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#なんのはなしですか【長編小説】第二話(ポンコツの唐突)

第一話 キノコのこの子

第二話 ポンコツの唐突

 キノコが頭に生えた翌日。俺は予約したクリニックへ行く支度も兼ねて、もう一度頭のキノコを洗面所の鏡で確認した。相変わらず昨日と同じ位置に親指くらいの大きさのキノコが居座っている。これはもう観念する他ない。
「ポンコツクリニックか…」
 そう考えると憂鬱な気分になるが、美人の看護師がいると思うと少し待ち遠しくもあった。
 頭上のキノコを隠すためジップアップパーカーを選び、下は無難に黄土色のチノパンを穿いた。斜め掛けのショルダーバックを肩にかけ、靴を履く。久しぶりの外出だからか、どこか少し浮き足立ってしまう。
 俺はアパートの中央部分にある螺旋階段をそわそわとした足取りで下りた。
 空は晴れてはいるが、まだ少し冬の冷たさが残っているようで、躰をすり抜けて行く風に少し身震いする。そうして薄手の上着で出てきたことを早々に後悔した。「うー」っと身をすくめるようにしてパーカーのポケットへと手を突っ込み、少し足早にクリニックを目指した。
 松平によるとクリニックは帳面町の路地裏三丁目にあるとのことだった。俺は半年の運動不足を思い歩いて向かうことにした。
 ポケットからスマホを取り出し、地図を確認する。時刻は午前10時を回ろうとしていた。30分ほど歩き、賑わう表通りを越え、住宅街にある公園を通り過ぎた先に例のクリニックはあった。
 いかにも町医者といった感じでこじんまりとした四角い二階建ての建物は、全面が綺麗な白いタイルに覆われ、いくつか窓がついている。壁には四角い看板が取り付けられており、『ポンコツクリニック』という名称の下に『総合診療科』と書かれていた。
 中へ入ると受付の方から「こんにちは」と明るくはっきりとした女性の声が聞こえてきた。視線を向けると、宝塚の女優かと思えるほど整った顔の女性がこちらを見ている。ゆるくパーマのかけられた髪は肩くらいまであり、左側だけ耳に掛けた髪とその首元に思わずドキッとしてしまう。
 俺はぎこちなく頭を下げて挨拶をし、財布の中から取り出した身分証を差し出した。
「あの…10時半に予約をしていたんですが…」
 女性は受け取った身分証と予約表を照らし合わせるように確認した。
「トキオさんですね。こちらにご記入をお願いします」
 そういって、手渡された問診表を窓際のソファーに座り記入していく。主訴を記入する欄を前に思わず手が止まった。
 電話では頭のできものを診てほしいと伝えただけで詳細については言っていない。
 俺は問診表にペンを押し付けたまま、本当の事を書くべきか悩んだ。『頭にキノコが生えた』なんて書けば、あの女性からどんな目で見られることか。しかし、ここで誤魔化したところで、結局診察されれば分かることでもある。そうして考え抜いた挙句、俺はありのままを記入した。
『昨日、頭からキノコが生えた』と。
 この字面だけ見れば、どう考えても正気の沙汰ではない。20代の男が頭からキノコ…もう薬物中毒や精神疾患を疑われても仕方がない。俺は俯いたまま問診表を受付の女性へと渡した。
 診察に呼ばれるまでの間はソファーに座って床を見つめた。カチカチと鳴る秒針とテレビの野球中継の音だけが聞こえてくる。
 少ししてから「トキオさん、どうぞー」と、診察室の方から受付スタッフとは別の女性の声がした。まるで小動物が喋っているような可愛らしい声と口調だった。
 診察室からは患者であろう中年の男性がこちらへ向かい歩いてくる。その肩には緑色の大きな蛇が巻かれ、顎は蛇に噛みつかれたままだった。その姿を見て俺は悟った。このクリニックは変な奴らが来る場所なんだと。
 蛇男は廊下の途中で振り返ると、診察室の前に立つ女性へ向けて軽く手を上げ、少し掠れた穏やかな声で「エリちゃん、またよろしくねー」と言った。まるで紳士を装っているが、その声色の裏に俺は見え透いた下心を感じた。
 俺はその下心が向けられたエリさんと呼ばれる女性の方を一見した。とても可愛い感じの美人だった。明るさの中に淡く柔らさがあり、ほわんとした雰囲気の彼女は長い髪を一つに括っている。
 エリさんは蛇男へ向けて「はーい。コニシさん、次は3ヶ月後ですからね〜」と優しい笑顔で素直に応えた。それから俺の方を向いて軽く微笑みながら会釈をし、「お待たせしました」と診察室の引き戸を開けた。
