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【お題SS#片想いのスタンス】折り紙のスカート

(約2,000字)

「折り紙のスカート……ですか? これ」
「うん、よくできてるよね。着せ替え人形で遊ぶみたいだよ」
「あ、着せ替えパーツ自体が手作り、ってことですか。すごい」
「だよねぇ。ハンドメイド好きな子なのかな。間宮さん、こういうの作ったりした?」
「いえ、わたしはあまり折り紙で遊んだ記憶は……千代紙を見ているのは好きだったんですが」
「あー。綺麗だよね」
 折り紙作品をしげしげと見つめていた部下は、ハタと気づいたように俺を見た。大きく見開かれた、真っ直ぐな瞳。
 にっこりと唇を引き上げて、頬杖を突いた首を傾けて。完璧に余裕ある大人の上司の表情で、俺はその視線を受け止める。
 暴れ出す心臓のことなんて、露ほども感じさせない鉄壁の笑顔。
 ……に、なってくれていることを、心の底から、祈りながら。
「これ、どうされたんですか? 香山さんがお作りになったわけでは」
「ないね」
「ですよね……」
「もらったんだよ、藤島に。溺愛してる姪っ子ちゃんの作品だって」
「藤島さん!」
 同期の名前を出すと、部下の瞳がキラキラと輝く。彼女の憧れの人、なのだ。
「本当に仲が良いんですね」
「いや、食堂で会ったら急にすごい勢いでまくし立てて、押し付けていっただけ。『見てみなさいよこれ。柄の配置までちゃんと考えられてるのよ、天才じゃない!? あんたもこの気遣いを学びなさい、ほらあげるから!』だって。意味わかんないし、ふつうに理不尽」
「ふふ」
 楽しそうに笑う顔に、小さくひとつ鼓動が鳴る。ああまずいなぁと、頭の隅で舌打ちする。
 忘れるどころか、深みにハマってる、のかも。
「……今度、一緒にメシでも行く? 藤島と」
「え」
「もし話してみたかったら、誘うけど」
 上司部下、ふたりきりでの飲食は厳禁だ。公平性の観点から、特定の部下だけを誘ったり、奢ったりもよろしくない。
 でもこれは別にいいだろう。同期と引き合わせるだけだし。
 そうだよな、と頭の隅で考える。
「い……いいんですか!?」
「え、うん。あいつならたぶん、全然……」
「お願いします!」
「はや」
 思わず笑ってしまう。恋愛が絡まないと、こんなに積極的なのか。
 彼に対しては、あんなに悩んで、立ち止まって、顔を真っ赤にしていたのに。
「何をお願いしているんですか」
 低い声が思考を断ち切る。
 俺は笑顔で、まさに思い浮かべていたその人を見上げた。
「お疲れさまです、木戸さん」
「随分楽しそうでしたが、何を話されていたんですか」
「木戸さん、これをごらんください。可愛いでしょう?」
「え……?」
 部下が差し出した折り紙のスカートに、彼はパチパチと瞬きをした。
「折り紙、ですか?」
「そうです。香山さんが、」
「香山さんがお作りに?」
「いえ、私が人からもらったものです」
「そうなんです。で、その、これをくれた方とお食事に行こうという話を」
「なぜ!?」
「え、わたしがその方とお話をしてみたく……」
「なぜです」
「なぜ……?」
 部下がこくんと首を傾げる。その様子に、木戸さんは困惑を隠せない顔で俺を見た。
 本当に、このカップルは。
「木戸さんのご心配には及びませんよ。相手は私の同期です。法戦の藤島、ご存じですか?」
「藤島さんは存じ上げていますが……」
「女性のキャリアとしてはいいロールモデルでしょう。間宮さんも前から気になっていたようなので、引き合わせてあげようかなと思っただけで」
 吹き出したいのを堪えて救援要請に応えれば、木戸さんはホッとしたように眉を開いた。
 まじか、と心のなかだけで呟く。
 そんなに不安になるのか、この仕事人間が。
 ただ、恋人が知らない相手と食事に行こうとしているだけで。
 ……なんというか、随分と……
「そうだ」
 和らいだ恋人の表情をどう解釈したのか、俺たちのやり取りを眺めていた部下がパッと明るい声を出した。
「木戸さんもご一緒に、というのはいかがですか。もし、藤島さんがよろしければ」
「え」
「え?」
 なんでそうなる?
「間宮さん?」
「当部で法戦と一番関わりがあるのは木戸さんラインですし、お近づきになるのは悪くないのでは」
「まぁそれはそうだけど」
 それに、と言って、部下はこくんと首を傾ける。
 そんな仕草に心臓が跳ねる。……きっと、彼も。
 彼女はたぶん、気づいていないだろうけれど。
 ポーカーフェイスを貫く同僚の横顔に、俺は小さくため息を吐いた。
 社内恋愛なんてやるものじゃない。
 心臓がいくつあっても、これじゃあ全く足りやしない。
「ワーカホリック同士、藤島さんと木戸さんは気が合うのでは」
 きっと楽しいですよ、と嬉しそうに言う笑顔に、俺は今度こそ同僚に同情した。
 仮にも異性。それも気が合うだろうと思いながら近づけようとする、のは。
「……信頼関係が出来上がってる、ようですね」
 とりあえずそんなふうに言ってみる。
 フォローになったか、ポーカーフェイスからはわからなかった。


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※サムネはAI生成画像です

こちらで募集したお題を使わせていただきました。
なみあさむさん、素敵なお題をありがとうございました!!

自分に向けられる感情には鈍感な間宮さん。
木戸さん、「雑談がつまらない」以外にも苦労は絶えなさそうです。
ファイト!!

はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ6作目です。
前回まではこちら↓

TALESでも公開してます!

過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!

noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録

裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!


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