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成分は合っているのに褥瘡が治らない? 薬剤師を救う「5つの質問」と基剤の罠

「感染期だからゲーベン。でも、一向に良くならない…」
 「肉芽形成期だからプロスタンディン。なのに、逆に悪化した…」
処方箋通りの薬を使っているのに、なぜか褥瘡が治らない。現場でそんな壁にぶつかったことはありませんか?

前回は、褥瘡外用薬を「5つの役割」で整理する方法をお伝えしました。
しかし、役割を見極めるのはあくまで「入り口」に過ぎません。
なぜ、役割(成分)は合っているのに治らないのか?
実は、その答えは外用薬のチューブに書かれた「%」に隠されています。


チューブに書いてある商品名をみて、気づいたことはありませんか?

・アクトシン軟膏3%
・プロスタンディン軟膏0.003%
・ゲーベンクリーム1%

主薬(有効成分)の含有量って、実は数%前後のものがほとんどです。
残りはなにかーそう、「基剤」です。
つまり薬の土台となるものが外用薬のほとんどを占めています。

それなのに、わたしたちは「ゲーベン…てことは、感染している?」
と主薬のことだけを考えていませんか?

外用薬の土台(基剤)のことを、考えなくていいわけがありません。
創の状態に合わない基剤を使い続けていると、
たとえ主薬が正解だったとしても治療はうまくいきません。


では、基剤のことを考えるときに何を見ればいいのでしょう。

答えはひとつー「創の水分量(湿潤環境)」です。

褥瘡の評価ツールである「DESIGN-R」や、
治癒過程の考え方である「TIME理論」。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、実はわたしが現場で一番見ているのは、どちらも「滲出液(水分量)」の項目です。

この記事では、基剤の3タイプ(水溶性・乳剤性・油脂性)を整理して、
褥瘡を評価するときに用いる「DESIGN-Rの”e(滲出液)”」と、
褥瘡治癒過程の考え方である「TIME理論の”M(湿潤環境)”」という
2つの軸で、「基剤の選び方」の入口をお伝えします。

薬局や病棟で、今日からちょっと視点が変わるかもしれません。
処方箋をうけとったとき、
軟膏の「効能」ではなく「基剤の性質」が頭に浮かぶようになったら
…そんな自分を、少し想像してみてください。



1.成分より大事なのに、誰も教えてくれなかった「基剤」の話

外用薬って、つい「主薬(有効成分)」を見てしまいませんか?
褥瘡に関しては、ここをいったん逆にして考えたほうがうまくいきます。

主薬は「点」、基剤は「面」
主薬が動ける環境をつくるのが、基剤の役割です。

なんで逆にして考えるの?

そう思ったあなた…鋭いです!
考えてみて下さい!一つの外用薬の、95%以上が基剤なんですよ!
基剤のことを考えなくていいわけがありません。

褥瘡における基剤の役割は、難しく考える必要はありません。
現場の感覚で言えば、大きくこの3つに分かれます。


① 「ジュクジュク」を吸い取る:マクロゴール基剤(吸水)

 代表薬:ユーパスタ、カデックス軟膏、アクトシン軟膏など 

滲出液が多くて創面がジュクジュクしているとき。
ドレッシング材もすぐ剥がれてしまうような状態のときに強いのが、この「吸水」タイプです。ここでのポイントは超シンプル。

「この薬は水を吸えるのか?」

これを知っているだけで、処方された意図がパッと理解できます。


② 「カサカサ」に潤いを与える:乳剤性基剤 / クリーム剤(補水・適度な保湿) 

代表薬:ゲーベンクリーム、オルセノン軟膏、ソルコセリル軟膏など 

水分を補いたい(O/W型)、あるいは適度に保護したい(W/O型)ときに使うのがクリーム系の基剤です。
「クリーム=全部同じ」ではありません。
水分を外側か、油分を外側かで“仕事”が違います
ここを理解できると、一気に臨床のプロっぽくなります。


