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#なんのはなしですか【長編小説】第六話(初めましては混沌の始まり)

第一話 キノコのこの子

第五話 コニシ木の子という男

第六話 初めましては混沌の始まり

 なんのはなしです課から外に出ると、途端に目が眩んだ。最近はずっと引きこもりだった俺にとって、陽の光はまだ明るすぎる。俺は目を瞑ったまま漠然と仕事内容を思い返した。路地裏の人達の話を聞く仕事と言われても、正直あまりピンとこない。要するに旅番組で地元の人に話を聞くようなものなのだろうか。
 俺は手始めに、なんのはなしです課の隣にある建物を訪ねた。その入り口には目立つ位置に一枚の紙が貼ってあった。
『ただいま休業中。どうでもよくないご相談やご用のある方は路地裏神社まで』
「どうでもいい課…本当に放置されてるじゃん」
 コニシ曰く、『なんのはなしです課』から派生した課は二つあり、そのうちの一つがこの『どうでもいい課』だという。そして、もう一つがこの並びから斜め向かいにある『どうかしているとし課』である。どちらの課もコニシ自身が主体的に運営しているわけではなく、それぞれの課を設立したロジウラーへ、その課の運営を一任しているという。
「まぁ、どうでもいい課なんだし、どうでもいいか。また今度だな」
 そして、もう一つ。俺は斜め向かいへと目を向けた。先程見た『どうでもいい課』のどうでもよさそうな外観とは打って変わって、赤を基調とした派手かつ独創的なデザインで目立つ建物。いかにもそれは『どうかしているとし課』だった。建物の中には受付と思われる女性が一人、作業をしながら座っている。
 ここへ入るには少し勇気がいるが、立ち止まっていても怪しまれるだけか。そう思い、俺は意を決した。
「こんにちは。あの、今日から向かいにある『なんのはなしです課』に勤めることになったので、そのご挨拶に伺いました」
 中へ入り、そう伝えると、女性はこちらを見るや否や慌てたように「あ!」と声を上げた。
「速報でお伺いしてます!トキオさんですよね。私、どうかしているとし課で受付を担当してます、リィと言います。よろしくお願いします!」
 ハキハキと話す彼女には若さと可愛さがありながら、受付としてはどうかしているとしか思えない髪型と服装には強さも兼ね備えられていた。胸元辺りまであるロングヘアーは、そのこめかみだけがスパッと斜め上へと切り揃えられており、これが世に言う姫カットなのだと感嘆する。さらにロリィタと呼ばれるそのファッションは、赤いワンピースにフリルやレースが多様に施され、ふんわりと膨らんだスカートがヨーロッパの人形を思い起こさせた。
「リィさん。こちらこそ、お願いします。あの、もしかしてここもコニシさんみたいに何かタグを回収したりしているんですか?」
「あ!いえ、特にタグの回収などは行ってはいないのですが、当課の課長であるティコさんが路地裏で気になった『どうかしているとしか思えないロジウラー』を特集して案内板という形で記事を書いています。ティコさんの文章って読みやすい上に面白くて、特集のターゲットとなる方のことを楽しみながら知ることができるんですよ。今はもう案内板の発信は行なっていないんですけど、案内板だけではなくエッセイの方も、すごく良いんです。面白くて笑えたり、心に響くような内容も多くてオススメです!最近ではタロットで運勢について記事を書いたりしていますので、そちらもよろしければぜひ見てみてください!」
 それは圧巻のマシンガントークだった。
「そ、そうなんですね。それで、その、ティコさんはどちらに…」
「す、すみません。私、また色々長々と話してしまって…。ティコさんは奥のお部屋にいますのでご案内しますね!」
 どうやら沢山話している自覚はあるらしい。しかし、それだけめぐみティコという課長への想いが強いのだろう。熱く語ってしまうくらい好きなものがあることを羨ましくも思えた。
 奥の部屋は薄暗く、暖色の間接照明とアロマキャンドルが幻想的な空間を織りなしてる。
