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「この薬でいいの?」と聞かれて言葉に詰まった、あの日の私へ贈る外用薬の選び方【認定褥瘡薬剤師が解説】

📋 これは「HONOの薬剤師ノート|褥瘡外用薬シリーズ」第1話です。
第2話:成分は合っているのに治らない?基剤の罠
第3話:ドレッシング材と外用薬の「やってはいけない」組み合わせワースト3

はじめに

病棟経験も積んで、少しずつ自信が出てきた頃のことです。
私はある褥瘡患者さんの担当になりました。
状態が良くならない中、担当の看護師さんからこんな相談を受けました。

「この薬、これでいいのかな?」

——答えられませんでした。
飲み薬なら「なぜ効くのか」をすらすら説明できるのに、
外用薬が褥瘡に効く「なぜ」を、考えたことすらなかったんです。
答えられない私に、その看護師さんはぽつりと言いました。

「……薬剤師だもんね、現場のことはわからないか」

めちゃくちゃ悔しかった。
この一言が、私が褥瘡に本気で向き合うようになったきっかけです。
それから経験を重ねていくうちに、あることに気づきました。

褥瘡の薬選びは、成分の暗記ではない。
創の「状態」に合わせた「役割」のバトンタッチだ。

少しでも同じような疑問や悔しさを感じたことがある方の力になれれば——そう思って、「なぜ褥瘡外用薬はこんなに種類があるのか」
——という疑問に、現場の病院薬剤師として答えていきます。

難しい理屈の話は後回し。
まずは種類が多い理由から整理していきましょう。



なぜ褥瘡の薬はこんなに種類が多いのか?

まず、結論からいいます。
褥瘡外用薬の種類がこんなに多い理由——それはシンプルです。

褥瘡は、治っていく過程で「顔」が変わり続けるから。

風邪薬や血圧の薬と違って、「これを使い続ければいい」という正解がありません。なぜなら、同じ患者さんの創でも、1週間前と今週とでは、まったく違う状態になっているからです。

最初は感染して膿んでいた創が、適切なケアを経て肉芽組織が育ちはじめ、やがて皮膚が再生(上皮化)していく——この「変化」に合わせて、使う薬も変えていく必要があります。

ざっくりイメージするとこんな流れです。

各ステージで「必要なこと」がこれだけ違う。
だから、薬も違ってくるんです。

ここで、薬剤師として大切にしてほしい視点があります。

褥瘡外用薬は、
「治す薬」ではなく「創が治ろうとする環境を整える薬」です。

「この薬がよく効く」ではなく、
「今この創には、何が必要か」——この問いから薬を選ぶ。

これが、褥瘡外用薬を使いこなすための一番の基本です。


褥瘡外用薬を「役割」で整理すると、5つだけ

【この章の結論】
薬の名前で覚えようとするから難しくなる。
「5つの役割」という軸を持てば、処方箋の意図が読めるようになる。

アクトシン、カデックス、ゲーベン、ユーパスタ、フィブラスト
——名前はなんとなく知っている。
でも、「なぜこの薬が選ばれているのか」まではわからない。

そういう方、けっこう多いと思います。私もそうでした。

名前で覚えようとするから、難しくなるんです。

「この薬は、創に何をしてくれるか」
役割で整理すると、たった5つに絞られます。

表を見て、気づくことはありませんか?

同じ薬が、複数の役割を担っています。
たとえばカデックス軟膏は①②③すべてに関わりますし、
ゲーベンクリームも②③で使われます。

「じゃあカデックスだけでいいじゃん」——そう思った方、鋭いです。
でも、単純に同じとはいえません。
その理由は、次で解説する「基剤(ベース)」と「作用機序」の違いにあります。

今回お伝えしたいのは、薬の名前ではなく「5つの役割」という軸です。

処方箋を見たとき、「この薬は④番、肉芽を育てる役割だな」と思えるようになる——それだけで、患者さんへの説明がまるで変わります。


なぜ「種類が多い」と感じるのか—本当の理由

【この章の結論】
①創の状態が変化するから(役割が違う)
②同じ役割でも基剤・作用機序が違うから。
この2つを知れば、処方の「意図」が読めるようになる

褥瘡外用薬の役割は5つに整理できるとお伝えしました。
「だったら、薬も5種類でいいじゃん」って思いませんか?

同じ役割なのに、なぜ複数の薬が存在するのか。
ここに、もう一つの「種類が多い理由」があります。


理由① 基剤が違う

薬の有効成分が同じでも、それを包む「基剤(ベース)」が違うと、創への働きかけがまったく変わります。

たとえば、同じ「上皮化を促す」役割の薬でも次のような違いがあります。

  • 軟膏タイプ:油分が多く、乾燥しやすい創を保護する

  • 水溶性基剤タイプ:滲出液を吸いながら有効成分を届ける

滲出液が多い創に油分の多い軟膏を使うと、滲出液が逃げられずに創が悪化することがあります。
逆に、乾燥した創に吸水性の高い基剤を使うと、創が乾きすぎてしまう。

有効成分だけでなく、基剤まで含めて「この創に合っているか」を判断する——これが褥瘡外用薬の選択です。


理由② 作用機序が違う

同じカテゴリに見えても、効果を発揮するメカニズムが違います。

「肉芽形成を促す」薬だけでも、こんなに違います。

オルセノン軟膏もありましたが、残念ながら販売中止となりました。

同じゴール(肉芽を育てる)でも、アプローチがまったく違う。
だから、創の深さや血流の状態によって、適した薬が変わってくるのです。

まとめると——種類が多く感じる理由は2つです

  • ① 創の状態が変化するから → 役割ごとに薬が必要

  • ② 同じ役割でも、基剤・機序が違うから → 状態に応じた使い分けが必要

この2つを知っておくだけで、
処方箋に書かれた薬の「意図」が読めるようになります。


現場でよくある「外用薬の使われ方」

【この章の結論】
「薬の名前は知っているが、なぜその薬か」
が整理されていないと、現場で迷ってしまう。
創の状態と薬の役割をセットで理解することが、介入のポイントになる。

