褥瘡予防の"正解"はどこ?─回復期で悩んでいる薬剤師の独り言
最近、褥瘡の「治療」だけでなく
「予防管理」にも本格的に関わるようになりました。
認定薬剤師として何年か現場にいて
それなりに経験を積んできたつもりだったのに、
予防管理の世界に一歩踏み込んでみたら、
毎日のように小さな"引っかかり"が出てきます。
答えがすぐ出るものでもなく、
誰かに聞けば解決するものでもなく、
なんとなくモヤモヤしたまま1日が終わる。
そんな日々を過ごしながら、
ふと「これって私だけが悩んでいるんだろうか」と思ったので、
今日はその引っかかりを、そのまま書いてみようと思います。
結論はありません。
学びもないかもしれません。
むしろこの記事は、答えを教えてもらうために書いているので、
一緒に悩みながら読んでいただけると嬉しいです。
──そして実は、この記事を書いてから半年。
私は同じ「褥瘡」というテーマで、いくつかの記事を書いてきました。今これを読んでくれているあなたが、たまたまどこかから流れ着いてきたのなら、まず自分の状況に合った1本から読んでもらえると嬉しいです。リンクを貼っておくので、覗いてみてください。
📑 褥瘡シリーズ
🌱 「これから褥瘡を学びたい・苦手意識を減らしたい薬剤師さん」へ
🧪 「成分は合っているはずなのに治らない…と感じている方」へ
👩⚕️ 「看護師さんとの連携で困っている薬剤師さん」へ
💭 「認定を取った後、何が変わったのか知りたい方」へ
🏠 「現場のリアルなストーリーを読みたい方」へ
📘 【完結編・有料】ユーパスタとカデックスの使い分けを実例とテンプレで深く学びたい方
それでは、今回の「予防管理での独り言」、ここから始めます👇
■ OHスケール×マット分類の前提共有
少しだけ前提の話をさせてください。
勤務先では褥瘡の予防管理に OHスケール を使っています。
ご存じの方も多いと思いますが、
簡単に触れておくと、
OHスケールは以下の4項目を点数化して
褥瘡発生リスクを評価するツールです(※1)。
自力体位変換能力
病的骨突出
浮腫
関節拘縮
合計点でリスクを「軽度」「中等度」「高度」に分類し、
そのリスクレベルに応じて
推奨されるマットレスの種類が決まる
──というのが基本的な流れです。
(※1)
大浦武彦, 堀田由浩. 日本人の褥瘡危険要因「OHスケール」による褥瘡予防. 日総研出版, 2005.
日本褥瘡学会の褥瘡予防・管理ガイドラインでも推奨度C1で記載されています。
たとえば高度リスクであれば高機能エアマット、
中等度なら静止型マット、
軽度ならレギュラ-マット、
といった具合に。

施設によって違いはあると思いますが、参考までに。
シンプルで、現場で使いやすくて、
評価する人による差が比較的出にくい。
だからこそ多くの病院・施設で採用されているのだと思います。
勤務先でもこの仕組みに沿って、
毎月のように評価とマット選定が行われています。
──ただ、最近、その「沿って」のところで、
モヤモヤすることが増えてきたんです。
■ 推奨通りにいかない現実
たとえば、こんな場面があります。

シーン1:在庫の限界
OHスケールでは高度リスクと評価された患者さん。
本来なら高機能エアマットを使いたい。
でも、その日エアマットレスは在庫が出払っていて、
静止型で対応せざるを得ない。
あるいは、エアマットレスは確保できたけれど、
機種によって体圧分散の特性は微妙に違う。
「推奨ランクのマット」と一言で言っても、
現場で実際に手に入るものは、
その日その時で変わることがあります。
シーン2:点数と現場の感覚のズレ
OHスケールは軽度〜中等度と出ているのに、
肌を見ると仙骨部がうっすら赤い。
逆に、高度リスクと出ているのに、
ご本人は意外と自力で姿勢を変えていて、皮膚もきれい。
点数評価はあってるけど、
点数だけでは拾いきれない"何か"が、
確実に患者さんの上に乗っている。
看護師さんが
「なんかこの人、気になるんですよね」
と言う、あの感覚。
シーン3:評価とマット交換のタイミングずれ
勤務先ではOHスケールの再評価は月1回が基本です。
それ以外は、状態が変わったタイミングで
