5003年 11月3日
「遠くへ行きたがる人たち」
祝日だった。
駅には、
大きなスーツケースを持った人が多かった。
外国の言葉も聞こえた。
少し前まで、
見かけなかった光景だった。
私は駅前のベンチに座っていた。
向かいの店では、
異国の料理を売っていた。
少し歩けば、
昔からある蕎麦屋もある。
どちらも、
よく人が入っていた。
不思議だった。
遠くのものを知りたがるのに。
近くのものも、
手放したくないみたいだった。
私は昔のことを思い出した。
ずいぶん前。
もっと遠くへ行きたがる人たちがいた。
知らない土地へ。
知らない海の向こうへ。
違う言葉の場所へ。

みんなを繋げようとしていた。
道を作って。
船を出して。
国境を越えて。
その方が、
豊かになれると思ったんだと思う。
でも、
その後。
違うことを言う人たちも現れた。
この土地には、
この土地の歌がある。
この町には、
この町の祭りがある。
そういう人たちだった。
夕方になって、
駅前の人が少し減った。
スーツケースを引く音だけが、
長く響いていた。
昔、
遠くへ行きたがる人たちがいたんだけどね。
帰ってきたがる人たちもいた。
私は少し考えて、
温かい缶コーヒーを開けた。
人間、
知らないものも好きだし。
懐かしいものも好きみたい。
(5003/11/3執筆)
