【noteでBL】似てない兄弟
今月もやって参りました、noteでBL。
今回は変則企画ということで、書き出し指定&縛りありでございます。
「ふと、振り返るとそこには」を書き出しにした「過去回帰や回想無し」の3000〜5000字のブロマンス〜BL小説
【ジャンル】現代ヒューマンドラマ
【あらすじ】
幸太と誠二は、昔から似てない兄弟だった。
終電間際の幹線道路、子どもの頃のように手を引いて歩く帰り道。兄弟が知ってしまった真実は、二人の関係をどう変えるのか。
「俺等って面倒くさいとこ似ちゃったなぁ」
「仕方がないだろ、兄弟なんだから」
ちょっぴり切ない兄弟BL、いざ開幕。
似てない兄弟
ふと、振り返るとそこには、うつむいて足を止めた弟が立ちすくんでいた。
「せいじ?」
終電間際の帰り道。
街灯の逆光で顔がよく見えない。軽薄な優男然とした顔立ちの俺とは似てない、三白眼気味で、ちょっとふてぶてしいけど男らしい顔立ちの弟。
見慣れた幹線道路の、こんな時間でも行き交う車の音が大きくて、俺の呼びかけも聞こえていないようだ。
「おーい、せいじ〜?」
数歩引き返して、覗き込むように顔を見上げる。身長は俺の方がほんの少し大きいので、軽く屈む体勢だ。高校からずっと愛用しているショルダーバックの底がアスファルトに着地した。
「せいじ? せいじ君? なぁ、兄ちゃんこの体勢だと腰痛いんだけど」
ゆっくりと顔が上がって、ハイライトの消し飛んだ瞳と目が合った。
これはお隣に住んでた初恋相手のお姉さんが、実はオネェさん♂️だったと発覚した時と同じ顔だな。つまり絶望からの闇落ち一歩手前のやつ。
「……何笑ってんだ」
「え、顔に出てた?」
いかんいかん、傷心の弟を笑うなど兄貴の風上にも置けない行為だ。
いくら普段が男気溢れるしっかり者で面倒見甲斐がないからといって、凹んでる弟可哀想可愛いなんて思っては駄目だ。むしろ俺の方が世話焼かれがちだからって、貴重な甘やかしチャンス、などと思ってはいけない。
「きしょ」
「え、口に出てた!?」
思わず一歩退いて、顔を両手で挟み込むように覆ってしまった。
それでも、通り過ぎた大型トラックのクラクションに紛れるように漏れた、くぐもった笑い声を聞き逃す俺の耳ではない。
「分かり易すぎるだろ、馬鹿兄貴」
「兄ちゃんに向かって馬鹿とか言うな」
まだ死んだ魚のような眼だけども、軽口を言える程度には落ち着いてきたらしい。
内心の安堵には気付かれていないといいけど、となけなしの兄としてのプライドが意地を張る。きしょくても頼りなくても、俺はせいじの兄ちゃんなんだから。
「ほら、帰ろう」
子どもの頃のように弟の手を引いて、また歩き出す。物言いたげな雰囲気こそあったけど、もう立ち止まる素振りはない。
「ガキの頃からさ」
歩道橋に差し掛かったところで、せいじの口からぽつりと言葉が漏れた。感情の読めない、淡々とした声だった。
「散々似てない兄弟だって言われたよな」
「……うん」
赤の他人の方がまだ似てる。
それは単純に客観的な事実でしかなくて、悪意があっての発言でない事くらい分かっている。分かっていたのだけど。
「まさか本当に赤の他人だったなんてな」
ショルダーバックの紐を掴んでいる方の手に力が入る。鞄の中には俺の戸籍謄本。
「パスポートなんか取ろうとしなきゃ良かったかな」
「それは問題を棚上げするだけだろ」
「おのれシアトル……」
「責任転嫁すんな」
俺とは似てない弟。
きっと放っておいたって、一人でもちゃんと立ち直っていただろう、頼れる弟。
横断歩道の錆びついた階段を登りきり、幹線道路の頭上を渡る。こんな時間でも行き交う車のライトが光の波のように押し寄せ、通り過ぎて行く。
この歩道橋を下りたら、俺達兄弟の家はすぐそこだ。強面だけど子煩悩で愛妻家の父さんと、三白眼気味で真顔が怖いのをちょっぴり気にしてる心配性の母さんが待ってる、愛する我が家。
「こうた」
ふと、振り返るとそこには、弟が。俺の知らない表情をしたせいじが、俺を真っ直ぐに見つめていた。
「……なに」
一度立ち止まってしまったら、きっともう駄目だ。流れ出した激流は止められないし、何も知らなかった頃には戻れない。無理矢理にでももがき続けなければ、俺はきっともう泳げない。
「先に言っとく。ごめん」
「は?」
遠くの方で聞こえ出した救急車のサイレンは空耳だろうか。本能からの警告音のような、けれども現実に近付いてくるサイレンが脈打つように鳴り響く。
「俺とこうたが兄弟じゃないって言われて、びっくりしたしショックだったけど、本当はちょっとだけ嬉しかったんだ」
「……は?」
なんだよ、それ。
じわりと滲んだ涙は、俺が兄ちゃんじゃなきゃ確実にこぼれ落ちてたね。
ああ、サイレンが耳に痛い。赤色灯の光というのは、どうしてこうも精神を不安にさせるのか。
「実の兄弟じゃなきゃ別に良いって訳でもないけど、夢くらい見てもいいだろ」
「……うん?」
兄ちゃんになんの不満が、そう問い正そうとした言葉が直前で止まる。なんか流れが変わったな?