「あら、あなたがトキオくんね。初めまして、わたくし、めぐみティコと申します」
 ティコさんは上品な口調と共に立ち上がるっと、ゆっくりと優美な余韻を残すようにお辞儀をして見せた。
「は、初めまして。トキオです。コニシさんから『なんのはなしです課』をきっかけにして作られた課が二つほどあると聞いたので、ご挨拶に伺いました」
 まだ挨拶を交わしただけなのに、その品格の差に圧倒される。
 俺はそんな彼女のスカートに目を奪われた。そこにあったのは品格ではなく品数だった。スカートの生地に無数に散りばめられた寿司ネタの数々。
 どうかしているとしか…
 ティコさんはそんな独創的で奇抜な寿司柄スカートを着こなし、赤いマニキュアと口紅で豊満な姿をさらに妖艶に魅せていた。
「そうなのね。コニシさんには沢山の『初めて』を捧げてきたから、こうしてトキオくんに出会えたのもコニシさんのおかげね」
「沢山の初めて…」
 なんのはなしですか、と訊きたくなったが、触れてはいけない秘密の花園がそこにはある気がした。コニシはその花にそっと触れたのだろうか。でも、どうしてよりによってコニシなのか…
 すると、ティコさんは穏やかな声でおもむろに話し始めた。
「コニシさんって文学がお好きでしょう。彼のおかげで新しい作家や本と出会ったり、私の書いたものが文学なんだと気付かされたりしたわ。それに今はこうして、タロットという新し世界に飛び込めている。この街で起きた私の初めての経験には殆ど彼が関わっているの」
 そう聞いて俺はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、そういうことですね。今はタロット占いを主にされているんですか?」
 ティコさんは目の前にあるカードの箱へそっと手を置くと、まるで我が子を撫でるように優しく手を滑らせた。
「えぇ、そうね。こうして迷い込んできた人を占ったり、カードリーディングで見えた運勢などをnoteで発信したりしているわ。よかったらこれも何かの縁でしょうから、気になることがあればそれについてカードを引いてみましょうか?」
「いいんですか?じゃあ俺、今路地裏で色々と探し物をしているんですけど、それが本当に見つかるのか分かったりしますか?」
 その質問にティコさんは少し困ったような表情で自分の右頬へと手を添えた。
「んー、カードリーディングでは未来予知ができるわけではないの。だから、このリーディングをきっかけにトキオくん自身がその答えに近づくためのお手伝いとして受け取ってもらった方がいいかもしれないわね」
「なるほど、分かりました。よろしくお願いします」
 促されるまま俺は席に着いた。慣れた手つきでカードを切るティコさんを前に緊張が高まる。まるで宇宙が広がっているようなテーブルクロスの上に、山札やから引かれたカードが二枚並べられた。
 ティコさんはカードを見て「うん」と何かに納得したように頷いた。
「今回引いたカードは二枚、Athena/La Connaissance incarnee 0.the FOOLよ。そうね、カードから見えることとしては、ちょっと面倒な問題を抱えている印象ね。でも、それも解消していくから大丈夫よって、この子達は教えてくれているわ。解決するためには、人の顔色を伺ったり、お伺いを立てる必要はないってことも伝えてくれているわね。トキオくんの心は何が正しいのかちゃんと分かってるし、トキオくんを縛るものは何もないから、自分を信じて面倒臭さも楽しんでってことみたいね」
「自分を信じて面倒臭さも楽しむですか…」
 正直その答えに戸惑った。言い当てられてた驚きと、本当に信じて大丈夫なのかという不安。
 そんな俺の背中を優しく押すように、穏やかな口調でティコさんは言った。
「だから心配する必要はあまりないんじゃないかしら。トキオくんとその心はしっかり繋がれていて全くズレがないから、そのままやっちゃえって言われてるわ」
 ウィンクの添えられた言葉とその安心感にそっと後ろから支えられる。
「そうなんですね。ありがとうございます。楽しむ…少し意識してみようと思います」
 俺はティコさんに向けて小さく頭を下げた。
