「分かる人ほど、分からなくなること」
夕方なのに、
空が少し暗かった。
雨はまだ降ってない。
でも、
湿った空気が、
ずっと街に張りついている。
風も、
なんだか変だった。
コンビニの前で、
私は天気予報を見ていた。
『大型台風接近』
『今後の進路に注意してください』
画面の地図には、
大きな渦がゆっくり動いている。
みんな、
時々スマホを見上げてる。
洗濯物を気にしてる人。
電車を気にしてる人。
早足になってる人。
なんか、
昔から変わらないな。
あの頃も、
空を見てる人が多かった。
風の向き。
鳥の声。
雲の形。
水の流れ。
みんな、
世界の癖を探してた。
崩れる前に。
失う前に。
間に合ううちに。

遠くで、
雷の音がした。
まだ光は見えない。
でも、
空気だけ先に変わっている。
分かる人ほど、
早く気づいてた。
「あ、これ嫌だな」
って。
コンビニから出てきた人が、
ビニール傘を買っていた。
小さい子が、
空を見上げてる。
昔と違う服を着て、
違う道具を持ってるのに。
時々、
同じ顔をしてる。
風が少しだけ動いて、
湿った匂いが流れてきた。
(5002年 8月29日執筆)
