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【お題SS#片想いのスタンス】「今だから言うけど」

(字下げ含み約2,000字)

「今だから言うけどっ」
 どん、とジョッキがテーブルを突く。
「枕詞は不穏すぎるし、おまえは飲みすぎ」
「あんたも飲め」
「アルハラ厳禁」
「申し訳ない」
「⋯⋯酔ってるな?」
 返しの相場は「あんた相手にハラスメントになるか」だろう。調子が狂う。
 そんな俺に、同期はふふ、と不敵に笑ってジョッキを煽った。
 豪快としか言いようがない。社内報の特集記事を飾り、「お美しい」などと評される人物とはとても思えない、のではないだろうか。
 俺にとってこいつはずっとこうなので、違和感があるのは社内報の評価のほうだが。
「で、なんのクレームだよ」
「なにが」
「ええ⋯⋯今自分で言っただろ、『今だから言うけど』」
 ラメで彩られた目を見開いて首を傾げると、同期は「ああ」と気のなさそうに呟いた。
「単に口を突いただけ。今だから言うけど、今期はマジで大変だったし、ほんとしんどかった、って」
「ええ?」
 しんどかった。
 彼女の口からそんな言葉が出るとは思わず、正面から顔を凝視してしまう。
 キラキラと輝く、仕事に恋する強い瞳。
 今日だって「あと一件だけ処理させて!」とか言い出して、誘ったくせに俺を待たせていたのに?
「おまえ、仕事がしんどいなんて感覚あったのか」
「あんたあたしをロボかなんかだと思ってるわけ? 好きなことでもしんどいはしんどいわ。いっそ『あれ、あたしこれの何が好きだったんだっけ』って虚無になったわ」
「超末期⋯⋯」
「末期言うな」
「まぁそれは置いといて」
 運ばれてきた料理を受け取り、飲み物を注文する。同期は意気揚々とジョッキを追加した。
 いや本当に、飲みすぎでは。
「今だから言うけど、おまえオンオフのギャップ激しすぎ」
「そう? あたしはいつもあたしだけど」
「哲学かよ」
「あたしはいつも自分に正直。好きなものは好き、しんどい時はしんどい。それに」
 キラリと瞼のラメが光る。艷やかなネイルの指先が、ジョッキの取っ手をぎゅっと握る。
「しんどかった、を吐き出す相手も、選んでる」
 酒を飲んでも色の落ちない唇が、綺麗な弓形に引き上げられた。
「選ぶ相手がなんで俺だよ」
「自惚れんな。あんただけとは言ってない」
「ソウデスカ」
「仕事については、あんたってだけ」
「いやなんでだよ」
「恋愛相談はしたくないし?」
「なんで、の意味を取り違えるな。わざとだろ」
「ふふ、バレた」
 隠す気もないくせに。
 答える気がないことを追求してもしょうがないので、俺は食事に集中することにした。
「懐かしくない? ここ」
「あー。本社着任当初はよく来たよな」
「知ってる? あの頃のメンツ、もうほとんどいないのよ」
 異動という意味ではないことくらい、俺にもわかる。興味があるかと言われれば、あるとは言えないほうだけれど。
「珍しいことじゃないよな」
「そうね。ただ、いないなぁ、って思うだけ」
 経営企画部の彼も。
 コンプライアンス管理部の彼女も。
「みんな、気づいたらいないのよね」
 同期がジョッキを煽って、ふぅ、と大きく息を吐く。
「だから俺?」
「なにが」
「夏目、仲良かったろ。ワーカホリック同士」
「夏目くんーー! 彼は出世すると思ってたんだけどなぁーー」
 どうあっても答える気はないようだ。まぁいいが。
「今だから言うけど」
「え、何その不穏な枕詞」
「どの口が。てか腰折るな」
 踏み込みすぎだろうか。チラリと頭の片隅で思う。それとも自惚れすぎだろうか?
 まぁいいか、と面倒な考えを追い払う。
 しんどい時に、しんどいと言える相手なら、それはきっと光栄なことなのだろう。
「おまえ、あの頃は楽しそうじゃなかったよ」
「え?」
「しんどそうだったよ。ピリピリしてて、愚痴も何も言わなくて。ずっと、ミスしちゃいけないって表情かおしてて」
 看板部署。
 最短昇進。
 役員のお気に入り。
 誰かが誰かにそんなことを言う度に、笑いながらぎゅっとジョッキを握りしめていた、色の乗っていない指先。
「自分では気づいてなかったかもしれないけど。ほんとに仕事好きなのかって思ってた」
 何かきっかけがあったのか。
 好きになったのか、好きを忘れていたのか、全く別の話なのか。
 それはわからないけれど。
「⋯⋯今は?」
 ジョッキを持ち上げながら、同期は呟く。
 今。
 豪快にジョッキを傾けて、「しんどい」と言う顔。
 そう言いながら輝く瞳。
 取っ手を掴む指先は、隙なく整えられ、艷やかに飾られている。
「真のワーカホリック、って感じ?」
「何それ」
 同期の笑いに呼応するように、手元のグラスで氷がからん、と音を立てる。
 ひとしきり笑うと、煌めく瞳が正面から俺を捉えた。
「今だから言うけど」
「今度はなんだよ」
 いい加減、お開きにするべきか。
 そんな考えを見透かすように、不敵な弓形の唇が言った。
「社内恋愛って、実は興味あったんだよね」
 どんな感じなんだろうね?

 同期の声に呼応するように、グラスの氷が、またからんと鳴った。


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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
キノさん、素敵なお題をありがとうございました!!

前回の更新から一ヶ月以上経ってしまいました。衝撃。
その間、ラブの気配がうっすーーいものばかり書いていたので、
片想い……むずきゅん片想いってどんなだっけ……
いや香山さんはむずきゅんでもない……?? と遠くに行っておりました。
戻ってこられて良かった。
(なおラブの気配はやはり薄い)

さてそんなお久しぶりの本作シリーズ。
同期会(回)、ですが。
ちょっとお姉さま、どういうこと!!??

はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ10作目です。
前回まではこちら↓

TALESでも公開してます!

過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!

noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録

裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!


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