「苦しいを、どうにかしたかった人」
雨。
五月なのに少し寒くて、
コンビニの前で温かいものを買う人が多かった。
私は軒下で、
丸いドーナツを食べていた。
白い息を吐きながら、
みんな小さな光る板を見ている。
歩きながら。
立ち止まりながら。
疲れた顔で。
『もっと楽に生きる方法』
『あなたは悪くない』
『最短で成功』
そんな言葉が、
小さな画面の中を流れていた。
なんか、
昔から変わらないな。

ふと思って、
残りのドーナツを見た。
あの人に会ったのは、
まだ国が若かった頃だった。
大きな木の下で、
痩せた人たちが座っていた。
みんな、
苦しそうな顔をしてた。
お腹が空いてる人もいたし、
ずっと遠くを見てる人もいた。
でも、
あの人が一番困ってるように見えた。
なんで、とか、
どうして、とか。
声には出さなくても、
顔にそう書いてあった。
最初は、
死ぬのが怖いのかと思ってた。
でも、
たぶん、
少し違った。
うまく言えないけど。
好きな人と別れること、
若いままでいられないこと、
頑張っても届かないこと。
頭では分かってても、
心がまだそこにいる。
そういうことが、
苦しかったんじゃないかな。
たぶん。
雨が少し強くなった。
制服の子が走っていく。
スーツの人が、
スマホに向かって何か謝っている。
昔と違う服を着て、
違う道具を持ってるのに、
時々、
同じ顔をしてる。
あの人、
苦しまない場所を作ろうとしてたわけじゃ
なかったと思う。
苦しいままでいいから、
少しだけ、
楽に息ができるように。
そんな感じだった、気がする。
ドーナツの最後のひとくちを、
食べずにいた。
雨雲の向こうは、
たぶん晴れている。
見えなくても、
空が消えるわけじゃないから。
まあ。
(5001/5/5執筆)
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