③ 「カラカラ・スレ」から守る:油脂性基剤(強力な保護) 

代表薬:プロスタンディン軟膏、アズノール軟膏など 

乾燥してカラカラの創、こすれて悪化しそうな創。
こういう場面では、ワセリンなどの油の膜で「強力にフタをして守る力(保護・閉塞性)」が効いてきます。
ただし要注意! 滲出液が多い(ジュクジュク)段階でこの“強力なフタ”を使ってしまうと、創の中で水分が溜まりすぎて大惨事になります。

処方箋を受け取ったとき、最初に見るべきは成分の薬効ではありません。

「この創は今、水分を『吸う』べきか、『補う』べきか、
それとも『守る(フタをする)』べきか?」

この問いが立てられるようになると、次の章でお話しする
「DESIGN-Rの“e”」と「TIME理論の“M”」という用語が、
一気に明日から使える武器へとつながっていきます。


2.「創の水分量」をどう評価する?——薬剤師の"推理"

褥瘡外用薬で迷ったとき、まっさきに考えることはこれです。

「この創、いま"湿りすぎ"? それとも"乾きすぎ"?」

前章で「基剤は、吸う/補う/守る」と整理しました。
どれを選ぶか、その決め手になるのが「創の水分量」です。


2-1|病院薬剤師は「見て」判断し、薬局薬剤師は「推理」する 

病院なら、創を見に行けます。
でも薬局薬剤師は「毎回創を見られる」わけじゃない。カルテも見えない。

だから戦い方を変えます

創を見られない分、情報を集めて"推理"するんです。
この「推理の型」を一つ持っているだけで、介入の質がぐっと変わります。


2-2|処方箋から「仮説」を立てる(ここが薬剤師の腕の見せ所)

カルテがなくても、目の前には「処方箋」があります。
ここで、前章の基剤の知識を使います。
例えば、この2つの薬が処方されたら、何を疑いますか?

仮説の立て方―例

例①:ユーパスタ(吸う=水溶性基剤)が出た 
「水分を吸い取る薬が出たということは、
滲出液が多くてジュクジュク(湿りすぎ)の可能性が高いぞ」
という仮説が立ちます。 

例②:プロスタンディン軟膏(守る・フタする=油脂性基剤)が出た 
「油で強力にフタをする薬が出たということは、
創がカラカラに乾燥(乾きすぎ)していて、保護したいのかも?」
という仮説が立ちます。

そして、ここからが重要です。
この仮説をもとに窓口で患者さんやご家族と話をしたとき、
もしこう言われたらどうでしょう。

「ガーゼが張り付いて、剝がすときに痛がってるんです。」

そして、この時処方されていたのがユーパスタだったら?

「あれ?創が乾燥しているのに
『水分を吸い取る薬(ユーパスタ)』が処方されているぞ?」

となりませんか?
ここで初めて、処方箋の意図と実際の創の状態がズレている「基剤のミスマッチ」の可能性に気づくことができます。

処方の意図は断定できませんが、基礎の知識から「仮説」は立てられます。この答え合わせをするために、次の「質問」を活用していきましょう。


2-3|薬剤師が「水分量(e/E)」を推理する"5つの質問テンプレ" 

仮説を立てたら、窓口に来たご家族や、電話越しの訪問看護師さんに、次の質問をぶつけて「答え合わせ」をします。

どうですか?
この5つを聞き出すだけで、カルテがなくても「湿りすぎ/乾きすぎ」の方向がはっきりと見えてきませんか?


