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#なんのはなしですか【長編小説】第八話(憧れに惑わされ)

第一話 キノコのこの子

第七話 ミル湖と迷子

第八話 憧れに惑わされ

 豆島さんと話しながら歩いていると、いつの間にか表通りの手前まで来ていたらしい。街の喧騒が少し遠くの方から聞こえてくる。
 我々は表通りには出ず、建物の脇へと寄った。秘密の話の続きを…そう思った時、表通りから来た女性に声をかけられた。それも俺ではなく、こちらの豆島さんへ。
「あ、やっぱり豆島さんでしたか」
 豆島さんは相変わらず抑揚のない声で「ワン」と答えた。
 俺は女性へと尋ねた。 
「このパグのことを知ってるんですか?」
 女性は軽く微笑んで「えぇ、まぁ。お得意様なので」答えると、また豆島さんへと話しかけた。
「豆島さんは今日はお買い物ですか?」
「ワン」
「えーっと、では、本の補充ですか?」
「ワン」
 豆島さんは背負っていたリュックサックを女性へと向けた。
 女性はそのリュックサックを開けると中から2冊の本を取り出した。
「あぁ、この本。もう在庫少ないですもんね。補充しておきますね」
「ワン」
 吠えてはいるが、テレパシーは感じられない。それなのに、この女性は意思疎通が取れているようだった。
「あの…もしかして、あなたもテレパシーか何かを…?」
 女性はきょとんとした顔をしてみせた。
「…なんのはなしですか?」
 これはどっちの意味なんだ。YESなのかNOなのか。表通りから来たが、この女性もロジウラーなのか。
「いや、あの、豆島さんと意思疎通ができているようだったので、てっきりテレパシーか何か使えるのかなと…」
 女性はそう聞いて慌てたように手を顔の前で振ると、照れ隠しでもするように少し笑いながら言った。
「あ、いえ、そういうのは全く使えないんですけど、ほら、豆島さん毎回ワンって言ってくださるので、そのトーンというかニュアンスで」
 俺は呆気に取られた。テレパシーではなく、なんとなくで分かるものなのか。
「これを聞き分けられるんですか…」
 あのワンはどう聞いても同じワンである。並の人間では判別のつかない微妙な違いをこの女性は聞き分けているというのだろうか…だとすれば、すごすぎる。
 すると、それを聞いていた豆島さんがまたワンと吠えた。
(あなたとは違って吉穂さんは物分りの良い人なの。私がテレパシーなんか送らなくても彼女は私の意思を汲み取れるのよ)
「え…もしかして、吉穂さんって、ここの書店の…?」
 俺は横にある二階建ての建物を見上げた。
「あ、はい。でもどうして私の名前を…」
 そうだ、吉穂さんには豆島さんの声は聞こえていない。俺は己の無い頭をフル回転させた。
 吉穂堂書店といえば、表通りにある有名な共同書店の一つであり、本を販売したい作家へ書店の棚を貸し出し、棚を借りた作家はそこで自身の売りたい本を販売することができるという形の書店である。吉穂さんは作家でもありながら、書店の経営も行っていた。
「え、あ、えっと、以前、吉穂さんの『眠る女』を読みました!その紹介記事で吉穂堂という書店をやっていると書いていたので、この書店で本の補充といえばご本人かなと思って…」
 苦し紛れの言い訳に吉穂さんは感嘆した。
「なるほど、すごい推理力ですね!それに私の書いた本まで、ありがとうございます」
 こんなにも純粋な女性がまだこの世界にはいたのか。もうこの先、これほど純粋で素敵な女性には出会えない気がした。
「ワン」(あなた、口だけは達者なのね)
 豆島さんが少しだけ余計な一言を吠える。
 俺はそんな豆島さんを軽く睨むように目で訴えてみせたが、豆島さんは俺の気持ちなど気づく様子もなく、あらぬ方向へと立て続けにワンと吠えた。
(あら、はそやmさんとダフやん、それにノノさんじゃない。お二人も本の補充に?)
 豆島さんの視線の先から、艶のある長い黒髪をした女性とテディベアを抱えた女性が並んでこちらへと向かって歩いて来てくる。
 帳面町で、はそやmさんとノノさんといえば、ここにいる豆島さんや吉穂さんに肩を並べるほど、この街では有名な作家である。
 二人が「こんにちは」と豆島さんへ向けて挨拶を返すと、その後から少年のような声が脳内へと聞こえてきた。
(豆島さん久しぶりだね。今日はね、本の補充だよ。嬉しいことに最近手に取ってもらえることが増えたからね)
 豆島さんと同じテレパシーであることは間違えないのだが、あたりを見回してみるもそれらしき動物は見当たらない。
 俺がキョロキョロとしていると、長い黒髪のお姉さんが吉穂さんへ向けて訊いた。
「もしかして吉穂堂の新しい出店者さんですか?」
 吉穂さんはその声の方へ振り返ると、パッと嬉しそうな笑顔で二人を出迎えた。
「あ、はそやmさん、青豆さん、こんにちは。いえ、出店者というわけではないのですが、豆島さんの繋がりで知り合いまして少し立ち話を…あ、そういえばお名前!まだ伺ってませんでしたよね。私としたことがすみません」
 吉穂さんは慌てたようにペコペコと頭を下げてみせた。