 これは松平が惚れるのも、蛇男の下心が溢れるのも納得だと思った。俺は一呼吸置いてから診察室へと足を踏み入れた。
 診察室へ入ると机に向かっていた小学生とも取れそうな小柄な人物がクルリと椅子を回転させ、こちらを向いた。胸元には『Dr.ポンコツ』と書かれた名札が付けられている。
 この人が松平の言っていたポン先生か。
 ポン先生は、顔の大部分を占めるほど大きくてパッチリとしたまん丸な目に、耳にかかる長さの無造作なショートヘアーをしていた。ただでさえキャラクターのような顔なのに、加えて白シャツに赤いサスペンダー、そして青いスラックスと、キャラクターらしさへより拍車をかけている。もはや個性というより自己主張の塊だった。
「あ、君がキノコの子?」
 ポン先生の声は想像していたよりも高く、ついでにテンションも高めだった。化粧っ気のない見た目に反して、話し方には薄らとギャルのような軽い雰囲気が混ざっている。
 ポン先生はまん丸な瞳をさらに丸く輝かせて、待ち侘びていたような表情で俺を見た後、付け加えるようにして言った。
「松平くんの紹介なんだっけ?」
「あ、はい…」
 俺は首をすくめるようにしてポン先生と向かい合う形で椅子へ座り、被っていたフードを後ろへと脱いだ。
 早速、ポン先生が「おぉ、本当だねぇ」と言いながら、まじまじとキノコを覗き込む。それから髪の毛を掻き分けたりキノコを触ったりして確認した後、元いた席へと着いた。たった数分だったが、握っていた自分の手にじんわりと汗が滲む。
 ポン先生は俺を見ながら軽い調子で言った。
「これはやっぱり、キノコリアンだね」
 なんだそれは。キノコリアン?聞いたこともない。俺は眉間に皺を寄せた。
「キノコ、リアン…ですか?」
 ポン先生の手には、いつの間にか小さなキノコのフィギュアが握られていた。そして、それを指先で持つようにして揺らし始めた。
「うん。まぁ、要するに寄生体だよ。宿主である君に寄生して生きる生物。地球外生命体である可能性も鑑みた結果、エイリアンをもじってつけた名前がキノコリアン」
「寄生生物って…ポン先生、俺の体は大丈夫なんですか?」
 俺は思わず自分の手や躰を確認した。自分の中に別の生き物がいる。その事実に何とも言えない不安と焦りが襲う。
 そんな俺を尻目にポン先生はあっけらかんとした様子で答えた。
「そうだねー。悪いことをする子じゃないし、それより大きくなることもないから心配はしなくて良いと思うよ」
 その言葉を聞き、俺は少し安堵した。何か症状が出たり、大きくならないのは不幸中の幸いである。あとはこのキノコを除去できれば終わりだ。
「そうですか。それでポン先生、これは取り除いたりはできるんですか?」
 ポン先生は腕を組み、少し考えるように呟いた。
「んー、もう宿主は変えられないからね…仕方ないか」
 そうして気を取り直すようにパンっと軽く合掌をすると、あたかも当然であるかの如くポン先生は俺に向けて言った。
「まぁ、宿主がトキオくんで良かったよ。そのキノコには、この世界の未来がかかっているから。よろしくね、トキオくん」
 それは、あまりにも唐突なお願いだった。言っている内容が理解できず、俺は呆気に取られた。
 このキノコに、この世界の未来がかかっている…?この先生はいったい何を言っているのだろうか。もしかして本当にポンコツなのか。俺は戸惑いつつもポン先生へと訊いた。
「え…?ちょっと待ってください、ポン先生。いったい…なんのはなしですか?」
 そうして、この時に言った最後の言葉が、路地裏の合言葉だったと知ったのはまだもう少し先の話である。



第三話


#創作大賞2025
#エンタメ原作部門

#なんのはなしですか


#なんのはなしですか
第一話 キノコのこの子



本作品の注意事項

《登場人物》
 許可を得て、noterさんよりお名前や設定を拝借しております。小説内の人物像は作者の想像のため、お名前をお借りしたnoterさんの実際の人物像とは異なる場合がございます。
 また、ネタバレを考慮し、noterさんや元ネタ記事の紹介を長編小説の投稿終了後に行う場合があります。
ご了承くださいm(_ _)m

トキオ(オリジナルキャラ)
松平雅楽守
ポンコツ
モスキートエリ


#小説
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#アニメ化希望
#表紙絵友人作で本を自主製作予定

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