2-4|DESIGN-Rの「e」と TIMEの「M」で基剤に落としこむ 

ここで、前項の質問テンプレの「種明かし」をさせてください。

実は、最初の「ガーゼ(またはパッド)は、どれくらいの頻度で交換していますか?」という何気ない質問。
これを聞いた時点で、すでにプロの専門的なアセスメントができています。

理由は、褥瘡の評価ツールである「DESIGN-R®2020」で、
滲出液(e/E)の項目は、「ドレッシング材の交換回数」
で明確に定義されているからです。

つまり、「DESIGN-Rのe/E」や、TIME理論の「M(湿潤バランス)」
といった難しそうな専門用語も、
日常会話を通じた推理で十分に評価できるんです。

推理の結果、 

湿りすぎ(e/Eが高そう)
→ まず「吸う」基剤が合っている(例:ユーパスタ)

 乾きすぎ(e/Eが低そう)
→ まず「補う・守る」基剤が合っている(例:プロスタンディン等)

 と判断できます。

「見えないから何も言えない」ではありません。
見えないからこそ、プロの推理で勝負する

これがカルテをみることのできない薬剤師の強みです。

……しかし。 現場では、この「水分量の推理」を誤り、あるいは基剤の特性を無視した結果、取り返しのつかない悲劇が起こることがあります。
次は、実際に起きた「基剤ミスマッチが起こす悪化事例」を紹介します。


3.【わたしの失敗事例】ジュクジュク創にプロスタンディン軟膏—主薬は正解、でも治らない

※個人が特定されないよう、複数ケースをもとに再構成しています。


3-1|やらかしの始まりは、自信満々だった

正直に言います。
褥瘡について学び始めて、看護師さんから処置に呼んでもらえるようになりました。
あのときのわたし、けっこう自信があったんです。

「肉芽を育てたい」 「血流を良くして、治したい」

呼んでもらった回診で創を見て、
うんうんと頷いて、プロスタンディン軟膏を提案しました。
頭の中では、こう思っていました。

「これは"治りかけ"フェーズ。よし、任せろ」

…やらかしました。
褥瘡って、"治りかけ"の皮をかぶった「湿りすぎ」が普通にあるんです。
そこをまるっと見落としていました。

第1章で書きましたよね。 外用薬は「成分」だけじゃない。
基剤が9割以上です。
そして第2章でもう一歩踏み込みました。
基剤は、まず 吸う/補う/守る のどれをやりたいか。
このケースは、ここから見事に失敗に突き進みます。


3-2|数日後、看護師さんの"あの顔"

…数日後。
看護師さんが、微妙な顔(しかも不機嫌な感じ)でやってきました。

「ねぇちょっと!……ガーゼ交換、増えたんだけど!」 
「なんか、前よりベタつくし、においも気になるかも」
 「周りの皮膚が、白くふやけてきた気がします」

このとき、わたしの頭をよぎった言い訳がこれです。

「薬が効いてきて、滲出液が増えてる段階なのかも?」

…ちがいました。全然ちがいました。
これは、"閉じ込め"のサインだったんです


3-3|基剤の視点で、何が起きていたのか

プロスタンディン軟膏は、添加剤(基剤)が「ゲル化炭化水素(基剤)」と記載されています。
つまり、"疎水性(油っぽい)側"の性格を持つ製剤です。
油脂性基剤の特性について、実践的な文献にはこう書かれています。

油脂性基剤は油分のみからなり水と混じらず、滲出液を吸収することなく創面上に保持し、強い被覆・保護作用を示す。 一方、多量の滲出液がある状態でこれらを厚く使用すると、創面や周囲皮膚が閉鎖環境となり、水分や熱がこもって皮膚の浸軟を招きやすく、適切な滲出液コントロールを行わない場合には感染リスクにも配慮が必要である。

(安藤善郎.これからの正しい創傷治療―湿潤療法の取り組み―.逓信医学.2015;67(3):186-196.より、創傷治療における浸出液管理および被覆材の条件に関する記載をもとに要約。)

はい、まさにこれです。
あのとき創の中で何が起きていたか、
「基剤の言葉」に翻訳するとこうなります。

"吸う"が必要な創に、自信満々で"守る"を乗せていた。

主薬(プロスタンディン軟膏の成分:アルプロスタジル)がどうこう以前に、土台(基剤)が創の状態に合っていなかった。
「効く薬を置いたつもり」でも治らないーむしろ悪化。
これ、カルテが見れてもやりました。わたしが証拠です。


