見出し画像

【1時間でわかる】 CEP・CEPsと第一想起の教科書

「第一想起が大事だよ!」ということをまとめたnoteがバズってから早6年。

昨今のCEP・CEPs(カテゴリーエントリーポイント)への注目もあって、少しずつですが「第一想起を取ることの重要性」「いや、もう想起順位上げる以外に勝てる方法残ってなくない?」という機運が高まってきたように感じます。

しかし、世の中には「CEPsの探索・特定が大事!」「CEPsを広げるの大事!」「広げたCEPsで想起されるの大事!」という記事や情報はたくさんあれど、「どうやって?」があまりない(気がする)。さらに結果論としての「強いブランドは浸透率が高い(=弱いブランドは浸透率を高めなさい)」はわかったけど、うちには全方位の(できる限り多くのCEPsで)浸透率を上げるためのお金なんてないんだが…?」に答える情報も少ないように感じます。

ということで、書くことにしました。

27,000字あります。ちゃんと読むのに1時間はかかると思います。一度読んだだけでは深く理解することが難しいかもしれません。でも、ここにまとめたことを、あなたが、またはあなたの所属チーム全員が理解し、納得し、共通言語化できたとき、驚く変化が生まれるはずです。後でじっくり精読する、チームで共有して共通言語を作る、本記事をガイドとして実務でやってみるために、ぜひブクマをしておいてください。ついでにスキしてくれると励みになります。調子に乗って続編を書くかもしれません。また、Xでポストしてくれるとなお嬉しいです。みんなで手に手を取って、業界をよりよくしてまいりましょう。

本記事の内容は、「で、結局何やったら売れるんだよ?!」と次の一手に困り果てている多くのマーケターにとって一閃の光となるはずです。では行きます。

0. 本記事のサマリー

売上を伸ばしたいなら、生活者に「好かれる」こと以上に、必要な瞬間に「思い出される」ことを設計しなければなりません。

ブランド選択は、商品棚の前や比較サイトの中だけで始まるのではありません。もっと手前、生活者の中で「何とかしたい」「これが必要だ」と用事が立ち上がった瞬間から、すでに勝負は始まっています。

本記事で扱うのは、その起点となるCEPs(カテゴリーエントリーポイント)と、第一想起が生まれる構造です。生活者の頭の中では、まず目的CEPsによって必要性が顕在化し、次に解決手段としてカテゴリーが思い出され、さらに購入CEPsによって候補ブランドが絞られ、想起集合の中から第一想起が決まり、購入に至ります。

重要なのは、第一想起とは単なる人気投票ではなく、この一連の流れの中で最も先に立ち上がる記憶の検索結果だという点です。だから実務で問うべきは、「誰に何を言うか」だけではありません。どの入口で必要性が立ち上がるのか、そこでどのカテゴリーが勝つのか、どのブランド連想が選ばれる理由になるのか、そしてその連想を何のRTBで信じさせるのか、を設計することです。

では、想起の順位を上げるためにはどうしたらいいのか。

接触量を増やす。認知を上げる。ブランド好意を上げる。差別化を強める。SNSで話題にする。買いやすさを上げる。どれも正論です。一方で、正論の寄せ集めは施策の足し算を生みます。足し算は、予算と体制を食い潰し、結局「どれも中途半端」にしてしまいます。最もよくないのは、足し算の末に「思い出され方」が揺れてしまうことです。想起は一貫性と継続性が肝なので、「揺れ」は致命傷になります。

そこで本記事で提示するのが、第一想起を再現可能にするための具体的方法です。自社が想起の順位を上げるために、何を、どの順番で、どうやるのか。

その具体的方法をまとめます。

1. 第一想起の正体は「入口」である

第一想起は、好かれている順番ではありません。生活者の頭の中で起きる、極めて機械的な現象です。

生活者は、毎日あらゆる選択をしています。朝の支度、通勤、仕事、家事、育児、食事、入浴、睡眠。そのすべてに「小さな困りごと」や「小さな目的」があります。人はそのたびに、ゼロから論理的に考えて買うものを決めているわけではありません。状況に応じて、頭の中の引き出しを開け、いつもの候補から選んでいるだけです。

ある状況が起き、ある目的が立ち上がり、「何かで解決しよう」と思った瞬間、脳内の引き出しが開きます。ここで初めて、解決手段としてのカテゴリーが立ち上がり、候補が呼び出されます。例えば以下のような状況です。

【図A:目的CEPsとカテゴリー想起の関係】

この「引き出しが開くきっかけ」がCEPsです。言い換えれば、CEPsとは「カテゴリーが思い出される入口」とも言えます。

入口は「商品の言葉」ではなく「状況の手がかり」である

CEPsは、商品を思い出させるための言葉探しではありません。入口とは、生活者の側でカテゴリーよりも先に点灯する「状況の手がかり」です。生活者はまず状況を認識し、その状況を解決する手段としてカテゴリーを立ち上げ、候補を呼び出します。

ここで入口を「購入理由の言語化」や「ベネフィット表現」と混同すると、企業側の切り口で入口が増え、反復が分散することで記憶が薄まり、純粋想起に転換しにくくなります。だから入口設計の起点は、商品の言葉ではなく、生活者が自然に持っている状況の分類に置くべきです。

多くのマーケティング議論が迷子になるのは、この入口を飛ばして、いきなり「ターゲットは誰か」「何を訴求するか」に入ってしまうからです。入口が決まっていないのに訴求を磨くのは、どの引き出しに入れるか決めずにラベルだけを美しく作るようなものです。それでは必要な瞬間に開けてはもらえません。

「第一想起を設計する」とは、入口を設計し、その入口で自社の想起順位を押し上げることです。どの瞬間に、どの入口で、どのカテゴリーが立ち上がり、その引き出しの一番上に自社ブランドが置かれる状態を作るか。ここが設計できれば、第一想起へのルートが一本線で描けるようになります。

2. CEPsは「目的CEPs」と「購入CEPs」に分かれる

この記事では、CEPsを二層で捉えます。目的CEPsと購入CEPsです。二層で捉える理由は、現場の議論が「買う局面」だけに偏り、最終局面の奪い合いに巻き込まれやすいからです。

目的CEPsは、生活者に「解決すべき用事が発生した」という理由が生まれ、解決行動に入るきっかけとなる状況・欲求・問題です。ここではまだ、どの解決手段を使うかは決まっていません。

購入CEPsは、その後、生活者が「買う」という行為に入ったときに発生し、どのブランドが選ばれるかを左右する入口構造です。購入CEPsでは、まずオケージョン条件によって「どの場面で買うのか」が定まり、そのうえでニーズ条件として「何を満たしたいか」「何を外せないか」が立ち上がります。

この区別は実務上、決定的に重要です(詳細は後述します)。

多くのブランドが購入CEPsだけを追いかけると、検索広告の高騰、比較サイトでの消耗、値引き合戦といった、本戦の最終局面で消耗することになります。もちろん、そこを無視することはできませんが、勝敗を決める主戦場はそこだけではありません。

勝敗を大きく左右するのは、もっと手前、つまり目的CEPsの段階で、カテゴリーとブランドの上位想起を確保できているかどうかです。目的CEPsで上位にいるブランドは、購入CEPsでの比較で有利になりやすくなります。逆に、目的CEPsで上位を取れていないブランドは、購入CEPsで条件勝負に追い込まれやすくなります。

「成長は広さ(浸透率)に支配される」という重力法則も、ここで効いてきます。目的CEPsは発生頻度が高く、大きい母数を持ちます。ここを押さえると浸透率が動きやすい。一方、購入CEPsは目的CEPsと比べると発生頻度が低く、母数が限られます。ここだけを追っても広さは伸びにくいのです。

つまり第一想起を設計するとは、目的CEPsで「このカテゴリーで解決しよう」という理由が生まれる局面を押さえ、購入CEPsでブランド選択の回収効率を上げる設計だと言い換えられます。

3. 入口を特定し、入口を絞り、入口を固定する

本記事で行う作業は、大きく三つです。

第一に、どのような状況で生活者が引き出しを開けるのか、つまり入口を特定することです。第二に、その中から浸透率を動かしやすく、自社が勝ちやすい入口を絞ること。そして第三に、選んだ入口で意味をぶらさず反復し、想起を固定することです。