「えぇ、素敵な1日になるといいわね。何かあればいつでも訪ねてきて」
 余裕のある大人な女性とはこういう人のことを言うのかもしれない。ティコさんとの別れ際、耳元で優しく囁かれた「またね」の余韻が俺の頭を溶かすまで、そう時間はかからなかった。またねの響きを反芻しながら、どうかしているとし課を後にする。
 しかし、その余韻も束の間、真昼間の路地裏で俺は自分の目を疑った。さらにはその光景に言葉も失った。
 どうかしているとし課の脇道で二人の男が全裸で向かい合っていた。俺は咄嗟に近くの塀へと身を隠した。見つかったら絶対にヤバい。ヤられる。
「あの二人、絶対にどうかしているとしか…」
 そのまま隠れるようにしてその場を離れた。しっかりと見たわけではないが、全身が肌色一色の中、唯一異彩を放つ白い靴下が俺の脳裏に焼きついて離れない。あれはどう見ても紛れもなく白い靴下。
「全裸に靴下はヤバいだろ…」
 そうだ、この近くに確か交番があったはずだ。そうして今朝の記憶を頼りに俺は一目散に歩いた。
 交番へ入ってすぐ、目の前にいた警官へ全裸の男二人が路地裏を彷徨うろついていることを伝えると、警官は慌てる様子もなく冷静に俺へ聞き返した。
「なんのはなしですか?」
「いや、だから全裸の男達がそこに…!」
「えーっと、その男性達は本当に全裸でしたか?」
 俺は警官の言葉に戸惑った。言っている意味が分からない。あれを全裸と呼ばずして何と呼ぶのか。いや、確かに靴下は履いていた…
「あ、えっと…靴下だけ、履いてました」
 それを聞いた警官は何故かにっこりと笑って見せた。
「そうですか。では、問題ありません」
「え?」
 いやいやいやいや、問題しかないだろう!どう考えても、全裸靴下もこの警官もどうかしているとしか思えない。
「全裸靴下ですよ!?どうかしてますよ!」
「えぇ、どうかしているのがティコ族ですから」
 は…?ティコ族?そんな民族聞いたことがない。どこかの民族であれば全裸が許されるのか?靴下だけなら許されるのか?あれは確実に公然わいせつ罪である。
「え、ちょっと待ってください!ここ、日本ですよね!?本当にいいんですか!?いや、ダメですよね?!」
「いえ、彼らはティコ族なので問題ありません。何より彼らは全裸ではありません」
「は…?」警官の返答に俺は再び言葉を失った。あれが、全裸じゃない…?
「あれは全裸靴下を模した全身タイツです。そして、ティコ族とは『どうかしているとし課』課長である、めぐみティコさんのファンネームであり、彼らの正装があの姿です」
「あの変態達がティコさんのファン…」
 信じられなかった。何より大の大人が全裸靴下の全身タイツだなんて…どうかしているとしか。
「えぇ、ですから大人として心配しかありませんが、まぁ心配ありません。あ、私、とことこてーと申しますので、何かありましたらご連絡ください」
「え…あ、わかりました。すみません、お騒がせしました…」
 色々と飲み込めないまま俺は交番を出た。放心状態で見上げる空は、これまでとどこか違って見えた。そして、そんな世界へ独りごちる。
 今までのはいったい、なんのはなしですか。いや、もう、どうでもいいか。



第七話


#創作大賞2025
#エンタメ原作部門

#なんのはなしですか


#なんのはなしですか
第一話 キノコのこの子



そんな本作品の注意点
いや、よくないか

《登場人物》
 上記の記事で許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
 また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m
 ご不明な点や不備・要望がありましたら、教えていただけると幸いです。

トキオカケル(オリジナルキャラ)
松平雅楽守
ポンコツ
モスキートエリ
コニシ木の子
えむのマイトン
彩野リィ
めぐみティコ(タロットアカウント)
とことこてー


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