3-4|「あの質問」さえしていれば、防げた悲劇だった

病院にいれば、創を見に行けます。
でも、この悪化に最初に気づいたのは、
創を見た私ではなく、処置をした看護師さんの「言葉」でした。

「ガーゼ交換の頻度が増えた」
「すぐ漏れて服が汚れる」
「周囲皮膚が白くふやける(浸軟)」
「においが強くなった気がする」

……お気づきですか?
そう、これらはすべて、第2章でお伝えした「薬剤師が推理するための5つの質問テンプレ」の答えそのものです。

私は病院にいながら、創の「治りかけ」という見かけに騙され、
この最も重要なサインを見落としていました。

もしあの時、自分から看護師さんに「ガーゼ、すぐビショビショになりませんか?」と一声かけていれば、あの悪循環は防げたはずです。

カルテが見えようが見えまいが関係ありません。
「湿潤が崩れているサイン」は、
必ず患者さんや他職種の言葉の中に隠れている
のです。


3-5|主薬は100点、基剤は0点にならないために

主薬が正しそうに見えるときほど、
いったん「創は湿りすぎてないか?」に戻りましょう。

油脂性基剤は保護に強い一方、
滲出液が多いと最悪の「閉じ込め」を引き起こします。

アルプロスタジルという成分の選択は、間違っていませんでした。
しかし、「主薬は100点でも、基剤の選択が0点」であれば、
褥瘡治療はいとも簡単に崩壊します。

「効く薬を置いたつもり」でも治らない。
むしろ悪化させる。
この恐ろしさと、基剤選びの重要性が、少しでも伝わったでしょうか。


4.まとめ:水分コントロールの地図を手に入れよう

ここまで読んでくれたあなたが手に入れたのは、
「薬名の知識」じゃありません。

"創の水分量を見立てて、基剤でコントロールする"ための地図です。

現場で迷ったら、いつでもこの地図に戻ってきてください

主薬が合っていそうに見えるときほど、いったん「水分」に戻りましょう。

油脂性基剤は「水をはじき、滲出液を吸収しない」。
滲出液が多いと"閉じ込め(密封)"になり、感染や浸軟を起こしやすい——この視点が、悲劇を減らします。


おわりに

「基剤による水分コントロール」の全体像をお伝えしてきました。
しかし、きっとあなたは「次の壁」にぶつかります。

「同じ『吸う』薬であるユーパスタとカデックス。
結局、どっちを提案すればいい?」

患者さんや訪看さんから

「いつまで続ければいいの?」
「ガーゼがびっしょりだけど合ってる?」

と聞かれたとき。 ユーパスタもカデックスも、
どちらも「水を吸う(水溶性基剤)」の仲間です。
でも実は、

ユーパスタの水分吸収率が「約76%」に対し、
カデックスの水分吸収率は「約370%」!

と、圧倒的な差があるのをご存じでしたか?

この事実を知らないまま、
「どちらも水を吸う薬だから」
と曖昧に対応するのは、もうやめましょう。

「今の創にはどれくらいの吸水力が必要なのか?」
「どのタイミングで薬を切り替えるよう、医師に打診すべきか?」

ここから先は、抽象的な「地図」の話ではありません。
明日、あなたの目の前に来る処方箋に対して、
「具体的にどう考え、どう他職種に言葉を伝えるか」
という踏み込んだ領域(臨床判断)です。

知識を並べただけの教科書ではありません。
あなたが明日、現場で言葉に詰まらないための「実戦用台本」です。

現場での迷いをゼロにし、
他職種から「さすが」と頼られる薬剤師になりたい方は、
ぜひこちらでお待ちしています。


▶ 【第1話】外用薬の選び方・役割の整理から読みたい方はこちら

▶ 【第3話】ドレッシング材と軟膏の「やってはいけない組み合わせ」はこちら

▶ ユーパスタとカデックス、どっちを使う?現場での処方提案術(有料記事)

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