何事もなく通り過ぎたサイレンが、赤色灯の光が遠ざかって行く。
「せいじ?」
さっきから疑問符ばっかりだな。
中途半端に冷静さを取り戻した脳みそが他人事のように考える。
だって弟の、せいじのこんな顔知らない。こんな、赤色灯のようなギラギラした、警告音が鳴り止まない顔。
「赤の他人が嫌なら、口説き落とされてみないか?」
「嫌だが??」
渾身の、おそらくは精一杯ロマンチックな物言いにしたかったんだろう告白を、即答でお断りしたのは悪かった。
でも兄ちゃんは、お前の兄ちゃんでいたいのであって、お前の恋人になりたい訳では無いので。だからそんな、キノコが生えそうな顔はやめてくれ。
「いつもはこれで絆されるくせに……」
「やめろ、こんなとこで下の子特有の甘え上手さを発揮させんな!」
「絆されかけてるじゃんウケる」
「イヤーッ! 弟が怖い!」
冗談半分に騒ぎ合いながら歩道橋を渡り切る。幹線道路から住宅街に向かう横道へ入れば、家まであとわずか。
繋いだままの手を強く握り返された。
「父さん達に事情聞くのか?」
「……うん、今聞かなきゃ、ずるずる先延ばしにするだけだ」
本来の俺は臆病で、本当は見て見ぬふりをしてしまいたい。知らないふりをして、気付かないふりを続けて。
「でも俺は、兄ちゃんなんだから」
我ながら矛盾している発言なのは分かっている。覆水盆に返らず。最悪の場合、あの家にはもう二度と帰れない可能性だってある。
それでも、「格好良いお兄ちゃん」は真実を無かったことには出来ないのだ。
「……お前という奴は」
「うん」
「せめて兄弟なんだからって言えよ、一人で抱え込もうとするの本当自重しろ」
「うん、ごめんな」
三白眼を更に細めて、特大級のため息が落ちる。
あくまで最悪の想定であって、あの両親が今更俺を放り出したりはしないだろうとは思うけど、こればかりは譲れない。
「俺よりヒョロいくせに年上ぶりやがって」
「身長はまだ俺の方が大きいんだが?」
俺よりぶ厚い手のひらに引かれて、今度はせいじが俺の先を歩く形になる。
「あのさ、」
年々父さんの背中に似てきた後ろ姿。いつものぶっきらぼうな、どことなく拗ねたような物言いも、なんだかちょっと違って聞こえる。
「こうたはちゃんと自慢の兄貴だよ。俺が勝手に、ただの兄弟ってだけじゃ我慢出来なくなっただけだから」
だから、と。お前は悪くないと言い聞かせるような優しい声。
お前そんな声も出せたの、兄ちゃんびっくりだよ。
「だからどんな事があっても、俺の好きな人を否定するような事は言わないでくれよ」
そんな、一世一代の愛の告白でも伝えるような甘い声。
どんな想定をしたのか知らないけど、案外俺達は似たもの兄弟なんだよな、なんてぼんやり思う。最悪の想定をして、勝手に落ち込んで抱え込んで、それでようやく「まぁそうはならんでしょ」って開き直るように前を向く。
「俺等って面倒くさいとこ似ちゃったなぁ」
「仕方がないだろ、兄弟なんだから」
「これから口説き落とそうって相手に兄弟は悪手じゃない?」
「茶化すな。ああ、それと」
「わっ!?」
せいじが振り返る。手を繋いだままだったから引き寄せられるようにぶつかって、鼻先が触れそうなくらい縮まった距離に心臓が跳ねる。
「こうたが余計な事茶化すのは照れてるからだって知ってるんだからな」
そうして、してやったりとばかりに三白眼を細めて笑う顔から目が離せなくなった。
