5003年 9月14日
「同じ看板が並ぶ頃」
夕方だった。
駅前に、
新しい店ができていた。
見たことのある看板だった。
少し前にも見た。
隣の町でも見た。
たぶん、
来週行く町にもあると思う。
私はアイスコーヒーを持って、
少し歩いた。
便利だった。
どこへ行っても、
同じものが買える。
同じ味で。
同じ値段で。
迷わなくていい。
少し歩くと、
和菓子屋が見えた。
隣町の人は、
たぶん知らない。
県外の人なら、
名前も読めないかもしれない。
でも、
地元の人はみんな知っていた。
秋祭りの日になると、
朝から行列ができる。
そんな店だった。

私は昔のことを思い出した。
ずいぶん前。
みんなを、
同じ方向へ向かせようとする人たちがいた。
言葉も。
決まりも。
測り方も。
揃えようとしていた。
遠くの人とも、
話が通じるように。
国が、
ばらばらにならないように。
でも、
その後。
違うことを言う人たちも現れた。
この土地には、
この土地のやり方がある。
この川は、
少し違う流れ方をする。
そういう人たちだった。
空が少し赤くなっていた。
駅前の看板にも、
和菓子屋の暖簾にも、
同じ夕日が当たっていた。
昔、
同じにしたい人たちがいたんだけどね。
残したい人たちもいた。
私はアイスコーヒーを飲みながら、
しばらく店を見ていた。
人間、
揃うと安心するし。
違うと嬉しいみたい。
(5003/9/14執筆)