「マット、換えたほうがいいよね」と現場判断で動くことが多い。
このやり方自体は、実情に合っていると思います。
毎日全員を再評価するのは現実的ではないし、
現場の感覚で動ける柔軟さは、むしろ強みでもある。
でも、月1回の評価のあいだに、
患者さんの状態は静かに動いています。
リハが進んで自力で姿勢を変えられるようになった人、
逆に発熱や食事量低下でぐっと動けなくなった人。
"現場判断で気づける変化"と、
"気づきにくい変化"がどうしても出てきます。
──気づきにくい変化のほうに、
褥瘡のリスクは潜んでいる気がするんです。
これ、書いていて改めて思うんですが、
どれも「誰かが悪い」わけではないんですよね。
在庫には限りがあるし、
OHスケールは万能ではないし、
現場のスピードは速い。
みんな一生懸命やっていて、
その上で起きている"ズレ"です。
でも、ズレが起きている時、患者さんの皮膚は待ってくれない。
──じゃあ、その時、薬剤師は何ができるんだろう。
■ 私が引っかかっていること
ここからが、最近いちばん引っかかっていることです。
推奨されるマットが使えない時
──たとえばエアマットレスが望ましいけれど、
その日はウレタンフォームで対応する時。
あるいは、月1回の評価のあいだで、
患者さんの状態が静かに動いている時。
マットの力だけに頼れない場面で、
薬剤師として何ができるんだろう、
と考えるようになりました。
思いつくことは、いくつかあります。
体動を妨げているかもしれない薬剤(鎮静薬・抗精神病薬・睡眠薬)の見直しを処方医に相談する
ステロイドを使っている患者さんでは、皮膚の脆弱性を頭の片隅に置いて、医師に「この患者さん、ステロイド減量って今後検討する予定はありますか?」と聞いてみる
浮腫を増やす/減らす方向に効いている利尿薬の効き方を、もう一度見る
栄養状態に影響している薬剤・補助食品の使い方を、管理栄養士と一緒に整理する
疼痛コントロールを見直して、体位変換が許容できる状態に近づける
排泄関連の薬剤を調整して、オムツ内の湿潤環境を少しでも整える
……書き出してみると、それなりにあります。
でも、正直に言うと、これで足りているのか、
自分でもよく分からないんです。
ひとつひとつは確かに予防管理に関係している。
でも、推奨より低いランクのマットを使わざるを得ない患者さんを目の前にした時、これらを"全部やれば大丈夫"とは、まだ言いきれない。
それに──ここも正直に書いてしまうと、
この6項目を全員の患者さんに毎日考えていたら、
たぶん他の仕事が回りません。
病棟業務と並行している中で、
「全員に全部やる」は現実的じゃない。
だから、本当はどこかに優先順位や
"見極めの目"が要るんだと思います。
でも、その優先順位を、
私はまだ自分の中で言語化できていません。
もっと根本的に、
薬剤師にしかできない予防管理のアプローチが、
別の角度で存在するんじゃないか。
そんな気がして、最近ずっとグルグルと考えています。
■ 私がいま、ちらっと見ているもの
答えが出ていない中で、それでも自分なりに「ここは見ておこう」と思っているポイントが、いくつかあります。
★体動と薬の影響
ひとつは、患者さんの"体の動かしにくさ"の中に、
薬の影響がどれくらい混じっているか。
ベッド上で姿勢を変えにくそうにしている患者さんを見ると、
「もともとの筋力・関節の問題なのか」
「眠気や倦怠感が乗っかっているのか」
を、薬のリストと照らし合わせて見るようになりました。
眠剤が多めに入っている人、
抗精神病薬を新しく開始した人、
痛みのコントロールが過剰寄りになっている人。
"動けなさ"の中に薬の影が混じっている時、
そこは私が関与できる余地のある領域です。
★皮膚と栄養と薬
もうひとつは、皮膚と栄養と薬の、三者の関係。
アルブミンが低い、亜鉛が低い、食事が入っていない
──こういう情報は、看護記録や栄養士の記録に書かれています。
それを見て
「あ、皮膚が脆くなる方向に向かっているな」
と思った時、
自分の管理している薬の中に、
栄養吸収や代謝に影響しているものがないか、
ざっと見直すようにしています。
★自分で動ける時間帯は?
