【お題SS#片想いのスタンス】レース
(字下げ含み約2,000字)
レースは「編む」か「織る」か「縫う」か。
「そうきたか⋯⋯」
「ほんとに信じられない!」
「で、どれなの?」
「藤島さんもそっちですか!?」
「え、間宮さん気にならない?」
「いえそう訊かれたらどれかなとは思いますが、まずはレース生地と言われて真っ先に浮かぶのがそれなの? という気持ちに決着を」
「それはそう」
「ですよね!」
盛り上がっている。
昼食を摂ろうとブラついていたら、とある店の前で同期と部下が一緒にいるのを見かけた。俺が引き合わせたふたりだ。親しくなったなら喜ばしい。そう思い、軽く声をかけて去ろうとした。
ら、「あんたも来なさいよ」と連れ込まれた。
「女子ふたりのほうが楽しいだろ、なんで俺を入れる?」
「スポンサーは多いほうがいい」
「⋯⋯それはそうだが」
特定の部下にだけ奢るのは上司としてはよろしくないが、これは不可抗力だろう。同席は俺の意思じゃない。
そんな会話に、部下が慌てて割り込んでくる。
「あの、わたしは自分で」
「いいのよ間宮さん、あたしが話したくて時間もらってるんだから」
「そんな、わたしこそ藤島さんとご一緒できて光栄です!」
「超いい子! こんないい子が香山の部下だなんて!」
「無関係にディスるな、テロかよ」
そんな、微笑ましい(?)スタートとなったランチタイム。雲行きが変わったのは、同期からのひと言だった。
「間宮さんって、彼氏いるの?」
「どストレートにセクハラ発言をするな!」
「えー聞いちゃだめ?」
「いいです大丈夫です、えっと⋯⋯おります⋯⋯」
待て、後半が可愛すぎないか。
絶句する俺には気づかず、場は女子会特有の盛り上がりを見せ始めた。そして「ケンカとかするの?」という同期の質問で暴露されたのが、冒頭のレース事案だ。
いわく、新しく購入したワンピースの写真を見せたところ、『彼氏』の口から出た言葉がーー
「『レースは編む・織る・縫う、どれに該当するのでしょうか』⋯⋯その発想は、少なくとも俺にはないな」
「ほんとです! まずはこう、『素敵だね』『似合いそうだね』とかでは!? そのうえで、『ところで、レースってとても薄くて透けるけど、どうやって生地を作るんだろうね?』という流れでは!」
怒っている。その状況をリアルに想像した俺は、腹の底からため息を吐いた。
やってくれるな、『彼氏』さん。
「で、ケンカしたの?」
「ケンカと言うか⋯⋯『そこですか!?』に『え、気になりませんか?』と返され⋯⋯なんだか脱力してしまい、『なりません』と答えたところ」
「ところ?」
「AIと無限の議論を始められ、それはそれは楽しそうでした」
地の底から響くような声。すんでのところで二度目のため息を呑み込む。
⋯⋯本当に、やってくれる。
「なにそれ、面白すぎるんだけど!」
「面白くないですーー」
想像してみる。チャット画面に「レースは編むか織るか縫うか」と打ち込む彼。AIの応答から編み方だか織り方だかについて掘り下げ、さらに大手メーカーだの国内生産割合だの、あるいは布地の活用法だの、どこまでも発展するやり取り。
と、それを傍らで眺めている彼女。
なんだその状況。まじでやってくれるな『彼氏』!
「でもほら、レース生地云々はAIと議論できるけど、ケンカはさ、彼女としか、できないから」
「爆笑しながら言っても説得力ないぞ」
「うっさい香山。そっかー、『可愛いね』より先に、編むか織るか考えちゃう人なのかー。彼女としては大変だねぇ」
ようやく笑いを収めて、同期はキラキラと輝く瞳で部下を見る。イタズラを思いついた子どもみたいだ。
嫌な予感がする。そう感じた時には遅かった。
「その人の、どんなところが好きなの?」
爆弾。地雷。
なんでもいいが、俺になんの恨みがあって、今それを彼女に訊く?
「え!?」
「だって、間宮さんと全然違うタイプみたいだから、その人」
「そ⋯⋯うですね、あの⋯⋯」
じんわりと部下の頬が赤くなる。そんな表情、もう何度見たかわからないけれど。
毎回律儀に痛む胸に、我ながら冷静に呆れてしまう。「あんたほんと、だいぶ限界」。同期がそう言って笑ったことを思い出す。
わかってるよ、と心のなかで苦く応える。限界だ。もちろんそんなことはわかっている。ずっと、ちゃんと。
ただ、どうしようもできないだけで。
部下の表情を見た同期は、ふふ、と唇に指を当てて笑った。艷やかに整えられた爪には、白い花が咲いている。
「ごめん。さすがに、立ち入りすぎたよね」
寄るところがあるらしい部下を見送り、同期と並んで会社に戻る。間宮さん可愛いね、という言葉に視線を向けると、楽しそうに輝く瞳とぶつかった。
「それであんたは、レースって聞いたらまずは何が浮かぶわけ?」
なんだその表情、と思いながら、部下が言っていたレースのワンピースを想像する。
編むか織るか縫うかなんて知らないが。
「⋯⋯着る時、爪をひっかけて破けそう」
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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
ロミさん、素敵なお題をありがとうございました!!
そっちなの!?って感じの三人回です。でも実質的に四人ですね。
不在者の存在感よ……
スピンオフ的に藤島さん&間宮さんのシスターフッド的なあれこれも良さそうだなぁと思うなど。
いやこのシリーズが既にスピンオフですが。
とりあえず、拗らせてる上司さまはそろそろなんとかしてあげたい……
はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ13作目です。
前回まではこちら↓
TALESでも公開してます!
過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!
noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録
裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!