言い換えれば、本記事は「入口を見つける」「入口を選ぶ」「入口で思い出される状態をつくる」という三段階で進みます。ここでいう入口は、企業が好きな言葉を並べて発明するものではありません。生活者の側で先に生じている状況であり、必要性の顕在化を促す現実のきっかけです。だから、入口を特定しないまま訴求を磨いても、必要な瞬間に想起してもらえません。逆に、入口を広げすぎると、意味が分散し、記憶は弱くなります。

前置きはここまで。ここから本丸の解説に移ります。

4. CEPsの二層構造と第一想起の地図

本記事の核を、一枚の地図としてまとめたものが「第一想起の地図」です。本記事の以降の議論は、基本的にすべてこの地図に回収されます。施策や打ち手で迷ったら、いま自社が目的CEPs、カテゴリー想起、購入CEPs、想起集合、想起順位のどこで詰まっているかを確認してください。

【図B:第一想起の地図】

生活者の頭の中では、基本的に次の順番で思考が進みます。

目的CEPs→カテゴリー想起→(初期段階でのブランド想起)→購入CEPs(オケージョン条件/ニーズ条件)→(選別局面でのブランド想起)→想起集合/第一想起→購入

なお、ここでいうカテゴリー想起とは「解決手段として、一つまたは複数のカテゴリーが立ち上がること」を指しています。単一のカテゴリーが立ち上がる場合もあれば、複数のカテゴリーが同時に立ち上がる場合もあります。後者については、カテゴリー間トーナメントとして後述します。

5. 用語の定義

道に迷わないよう、ここで言葉を短くそろえておきましょう。長々しい&小難しく感じるかもしれません。「言葉の定義なんてどうでもいいから、とっとと本題いけや!」と感じるかもしれません。でも、第一想起を取るための戦略には一定の理論が必要です。理論とは、現実の事象から複数の事実を抜き出し、抽象化し、概念化したものを束にしたものです。これらの全ては「言語」で行われ、複数人での議論や意思決定はたくさんの「言葉」で行われます。だから、正しい定義を揃えることが大事なのです。

マーケティングは一人でやるものではありません。上司や部下や同僚、チームメンバー、外注パートナー、顧客など、多くの人と一緒に、会話をし、議論をし、現状を認識し、課題を抽出し、打ち手を考え、言語で資料化し、検討し、意思決定し、実行し、成果を振り返り、次につなげる。これら一連の工程は、すべて「言語」で行われます。

関わる人の人数が増えるほど、施策が増えるほど、プロジェクトが大きくなるほど、定義の少しの解釈のズレが、取り返しのつかないほどの大きなズレになり、「なぜかうまくいかない」「こんなはずじゃなかった」を引き起こします。

ということで、言葉、定義、大事なんです。すべて記憶する必要はありません。ここでは「そんなものなんだな」「これとこれは似たものと考えていたけど、違うものなんだな」「こんな定義があるのだな」などと捉え、今後、ことあるごとに、戻ってきて参照し、チーム全員で体に染み込ませてください。定義を揃えることが、大敗をなくし、最初に目的地に到達する、一番の近道です。ここでは代表的な10個を定義しておきます。

※これらの概念は個別に存在するものでなく、「構造の中のひとつの要素」なので(スマホやPCだと難しいですが)できれば図Bの「第一想起の地図」をプリントアウトして、図(全体感)を見ながら定義を読むと位置関係や他要素とのつながりがわかって理解が促進されると思います

1) 目的CEPs

目的CEPsとは、生活者が「解決すべき用事が発生した」と感じ、解決行動を始めるきっかけです。ここではまだ、どの解決手段を使うかは決まっていません。例えば、「昼休みが短く、食事に使える時間が限られている」「締切が迫り、作業が長引いている」「夏休みが近づき、予定を考え始める」といった状況です。また、目的CEPsには強弱があります。例えば夏休みなら、「そろそろ予定を考えよう」は弱い入口であり、「家族の予定を合わせないとまずい」は中くらいの入口であり、「予約の締め切りが迫って焦る」は強い入口です。

2) カテゴリー想起

カテゴリー想起とは、目的CEPsが起きたときに、「この状況はこの手段で解決できる」とカテゴリーが頭の中に立ち上がることです。例えば、「昼休みが短い」という目的CEPsに対しては「手早く食べられる食事」が立ち上がる。「夏休みが近い」という目的CEPsに対しては、「旅行」「テーマパーク」「キャンプ」など複数のカテゴリーが同時に立ち上がる、などです。つまりカテゴリー想起とは、生活者の頭の中で「何で解決するか」が点灯する局面です。

3) 購入CEPs

購入CEPsとは、生活者が「買う」という行為に入ったときに発生し、どのブランドが選ばれるかを左右する入口構造です。オケージョン条件とニーズ条件があります。ここでは、まず「どの場面で買うのか」が定まり(オケージョン条件)、そのあとに「何を満たしたいか」「何を外せないか」が立ち上がります(ニーズ条件)。例えば、「缶ビールを買う」と決まったあと、「今夜までに必要」「買い物のついでに買う」といった場面が定まり、そのうえで「いつもの味で失敗したくない」「食事に合うものがよい」といった条件が立ち上がる、といった具合です。つまり購入CEPsとは、買う局面でブランド選択を動かす入口です。

4) オケージョン条件

オケージョン条件とは、「どの場面のために買うのか」を定める条件です。単なる日時や期限ではなく、どこで、何のために、どんな文脈で使うのかまでが含まれます。例えば、「旅行前に用意する」「出張中に現地で買う」「来客前に整える」「今夜までに必要」「切れたので買い足す」といったものがオケージョン条件です。

5) ニーズ条件

ニーズ条件とは、その購買場面において「これだけは外せない」と立ち上がる判断基準です。例えば、「軽いものがよい」「すぐ効いてほしい」「手間を減らしたい」「安心できるものがよい」「失敗したくない」といったものがニーズ条件です。実務上は、この条件がPOD(Point Of Difference:差別化点、あるいはそのブランドならではの選ばれる理由)やRTBと強くつながります。なぜなら、最後に問われるのは「そのブランドが本当にその条件を満たせるか」だからです。

6) ブランド想起

ブランド想起とは、生活者の頭の中に、候補として特定のブランドが思い出されることです。本書では、ブランド想起は一回だけ起きるのではなく、少なくとも二つの局面で起こると考えます。

第一は、初期段階でのブランド想起です。目的CEPsが起き、カテゴリーが立ち上がるかなり早い段階で、代表的ブランドや定番ブランドが粗く浮かぶ現象です。例えば、「ビールを補充しよう」と思った瞬間に、「いつもの銘柄」がほぼ同時に浮かぶようなケースです。

第二は、購買局面でのブランド想起です。購入CEPsが立ち上がり、オケージョン条件とニーズ条件のもとで、候補ブランドが具体的に照合される現象です。例えば、「ドライヤーを買い替えよう」と決めたあとで、「速乾ならこれ」「軽さならこれ」「髪のまとまりならこれ」といった形でブランドが絞られていく局面です。

前者は「解決手段の候補化」に近く、後者は「想起集合の形成と第一想起の決定」に直接関わります。ここを分けておくと、最寄り品ではなぜブランドが早く浮かび、高関与商材ではなぜ比較のあとで順位が変わるのかが理解しやすくなります。

7) ブランド連想

ブランド連想とは、生活者の頭の中で、そのブランドに結びついて立ち上がる「意味の束」です。ここでいう意味とは、単なる形容詞ではありません。「この状況なら、このブランドがふさわしい」と感じさせる理由です。例えば、「シュミテクト=知覚過敏ケア」「NONIO=口臭予防」「Ora2=ホワイトニング」といった結びつきがそれにあたります。つまりブランド連想とは、入口とブランドをつなぐ(ブランド想起されるための)橋なのです。

8) RTB

RTBとは、Reason To Believeの略であり、「そのブランド連想やベネフィットは本当らしい」「このブランドなら実際に満たしてくれそうだ」と信じさせる根拠です。

