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【お題SS#片想いのスタンス】今日も夢に現れたあの子

(約2,000字)

 今日も夢に現れたあの子が、一緒に遊ぼうと言った。
「ホラー」
 今日も夢に現れたあの子が、忘れちゃったの? と泣いた。
「転生」
 今日も夢に現れたあの子が、キラキラと眩しい。
「推し」
「面白くない? 天才じゃない? むしろ神じゃない?」
「なぁ朝から何を言ってるのおまえは……」
 目の前で拳を握る同期に、俺は心底呆れて返した。
 ガランとした社員食堂。午前7時台のそこは、広々とした空間にポツポツと人影があるだけだ。
 早めに家を出た日は、少しここで時間を潰す。照明が絞られた薄暗さも、人がいるのかいないのかわからないひっそりとした雰囲気も気に入っていた。
 そこに、場違いなハイテンションの女性。
「いやすごくない? このバリエーション!」
「うるさいし、そもそもなんなんだよこれは」
「姪っ子の宿題。『文章にしてみましょう』みたいなやつ。面白くない? よくこんなにいろいろ思いつくよねぇ。やっぱ天才かな?」
「ええ……親バカテンションかよ……」
 久々に会ったと思ったら。
 写真フォルダを眺めてニマニマしているのを見ると、こいつのほうが子どもみたいだ。
「香山はさぁ、結婚の予定とかないの?」
「藪から棒だしど真ん中セクハラ」
「セクハラは受け手の印象しだい」
「ザッツセクハラだが?」
「まさかぁ」
 会話が成立しない。
 カラカラと笑い飛ばされて、元から大して入っていない力が抜ける。
「おまえはあるのかよ、結婚予定」
「は? セクハラか?」
「ウソだろ、どんなトラップ?」
「男と女じゃライフイベントの重さが違う」
「結婚はそうでもないだろ」
「結婚だけなら、ねぇ」
 口元だけで笑うと、同期は「そろそろ行くかぁ」と伸びをした。
「定時前に会議設定するとか頭おかしいよね」
「お疲れさまデス」
 カツ、とヒールの踵を鳴らして、彼女は瞳を光らせる。
 控えめなラメが星みたいだ。
「香山、今度ランチ行こう」
 返事も聞かずに颯爽と歩き去る背中で、長い髪が揺れた。


 ーー今日も夢に現れたあの子が、キラキラと眩しい。

「いや見てない、現れてない」
「え?」
 フラッシュバックした文章に、思わず口に出してしまった。
 気だるげな早朝の執務室で、そこだけ明るい気がする、デスク。
 いやいや、画面のなかの推しならともかく、現実の、しかも部下、って。
 それはダメだろ。
 ダメだろ、俺。
「香山さん?」
 こくんと首を傾げて、きょとんと瞳を見開いて。
 真っ直ぐに俺を見る彼女に、一瞬詰まった息がすぐにため息となって抜けた。
 ……無防備は、無敵だ。
「……いや、間宮さんがやってくれた集計、まだ見てないなって思い出した。ごめん。そしておはよう」
 たぶんいつもどおりの笑顔で答えると、部下は納得したように笑う。
「おはようございます、期限はまだ余裕あるので大丈夫ですよ」
「うん。仕事早くてほんと助かる」
「いえそんな……はっ、仕事を増やそうとしている?」
「はは、バレた」
 軽口を叩きながら席に着けば、いつもどおりの朝だ。

 ーー今日も夢に現れたあの子が、キラキラと眩しい。

「朝から食堂で同期に捕まっちゃった」
「同期さん?」
「そ。姪っ子が可愛くて仕方ないんだってさー」
「ふふ」
「親でもないのに親バカテンションだったよ。まぁ可愛いけどさ、姪っ子とか」
「香山さん、姪っ子さんいらっしゃるんですか」
「うん、妹のとこにね」
「……お兄さんなんだ」
 驚いたような顔に苦笑する。

 ーー今日も夢に現れたあの子が、キラキラと眩しい。

「意外?」
「いえ、面倒見いいので納得です」
「そう? ならいいけど。間宮さんはお姉さんだもんね。そんな感じするよ」
「え、そうですか」
「うん。木戸さんは、末っ子っぽい」
 その名前を出したのは、別に意識してのことではなくて。
 ただ彼女との共通の話題として、自然と出てきただけだったけれど。
「……そう、ですよね……」
 やわらかく溶けるような瞳。
 フラッシュバックする文章。

  ーー今日も夢に……

 ダメだろ、俺。

「……今日の打ち合わせ、何時だっけ」
 モニター上で立ち上がるスケジュール表を見る。
 そのために彼女から目を逸らす。
 それだけだ。
「あ、午前中にも一件入ってて……」
 彼女が慌てて予定を見直す。
「すみません、11:00に17階です。あと、14:00にも」
「いそがし」
 ふふ、と笑ったところで、画面の隅にピコンとメッセージの着信通知が出た。
「藤島?」
 定時前に設定された、非人道的な会議は無事に終わったのだろうか。
 そんなことを思いながらメッセージを開く。
 隣では、部下が既に難しい顔で考え事を始めた。
 その顔が誰かとよく似てきたことに、たぶん彼女自身は気づいていないだろう。

  今日も夢に現れたあの子、たちがーー

『香山、ランチ行こうよ。12:30でどう』



  キラキラと、眩しい。


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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
長曾我部さん、素敵なお題をありがとうございました!! 

ねぇ香山さんその人誰???

はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ3作目です。
前回まではこちら↓

TALESでも公開してます!

過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!

noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録

木戸さんについてはこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!


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