「いえ、俺の方こそ名乗らずにすみません。トキオカケルって言います。今、路地裏にある『なんのはなしです課』ってところで働いてるんですけど、その仕事で路地裏を回っていたらこちらの豆島さんに…」
「ワン」(そうね。私を豆柴と勘違いするなんて、ほんと失礼な男だったわ)
「そうだったんですね。はじめまして、青豆ノノです」
 ノノさんは、その艶のある髪を少しだけ揺らすように軽くお辞儀をした。
 その瞬間、ノノさんの姿、と言うよりはその存在に俺は魅了された。まるで言葉を交わしただけで目が離せなくなるような魅力がある。
 俺がノノさんに目を奪われていると、茶色のテディベアを抱えた可愛らしい婦人も、続けて挨拶をした。
「はじめまして、はそやmです」
(豆柴だなんて失礼しちゃうね。あ、僕はダフやんだよ)
 俺は目を見開くようにして、はそやmさんの持つテディベアを見た。テレパシーとして届く少年の声は、紛れもなくテディベアから聞こえてきたものだった。
 ぬいぐるみが喋っている…そんなことがあり得るのか…いや、もうあり得ないことないんてないのか…そんな意味のない思考が脳内に溢れかえってまない。
「トキオさん、どうかされました?」
 そう吉穂さんに尋ねられ、俺は慌てて返事をした。
「あ、いえ、はそやmさんに、青豆ノノさんって…皆さん小説で活躍されている方ですよね。ノノさんの『ソウアイの星』も、はそやmさんの『骨皮筋衛門』も読みました。ジャンルは違いますが、どちらも素晴らしい作品でした」
 はそやmさんはその言葉に目を潤ませた。
「読んでくれたんですか、ありがとうございます!」
(こうして本を出せるのも読んでくれるみんなのおかげだね)
 はそやmさんのお礼に合わせるようにノノさんも「ありがとうございます」と軽く頭を下げてから、俺へ向けて訊いた。
「ところで、トキオさんはコニシさんのところで何をされているんですか?」
 思えば、何をと言えるほどの仕事は今のところできていない。しかし、なぜノノさんがコニシの名前を…俺は『なんのはなしです課』ということしか伝えていないはず…
「いえ、まだ大したことはしていなくて、路地裏の人達の話を聞いたり、何かできることがあれば手伝うつもりではいるんですが、今日が初日なので今のところロジウラーへの挨拶回りみたいになってます」
 その言葉に吉穂さんが反応した。
「そういえば、ここにいる皆さんもロジウラーではなかったですっけ?」
 そう問われて豆島さんは吠えた。
「ワン」(ロジウラーなんて呼ばれるほどのものかしら)
 そこへ立て続けにノノさんとはそやmさんも答える。
「そうですね、私はたまに顔を出す程度なので大きい声では言えませんが」
「私もダフやんと一緒に時々楽しませてもらってます」(路地裏は面白いよね〜)
 なるほど、それでコニシさんのことを知っていたのか。もしかすると、意外と表舞台の人達も路地裏へ行っているのかもしれない。そうなると、ロジウラーでなかったとしても確認しておく必要があるな。
 俺はポケットから、失くした例のパーツのイラストを取り出して言った。
「そうだったんですね。あの、もし路地裏でこういう物を見つけたら教えてもらえないですか?少し前に路地裏で失くしたみたいで。俺も皆さんのお力になれることがあれば手伝いますんで」
「分かりました。見つけたらお伝えしますね」
「よろしくお願いします。じゃあ、俺まだ仕事中なので、行きますね」
 そう言って軽く頭を下げた時だった。
「ワン」(あなた、どうしてそれを知っているの。もしかしてあなたも、路地裏の秘密を探っているのね)
 俺はその瞬間、豆島さんを見た。豆島さんもじっとこちらを見ている。
 大御所作家達に圧倒されてすっかり忘れていたが、そういえば豆島さんから路地裏の秘密について聞こうとしていたんだった。
 俺は思い立ったように言った。
「あ、そうだ!豆島さん。俺まだこの辺を周りますし、お散歩ついでに一緒に行きましょう!皆さんありがとうございました。豆島さんちょっとお借りしますね!」
 俺は豆島さんを小脇に抱えると、脇目も振らず路地裏の奥へと連れ込んだ。



第九話


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第一話 キノコのこの子



本作品の注意点

《登場人物》
 上記の記事で許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
 また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m
 ご不明な点や不備・要望がありましたら、教えていただけると幸いです。

トキオカケル(オリジナルキャラ)
松平雅楽守
ポンコツ
モスキートエリ
コニシ木の子
えむのマイトン
彩野リィ
めぐみティコ(タロットアカウント)
とことこてー
persi
りーも
優谷美和
豆島圭
吉穂みらい
青豆ノノ
はそやm


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#表紙絵友人作で本を自主製作予定

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