RTBには、仕様・機能・処方・設計のような製品事実、効果のメカニズム説明、比較試験データや第三者評価、実績・受賞歴・利用者数のような社会的証明が含まれます。例えば、「手早くつくれる」という連想に対しては、「電子レンジで三分」「カット済み・味付け済みで加熱するだけ」がRTBになります。「安心できる」という連想に対しては、「医師監修」「長年の実績」「顧客満足度No.1」がRTBになりえます。

重要なのは、RTBは単なる言い換えではなく、「なぜそう言えるのか」を具体的に支える根拠であるという点です。連想だけでは「なんとなくよさそう」で終わりますが、RTBがあることで「だから選べる」に変わります。

9) 想起集合

想起集合とは、生活者のニーズが顕在化した際(CEPsが立ち上がった際)、そのカテゴリーで、生活者の頭の中で純粋想起される好意的な選択肢の集合体(ブランドのリスト)です。生活者は、無数のブランドを等しく検討するわけではありません。多くの場合、思い出せたブランドの中から検討を始めます。例えば、「週末に家で飲むビールを買おう」と思った瞬間に、「アサヒスーパードライ」「キリン一番搾り」「サッポロ黒ラベル」が浮かぶとします。この「思い出せた顔ぶれ」が想起集合です。想起集合は、多くの場合とても小さく、典型的には1個から3個程度に限られます。

10) 第一想起

第一想起とは、想起集合の中で最初に立ち上がるブランドです。例えば、「チョコレート菓子なら何を思い出すか」と問われて、最初に「キットカット」が浮かぶなら、それがその入口における第一想起です。第一想起ブランドの購入転換率は驚くほど高い数値を示します(第一想起されたブランドは実際に購入される確率が高い)。だから第一想起を取ることは、マーケティングの実務上、非常に大きな意味を持ちます。

6. 「ジョブとニーズ」「ジョブとCEPs」の違い

「ジョブとニーズ」「ジョブとCEPs」を混同する人が多いので、ここで補足しておきましょう。

ジョブ理論は、顧客を属性ではなく「前に進めたい用事」として捉える考え方です。源流はセオドア・レビットの1960年の論文にあり、その後クレイトン・クリステンセンらが発展させ、2016年の著書『Competing Against Luck』で広く体系化しました。現在では、新規事業開発や商品設計、訴求設計に使われる代表的な実務フレームの一つです。

本書の文脈でいうジョブとは、生活者が「この状況を前に進めたい」と感じたときに立ち上がる「解決したい用事そのもの」です。ジョブは、何を達成したいのかという「用事の中身」を表します。一方、ニーズとは、そのジョブを進めるにあたって「こうであってほしい」「これだけは満たしたい」と求める条件や望ましい状態です。言い換えれば、ジョブは「何を前に進めたいのか」であり、ニーズは「そのために何を満たしたいのか」です。

例えば「部屋を片付けたい」で考えてみましょう。この場合のジョブは、「部屋を片付けて、整った状態に戻したい」です。一方、そのジョブを進める過程では、「短時間で終えたい」「手間を減らしたい」「きれいに見える状態にしたい」「あとで散らかりにくくしたい」などといったニーズが立ち上がります。つまり、ジョブは用事そのものであり、ニーズはその用事を解決する手段に求める条件なのです。

ここで重要なのは、ジョブにも強弱があるということです。ジョブは「ある/ない」だけで存在するのではなく、「どれだけ強くその用事を前に進めたいか」という強度を持ちます。例えば同じ「部屋を片付けたい」というジョブでも、弱いジョブなら「少し散らかっていて気になるが、まだ困るほどではない」。中くらいのジョブなら「片付いていないことで不便やストレスを感じ始め、そろそろ何とかしたい」。強いジョブなら「このままでは困る、いますぐ片付けたい」といった状態です。つまりジョブにも濃淡があり、その強さによって、どれだけ優先的に意識されるかは変わります。

一方、目的CEPsは、そのジョブが前面に出て「いま解決しよう」と解決行動に入るきっかけです。いつ、どのような状況で、その用事が動き出すのかという「起点」を表します。

同じく「部屋を片付けたい」を例にすると、ジョブは「部屋を片付けて、整った状態に戻したい」という用事そのものです。しかし、このジョブが常に行動に変わるわけではありません。ジョブが前面に出て行動が始まる瞬間があります。それが目的CEPsです。例えば、次のような状況です。

  • 急に来客の予定が入り、見られて困る状態だと気づいた

  • 週末のまとまった時間が取れて、「いまならできる」と感じた

  • 探し物が見つからず、散らかりが原因だと思った

  • 写真を撮る、オンライン会議をするなど、背景が気になった

  • 床に落ちている物に足の小指を強打・悶絶し、限界だと思った

【図C:ジョブ、ニーズ、目的CEPsの違い】

ここで整理しておきたいのは、ジョブの強弱と目的CEPsの強弱は似ているようで違うということです。ジョブの強弱は、「その用事をどれだけ強く前に進めたいか」の度合いです。一方、目的CEPsの強弱は、「その用事がどれだけ現実に動き出しやすい状況にあるか」の度合いです。例えば「部屋を片付けたい」というジョブがかなり強くても、時間がなく行動に移せないことがあります。逆に、ジョブ自体はそこまで強くなくても、「急に来客が来る」という強い目的CEPsが起きることで一気に行動が始まることもあります。つまり、ジョブは用事そのものの強さであり、目的CEPsはその用事を起動させるきっかけの強さなのです。

同じジョブでも、目的CEPsは複数ありえます。そして目的CEPsが変われば、頭に浮かぶ解決手段、すなわちカテゴリーも変わります。来客が入口なら「短時間で整える手段」が立ち上がりやすいですし、探し物が入口なら「収納や整理の手段」が立ち上がりやすいですし、時間が取れたことが入口なら「まとめて片付ける手段」が立ち上がりやすい、といった具合です。

要するに、ジョブは「何を前に進めたいか」であり、ニーズは「そのために何を満たしたいか」であり、目的CEPsは「それがいつ動き出すか」です。ジョブは用事の中身、ニーズはその用事を解決するための条件、目的CEPsはその用事を起動させるきっかけです。ここを分けて捉えることで、入口と想起の設計は格段にやりやすくなります。

なお、本記事でいうニーズには、少しだけ注意が必要です。一般にジョブ理論の文脈でいうニーズとは、ジョブを前に進めるにあたって生活者が満たしたい条件や望ましい状態を広く指すことが多い印象です。例えば「部屋を片付けたい」というジョブに対して、「短時間で終えたい」「手間を減らしたい」「きれいに見える状態にしたい」といったものがそれにあたります。これは、用事を前に進めるための要件全般であり、まだ「特定の購買場面」に限定されていません。

一方、本書でいうニーズ条件は、購入CEPsの一部として使う用語です。つまり、すでにカテゴリーや購買場面がある程度定まったあと、その場面において「これだけは外せない」「こうであってほしい」と候補ブランドを絞り込むために立ち上がる選別条件を指しています。

言い換えれば、ジョブ文脈でいうニーズは、用事を前に進めるための条件を広く捉えた概念であり、購入CEPsにおけるニーズ条件は、その中でも特に「買う局面でブランド選択を左右する条件」に絞った概念です。

例えば「部屋を片付けたい」というジョブに対して、「短時間で終えたい」「手間を減らしたい」は広い意味でのニーズです。しかし、その結果として「収納用品を買おう」「掃除グッズを買おう」とカテゴリーが定まり、さらに実際の購買に入ったときには、「簡単に使えるものがよい」「効き目が強いものがよい」「安価なものがよい」といったニーズ条件が立ち上がり、候補ブランドが絞り込まれます。

要するに、ジョブ文脈でいうニーズは上位の要件であり、購入CEPsにおけるニーズ条件は、その要件が「購買場面に入ったときにブランド選別の条件として具体化したもの」だと捉えるとよいでしょう。

まとめると、本章の用語体系は以下の通りとなります。

  • ジョブ:前に進めたい用事  

  • ニーズ:その用事を進めるために満たしたい条件

  • 目的CEPs:その用事が動き出すきっかけ

  • ニーズ条件:買う局面でブランド選択を左右する条件

7. カテゴリー間トーナメントと初期段階でのブランド想起

「第一想起の地図」は、生活者の頭の中で、目的CEPs→カテゴリー想起→購入CEPs→想起集合/第一想起→購入という基本フローが進むことを示したものでした。この流れは「わかりやすく説明するために一本線にした基本形」ですが、現実の購買では、目的CEPsが立ち上がった瞬間に、ただちに一つのカテゴリーだけが点灯するとは限りません。

