#なんのはなしですか【長編小説】第五話(コニシ木の子という男)
第五話 コニシ木の子という男
「あ、本当に来たんだ、トキオくん」
コニシは相変わらず少し掠れたような声をしていた。しかし、以前と違い話し方はとてもフランクになっている。1週間前に会った時のあの丁寧な口調のコニシ木の子はどこへ行ったのか。コニシは一度垣根を越えると口調が変わるタイプなのかもしれない。
「いや、流石に来ますよ。今日からここで働くことになったんですから。ていうか、なんで俺、初日から信用されてないんですか」
「んー、そうだねぇ、世の中には嘘のような本当も、本当のような嘘もあるからね。真実なんてあってないようなものだからさ。トキオくんも実は実在してなかったんじゃないかと思ってね」
相変わらず何の話をしているのか、分かるようで分からない。
「そんなことあるわけないでしょ。どんな世界線ですか、恐ろしい」
「まぁ一応、路地裏のみんなにはトキオくんがこの課に入ってくれたことを、速報で発信しておいたから安心してよ。これでロジウラー達からも気軽に話しかけてもらえると思うから」
コニシはスマホの画面を見ながらそう言った。なんだかんだ言いながらも気遣ってくれていたのか。
「そうなんですね。なんか、ありがとうございます。ところで、その…速報?っていうのは…なんですか?」
俺の問いにコニシはスマホの画面から顔を上げた。
「あぁ、この課はね、毎月2回隔週で月曜日に『なんのはなしです課通信』という記事を出してるんだけど、それとは別で取り急ぎの内容とかお知らせを発信するのに『速報』を出したりもするんだよね。それで今回も通信を出すまでまだ期間があったし、急だったからね、速報で発信しておこうと思ってね」
「はぁ、なるほど」
「ちなみにロジウラーには、頭にキノコが生えた青年を見かけたら声かけてって言ってあるから」
…!?やっぱり前言撤回である。この蛇男は1ミリも気を遣えない人種だ。
「ちょ、なんでそんなこと言っちゃったんですか!?」
「え?だってそっちの方が分かりやすいし、面白いでしょ?だからもう、ここでは頭なんて隠さずに仕事していいよ。それに、ここならキノコくらいすぐ気にならなくなると思うし」
類は友を呼ぶとはこういうことか。コニシは松平と同類だった。面白いに全振りしているせいで色々と正常さが欠如しているようだった。
しかし、郷に入っては郷に従えだ。ここは我慢するしかない。
「…分かりました。ちなみにコニシさんのことは何と呼んだらいいですか?」
「何でもいいよ。特にこだわりはないから、ミスターパーフェクトと呼んでくれてもいいし」
どう考えてもこだわりしかない。まず、誰がそんな名前で呼ぶか、恥ずかしい。
「じゃあ、コニシさんか課長って呼びます」
「それは残念だね。まぁ、いつでもそう呼びたくなったら呼んでくれていいから」
「絶対に呼びません。それで、俺は何の仕事をしたら良いんですか?」
コニシは少し考えるように腕を組んだ。
「んーそうだねぇ。トキオくんには外回りを担当してもらおうかな」
「外回り…?」
何かの営業だろうか。
「そう、外回り。僕はきっと内回りで手一杯だと思うから。そういえばトキオくんは、この町が創作の町って呼ばれていることは知ってるよね?」
そう、ここ帳面町はこの数年で創作の町として認知されつつある。東京でいうところの、高級ブランドといえば銀座、ファッションといえば原宿、LGBTといえば新宿二丁目、そういった感じで創作活動といえば、ここ帳面町と言われ始めている。
「はい。町の活性化と移住者を増やすために、noteアプリを活用した取り組みですよね。住民がnoteで企業のテーマに沿った記事や一般の文章やイラストなどの創作作品を投稿して、優良な創作であればポイントがもらえる仕組み。僕もそれでこの町に移住してきましたから」
この町が帳面町となった頃、住民の創作活動を支援するためのアプリケーションとしてnoteが導入された。利用者である住民はnoteへの創作物(文章や絵、音声など)の投稿内容によって町からポイントが付与され、このポイントで商品を購入したり、現金へと換金したりすることができる。いわば、ちょっとしたポイ活である。町側も利用者や住民が増えることで収益にも繋がるためwin―winの関係なのだろう。
