小説『転生なんかクソくらえ』 あらすじ・プロローグ
※本作は主人公の特殊な境遇以外は現実に則したものとなっており、トリックに超常現象を用いるものではありません。
あらすじ
死ぬと「現実世界の不幸な誰か」に転生をしてしまう主人公は、消えたくても消えることができない自らの運命を呪い、色あせた日々を送っていた。
ある日、もう何度目かもわからない転生によって五十沢幽として生きることになった主人公は、その幼馴染である久々利新星と出会う。彼の存在は主人公に小さな変化を与えていくが、凄惨な家庭環境と学校でのいじめという逃げ場のない生活は、再び自殺願望を募らせるには十分すぎる条件だった。
とうとう自殺することを決意した夏休み前日の最終登校日。彼に「誕生日を祝ってほしい」と頼まれ、ささやかな誕生会に招かれることとなった主人公はそこで過ごす楽しい時間にその決意を鈍らせてしまう。
しかしそんな矢先に発生する殺人事件は、二人の間を無惨にも引き裂くのだった――。
プロローグ
「あ……」
私の喉から掠れた声が漏れた。
寝そべる私の右脚の上に倒れている彼の背中からドクドクと赤い血が溢れている。それは撥水加工されたジャンパーの上を滑って私の脚に滴り落ち、まだ生暖かさを残した気持ちの悪い感覚を皮膚の上にじわじわと広げていった。
「いや……いやぁあぁぁぁぁぁ!!!」
私は喉が張り裂けんばかりに絶叫する。頭の中は自身の悲鳴の反響と現実への激甚な拒絶でぐちゃぐちゃに塗りつぶされ、数秒の間私を前後不覚の混乱状態へと陥れた。
しかし、私の脚に滴る彼の血は生ぬるい感覚をどんどんと大きく、また鮮明にし、その主張を強めていく。現実が、否認することすらも許さない酷薄さで私に迫る。まるで今までもそうしてきたことを再認識させるかのように。
「なんで……なんでこんなことするのっ!?」
私は血まみれの彼の後ろに佇む影に向かって金切り声をあげた。そしてこの時私は初めてその人物の顔を視認する。直後、私は呼吸の仕方を忘れた。
理解ができなかった。そこにある現実は私の想定していた真実のどれとも似つかず、そのあまりの衝撃と嘘であってほしいという思いとが、ただ頭の中を錯綜する。
「先、生……?」
そこには何もかもが変わり果てた先生が立っていた。目はしっかりと私を見据えているが、その奥には人としてあるべきものがぽっかりと欠落しているように見える。
私は自身の口から出た言葉を頭の中で反芻し、ついに全貌を見せたあまりにもおぞましい真実の嚥下を試みる。しかし、それはとても容易なことではなかった。
「どう……して……?」
理解できない現実に対する問いかけは、しかしその返答を期待するものではなかった。ただ私はそうすることでしか均衡を失った理性を保ち続けることができなかった。
だがその辛うじて踏みとどまった理性が真っ先に私に告げたのは、自らの死を覚悟せよという、どこまでも無慈悲で冷厳な、その結末だった。
各話リンク
第1話 羽虫の呪縛
第2話 幼馴染の彼
第3話 再来の味
第4話 夏目漱石の戒告
第5話 失われた自己と遺されたメッセージ
第6話 絶望の存在証明
第7話 醜き独白と哀しき推理
第8話 歪な大義と純粋な約束
第9話 再訪の現場検証
第10話 新たな手掛かりを求めて
第11話 過ぎなずむ九月
第12話 見出される未解決事件
第13話 交渉と搾取
第14話 真相の輪郭
第15話 思いがけぬ協力者
第16話 ささやかな僥倖とはじめての抵抗
第17話 急転直下
第18話 見知らぬ天井
第19話 悪夢の果て
第20話 終わりの在り処
エピローグ