生活者の頭の中では、しばしば複数の問題解決手段が同時に候補化されます。たとえば「残業で集中力が切れた。何とかもうひと踏ん張りしたい」という目的CEPsが起きたとします。このとき主として起きるのは、まず解決手段の候補化です。甘い物を食べる。コーヒーを飲む。エナジードリンクを飲む。目薬をさす。顔を洗う。散歩をする。こうした複数の手段が同時に立ち上がります。ここでは、ブランド競争より先に、解決手段の競争が起きています。

【図D:カテゴリー間トーナメントの例】

この段階で生活者は、解決手段だけを抽象的に思い浮かべているわけではありません。実際には、それぞれのカテゴリーと結びついた代表的ブランドや定番ブランドまで含めて、かなり粗い単位で候補化しています。たとえば「甘い物」と思った瞬間に、チョコやクッキーのような種類だけでなく、定番ブランド(たとえばキットカット)までぼんやり浮かぶことがあります。これが前節で定義した「初期段階でのブランド想起」です。

その後、生活者の頭の中では、複数の解決手段の中から、どれを採用するかの絞り込みが起こります。この絞り込みは、論理的な比較検討というより、システム1(速い思考)による簡易ルールで決まることがほとんどです。すぐにできるか。簡単にできるか。すぐに効くか。あまりお金がかからないか。失敗しにくいか。いつもやっているか。自分に合っているか、などといった基準で、解決手段の優先順位がつきます。

仮にここで「甘い物」が勝ったとします。すると次に、「甘い物」の中でどのサブカテゴリーを選ぶかのトーナメントが始まります。チョコなのか、クッキーなのか、グミなのか、アイスなのか、どら焼きなのか。

チョコが勝った場合、ここから先ではじめて、どのチョコ(ブランド)を選ぶかという競争に入ります。ここで立ち上がるのが、購入CEPsのもとで具体的に形成される候補群、すなわち想起集合です(ここまでが数秒のうちに無意識かつ頭の中で行われます。脳ってすごいですね)。

重要なのは、本記事でいう想起集合は、原則として「カテゴリーがある程度定まった後、購入CEPsのもとで具体的に立ち上がるブランド候補群」を指しているという点です。したがって、カテゴリー間トーナメントは、想起集合より手前にある予備選考だと言えます。ブランドのトーナメント戦に入る前に、実は解決手段のカテゴリー間トーナメント戦があるのです。

この現象を押さえることには、実務上の意味が二つあります。第一に、CEPs設計の対象は「自カテゴリーの入口」だけではないということです。入口はしばしばベネフィット競合にまたがっています。生活者がそのニーズを処理するとき、そもそも自カテゴリーが勝てる状況なのか、すなわちカテゴリー間トーナメントに勝てるのかを見なければなりません。ここを見ずに「自社カテゴリー内の入口」だけを磨いても、そもそもカテゴリーが点灯しなければ意味がありません。

第二に、フィジカルアベイラビリティは、ブランド競争以前に「どの解決手段が勝つか」にも効いているということです。甘い物がよくても、すぐ手に入らなければ、手元で完結する別手段に流れてしまいます。買いやすさは、購入の回収だけでなく、解決手段の採用確率そのものを動かします。

この整理を先に置いておくと、この後に出てくるビール、ドライヤー、夏休みの過ごし方の例も読みやすくなります。どの例でも、生活者は最初から一つのカテゴリーだけを見ているわけではありません。複数の解決手段の中からどれを採るかを粗く決め、その後に購入CEPsのもとでブランド競争へ入っていくからです。

8. 「第一想起の地図」の具体的なイメージ

ここでは、「第一想起の地図」の流れをよりイメージしやすくするために、具体例を3つ示します。いずれも、目的CEPsからカテゴリー想起が起き、必要に応じてカテゴリー間トーナメントを経て、購入CEPsによって候補が絞られ、想起集合と第一想起が形成されます。ここで重要なのは、購入CEPsで立ち上がった場面や条件とブランド連想が接続しているほど、想起順位が上がり、第一想起に押し上げられるという点です。そしてその接続は、RTBによって補強され、固定されていく流れが確認できるはずです。

缶ビールの例

(この例では、最寄り品では想起から購入までが短く見えることを確認します)

冷蔵庫を開けたら、缶ビールの在庫が切れそうだ。週末に家で飲む予定がある。明日の来客に備えて用意しておきたい。こうした状況が目的CEPsであり、「ビールが必要だ」という用事が発生する。すると解決手段として「缶ビールを買う」というカテゴリーが頭の中に立ち上がる。

最寄り品に近いカテゴリーでは、この段階で初期段階でのブランド想起もかなり早く起きる。「ビールを補充する」と思った瞬間に、「いつもの銘柄」がほぼ一緒に浮かぶことがあるからだ。

ここから買う局面に入ると、購入CEPsが立ち上がる。まず、オケージョン条件として「今夜までに必要」「買い物のついでにまとめて買う」「冷やす時間を考えると早めに買いたい」など、用事やタイミングが定まる。そのうえで、ニーズ条件として「いつもの味で失敗したくない」「食事に合うものがよい」「客人にも受け入れられる無難さがほしい」など、外せない条件が前に出る。

このとき、場面や条件と強く接続しているブランド連想がある銘柄ほど、想起集合の上位に上がる。例えば「失敗したくない」に対しては「いつもの安心」「ブレない定番」といった連想が効きやすい。「客人にも」に対しては「みんなに受け入れられる」「癖が少ない」といった連想が効く。「食事に合う」に対しては「食中酒としての相性」「後味のキレ」といった連想が効きやすい。

そして、この連想が単なる印象で終わらず、生活者が信じられる形で補強されると、場面や条件との結びつきが固定される。例えば「売上No.1」「工場直送」「国際◯◯賞受賞」などがRTBになる。

こうして想起集合は数銘柄に絞られ、第一想起はその中で真っ先に立ち上がる銘柄となる。習慣購買に近いカテゴリーほど、購入CEPsから想起集合、第一想起までが短縮され、第一想起と購入がほぼ直結することも多い。ただし、来客や食事など場面や条件が変わると、第一想起は入れ替わりうる。だからこそ、どの場面・どの条件で、どの連想で勝つかを設計し、RTBで固定する意味がある。

ドライヤーの例

(この例では、ニーズ条件主導で想起集合の順位が変わることを確認します)

トリートメントやヘアオイルなどには気を使っているのに、最近、髪がまとまらない。乾かし方やドライヤー自体も影響しているのではないかと感じて、買い替えが頭をよぎる。これが目的CEPsであり、「髪を整えるための手段が必要だ」という用事が発生する。

ここで生活者の頭に浮かぶ解決手段は一つではない。ヘアオイルを見直す。トリートメントを変える。美容室で相談する。ドライヤーを買い替える。ここでカテゴリー間トーナメントが起きる。その中で、「いまのドライヤーはもう長く使っている」「最新のものが使いたい」といった追加の状況が重なると、「ドライヤーを変える」というカテゴリーに寄っていく。

しかし、家電のようなカテゴリーでは、ここで終わらない。買う局面に入ると購入CEPsが立ち上がる。ただし、ドライヤーのようなカテゴリーでは、来月の旅行に持っていきたい、急な故障で今日中に必要になった、といった特殊な場合を除けば、強いオケージョン条件が立ち上がることはそれほど多くない。多くの場合、生活者は特定の場面やタイミングよりも、「何を満たしたいか」「何を外せないか」というニーズ条件を中心に比較検討を進める(ドライヤーのように、商品カテゴリーによっては、オケージョン条件はほぼなく、「購入CEPs≒ニーズ条件」となるケースも少なくない)。

そのためドライヤーでは、「乾かす時間を短くしたい」「髪をまとまりやすくしたい」「髪にツヤを与えたい」「おしゃれなデザインがよい」といったニーズ条件が、候補ブランドを絞り込む主たる軸になりやすい。