俺も小説やエッセイを投稿してポイントを貯め、そのポイントでnoteの推しクリエイターの記事を購入したり、ちょっとした買い物で利用したりしていた。
「そうなんだ。それなら話が早いね。noteの記事にタグが付けられるのは知ってると思うけど、今週はそのnoteに投稿された記事の中で『#なんのはなしですか』ってタグの付いた記事を全て回収する期間だから手が空かなくなる。だから、この路地裏で過ごしているロジウラー達の『#なんのはなしですか』まで聞いている時間が僕にはない。つまり、トキオくんには路地裏でみんなの『#なんのはなしですか』を聞いて回って欲しいんだよね」
「なるほど、それが外回りってわけですね。でも、話を聞いて回るだけで良いんですか?」
「そうだね、気になることがあれば記事にしてくれてもいいし、話を聞くだけでも充分彼らの支えにはなると思うから。まぁ、困ってる人とか手伝えることがあればやってあげて」
手伝えること…万屋みたいな感じなのか。といっても、俺に特段これといったスキルはないしできることは限られそうな気もする。
「あのー、ところで、タグの付いた記事の『回収』ってどういうことですか?」
「あぁ、それはねぇ、今週noteに投稿された記事の中でタグが付いている記事を全て読んで、コメントを残すんだよ。それから、その全ての記事についての紹介文を書いて、それを『なんのはなしです課 通信』という一つの記事にまとめて発信する。それをここでは回収って呼んでる。まぁ、1週間で回収する人数はざっと120〜150人くらいかな。人数はそのくらいだけど複数本の記事を投稿する人もいるから、記事の数としては400件近くになるね」
「1週間で120人以上のクリエイターの記事を400件!?」
確実にイカれてる。現実的にそんなことができるのか…
「それ、全部読んで筆者宛にコメント残すんですか…?それが終わったら次は読者宛に記事の紹介文を書いて一つの通信としてまとめる…しかも1週間以内に…?」
コニシはいつもの事のように平然と答えた。
「そうなるね。その中に音声とかイラストとかもあるけど、まぁ主に文章がメインかな」
まずもってこの人は何故そんなことをやっているのだろうか。たしかに記事の閲覧数が増えて広告収入が入る可能性はある。しかし、それも微々たるものに違いないし、費用対効果が釣り合っているとは思えない。
「それは…何か必要でやっていることなんですか?例えば何らかの目的で町から依頼されたとか」
「なんのはなしですか」
コニシはそう言うと口元だけふっと笑って見せた。
「僕は依頼なんてされてないよ。僕がこうしてみんなの記事を紹介することで、それがみんなの表現に対する居場所になってくれたら嬉しいってだけだね。みんなには書くこと作ることをやめないでほしい。ただそれだけのことかな」
絶対的にやっていることはおかしいのに、その想いは何よりもまともだった。
「やめないでほしい、ですか」
「そうだね。トキオくんは何か書いているものはあるかい?」
「俺は…」
言葉に詰まった。最近は何も書けていない。何か書きたいのに上手く書けないでいる。
「今は特に何も…」
コニシは否定するでも肯定するでもなく穏やかな声で言った。
「そう、それならここで何か見つかると良いねぇ。記事、楽しみにしてるから」
俺はそんなコニシから視線を外した。書きたい、書けない、書かないといけない。そんな気持ちが俺の中でぐるぐると渦を巻く。
「はい…ありがとう、ございます」
そう、喉から絞り出した声にはどこか詰まるような苦しさが滲んだ。
#なんのはなしですか
第一話 キノコのこの子

《登場人物》
上記の記事で許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m
ご不明な点や不備・要望がありましたら、教えていただけると幸いです。
トキオカケル(オリジナルキャラ)
松平雅楽守
ポンコツ
モスキートエリ
コニシ木の子
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