【お題SS#片想いのスタンス】「思い出せない? いいよ、忘れる役は君だから」
(約2,000字)
ーー思い出せない?
いいよ、忘れる役は君だから。
これからも、ずっとずっと、何回でも。
君が忘れて、
僕が教えて、
そうやってまた新しく始めるんだ。
いいんだよ。
そういう遊びなんだ。
そうやって、ふたりでずっと、遊ぶんだーー
「というの感じの結末でして」
「なるほど。AIもの、子どもの頃に良く見た気がしますが」
「いよいよSFではなく、日常ドラマの位置づけですね」
そう言って、同僚はコーヒーの缶を開けた。
「過去に観たことのあるAIものでは、記憶ーー応答データの喪失は、故障など想定外の出来事として描かれていたように思います。けれど、応答は推論ベースという実態を踏まえると、テーマは記憶以前に関係性そのものなのだなと」
「関係性」
こうして喫茶スペースで話すことも珍しくなくなったなぁと思う。この関係の始まりはどこに置くべきなんだろう。
彼の部下が、係替えで俺の部下になった時か。
その部下が、俺にとってただの部下ではなくなった時か。
そんなこと、考えたって仕方ないこと、なのだけれど。
「AIの応答には、人間で言うところの感情はありません。けれどユーザーである人間の影響は間違いなく受ける。もちろん人間サイドも応答に影響される。つまり相互関係は存在する。厄介だなと思うのは、人間同士の関係とは違ったもののはずなのに、非常に良く似てーー場合によっては同じに見える、ということなのかなと」
「違っているのに、同じに見える」
「理解は類型がベースだと思うのです。自分が知っている何かと比較して、差異を認識し、あるいは同種と判断する。同種と判断したものには既知の対応を。新たなカテゴリに属すると判断したものには、未知の対応を。けれどAIという未知は、人間関係という非常に根源的な既知の顔をして現れる。⋯⋯そして何より難しいのが、既知と未知、いずれとして対応するのが最適なのかは、恐らく人それぞれで異なるのだろうということです」
「はぁ⋯⋯」
「そのあたり、どれほど脅威的な未知でも、人類としては対応が一致するウイルスやゾンビ、ゴジラ的なものとは違うなぁ、と」
「その考察自体が類型ベースですし、これまでの論旨をすべて踏まえているのが木戸さんらしいですね」
「褒めていただけているのでしょうか」
「もちろん多分に引いてはいますが、いちおう褒めてます」
「引いている⋯⋯!」
ショックを受けるところがおかしくて笑ってしまう。子ども向けのアニメ映画を観ながら、一体どこまで思考の海を潜っていたのか。一緒に行ったという甥っ子を映画館に忘れて来なかったのか心配になる。
「違っているのに同じに見える、ね」
すっかり温くなったコーヒーを飲みながら、彼の言葉を反芻する。
上司と部下。
同僚。
彼女との関係も、彼との関係も、既知のそれらと同じものだ。
同じものでなければならない。
同じものに、見えなければならない。
でも本当は⋯⋯
「私は、あまり人間関係がうまくないのですが」
「でしょうねぇ」
「う⋯⋯」
「あ、すみませんつい。ワーカホリックと人間関係がうまく結びつかなくて」
しょんぼりと下がる眉。
待て、そもそも人間関係をうまくいかせたいと思っているのか?
絶対違うだろ。誰かと遊びに行くより、ひとりで仕事のことを考えていたいだろ。
彼女との、時間以外は。
「会社でも自然と浅く狭くになっていましたが、人と話して、影響を受けて変わっていくのは面白いものだなぁ、と思うようになり」
「⋯⋯それは、何より」
呑み込みきれなかった苦味を舌に感じながら、端正な横顔に目をやる。仕事では頼りになるが、何を考えているのかさっぱりわからない同僚。何よりも仕事を愛して、プライベートなんて求めていないワーカホリック。
そんな彼の印象がどんどん変わっていく。見たことのない表情、聞いたことのない言葉。未知の彼。
やわらかく微笑む未知の彼が、同僚という硬い既知のポジションにいる。
「こうして香山さんとお話している時間は、私にとってはかなり貴重な、楽しいもので」
「はっ?」
「ご迷惑になるつもりはないのですが、ついお誘いしてしまいます。同僚と親しくなるのは初めてなので、何を話すものなのかもよくわかりませんが」
そう言うと、彼は照れたように笑う。執務室では見ることのない顔。
彼女に向けているものとは、同じなのだろうか。
同僚。
上司部下。
既知のポジションのなかで、未知の感情が膨らんでいく。
ああもう、何やってんだろう。
こんな自分も、充分未知だ。
「個人的には、新しい今の状況がとても楽しいです」
もしお嫌じゃなければ、と続ける声はやわらかいのに、向けられる瞳は強く輝く。未知と既知が混在する表情。
ズルいなぁと、いつもどおりの感想を抱く。
「これからも、仲良くしてくださると嬉しいです」
ポジションと人物の不整合。
この未知に、どう対応すればいいんだろう。
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※サムネはAI生成画像です
こちらで募集したお題を使わせていただきました。
ちゅん子さん、素敵なお題をありがとうございました!!
男子ズ回ですが、なんかわちゃわちゃが少ないですね。
まるで香山さんが木戸さんに片想いして緊張しちゃってるみたい……
(゚Д゚)ハッ‼?? ←こら。
はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ9作目です。
前回まではこちら↓
TALESでも公開してます!
過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!
noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録
裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!
