辞退理由の質を見て改善します。

この6つが回り始めると、「どの媒体で母集団を増やすか」だけでなく、「どの入口で最初に思い出されるか」が共通言語になります。これが、採用業務におけるCEPsと第一想起の実装です。

まとめ

採用でも、検討は想起の後にしか起きません。候補者には、世の中のすべての企業を比較する関与も時間もありません。まず想起集合をつくり、その中で応募先を選びます。しかも、その意思決定は本人の頭だけでなく、親、配偶者、先輩、エージェントなどの周辺承認を伴って進みます。

だから採用ブランディングとは、見た目の印象を整えることではありません。キャリア文脈CEPsで自社を想起集合に入れ、周辺承認を得て、POP / POD / RTBで比較に勝ち、結果としてスカウト返信率や内定承諾率を高める採用マーケティングです。

「最後は条件で決まる」という理解は、半分しか正しくありません。条件比較が効くのは後半であり、その前に「候補化」という巨大なふるいがあります。そこに入れなければ、条件の舞台にすら立てません。しかも採用では、その候補化は本人一人の頭の中で完結しません。本人の純粋想起を起点に、周囲の助成想起と承認まで含めて、「進んでよい候補」として成立して初めて前に進みます。

採用において第一想起を取るとは、募集が始まる前の地形を変えることなのです。

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