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#なんのはなしですか【長編小説】第一話(キノコのこの子)

俺のキノコが未来を救う!?
ある日突然、トキオ(主人公)の頭に生えた小さな“キノコ“。受診先のクリニックの先生に告げられたのは――「そのキノコには、この世界の未来がかかっている」だった。

キノコの除去と引き換えに課せられたミッションは二つ。一つは、未来で起きている妄想パンデミックの元凶であるウイルスNo.874の開発者を見つけること。もう一つは、路地裏で失くしたOパーツを探し出すこと。
かくして向かうは街の路地裏。待ち受けるのは、至っておかしなロジウラー。「なんのはなしですか」から始まるロジウラーとの奇想天外で有象無象な擦った揉んだの珍道中。果たしてトキオと未来の運命はーー!?

あらすじ

第一話 キノコのこの子

 今朝もいつもと同じはずだった――。
 変わらない朝、いつものように寝ぼけ眼で洗面所へと向かい、ウトウトと歯ブラシに歯磨き粉を付けて、目を閉じたまま歯を磨く。それからお湯を出し顔を洗う。最後にタオルで拭き終え、ようやく目が覚める。
 クリアになった視界。そして、鏡を前に俺は言葉を失った。
「え、なんだよ、これ…」
 俺の頭の右上、つむじよりも少し手前に『それ』はあった。恐る恐るその先端を指で触ってみる。
 小指よりも少し短いくらいだろうか。やや弾力があり、しっとりと滑らかな肌触りだった。赤い傘に白のマーブル模様。いかにもゲームのアイテムとして使えそうな『それ』は、髪の間からひょっこりと顔を覗かせていた。
「キノコ…?」
 洗面台に両手を付いたまま、俺は頭の上にあるものをまじまじと見た。やはり『それ』は紛れもなく『キノコ』だった。
「うそ、マジでキノコ生えてるじゃん…」
 これは夢か現か。試しに頬をつねってみるが、普通に痛い。つまり、これは現実――。にしては、ぶっ飛びすぎている。
 俺は一か八か、キノコを強めに引っ張ってみた。頭皮に一瞬、強い電流が走る。あまりの痛みにからだがビクンと震え、顔をゆがめた。
「いってぇー」
 危うく思いっきり叫ぶところだった。目の奥にじんわりと涙が滲む。一か八かでバチが当たった。
「なんなんだよ、このキノコ…」
 『キノコ』といって思い出せることといえば、松平とのあの日の会話くらいだ。

 それは先週末のこと。
 相変わらず俺は、目の前の白い画面と点滅するカーソルを見つめたまま、進まない小説の執筆に溜め息ばかりをいていた。時折、目を閉じ天を仰ぐも、目の前が白から黒へと変わるだけで、やはり何も浮かばない。俺は「ん゙ー」と唸りながら眉間に皺を寄せ、そのまま頭を抱えた。
 ノックもなしにガチャリと部屋の扉が開く。
「トキオー。今日、路地裏でキノコ祭りやってるらしいから、一緒に行こうぜ」
 松平は俺の様子など気にも留めず、いつもの明るい調子でそう言った。
 松平雅楽守うたのかみ、俺の同居人。それでいて、素直でアホな、底抜けの明るさを持つ天然。いや、天然を通り越して、もはや天然記念物なのかもしれない。
 そんな松平の放つ声が眩しい。その光を右手で遮るようにして、眩しさにしかめた顔のまま、俺はぎこちなく松平の方を向いた。
「ごめん、行けない。小説の内容考えないと」
 松平は扉にもたれかかったまま、少し呆れたようにして眉を寄せた。
「もー、トキオは頑張りすぎだって。少しは息抜きしようぜ。そんなに引きこもってばっかりだと、頭からキノコが生えるぞー」
 いやいや、引きこもってるだけで頭からキノコが生えてたまるかよ。と、松平の冗談に心の中でツッコミながら、この半年を思った。
 半年前、創作大賞という公募に出した小説が落選した。その悔しさから躍起になり、この引きこもり生活が始まった。それから半年、今もこうして画面に向かい、小説を書いては消しての繰り返し。もう何が正解なのか分からなくなっていた。
「そうだとしても、今は書かないといけないから。まぁ、息抜きは、そのうちな」
 俺はかたくなだった。ひさしにしていた右手を軽く上げ、くるりと椅子を回してパソコンの画面へと向き直った。
「トキオのケチー。キノコに泣いても知らないからな」
 松平はそれだけ言い残して俺の部屋を後にした。


