全然覚えてへんわ?
私には、ずっと忘れられない言葉があります。
数年前、仕事も人間関係もうまくいかず、完全に自信を失っていた時期がありました。
当時付き合っていた神戸の恋人ともギクシャクして、何もかもが裏目に出ていた頃です。
自分の存在価値すら見失いかけていたある日、尊敬する職場の先輩と大阪のたこ焼き屋に入りました。

熱々のたこ焼きをハフハフと食べながら、ボロボロだった私は思わず弱音を吐き出してしまったのです。
もう、何をやってもダメかもしれません。
そのとき、先輩が割り箸を置いて言いました。
大丈夫や。お前は昔から、土壇場の土壇場で一番ええ仕事するから。
その一言に、救われました。
自分でも気づいていなかった強みを認めてもらえた気がして、胸の奥がじんわり温かくなったのを覚えています。
そこから私は、その言葉をお守りにして何度も壁を乗り越えてきました。
そして最近、久しぶりにその先輩とお酒を飲む機会があったのです。
私はずっと温めていた感謝を伝えました。
あのとき先輩が言ってくれた言葉のおかげで、今の自分があります。ほんまにありがとうございました。
すると先輩は、ビールグラスを持ったまま首をかしげました。
え、僕そんなこと言ったっけ?
全然覚えてへんわ。
一瞬、拍子抜けしました。
あんなに私の人生を支えてくれた言葉だったのに、言った本人はきれいに忘れていたのです。
でも、後から気づきました。
人は、相手を救おうと狙って放つ言葉よりも、心の底から自然に出てきた無意識の言葉にこそ、本質を宿らせるのだと。
計算のない言葉だからこそ、深く届く。
そして言った側は、当たり前のことを言っただけだから記憶に残らない。
覚えているかどうかは、重要ではありませんでした。
もし今、あなたが誰かの言葉に救われた経験があるなら。
それは、相手が意図せず届けてくれた、本当の優しさの証拠です。
そしてもしかしたら、あなた自身が何気なくかけた一言も、知らぬ間に誰かの人生を救っているのかもしれません。
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