このとき、こうした条件と結びついたブランド連想が強いほど、想起集合の上位に上がる。そして、その理由がRTBで補強されるほど、条件との接続は強く固定される。

こうして想起集合は数ブランドに絞られ、第一想起はその中で真っ先に立ち上がるブランドとなる。家電のように比較検討が長いカテゴリーでも、実際には「何を外せないと感じたか」によって想起集合の並び順は大きく変わる。ドライヤーのようにニーズ条件主導で選ばれやすいカテゴリーでは、特にこの傾向が強い。第一想起を獲るとは、生活者が重視するニーズ条件に対して、「このブランドが最もふさわしい」と自然に思い出される連想を設計し、RTBで補強し、繰り返し固定していくことにほかならない。

夏休みの過ごし方の例

(この例では、ブランド競争の前にカテゴリー間トーナメントがあることを確認します)

夏休みが近づき、子どもと何をして過ごすかを考え始める。これが弱い目的CEPsである。さらに家族の希望や予定をすり合わせる必要が出てきたり、予約や準備の締め切りが見えて焦り始めたりすると、入口は強くなる。

目的CEPsが起きると、解決手段として過ごし方の選択肢が複数立ち上がる。旅行、テーマパーク、体験型レジャー、キャンプなどである。ここではカテゴリーが同時に立ち上がるため、生活者の頭の中では「どのカテゴリーで解決するか」というカテゴリー間トーナメントが始まる。費用、移動、混雑、家族の好みなどを見ながら、「今回はキャンプに寄せよう」とカテゴリーが絞られる。

次に買う局面に入ると、購入CEPsが立ち上がる。まず、オケージョン条件として「夏休みが迫り、予約可能な場所を急いで確保する必要がある」「週末の日程が埋まる前に押さえたい」「天気予報を見て直前に決めたい」など、場面やタイミングが定まる。そのうえで、ニーズ条件として「近い」「費用を抑えたい」「混雑しにくい」「子どもが楽しめる」「設備が整っている」など、外せない条件が立ち上がる。

ここで、場面や条件と接続したブランド連想が効いてくる。キャンプ場や施設にも「何者か」がある。「子どもが楽しめる」に対しては「遊びが豊富」「安全に配慮されている」。「設備が整っている」に対しては「清潔」「初めてでも困らない」。「混雑しにくい」に対しては「区画が広い」「静かに過ごせる」などが連想として働く。こうした連想が強い施設ほど、想起集合の上位に上がる。

さらに、連想がRTBで補強されるほど、場面や条件との結びつきは固定される。実際の口コミ、写真、予約サイトの情報量、スタッフ対応の評判、リピーターの多さ、具体的な設備情報などがRTBとして機能する。結果として想起集合はキャンプ場A、B、Cのように数件へ絞られ、第一想起はその中で真っ先に立ち上がる候補となる。「条件を満たすなら今回はAだな」と早期に決まり、そのまま予約に至る。

この例が示すのは、第一想起の地図は消費財のような小さな買い物だけでなく、レジャーや施設選択のような意思決定にも同じ構造で当てはまるという点です。場面や条件と連想を接続し、RTBで補強し、想起集合の上位を取りにいく。これが「第一想起を獲る」ということです。

9. 習慣購買では、二つのブランド想起が重なって見える

本記事ではブランド想起を、目的CEPsの近くで起こる「初期段階でのブランド想起」と、購入CEPsの局面で起こる「購買局面でのブランド想起」とに分けて捉えています。

ただし(主にスーパーやコンビニなどでの日常的な買い物や、ECの「再び購入」などに代表される)習慣購買では、この二つがほぼ重なり、一続きの現象として観察されることが多くなります。生活者の頭の中では、目的CEPsが立ち上がった瞬間に第一想起ブランドがそのまま立ち上がり、直行して購入が起きるように見えます。しかし、これは中間が消えているのではありません。購入CEPsが固定化され、想起集合が極小化しているだけなのです。

例えば(自宅のコーヒー豆やビールなどの)「在庫が切れそう」「残量が少なく、もうすぐなくなりそう」という目的CEPsが起きると、生活者の頭には「補充する」という行動が立ち上がります。そのとき、「手間なくラクに済ませたい」「失敗したくない」「家族が嫌がらない」「すぐに手に入る」といったニーズ条件や、「定期補充」「いつもの買い物ルート」といったオケージョン条件は、言語化されないまま作動しています。しかし、毎回ほぼ同じであるため、比較検討の形を取るわけではありません。結果として想起集合が一つしかなく、第一想起と購入がほぼ同義になります。

重要なのは、「いつものビールを補充する」という表現が、実はカテゴリーとブランドを同時に言っている点です。厳密には、カテゴリー想起は「ビールを補充する」であり、そのあとに「いつもの銘柄だけが浮かぶ」という極小の想起集合が立ち上がり、第一想起がその銘柄として即座に決まっています。しかし、生活者の頭の中ではその二段階がほぼ重なって見えています。だから習慣購買では、「目的CEPs→第一想起」への直行が起きて見えるのです。

このため本記事では、基本フローに加えて、習慣購買では「省略形」が成立することを明記しておきます。省略形とは、「購入CEPsが固定化され、想起集合が極小化した結果、初期段階でのブランド想起と購買局面でのブランド想起がほぼ重なり、第一想起が自動選択される状態」です。

ただし、この現象は習慣購買だけの特殊論ではありません。習慣購買は最も極端でわかりやすい例にすぎません。最寄り品や、同じ購買文脈が繰り返されるカテゴリーでは、程度の差こそあれ、初期段階でのブランド想起と購買局面でのブランド想起が重なりやすい特徴を持ちます。習慣購買とは、その重なりが極端に進み、ほぼ自動選択になった状態だと理解するとよいでしょう。

10. CEPsは「幅✕深さ」で設計する

現場でCEPsの概念が広まるにつれ、「やるべきことの取り違え」が増え始めています。入口(CEPs)を増やすべきなのか、入口ごとの陣取り、すなわち想起順位を向上させるべきなのか。この切り分けを誤ると、大きな戦略ミスを引き起こし、多くの時間と費用を無駄にすることになるため、注意が必要です。

  • CEPsの「幅」の問題(入口の数が足りない)

  • CEPsの「深さ」の問題(入口ごとの想起順位が低い/競争優位がない)

入口、すなわち状況そのものは生活者側に既にあることがほとんどです。ブランドができるのは、その状況の解釈、すなわち何の問題として扱うかを広げ、状況とカテゴリー/ブランドの接続を増やすことです。この「幅✕深さ」を、ポカリスエットほど分かりやすく示すブランドはありません。

発売当初、ポカリスエットは「スポーツや部活の後に飲むスポーツドリンク」という比較的狭い入口で立ち上がるブランドでした。そこで大塚製薬は、長期にわたるマーケティングコミュニケーションで入口そのものを拡張する努力を続けました。スポーツ時だけでなく、「お風呂でも発汗している」「寝ている間も発汗している」「発熱時にも発汗している」「飲酒時は水分不足になり脱水が進む」といった生活課題の理解を広げ、「スポーツ後だけでなく、お風呂後も就寝前後も発熱時も飲酒後も体の水分が足りていない」→「ポカリスエットを飲んだ方がよい」というパーセプションを浸透させていったのです。結果として、スポーツ以外にも、熱中症対策、入浴後、風邪のとき、飲酒後などへとCEPsが広がっています。これはまさに「幅」の拡張です。

【図E:ポカリスエットにおける想起の幅✕深さ】

しかし重要なのは、入口を増やしただけでは終わっていないことです。ポカリスエットが特に強いのは、「健康な状態を取り戻したいときに飲む」という入口において想起が深い点であります。つまり、幅を広げたうえで、特定の入口で深く刺さっているのです。これが「深さ」です。幅だけ増えても、各入口での想起順位が低ければ「入口はあるが思い出されない」状態になります。ポカリスエットは、幅と深さの両輪が回っているから強いのです。