 そこから数日が経ち、今、俺の頭には本当にキノコが生えている。にわかに信じがたいが、松平の言っていたことが現実となったのだ。
 あの日のことを思い出しながら、俺は洗面所を出た。そうして、廊下を挟んで自室の向かい側にある松平の部屋の扉をノックする。
「松平〜。ちょっと話があるんだけど」
 松平からの返事はない。松平のことだから、たぶんまだ眠っているのだろう。
「入るぞ〜」
 俺はゆっくりと扉を開けた。薄暗い部屋の中、正面の壁際には、松平が愛用しているギターが数本、専用のスタンドに立てかけてある。ローテーブルの上には読みかけの漫画本が散乱していた。
 相変わらず散らかってるなぁと思いながら部屋の奥へと目を向ける。案の定、松平は布団に丸まって気持ち良さそうに眠っていた。俺はベッドの脇に座り、「ま〜つ〜ひ〜ら〜」っと名前を棒読みしながら、額をツンツンと指先で押した。
 松平が顔をしかめて「ん…」っと眠そうな目を薄っすら開ける。
「ねぇ、俺、マジで頭にキノコ生えたんだけど」
 俺は頭のキノコを松平へと向けて見せた。
 松平は少し躰を起こすと、いぶかしげに目を細めたまま、キノコを見て言った。
「え、何…?チ◯コ?」
「いや、ちげーよ!!キノコだよ!」
 そんなもん頭に生えたら一大事である。キノコってだけでもヤバいのに、そこで下世話なキノコなんて生えたら――考えただけでも身の毛がよだつ。
 松平は枕元の棚から眼鏡と義眼のケースを手に取ると、ベッドの上で胡座あぐらをかき、それらを慣れた手つきで付け始めた。
 そうだった。松平はド近眼で、左目は見えていないんだった。
「ほんとだ。キノコじゃん。どうしたの、それ。食用?」
「なんのはなしだよ。食用だったら今頃すでに俺の胃の中だわ」
 というか、まず第一に、こんなキノコ食べたいとも思わない。それに何より、切ったら絶対に痛い。拷問だ。想像しただけで息子の金の玉がヒュンと縮む。
「あぁ、たしかに。じゃぁ、何用?」
「いや、知らねーよ。そうじゃなくて、お前が先週言ってた『頭からキノコ生える』って、あれ。実は分かってて言ったわけじゃないよな?」
 その言葉を聞いて松平の目が輝いた。
「え、もし分かってたら、俺、スゴくね?あの時は冗談で言ったけど、頭にキノコが見えた気もしたし…もしかしてこの義眼に予知能力とかあったりして」
 松平はそう言って、右目を閉じると、本物の眼と遜色ない左の義眼で遠くを見透すように、ニヤリと笑ってみせた。
 そんな松平の肩にそっと手を置く。俺は努めて冷静に伝えた。
「松平に予知能力なんて、ありえないな」
「え〜」っと、肩をガックリ落とす松平を前に俺は続けて訊いた。
「それよりも、このキノコ、どうしたらいい」
 松平が落ち込んでいた姿から一転、パッと明るく顔を上げた。
「ここはやっぱり、御長寿番組のナニソレ珍百景に出すとか?」
 それはアカーン!!その答えを聞き、危うくチーンと卒倒しそうになる。
 このキノコが全国放送…絶対にアカンやつだ。即刻アウトだ。
「それこそ、引きこもり確定じゃねーか!一生、社会に出れねーわ!」
「あ?やっぱダメ?面白いと思ったけどなー。確実に珍百景だし、キノコといえばチ◯コ。チ◯コといえば珍ひゃ…」
 俺はその瞬間、右手で松平の頬を瞬時に挟み、ぐにゅっと潰した。口と一緒に松平の目も顔の中心へキュッとすぼまり、愛嬌のあるひょっとこ顔ができあがる。