そして最後に、
患者さんが"自分で動ける時間帯"がいつか。
朝の覚醒が良い人なのか、
夕方にぐっと活気が落ちる人なのか。
それは薬の効き方とも連動していて、
体位変換の負担を減らせる時間帯のヒントになることがあります。
リハの時間と薬の効果ピークが噛み合っていない時は、
それだけで体動量が変わる気がします。
──どれも、まだ"気がする"の段階です。
でも、点数や推奨ランクの外側で、
こういう"気配"を見ているのが、
いまの私の現在地です。
教えてください:4職種への問い
ここまで書いてきて、最後にひとつだけ。
私は薬剤師という立場で、薬の側から褥瘡予防を見ています。
でも、予防管理って薬の話だけで完結するものじゃないことは、
毎日現場にいて痛感しています。
もし他職種のみなさんが、
それぞれの目線でこの記事を読んでくださっていたら、
どこかひとつでも
「自分ならこう見るかな」という部分があるかもしれません。
もし思い当たることがあれば、
コメントでも、
心の中の独り言でもいいので、
ちょっとだけ覗かせてもらえたら嬉しいです。

WOCナースのみなさんへ
OHスケールの点数の外側で、
なんとなく見ているもの。
「この人は点数より高リスクかも」
「この人は意外と大丈夫そう」
と感じる瞬間が、きっとあると思うんです。
その"なんとなく"の中身を、
もし言葉にできそうな部分があれば、
教えてもらえたら嬉しいです。
リハ職(PT・OT)のみなさんへ
ポジショニングや体位変換の判断、
たぶん毎日たくさんの情報を統合して
決めていらっしゃると思います。
そのプロセスの中で、薬剤師に
「こういう情報があると助かる」
「こういう声かけが嬉しい」
と感じる瞬間があれば、少しだけ覗かせてください。
管理栄養士のみなさんへ
褥瘡予防の文脈での栄養状態の見方。
アルブミン・亜鉛・エネルギー・たんぱく質
─どれも大事だと分かっていても、
現場ではどこから手をつけるのか。
普段の判断の入り口を、ちらっと教えてもらえたら嬉しいです。
看護師のみなさんへ
日々の観察の中で
「あ、この人ちょっと気になる」と感じる瞬間。
月1回の評価のあいだに状態が動いていく時、
最初に気づいてくださるのはたいてい看護師さんです。
その小さな"気づき"を、
私たち薬剤師がどう受け取れたらいいのか
──もし考えたことがあれば、聞かせてください。
そして、もうひとつだけ。
この記事を読んで、何か思ったことがあったら
──私のところにコメントを残してくださっても嬉しいのですが、それ以上に、ご自身の施設で褥瘡予防に関わっている薬剤師さんに、ぜひ話しかけてみてほしいんです。
「ねえ、褥瘡予防のことで聞いてみたいんだけど」
って、一言かけてもらえるだけで、
その薬剤師さんはきっと、すごく嬉しい。
私自身がそうだから、よく分かります。
褥瘡予防に関わっている薬剤師は、まだ多くありません。
だからこそ、声をかけてもらえるだけで、
現場が少しずつ動き始めます。
この記事が、その小さな会話のきっかけになれたら、
それがいちばん嬉しいです。
■ "推奨通りにいかない"を抱えながら
結局、いまの私にできるのは、
推奨通りにいかない現実を「悪いもの」として扱わず、
その中で薬剤師として何ができるかを、
毎日少しずつ考え続けることなのかもしれません。
ガイドラインは大事です。
OHスケールも、推奨マットの分類も、
現場が積み重ねてきた知恵の結晶だと思っています。
でも、現場にはガイドラインに書かれていない要素がたくさんあります。
在庫、人手、患者さんの個別性、評価のタイミング
──現場は予測しきれない小さな要素だらけです。
その"あいだ"で悩みながら考えるのが、
たぶん私たちの仕事の本質なんだろうな、と最近思います。
悩んでいることを、悪いことだと思わずにいたい。
今は、悩んだまま、考え続けたいと思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
結論のない記事に最後までお付き合いいただいて、
申し訳ない気持ちと、
嬉しい気持ちが半分です。
もし何か思うことがあれば、
コメントでも、ご自身の施設での会話でも、
どこかで小さく動き出してくれたら、
それだけで私は十分です。
次は、今日書いた薬剤リストの中から、
ひとつずつ「実際の現場でどう動いているか」を掘り下げてみようかなと思っています。鎮静薬・抗精神病薬のあたりから、また書いてみるつもりです。
📌 また、リハ薬剤の視点では「【腎機能別】薬剤調整リスト14個」も保存版として公開予定です。褥瘡と腎機能、一見遠そうで実は地続きの話、両方をお届けしていきます。
▼この記事の余韻と一緒に読んでほしい
▶ リハと薬の話に視点を広げたい方へ
▶ 「認定を取ったあと、何が変わったか」というキャリアの話を読みたい方へ
▶ もう一度、褥瘡シリーズの全体地図に戻りたい方へ
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