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#なんのはなしですか【長編小説】第十話(終わりは始まり)

第一話 キノコのこの子

第九話 隠された真実

第十話 終わりは始まり

 店を出て豆島さんと別れてから、スマホを確認すると時刻はすでに16時半を回ろうとしていた。1日で10人以上、深い話はできなくとも、知り合い程度になれた事は大きいはずだ。俺は一旦、なんのはなしです課の事務所へ戻り、課長へ今日のことを報告することにした。
 事務所へ戻ると課長のコニシは相変わらず物凄い速度のフリック入力でスマホを操作していた。きっとnoteのタグの回収に追われているのだろう。
「コニシさん、今戻りました」
 コニシはスマホを操作したまま、こちらへは見向きもせず、穏やかな掠れ声で言った。
「初日から飛ばすねぇ、トキオくん。で、どうだったの、路地裏は」
 どうだった、そう聞かれて正直困った。どうにもこうにも色々とありすぎて、何から伝えていいのか分からない。
「そうですね…すごく、カオスでした」
 コニシはその言葉を聞くと満足そうに笑ってみせた。
「そう、それは良かったね。せっかくだし、どうせなら記事にしてみたら?」
「記事に、ですか…」
 コニシの無邪気な提案に逡巡しゅんじゅんしていると、コニシは手を止めて俺の方を見てから言った。
「面白いと思うけどなぁ、カオスなロジウラーとの出会い。もし書けたら教えてよ」
「分かりました。一度、考えてみます」
 俺は半ば流されるような形で、その申し出を受け入れた。そして、コニシがスマホを爆速で操作している中、俺もパソコンへと向き合った。
 好きに書いていいと言われたが、自由であることが返って難しい時もある。
 あんなの、どうまとめたらいいんだよ…
 白い画面の上で規則的に点滅するカーソルがジリジリと俺を追い詰めてくる。俺は思わず逃げるようにコニシへと話しかけた。
「コニシさん、どうしてここは、こんなにおかしな人達ばかりなんですか?」
「んー、そうだねぇ、みんな普段はまともな顔をして生きているだけで、中身はこんなもんなんじゃないのかなぁ。表では上手に隠しているだけでしょ。まぁ、僕ほどの人間になれば中身から全てまともだけどね」
 俺はコニシの中身には触れずに訊いた。
「じゃあ、路地裏だから隠していないってことですか?」
「そうなるね。隠していないというか、隠す必要がないというか、そんな感じじゃないのかな」
 なんとなく分かるような分からないような。隠す必要がない、か。そうして思い出した。隠された秘書の存在を。
「あ、コニシさん。そういえば、俺に隠してましたよね。秘書のRaMさんのこと」
「トキオくん、秘書というのはさ、その存在を秘密にされることで初めて本当の意味で秘書と呼べると思わないかい」
 コニシのその説明に危うく納得しそうになったが踏みとどまって我に返る。何を言ってるんだこの下心蛇男は。
「それっぽく適当なこと言って、ようは独り占めしたいだけでしょ、コニシさん」
「まぁ、それが全てとは言わないけどさ、どうしてもそれはあってしまうよね」
 それしかないだろと思ったがこれ以上は突っ込まないことにした。
 このままコニシと話していても画面のカーソルが進むわけではない。
 とりあえず、何か書いてみるか。そう思って出会ったロジウラーとの出来事を書き始めた。
 それから500字ほど書いたところで一度読み返してみた。つらつらというかダラダラと書かれた面白くもない文章が並ぶ。
「これはさすがにヤバいか…」
 いったいこんな文章を誰が読みたいと思うのか。誰にも求められていない気がした。こんなの読んだところで何になるのか。分からない、これを書く意味が分からない。そう思った途端、記事を出すことへの恐れや不安、恥ずかしさなど、無数の気持ちが押し寄せてきて渦を巻くように呑み込まれた。
 俺は書いていた目の前の文章を全て消した。
「コニシさん、すみません。やっぱり今の俺には書けそうにないです」
 コニシはスマホから少し顔を上げ、遠くを見るようにして言った。
「そうか、書けそうにないかぁ。まぁ、焦る必要はないし、ゆっくり取り組んでみたらいいよ」
 コニシの言葉に甘えて、俺は仕事を切り上げて帰宅した。
 家に着くとリビングには松平がいた。松平は俺を見るなりいつもの調子で言った。
「おかえりトキオ。ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?」
 そんな松平の冗談に俺は手を振って返した。
「どれにもしない。俺、今日はもう寝るわ」
 そう言ってリビングを後にすると、自室のベッドへと倒れ込んだ。
 案外すぐに眠りにはつけたが、書けなかったことが相当こたえたのか、その夜、俺はおかしな夢を見た。
 そこは真っ白な空間の中でポツンと一人、俺だけが存在していた。俺は辺りを見渡しながら姿のない女性を探すようにして言った。
「俺、このままだと間に合いません。締め切りは今日なのに、最後まで書ける気がしないんです」
 なぜか俺は夢の中で、ありもしない小説の締め切りに追われていた。
 女性がどこか遠くの方から俺へ向けて言った。
「えぇ、分かっているわ。あなたの物語が規定の5万字に収まるとは最初から思っていないわ。それにアニメ化を目指しているのなら5万字なんて超えて当然よ。だから完結できなくてもいいの」
「でも、本当にそれでいいんでしょうか。締め切りまでに完結しなくて…」
 俺は焦っていた。このままではみんなの期待を裏切ることになってしまう。
「たしかに完結することも大切ね。だけど、それは必ずしも今じゃなくていいと思うの。たとえ完結していなくても、この5万字の中で読者を楽しませて、この先も読みたいと思ってもらえるような魅力が伝えられれば、それでいいんじゃないかしら。この応募の締め切りが終わっても、あなたの物語が終わるわけじゃないわ」
 たしかにそうだ。何かの賞に選ばれることが全てではないし、この小説の読者を楽しませる、それだけでも十分価値はあるはずだ。
「そうですね。大切なことを忘れてました」
「だからこのまま進みなさい。時間はかかるかもしれないけど、何事もやり切る決断と覚悟が大事よ。あの人もそう言ってたわ」
 あの人とはいったい誰なのか。そしてこの先、本当にこの物語を書き終えることができるのか。
「やり切る決断と覚悟…俺は、まだその自信が、持てません…だけど、やれるだけ、やってみます…としか、今は言えません…」
 そう言って下を向く俺へ、女性は包み込むようにおおらかな声で言った。
「あなたならできるわ。それに、あなたなら分かるはずよ。このやり取りの本当の意味をね」
 このやり取りの本当の意味…いったい…

 なんのはなしですか。



〜完〜

【終わりは始まり】


#創作大賞2025
#エンタメ原作部門

#なんのはなしですか


#なんのはなしですか
第一話 キノコのこの子



本作品の注意点

《登場人物》
 上記の記事で許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
 また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m
 ご不明な点や不備・要望がありましたら、教えていただけると幸いです。

トキオカケル(オリジナルキャラ)
松平雅楽守
ポンコツ
モスキートエリ
コニシ木の子
えむのマイトン
彩野リィ
めぐみティコ(タロットアカウント)
とことこてー
persi
りーも
優谷美和
豆島圭
吉穂みらい
青豆ノノ
はそやm
RaM
U
シークレットキャラ(3人)

登場人物 計21人


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#表紙絵友人作で本を自主製作予定

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