 こいつ、絶対に俺の社会的立場よりも面白さを優先してやがる。やはり、松平に訊いたのは間違いだったか。そう思いながら、「うーうー」と煩いひょっとこから俺は手を離した。
「まぁ、もしかしたら何かの病気とか寄生虫とかかもしれないし、とりあえず病院だよな」
「うー。やっぱりそこは、泌尿器科とか?」
 口元だけがひょっとこのままの松平が眉を上げ、嬉々としてこちらへ視線を寄越す。
 そう来ると思っていたさ。
「俺が診てほしいのは下じゃなくて、上だ。それに、息子じゃなくてキノコだ」
 とは言ってみたものの、まずキノコ診れる医者なんているのかよ、と思わずなげいてしまう。
「んー、それなら、ポン先生に診てもらったら?」
「ポン先生…?」
「そう、俺が通ってるクリニックの先生で、『ポンコツ』って名前だからポン先生。ポンコツだけど、宇宙人も診れるらしいぞ」
 ポンコツ…名前からして胡散臭い先生だった。宇宙人など信じられないが、頭のキノコを思えば、非現実的なくらいが丁度良いのかもしれない。いやしかし、あの松平の紹介…
 俺が「んー」と決めあぐねていると、松平は付け加えるように言った。
「あ、それと、看護師のエリさん、美人だぜ」
 松平は左手の親指をグッと立てると、キリッとした表情で決めてみせた。
 美人の看護師…俺は即決した。だが、松平の手前である。
「そうなんだ。まぁ、とりあえず、その先生の腕を信じてみるか」
 その言葉に松平の顔がニヤつく。
「素直じゃないなぁ、本当はトキオもエリさんが目的なんだろ」
 俺は松平を制するように言った。
「うるさい、お前と一緒にするな。俺はこのキノコをなんとかしたいんだよ」
 そう言って俺は頭のキノコに触れた。そして気づいた。
「なぁ、松平、俺のキノコ…今朝よりも一回りデカくなってる…」
「え、そうなの?あ、やっぱりトキオ、エリさんのこと考えてたんだろ〜」
 松平は茶化すようにして無邪気に笑った。
「いや、まさか、俺がそんなこと考えるわけないだろ」
 完全に図星だった俺は、ぎこちなく笑ってみせた。
 そして俺は考えた。待てよ、そうなると、このキノコ…いずれは俺の息子よりも――それだけは絶対に御免だ。何としてでも、このキノコと決別しなければ。俺はキノコを必ず取り除くと固く心に誓った。
 しかし、この決意によってこの先、世界の運命を背負い、あんなカオスな奴らと関わる羽目になるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。



第二話 ポンコツの唐突


#創作大賞2025
#エンタメ原作部門

#なんのはなしですか


#なんのはなしですか
第一話 キノコのこの子
第二話 ポンコツの唐突
第三話 ミッションインポッシブル
第四話 なんのはなしです課
第五話 コニシ木の子という男
第六話 初めましては混沌の始まり
第七話 ミル湖と迷子
第八話 憧れに惑わされ
第九話 隠された真実
第十話 終わりは始まり


本作品の注意事項

《登場人物》
 許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
 また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m

トキオ(オリジナルキャラ)
松平雅楽守


#小説
#連載長編小説
#アニメ化希望
#表紙絵友人作の本を自主製作予定


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