【お題SS#片想いのスタンス】ファミレスでモーニングを食べるカップル
(字下げ含み約2,000字)
「近所のファミレスでモーニングを食べる、とか」
「え。そんなことでいいのか?」
「この年で恋人なんて、求めるのはときめきじゃなくて癒しじゃない?」
「へぇ……」
「なによ」
「いや、恋人に癒し求めてんのか、って。ゴリゴリのワーカホリック同士で、侃々諤々議論したいのかと」
「あー」
否定はしないのか。
同期はくるくるとマドラーを回して首を傾げる。ランチタイムを過ぎた店内に人は疎らで、大きな窓から青々とした葉桜が見えた。
「あんたは?」
「は?」
「恋人に求めること」
思わず眉が寄ってしまう。そんな自分に、頭の片隅でまじかと思う。こんなに簡単に顔に出るのは、さすがにちょっとどうなのか。
「別に。相手次第?」
「ワーカホリックと、侃々諤々の議論とかは?」
桜色、よりは濃い色の唇を引き上げて、同期は真っ直ぐに俺を見た。マドラーを持つ指先は、まさに桜色だ。
綺麗だな、と素直に感じながら、射るような視線を受け止める。
「……謹んでご辞退申し上げる」
「ふふ。ファミレスモーニングのほう?」
「まぁな。もっといいのは、一日ベッドで過ごす、だけど」
「は? セクハラか?」
「ウソだろそう取る? おまえの想像範囲まで考慮して発言するのは無理だが」
「はは、ウケる」
「ウケないが?」
好き勝手言ってから、そろそろ行こうかな、と同期は軽やかに席を立った。
「あんたさぁ」
「ん?」
「そろそろ、気づいたほうがいいんじゃない」
「何に」
会計は当然別。コンビニに寄るという彼女との別れ際、あくまで軽く言葉が飛ぶ。桜よりも少しだけ濃い、艷やかな、微笑の形の唇から。
「これだけあたしの誘いに乗ってる時点で、あんたほんと、だいぶ限界」
ラメの光る強い瞳が、陽光よりも眩しく、俺の目を射抜いた。
「……限界だ」
「え?」
隣で部下が首を傾げる。努めて軽薄な笑みを浮かべて、俺は無邪気な瞳を見返す。
「共用フォルダの容量がね。データが保存できなくて」
「まずいですね」
「まずいねぇ。これ飛んだらさすがに発狂するかなー」
「ふふ、香山さんが発狂」
「笑えないよ、決算締まらない」
「発言内容と口調の温度差がすごいです」
「そう?」
「そうですよ。こんなにプレッシャーが重い業務の担当なのに、飄々としすぎです」
おかしそうに笑いながら、部下はカタカタと作業を続ける。『こんなにプレッシャーが重い業務』の、まさに根幹作業のひとつ。俺のチームに欠かせない、優秀な部下。
淡々とした見た目と業務責任の温度差なら、彼女のほうこそ大概だ。
「古いデータ、消さないとなー」
「わかってても抵抗感が」
「だよねぇ。でもけっこうあるよね、不要な重複データとかさ」
「ありますねぇ」
「やたら重いなーと思ったら、作業工程の数式全部シートに残ってるとか」
「重いのはアレですが、個人的には、数式はある程度残っててほしいかも」
「再現性はねー。でもさすがに全部だと、ちょっと身動き取れないなぁ」
「ふふ。限界ですね」
「そうだねぇ」
そんなことを言い合いながら、フォルダの過去データを整理する。いつの間にこんなに溜まっちゃうんだろうな、と思う。
「どっちかっていうと、割り切れるほうだと思ってたんだけどな-」
ああこれも要らないやつだ。カチ、と削除をクリックして、何気なく目線を横に逸らした。特に意図があったわけでは、ない。もちろん。
だから、じっと俺を見ていたらしい部下と目が合ったのは、本当にただの偶然だ。
「え?」
間の抜けた声が漏れた瞬間、部下がかすかに瞳を揺らしたーーように、見えた。
え。
固まる俺に、彼女はそっと、静かに微笑む。
「……そう、見えますよ?」
いや違う。今のはデータの、フォルダの話だ。単に容量が限界で、古いデータを削除しないと、今この瞬間、必要なデータが保存できない。ただそれだけの、話で。
それ以外には、何の含みも、全然なくて。
そんなふうに叫ぶような心臓を、ひとつ息を吐いて宥める。
「……そう?」
「ええ。割り切ってて、飄々としてて、達観してて、どんと構えてて、やる気なさそうで、そんな感じでよくこの業務仕切ってるなって、」
「待って。待って間宮さん、途中からなんかおかしくない? 少なくとも絶対に褒めてはいないよね?」
「褒めてますが」
「ええ……堂々と大ウソ吐くじゃんこの子……こわ」
「ふふふ」
彼女が細い肩を揺らして笑う。そしてすぐに、「あ、このデータ」とマウスを操作し始める。
プレッシャーが重い業務の、根幹作業を担ってくれる、優秀で、よく気がついて、楽しい部下。頼りになる、大事な部下。
そんなフォルダに、今はまだ保存しておきたい、というのは。
ーーそろそろ、気づいたほうがいいんじゃない。
同期の声を思い出す。くそ、まだ無理だ。保存できない、と思わず漏らした呟きに、部下が横目で小さく笑う。
なるほど確かに、限界みたいだ。
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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
木たこさん、素敵なお題をありがとうございました!!
ご無沙汰がひどすぎる。
前回の三人回は4/3……しがつみっか!?
覚えてる人いないのでは。
書きかけて寝かせていた間に、作者も衝撃の発酵をし始めているような。
香山さん、過去データは圧縮保存して、空き容量にそろそろ新しいデータでも……どうですか??( ´艸`)
はじめましての方でもお読みいただける内容にしているつもりですが、連作SSシリーズ12作目です。
前回まではこちら↓
TALESでも公開してます!
過去に間宮さん視点で連載していたものの続篇となるこのシリーズ。
三人にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前作シリーズも覗いていただけると嬉しいです(*´∀`*)
一話約2,000字、隙間時間にゆるゆるとお読みいただけます!
noteではこちらからどうぞ↓
※短歌や単発作品も収録
裏話としてこんな記事も書いてみました。
三人の仕事内容とかは参考になるかも!