ここで、カテゴリー間トーナメントとの関係も押さえておきましょう。カテゴリー間競争、すなわち「どの解決手段が選ばれるか」という勝負は、1社だけで押し上げることは困難です。仮にある企業が投資をして、そのカテゴリー全体の採用確率を高めたとしても、その成果は自社だけのものにはなりません。恩恵はカテゴリー全体に広く行き渡り、とりわけ想起が強く、市場シェアの大きい上位ブランドほど回収しやすい状況になります。つまり、チャレンジャーやフォロワーが1社でカテゴリー全体を押し上げても、その投資は結果として上位ブランドへの追い風になってしまうのです。

市場シェア1位の企業は、カテゴリー間競争力を高める市場拡大投資をしやすいし、実際にその戦いを仕掛ける意味も大きいです。カテゴリー全体が伸びたとき、その果実を最も回収しやすい立場にあるからです。一方で、市場シェア2位以下の企業が優先すべきなのは、カテゴリーそのものを勝たせることではなく、カテゴリーが選ばれた後に、自社が選ばれる確率を上げることです。つまり、主戦場は「目的CEPs→カテゴリー想起」ではなく、その後の「購入CEPs」にあるのです。

具体的には、まず多くの購入CEPsで想起集合に入り、思い出される入口の数を増やす。そのうえで、自社が勝ちやすいオケージョン条件やニーズ条件において想起順位を押し上げ、第一想起、少なくとも想起集合の上位に入る状態を積み上げていくべきです。

多くの企業やブランドは、市場シェア1位ではなく、2位以下の立場で戦っています。だからこそ実務では、カテゴリー全体を押し上げる戦略よりも、カテゴリーが勝ったあとの購入局面で勝率を高める戦略のほうが重要になります。市場2位以下の企業は、カテゴリー採用を広げる戦いに資源を広く投下するのではなく、自社が勝てる購入CEPsに資源を集中させるべきです。

11. 想起の深さを決めるもの

では、どの入口で、どのベネフィットを、どのブランド連想に結びつければ、想起順位が上がり、第一想起を獲れるのか。資源制約の下では、すべての入口で勝とうとするのではなく、勝てる入口を選び、そこに連想を固定するほうが合理的です。なぜなら、企業が使える資源は有限だからです。

想起の深さ、すなわち想起順位は、「入口に対して、当該ブランドの連想がどれだけ強く接続されているか」で決まります。そして、その連想を強く補強し、揺らがせないためにRTBが必要になります。より踏み込んで言えば、想起順位は、入口が立ち上がった瞬間に「この入口で最も大きなベネフィットをくれそうなブランド」として想起されるかどうかで決まるのです。

まず、想起順位を「入口との接続強度」として捉え直してみましょう。生活者の頭の中で順位が決まる局面は、買う局面の入口、すなわち購入CEPsが立ち上がった瞬間です。ここでは、まずオケージョン条件によって「どの場面で買うのか」が定まり、そのうえでニーズ条件として「何を外せないのか」「何を優先するのか」が起動します。想起順位を押し上げるとは、これらが立ち上がった瞬間に、生活者の頭の中で自社のブランド連想が最初に、かつ最も自然に立ち上がる状態をつくることです。つまり、入口に対する結びつきが強いほど、第一想起になりやすい、ということです。

しかし、ここで一つ大きな注意点があります。多くのマーケターは「第一想起を取りに行く」ことを、「カテゴリー第一想起を取りに行くこと」と置き換えてしまいがちです(たとえば「ビールといえば◯◯」「歯磨き粉といえば◯◯」のように)。もちろん、そこが取れれば強いのは間違いありません。でも、そこはカテゴリーシェアトップブランドの牙城です。市場2位以下のチャレンジャーやフォロワーポジションの企業やブランドが第一想起ポジションを奪取できる可能性はゼロではないにせよ、難易度は極めて高いと言わざるを得ません。

そのため本記事では、チャレンジャーやフォロワーは「カテゴリー第一想起」を正面から奪いにいくのではなく、特定のオケージョン条件やニーズ条件という限定された場面・条件で勝ち、想起集合に入り、第一想起に上げていく方針を推奨します。

当社トライバルメディアハウスが実施した「第一想起調査2025」のデータから、歯磨き粉カテゴリーの例を見てみましょう。

まず、歯磨き粉カテゴリーで、生活者が歯磨き粉に求める価値を並べると、上位に「虫歯予防」が来ます。図Fが示す通り、虫歯予防は37.6%で最大であり、次いで歯周病予防が34.8%、口臭予防が28.8%と続く。つまり、歯磨き粉カテゴリーにおける最大の入口は(当たり前ですが)「虫歯予防」です。

【図F:歯磨き粉カテゴリーで顧客が求める価値のランキング】

次に、歯磨き粉カテゴリー全体の第一想起ランキングを見ると、「ライオン クリニカハミガキ」が第一想起一位を獲得しています(クリニカは歯磨き粉カテゴリーシェアNo.1ブランドです)。

【図G:歯磨き粉カテゴリーの第一想起ランキング】

さらに、購入CEPsにおける最大ニーズである「虫歯予防のとき」の第一想起も、「ライオン クリニカハミガキ」が一位で、カテゴリー第一想起と同様の結果になっています。

【図H:「虫歯予防のとき」ニーズの第一想起ランキング】

ここで読み取れるのは、カテゴリー第一想起、すなわち本丸が、実質的に「購入CEPsにおける最大ニーズ条件の第一想起」と強く重なっている、ということです。だから、市場2位以下のチャレンジャーやフォロワーが「カテゴリー第一想起」を正面から奪いにいくとは、最大ニーズの入口で、最も強いブランドと正面衝突することを意味します。勝つことが難しいのは当然です。

ところが、ニーズ条件を切り替えると話が変わります。「知覚過敏ケアのとき」というニーズ条件では、「ヘイリオン シュミテクト」が、二位の「ライオン クリニカハミガキ」に295ポイント差をつけて圧倒的な一位となっています。

【図I:「知覚過敏のとき」ニーズの第一想起ランキング】

ここが重要です。

シュミテクトは、歯磨き粉カテゴリー全体で絶対的一位を取っているわけではありません。にもかかわらず、「知覚過敏」という特定ニーズ条件で第一想起を取り、強い想起を獲得しています。データ上も、最大ニーズの「虫歯予防」ではなく、「知覚過敏」という特定ニーズにポジションを獲得することで、歯磨き粉カテゴリーの第一想起で二位にランクしていることが示されています。つまり、入口を変えると勝負をする相手が変わる。これが市場二位以下のチャレンジャーやフォロワーにとっての現実的な第一想起戦略です。つまり、「歯磨き粉といえばXX」ではなく、「◯◯の歯磨き粉といえばXX」に戦略をずらすのです。

ただし、当然「入口を決めた」だけでは勝つことはできません。入口で照合されたときに、「その入口にふさわしいブランド」として候補に残る必要があります。ここでまず押さえるべきは、入口で照合されるのはブランド名そのものではなく、「この入口で得たいベネフィット」だという点です。生活者は入口が開いた瞬間に、複数ブランドを同列に比較検討するのではなく、「この入口で一番得をしそうなものはどれか」を直感的に照合します。だから入口で勝つとは、狙った入口におけるベネフィットと、自社ブランドの結びつきを最も強くすることなのです。

図Jは、そのことをさらに裏づけています。シュミテクト、NONIO、Ora2の3ブランドは、それぞれ「シュミテクト=知覚過敏ケア」「NONIO=口臭予防」「Ora2=ホワイトニング効果」と、特定のニーズ条件にひも付くイメージをしっかり獲得しています。狙ったニーズに対して確実に当該イメージを獲得できれば、想起を獲得できます。入口で勝つとは、入口とブランド連想を強く接続することと同義なのです。

【図J:各ブランドの顧客が求める価値に対する各ブランドのイメージスコア】

要するに、想起の深さを決めるのは、抽象的な好意や雰囲気ではなく、入口とブランド連想の接続強度なのです。

【図K:CEPsとブランド連想の接続がブランド想起を生み、RTBがそれを補強する】

図Kは、その関係を模式的に示したものです。入口が立ち上がったとき、生活者の頭の中でどのブランドが想起されやすいかは、そのブランドが持つ連想の数そのものではなく、その入口に対して意味のある連想がどれだけ強く結びつき、しかもRTBによって補強されているかで決まります。ブランド想起とは、入口とブランド連想の接続が生む現象であり、RTBはその接続を強め、想起順位を安定化させる装置だと捉えるとよいでしょう。

