【お題SS#片想いのスタンス】無人駅
(字下げ含み約2,000字)
「無人駅の運賃管理はどのように行うのでしょう」
「存じ上げません」
一蹴され、同僚はしょんぼりと眉を下げた。
「そうですか」
「わたしは無人駅を運営しているわけではないので。それどころか自分で見たこともないので。わたしは単に、先日観た映画の印象的な場面として、無人駅に主人公が降り立つシーンの情景がとても美しかった、と言っただけなので!」
「はい⋯⋯」
プリプリと怒る部下に、項垂れる同僚。攻撃力が高すぎる。
俺への。
「でも、気になりませんか?」
「なりません。というか、そこは『話の腰を折ってごめん、どんな映画だったの?』では!?」
「はっ」
「もうっ」
「待って待ってストップ、終わり。もう無理、俺が」
部下が眉をつり上げたところで、俺はたまらず割って入った。
二対の瞳が俺を捉える。一対は怒りながら、一対は安堵するように。
待て待て、俺をなんだと思ってるんだ?
「ふたりとも理不尽すぎ」
「どこがですかっ」
「いや違うごめん、今のは独り言。俺の諸々が限界のサイン。頼むから、痴話喧嘩は家でやって」
俺の身にもなってほしい。自分を振った相手が彼氏と楽しそうに言い争う姿を見せつけられるなんて、なんの罰ゲームだ。期初の決算業務を控えて英気を養うべき時期だぞ。しかもふたりは、部下と同僚。
普通に、極めて、理不尽では?
「木戸さんが飲みましょうなんて言うから、てっきり期末の打ち上げかと思ったら」
「いえ、私はそのつもりで」
「だったら彼女呼びます? ふつう」
「え、ダメでしたか?」
「もぉーーー!」
同僚の無邪気な顔に脱力すると、部下が細い顎を上げて挑発的に微笑んだ。それ見たことかと言わんばかりの、不敵なその表情。
まじか。
可愛すぎるだろ。
「⋯⋯間宮さん、その表情木戸さんにそっくり」
「ええ?!」
「他部ギッタギタにする時の表情」
「ええ⋯⋯あの、絶対に敵に回したくないと固く思う、」
「リスク管理の鬼、当部エース木戸マネの表情」
「ええーー」
「待ってください、ふたりして私で遊んでませんか?」
「遊んでますが?」
「ええ⋯⋯」
ショックを受けるエースに、堪えきれずに噴き出してしまう。無敵のワーカホリックがこんなに感情豊かだなんて、この関係にならなければわからなかった。
部下を挟んだ三角関係。とんだ地獄に手を出したものだと、我ながら呆れるが。
「間宮さん、木戸さんのあんな返しはいつものことでしょ。今さらなに。機嫌悪いわけ?」
「だってその映画、ほんとはいっ⋯⋯、いえなんでもないです」
「あー。一緒に行きたかったのに行けなかったんだ? ワーカホリックが休日出勤でもして。そういえば、月末の付議案件で揉めてましたね」
「え」
「な、なんでわか⋯⋯」
「いやわかるでしょ⋯⋯てか拗ねてただけか⋯⋯ほんと見せつけてくれるじゃん⋯⋯」
「え?」
「なんでもない。とにかく、間宮さんは拗ねてるだけだし、木戸さんのワーカホリックは通常運転。わかったら、ほら仲直りっ」
なんだこれは。いい年した大人が三人集まって何をしている。俺は何をさせられている、振られたのに!
喚く理性をねじ伏せて、俺はふたりに鉄壁の笑みを向けた。
「それとも、邪魔者は帰ったほうがいいのかな?」
「なっ⋯⋯」
ぼんっ、と音がしそうな勢いで、部下の顔に血が昇る。俺と同僚ーーもとい、彼氏の視線を正面から受けて、彼女はさっと席を立った。
「お手洗いに!」
「⋯⋯いってらっしゃい」
震える後ろ姿を見送って、俺は同僚に視線を移す。
「奢ってもらいますよ」
「なぜ!?」
「いやあたりまえでしょう、私をなんだと思ってるんですかほんとに! 信頼してるとかそんな言葉じゃ割に合いませんよっ」
「うっ⋯⋯」
「いちいち痴話喧嘩に巻き込まないでください!」
「そんなつもりでは⋯⋯さっきのは話の流れで」
「同じことです」
「⋯⋯すみません」
結局怒られて項垂れながら、同僚は「でも」と小さく呟く。
照れたような、やわらかな笑みを浮かべて。
「助かりました。やっぱり、香山さんと間宮さんは気が合うようですね。間宮さんの気持ちも、よくおわかりのようですし」
ぐ、と喉が詰まる。
なんだその表情は。ズルくないか。
「⋯⋯だったらなんです」
「いえ。社内恋愛ですから、本当は秘匿しなければならないとはわかっているんですが」
「本当です」
「はい。でも、⋯⋯こう申し上げるのは、失礼なのかもしれませんが⋯⋯」
嫌な予感しかしない。
理性がアラームを鳴らすけれど、真っ直ぐな視線から目を逸らせない。
彼女が惹かれてやまない瞳。キラキラと輝く、強い瞳。
待ってほしい。俺の身にも⋯⋯、
「香山さんがいてくださって、私は本当に、嬉しいです」
これは何の罰ゲームだ。
部下を挟んだ三角関係。とんだ地獄だとは、自分でもわかっていたけれど。
「⋯⋯それは、どうも」
ひとり取り残されて、いっそ清々しいくらいだ。
社内恋愛なんて、やるものじゃない。絶対に。
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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
星屑さん、素敵なお題をありがとうございました!!
久しぶりの三人回です。
香山さん的にはわかりませんが、いち読者としては三人回好き。
でも木戸さんは反省するべきだと思う(いろいろと)
はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ11作目です。
前回まではこちら↓
TALESでも公開してます!
過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!
noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録
裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!
