5003年 3月21日
「真逆のことを言う人たち」
春だった。
駅前で、
紺色のスーツを着た人たちが歩いていた。
少し大きい上着。
少し慣れない靴。
みんな、
少し緊張していた。
私はコンビニの前で、
温かいお茶を飲んでいた。
桜は、まだ少し早かった。
それでも、
風が吹くたびに花びらが落ちた。
後ろで、
二人が話していた。
「ちゃんとしないと。」
一人が言った。
「そんなに頑張らなくてもいいよ。」
もう一人が言った。
どっちも、
少し正しそうだった。
私は昔のことを思い出した。
ずいぶん前。
ちゃんとすることを、
大事にしていた人たちがいた。
頭を下げたり。
順番を守ったり。
言葉を選んだり。
人と人が、
離れてしまわないようにしていた。
そんな感じだった気がする。

でも、
しばらくすると。
違うことを言う人たちも現れた。
無理に急がなくていい。
頑張りすぎなくていい。
川は、
急がなくても流れるから。
風は、
頑張らなくても吹くから。
そういう人たちだった。
駅前の桜が、
少し揺れた。
昔、
真逆のことを言う人たちがいたんだけどね。
不思議なことに、
どちらも長く残った。
ちゃんとしようとする人も。
頑張らなくてもいいと言う人も。
私は少し考えて、
冷めかけたお茶を飲んだ。
人間、
片方だけでは落ち着かないみたい。
(5003/3/21執筆)
「リンク一覧」
第2期|揺れる振り子
12 「強い人と、離れない人」
13 「決まりが増える日」
14 「同じ看板が並ぶ頃」
15 「遠くへ行きたがる人たち」
16 「残したい人と、変えたい人」
17 「綺麗なものと、生きてるもの」
18 「急ぐ人と、待つ人」
19 「同じ列に並ぶ人たち」
20 「戻ってくる人たち」