知識として整理できたところで、少し現場の話をさせてください。

認定薬剤師として褥瘡に関わるようになってから、
現場での処置にかかわる機会が増えました。
悪意は一切ない、みんな一生懸命やっている。
…でも、「創の状態」と「薬の役割」がかみ合っていないケースに、
思ったよりも頻繁に出会います。

よくあるパターンを3つ紹介します。
※事例は個人が特定されないよう、複数の経験をもとに再構成しています。


ケース① 感染が落ち着いたのに、ずっとゲーベンクリームのまま

ゲーベンクリームは、感染や壊死組織への対応に優れた薬です。
でも、感染が落ち着いて肉芽が出てきた段階でも、そのまま継続されているケースがあります。

ゲーベンクリームはとても水分量の多い薬剤です。
漫然と使い続けることで、肉芽がむくんできてしまうことがあります。

「感染を制圧したらバトンタッチ」が基本的な考え方で、創がきれいになってきたら次の薬(ユーパスタやアクトシン軟膏など)への切り替えタイミングを見極める必要があります。

🔗 参考ソース:ゲーベンクリーム1% 添付文書(PMDA)
https://medical.tanabe-pharma.com/di/file/dc/gbn.pdf


ケース② 滲出液(ジュクジュク)が多い創に、プロスタンディン軟膏

プロスタンディン軟膏は肉芽形成や上皮化を促す優れた薬ですが、
薬のベースとなる「基剤」が水を弾く油脂性です。
吸水力はほぼありません。

滲出液がまだ多い段階でこれらを使うと、行き場を失った水分が創にたまり、周囲の皮膚までふやかして(浸軟させて)かえって治癒を妨げてしまいます。

まずユーパスタなどの滲出液を吸い取る薬でコントロール、そのあとがプロスタンディンの出番です。

🔗 参考ソース:プロスタンディン軟膏0.003% 添付文書
https://www.ononavi1717.jp/system/files/2023-07/PGE_PI.pdf


ケース③ 薄く塗りすぎて、効果が出ていない

これは使い方の問題です。
褥瘡外用薬の多くは、創面にしっかり充填して初めて十分な効果を発揮します。「普通の軟膏だから薄く引き伸ばす」という感覚で使うと、有効成分が創に届きませんし、適切な湿潤環境も保てません。

特に深い創やポケットがある場合は、空洞を残さないようにシリンジなどを使って創の中に直接「詰める(填入する)」のが基本です。

3つのケースに共通しているのは、
「薬の名前は知っているけど、なぜその薬を使うのかが整理されていない」という状態です。

「創の状態」と「薬の役割」をセットで理解していれば、このような迷いは自然と減ります。そして、介入のポイントも見えてきます。


まとめ:外用薬は「創の状態を診て選ぶもの」

【この記事の3行まとめ】

  1. 褥瘡の創は、壊死期→感染期→肉芽形成期→上皮化期と変化し続ける

  2. 外用薬には5つの役割があり、創の状態に応じて使い分ける

  3. 薬の名前を覚えるより先に、この「役割」の軸を持っておく

「なぜ褥瘡外用薬はこんなに種類があるのか」
——この問いへの答えは、シンプルです。
褥瘡は、治っていく過程で状態が変わり続ける。
だから、その状態に合わせて薬も変える必要がある。それだけです。
薬を名前で丸暗記するのではなく、
「今、この創にはどの役割が必要か?」という視点を持つこと
これが、あの日の私に足りなかったものであり、皆さんに一番伝えたかったことです。

しかし、実際の現場に出ると、必ず次の壁にぶつかります。

「感染期だからゲーベンを選んだ(役割はOK)のに、良くならない」
「肉芽形成期だからプロスタンディンに変えた(役割はOK)のに、逆にジュクジュクになって悪化した」

なぜ、役割(成分)は合っているのに治らないのか?
 その答えは、記事の中盤でも触れた
「基剤による水分コントロール」の難しさにあります。


役割を見極めるのは、褥瘡治療の「入り口」
そして、その役割を最大限に生かすために、
創の水分量に合わせて「基剤」を使い分けることこそが、
薬剤師が介入すべき「本丸」なのです。

次回は、薬剤師が創を評価するためにまずはこれだけ知っておいてほしい
という情報をお届けします。
敵を倒す(創を治す)ためには、
まず相手(創の状態)を知らないといけませんから。

次回からは
【HONOの薬剤師ノート|褥瘡外用薬シリーズ】としてお届けします。


次回はこちら。

  • 成分より大事なのに、誰も教えてくれなかった「基剤」の話

  • 創の水分量をどう評価する?絶対にみるべきDESIGN-Rの「e」とTIME理論の「M」

  • 【事例】e(滲出液)と基剤のミスマッチが起こした悲劇—失敗談—

【HONOの薬剤師ノート|褥瘡外用薬シリーズ】では、
それぞれの薬が持つ「基剤の本当の顔」を紐解き、
現場で迷わずに薬を選び、医師や看護師に自信を持って提案するための具体的な思考プロセスを一本ずつ丁寧に解説していきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

こんな薬剤師・看護師の方に、現場で役立つ情報をお届けします。
公開をお楽しみに。

▶ 【第2話】成分は合っているのに褥瘡が治らない? 薬剤師を救う「5つの質問」と基剤の罠

▶ 認定を取ったのに「だから何?」と言われた日(私が褥瘡に向き合った理由)


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