12. ブランド連想を補強するRTB

ブランド連想は「言いっぱなし」では強くならなりません。そこには必ずRTBが必要となります。ここでRTBの話に入る前に、まずブランド連想をどの観点で整理するとよいかをそろえておきましょう。強みを捉える補助線として有効なのが、ここで便宜上POXと呼ぶ整理です。


【図L:強みを捉える視点:POX】

POXとは、ここではPOP、POD、POFの3つで、ブランドの強みと弱みを整理する見方を指します。

POP(Point of Parity)とは、そのカテゴリーで候補に残るための最低条件です。言い換えれば、「まず外してはいけない条件」です。例えばドライヤーなら、「ちゃんと乾く」「危なくない」「一定の品質がある」といった条件がこれにあたります。POPだけでは売れませんが、POPが欠けると候補に残れません。

POD(Point of Difference)とは、競合より選ばれる理由として機能する差別化点です。例えばドライヤーなら、「大風量/速乾」「髪がまとまりやすい」「髪にツヤを与える」といった連想がPODになりえます。生活者が購入局面で「何を外せないか」を考えたとき、その条件と最も強く結びついて立ち上がる差異が、想起順位を押し上げます。

POF(Point of Failure)とは、候補から落ちる要因、あるいは不安要因です。例えばドライヤーなら、「高すぎる」「重い」「壊れやすそう」「髪が傷みそう」といった要素がこれにあたります。顧客ニーズと重なっているのに自社が弱い部分は、放置すると候補落ちの原因になります。

この3つを本書の文脈に引きつけて言い換えると、POPは「想起集合に残るための条件」、PODは「第一想起に押し上げる差異」、POFは「想起集合や考慮集合から落ちる要因」と整理できます。つまり、ブランド連想のうち何を最低条件として満たし、何を選ばれる理由として強化し、何を不安要因として潰すべきかを見極めるための補助線がPOXだと捉えるとよいでしょう。

例えば、知覚過敏ケアの歯磨き粉の場合。POPは「歯磨き粉としてきちんと磨けること」です。これが欠けていれば、そもそも候補に残れません。PODは「知覚過敏に強い」という差異であり、ここでシュミテクトが強いことを先ほど確認しました。POFは「効果が弱そう」「価格が高すぎる」「長く使い続けにくそう」といった不安要因です。実務では、この3つを分けて見ることで、「最低条件を満たすために何を整えるか」「差異として何を強めるか」「候補落ち要因をどこで潰すか」が明確になります。

そして、ここからRTBが効いてきます。RTBとは、生活者に「そのブランド連想やベネフィットは本当らしい」「このブランドなら実際に満たしてくれそうだ」と信じさせる根拠です。RTBがない連想は、接触回数を増やしても「よさそう」に留まりやすくなります。競合も同じ連想を語れるため、入口が立ち上がった瞬間に想起が割れ、順位が思うように上がって行きません。一方で、RTBがある連想は、接触するほど「そのブランドらしさ」として記憶に固定され、入口が立ち上がった瞬間の立ち上がり速度と確信度が上がって行きます。結果として、想起集合の中で順位を押し上げてくれます。

一点だけ注意してほしいのは、強めるべきブランド連想は、ただ購入CEPsに対応していればよいのではない、ということです。「購入CEPsに対応していること」に加えて、「自社独自のRTBに立脚できること」が条件になります。言い換えると、入口に刺さっていてもRTBで支えられない連想は、深さをつくれません。逆に、RTBで支えられる連想に絞り、それを入口に強く接続していけば、想起順位は上がりやすくなります。

この順序にすると、現場でありがちな「刺さりそうな言葉を足し算する」「いろいろな便益を並べる」といったブレを減らすことができます。入口、連想、自社独自のRTBが一本線でつながるからです。POPで候補に残り、PODで選ばれ、POFを潰し、その全体をRTBが支える、と整理すると理解しやすいかもしれません。

また、RTBは便宜上、2つに整理するとわかりやすくなります。

一つは性能RTB(Performance RTB)です。「本当に効く」「本当に解決できる」を信じさせる根拠です。成分、メカニズム、試験、データ、専門家推奨、特許などがこれにあたります。例えば、「手早くつくれる」という連想に対して、「電子レンジで三分」「カット済み・味付け済みで加熱するだけ」が性能RTBになります。

もう一つは信頼RTB(Trust RTB)です。「外さない」「安心できる」を信じさせる根拠です。長い歴史、シェア、定番性、企業の格、実績、顧客基盤などがこれにあたります。例えば、「安心できる」という連想に対して、「医師監修」「長年の実績」「利用者数の多さ」が信頼RTBとして働きます。

重要なのは、入口に対応する連想と、その連想を支えるRTBが一本線でつながっていることです。この一本線ができてはじめて、想起の深さは持続可能な強みに変わります。POPは候補に残るための土台であり、PODは第一想起を押し上げる差異であり、POFは候補落ちを招く不安要因です。そしてRTBは、その3つのうち特にPOPとPODを「本当らしい」と信じさせ、POFを相対的に弱める役割を果たします。だから、第一想起を獲るための実務では、入口、ブランド連想、POX、RTBを切り離さず、一つの設計として扱う必要があります。

13. 最寄り品と買回り品・専門品で、第一想起の取り方は変わる

ここまで、第一想起の設計は「目的CEPs→カテゴリー想起→購入CEPs→想起集合/第一想起→購入」という一本線で整理できることを解説してきました。ただし、すべてのカテゴリーが同じ速度でこの一本線を進むわけではありません。特に重要なのは、最寄り品と買回り品・専門品では、想起集合と第一想起のつくられ方、そして勝敗の決まり方が大きく違うという点です。

最寄り品は「目的CEPs→想起集合」が一瞬で起こる(先ほど解説したことのおさらいです)

最寄り品の購買はチョッパヤ(超速い)です。生活者が在庫切れや日常の用事といった目的CEPsに触れた瞬間、カテゴリーの検討や購入CEPsの言語化がほとんど起こらないほど短縮され、想起集合が一瞬で立ち上がり、そのまま購入に至ることがほとんどです。ここでの競争は、深い比較検討ではなく、椅子取りゲームに近いイメージとなります。まず椅子に座れる候補、すなわち想起集合に入っていることが最低条件になります。

なぜなら、最寄り品では上位の想起集合に入っている複数ブランドの間で、一定のバラエティーシーキングが起きるからです。生活者は「いつも同じものを買う」と言いながらも、実際には「だいたいこのあたりの中から買う」を繰り返しています。だから想起集合に入っていれば、一定確率で椅子に座ることができます(何回かに1回買ってもらえる)。

しかし、椅子取りゲームで高い確率で勝つには、ただ椅子の近くにいるだけでは足りません。指定席の確率を上げる、すなわち第一想起ポジションを取っておくことが大事です。なぜなら、第一想起ブランドは、想起集合が小さいほどそのまま選ばれやすく、買い物が速いほどその傾向は強まるからです。

【図M:最寄り品における椅子取りゲームのイメージ】

ただし、最寄り品で売上を伸ばす王道は、「特定の入口で第一想起を取る」ことより先に、「想起される入口の数を増やし、複数の目的CEPsで想起集合に入り続けること」にあります。最寄り品では、入口の数だけ椅子が存在します。椅子の近くにいる確率を増やす、すなわち想起集合入りする入口を増やすことが、浸透率を押し上げ、買われる母数をつくります。

そのうえで第一想起は、入口ごとの勝率を上げるレバーとして位置づけるのが正しい理解です。多くの入口で想起集合に入り、一定確率で椅子に座れる状態をつくったうえで、特に重要な入口では第一想起を取りにいく。こうすることで、バラエティーシーキングの中でも自社がメイン利用として選ばれる確率が上がり、取りこぼしを減らすことができます。

さらに市場シェア2位以下のチャレンジャーやフォロワーにとって現実的なのは、ここからもう一歩踏み込んだやり方です。つまり、すべての入口を広げきるのではなく、勝てるオケージョン条件やニーズ条件を選び、その場面・条件で第一想起を取りにいくことです(先ほどのシュミテクトの例です)。上位ブランドが強い最大入口で正面衝突するのではなく、自社がベネフィットとRTBで優位をつくれる場面・条件に照準を合わせ、そこで「この入口ならこのブランド」という指定席の確率を引き上げるのです。

