【お題SS#片想いのスタンス】季節外れの〇〇
(約2,000字)
「季節外れの寒さ、暖かさが通常になり、もはや季節外れとは、と」
「わかる」
「その点からも、リスク管理における気候変動の影響として一番クリティカルなのは頻度です」
「頻度?」
「十年に一度、百年に一度と言われる大寒波やゲリラ豪雨、または『季節外れ』の何か。特異な状況として語られてきたものが通常となる、それが影響としては最も大きい」
「単発の災害規模ではなく?」
「どんなに大きな災害でも、遡れば同規模の発生事例はあるでしょう。けれどそのスパンがどんどん短く、百年に一度が十年に一度に、十年に一度が毎年になる。季節外れが季節外れではなくなる。備えるべき頻度の前提が崩れ、これまでのシミュレーションが役に立たない。けれど新たな前提が置けない」
「なるほど、厳しいですね」
「もちろん、だから不要とはなりません。常にその時点で最も合理的な前提を置くべきですし、『わからないことを踏まえて取組む』という判断自体が最も重要です。けれど、」
「手応えを得られない仕事は、感情的にしんどいですよねぇぇ」
「おっしゃるとおりです……!」
盛り上がっている。とても。
だが、しかし。
話し込む同僚と同期を横目に、俺は「飲み物取ってこようか」と部下を誘った。
ランチタイムとはいえ、オープン直後の店内はまだ空いている。セルフサービスの飲み物を取りに行くのはスムーズだ。
「気にならない?」
「気に?」
問いかけに、部下はこくんと首を傾げた。
その仕草から、ネガティブな感情は読み取れない。
「いや、藤島と話してみたいって言ったのは間宮さんなのに、木戸さんと盛り上がっちゃってるから……」
飲み物のカウンターからは少し遠い四人席、声は届かないが会話が弾んでいることはわかる。
見目麗しい男女が、顔を寄せ合い熱心に話し込む様子は目を惹いた。
悪い意味で。
「木戸さん、楽しそうですね」
「ええ……いいの? 二重の意味で」
ようやく俺の意図に思い至ったらしい彼女は、あ、と呟いて席を見た。
顔を寄せ合って話し込む、男女。
「……お似合いですね」
「ええ!?」
「いえ、客観的に見て」
「客観的!?」
客観的に見ていていいのか。彼は自分の恋人なのに。
「ご心配ありがとうございます。でもわたしは大丈夫ですし、」
ふふ、と笑う穏やかな顔。
木戸さんに片想いをしていた頃とも、恋人としての関係に悩んでいた(ように見えた)時とも、違う顔。
心の底で、すっと静かに風が吹いた。
彼女はちゃんと進んでいる。
彼との、新しい関係を築いていっている。
ーーなのに、俺は……
「普段はあんなテンポでは話せなくて、つまらないでしょうから」
「……寂しくならない?」
そうですねぇ、と言いながら、彼女はふたつのグラスにウーロン茶を注いだ。
「もちろん、同じ目線に立てたら、とは思いますが……わたしはどうしても、あんなふうに仕事に向き合うことはできないので」
照れたような微笑と、真っ直ぐな瞳。
「こうして見ていられたら、今はそれでいいかなと思います」
「……そっか」
それ以上は何も言えない。
たぶん、言う必要もない。
「香山、あたしの分も取ってきてくれたの? ありがとうー」
グラスを受け取った藤島は、すぐに間宮さんに向き直った。
「ごめんね、木戸さんと話し込んじゃって。間宮さんが呼んでくれたのに」
「いえ、とんでもない……おふたりを見ているのも楽しいので」
「え、ほんと? あたし、いつも話飛び過ぎって言われるから引かれちゃったかと思った。嬉しい」
「引いてはいるかもだぞ、都合よく解釈するな」
冷ややかに言った俺に、藤島が眉を逆立てる。間宮さんへの態度とは大違いだ。
「ちょっと香山、水差さないでよ」
「いや『昨日は季節外れの暖かさって言われてたのに』って一言からあんな発展するかよ。木戸さんはともかく、楽しく乗るやつ初めて見たわ」
「私はともかく……?」
「こっちのことです」
「えーそう? 実際めちゃくちゃ楽しいのに」
「ええ……」
「香山さん、そのリアクションは私との会話が楽しくないようで悲しいのですが……」
「それは失礼しました」
「ふふっ」
堪えきれない、と言わんばかりの声に、三人の視線が集中する。
眉を下げて、口元を覆った手から上気した頬を覗かせて、彼女は肩を震わせて笑っている。
「香山さんも木戸さんも、本当に楽しそう」
「ええ……?」
それしか言えなかったのは、思いがけない言葉に驚いたからだ。ただ、それだけ。
彼女の笑顔の眩しさとは、何の関係もない。
そう自分に言い聞かせる俺を、横から藤島が覗き込んでくる。
木戸さんと同じ、キラキラと輝く、間宮さんが憧れている、強い瞳で。
「ふーん?」
「……なんだよ」
「別に? 楽しそう、なんて嬉しいじゃない。ねぇ香山」
楽しいよね?
ニッと唇を引き上げて、まるでイタズラな子どものように、同期は笑う。
どういう意味だとは問い返さずに、俺はグラスに口を付けた。
****************************************************
※サムネはAIイラストです
こちらで募集したお題を使わせていただきました。
TwIさん、素敵なお題をありがとうございました!!
「木戸さんに斜め上を行きまくった論理展開で説明してほしいです」と言っていただいていましたが、ご期待に沿えましたでしょうか……!
ワーカホリック同士は気が合ったみたいです。
はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ7作目です。
前回まではこちら↓
TALESでも公開してます!
過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!
noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録
裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!