買回り品・専門品は「本戦の前に予選がある」

一方、買回り品や専門品は、購買の速度も距離も違います。目的CEPsが起きたあと、カテゴリー想起が立ち上がり、購入CEPsが定まり、想起集合と第一想起が形成されたうえで、情報探索と丁寧な比較検討が始まり、購入に至ります。このカテゴリーでは、初期段階でのブランド想起がそのまま購入に直行することは多くありません。だからこそ、購買局面でのブランド想起がより重要になります。

なお、このタイプのカテゴリーでは、「想起集合に入っていなかったブランドが、比較局面で後から候補に流入する(横入りが発生する)」ことが起こります。例えばドライヤーを買おうと考え、当初は第一想起、第二想起のブランドを中心にAmazonで比較していたとしても、スポンサープロダクト広告、検索結果、価格の手頃さ、クーポン、レビュー、配送速度などをきっかけに、「そういえばこのブランドもあったな」という助成想起が起き、新たな候補として比較の土俵に入ってくるケースがあります。

ただし、比較局面で後発流入(横入り)が起こるとしても、最初から想起集合に入り、しかも第一想起を取っているブランドのほうが、依然として有利なことに変わりはありません(買回品や専門品における想起順位ごとの購入率は、第一想起ブランドが圧倒的に高いことはデータが証明しています。購入率は第一想起→第二想起でかなり大きく下落します)。高関与商材や比較商材では、後半ZMOT(Zero Moment of Truthの後半)やフィジカルアベイラビリティ、価格、レビュー、在庫、配送、比較表での見え方などが、候補の増減を発生させます。したがって実務上は、純粋想起の獲得を主戦場としつつ、比較局面で後発流入してきたブランドにも負けないよう、最終検討段階の設計まで含めて考える必要があります。

ここで誤解してはならないのは、買回り品や専門品では「比較検討がすべてだ」ということではありません。比較検討という本戦に入った時点で、生活者はすでにスタートラインを越えており、その勝敗の多くは本戦に入る前にほぼついている、と考える方が妥当です。

【図N:予選と本戦の関係イメージ】

【図注】図中の人アイコンは生活者そのものではなく、生活者の頭の中でのブランドの想起順位を模式的に表しています。左側の「ニーズ潜在期/そのうち客期間(予選)」で想起順位が高いほど、右側の「ニーズ顕在期/いますぐ客期間(本戦)」の比較検討開始時点で有利な位置からスタートしやすい

ここで鍵になるのが「そのうち客期間」の長さです。買回り品・専門品では、生活者が日常的にカテゴリーを考えている時間はほとんどありません。しかし、買い替えのタイミングは、いずれ必ず来きます。たとえばエアコンの場合、平均的な買い替え期間は13年程度と言われます(ダイキン工業 広告宣伝グループ長 片山義丈さん談)。

つまり生活者は、13年間、基本的には「誰もエアコンのことを考えない」状態で暮らしています。でも、この期間こそが予選です。予選とは、生活者が今すぐ買う気はないが、マーケティングコミュニケーションによって、入口とブランド連想の接続が少しずつ積み上がり、想起順位がじわじわ変化する時間です。

予選で順位を上げておくと、本戦のスタートラインが押し上がります。故障や引っ越しなどの強い目的CEPsが起きた瞬間、生活者は一見一斉に走り出すように見えますが、実際には全員が同じ位置からスタートするわけではありません。予選で上位に入っていたブランドは、有利な位置から本戦を始められます。比較検討の最中にネガティブな口コミに触れたとしても、第一想起ブランドに対しては感情ヒューリスティックが働き、速度が落ちにくい。結果として、そのままゴールテープを切る(買ってもらえる)確率が高くなります。

14. まとめ

本記事では、第一想起を「結果」や「運」から切り離し、設計可能な対象として捉え直すためのOSを解説しました。

第一想起の地図の基本形は、目的CEPs → カテゴリー想起 → 購入CEPs → 想起集合 → 第一想起 → 購入です。

ただし現実には、この基本形の前にカテゴリー間トーナメントが入ることがあります。というか、ほとんどの場合、特定カテゴリーにおける想起集合競争の前にカテゴリー間競争が発生します。

また、ブランド想起は一段階の現象ではなく、初期段階でのブランド想起と購買局面でのブランド想起の二段階で起きています。強いブランドや習慣購買では、この二つがほぼ重なり、目的CEPsから第一想起へ直行して見えます。が、これは一般消費財やかなり強いブランドに見られる特徴なので、すべての企業が狙えるポジションではありません。市場シェア2位以下のチャレンジャーやフォロワーは、シュミテクトのように、まずは特定セグメント(特定CEPs)での想起順位を上げ、できれば第一想起を取る。それができたら隣のCEPsへ領土を広げる手が現実的な選択だと思います。

CEPs設計には幅と深さがあります。幅とは、どれだけ多くの入口で照合されるかであり、深さとは、その入口でどれだけ確実に、どれだけ上位で想起されるかです。実務では、入口を特定し、絞り、固定することが必要になります。そして深さを決めるのは、入口とブランド連想の接続強度です。さらにその接続を揺るがせないためにRTBが必要になります。入口、連想、RTBが一本線でつながっていること。これが第一想起を獲得する条件です。

最寄り品と買回り品・専門品で違うのは、OSそのものではありません。同じOSの中で、どこが短縮されやすく、どこが明示的に現れやすいかの違いです。最寄り品では、幅を広げ、重要入口で勝率を上げることが重要。買回り品・専門品では、購買局面で勝てる連想とRTBを設計し、本戦の前から有利なスタートラインを取っておくことが重要。

以上を踏まえ、みなさんにとっての(競合とは違う)第一想起戦略が描かれることを願っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!(お疲れ様でした!)

あわせて読みたい

===

トライバルメディアハウスでは、こうした実効性のあるCEP・CEPs(カテゴリーエントリーポイント)や第一想起戦略を策定し、実行、効果測定、改善までを伴走するPMO支援をしています。

「第一想起の地図」講義・社内研修

本記事の内容を、講義や社内研修サービスとして提供しています。社内の共通言語を作って本テーマを爆速で進めたい方はぜひ声をかけてください。自分で言うのもなんですが、満足度バリ高です。期待は裏切りません。

第一想起獲得ワークショップ

ワークショッププログラムも提供しています。聴くだけじゃなく、参加者自らが頭を手を動かし、実践的なスキルを身に着けたい! または、明日から取り組めるチーム総意の戦略の方向性を一気に作ってしまいたい! という方はこちらがお勧めです。

第一想起獲得戦略コンサルティング

自社が狙うべきCEP・CEPs(カテゴリーエントリーポイント)の探索や特定、想起集合や第一想起の競争状況(順位)、ブランド連想、POX(POP/POD)、RTBの刺さり具合などの調査をしっかりやった上で、きっちり戦略を組み立てたい方には、プロフェッショナルによるコンサルティングサービスを提供しています。利害関係の異なる他部署や上長も巻き込み(絵に描いた餅で終わらない)実行に移せる戦略を一緒に作り上げます。

戦略コンサルタント募集|トライバルメディアハウス

これらのプロフェッショナルサービスを池田と共に顧客(クライアント)へ提供する戦略コンサルタントを募集しています。AIに駆逐されない高度なスキルを身に着け、クライアントのビジネスを成長させることにコミットしたい方はご連絡ください。この世からマーケティングの失敗をなくしましょう。

===

本記事の内容をより深く学びたい方はこちらの書籍もお勧めです。

===

大好きなマーケティング業界の発展に資するため、体系的なマーケティングが【無料で】学べるMARPS(マープス)を運営しています。◯◯や▢▢で受講料2万円や3万円する良質な講義が【無料で】受講できます。豪華ゲスト多数。過去講義約100本超。会員8,500人突破。受講満足度95.1%です。自分で言うのもなんですが、受講しなきゃ損です。

体型的なマーケティングが無料で学べるMARPS(マープス)

===

続きはこちらで!(フォローしてね♡)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集